「鬼舞 見習い陰陽師と百鬼の宴」 恐るべき百鬼夜行の罠!?
邸の庭で宴を開くこととなった道冬。しかし突如乱入してきた百鬼夜行に、融の大臣と付喪神の畳が巻き込まれてしまう。百鬼夜行を生んだのが、晴明に恨みを持つ陰陽師と知った道冬たちは、何とか百鬼夜行を止めようとするが、逆に道冬までもが巻き込まれてしまう。果たして百鬼夜行の真の狙いとは…
播磨からやって来た見習い陰陽師の少年が、安倍晴明の息子・吉昌や渡辺綱とともに、都を騒がす妖に挑む「鬼舞」シリーズ、早くも第三弾であります。
今回物語の中心となるのは、タイトルにある通り百鬼夜行。
文字通り、無数の鬼(妖怪変化)が都の夜の闇を行くこの百鬼夜行は、平安伝奇ものでは、ある意味お馴染みの存在であります。
本作の重要キャラである安倍晴明が、幼い頃にこれを目撃したというエピソードなどは、晴明ものでは必ず描かれると言ってよいでしょう(そして本作でも意外な形で…)。
思うに任せない恋(!)を嘆く源融の亡霊を慰めるため、邸で月見の宴を開くこととなった宇原道冬と安倍吉昌、渡辺綱。
しかし、宴たけなわのところに突如虚空に開いた穴から出現したのが百鬼夜行――そのなかに、融の大臣と畳の付喪神が巻き込まれてしまいます。
そのまま再び虚空に消えた百鬼夜行は、その後もあっちに現れ、こっちに現れ…都の夜を次々と騒がせることとなります。
やがて、百鬼夜行を呼び出したのが、晴明に恨みを持つ陰陽師であり、百鬼夜行の狙いが、晴明の息子・吉昌であったことが判明するのですが――
とにかく、キャラ描写の面白さは折り紙付きの本シリーズですが、その辺りは当然、本作でも健在。
シリーズも三作目ということもあってか、
レギュラー陣の安定感はさすがですが、今回、意外にも(?)いい味を出しまくっていたのは、百鬼夜行の妖怪たちであります。
元々、妖怪変化の描写には定評のある作者でありますが、妖怪に人間そのままのキャラクターを与えるのでなく、明らかに人間とは異なるパーソナリティーを持つ存在として描きつつ、しかし、どこか愛嬌と親しみのある存在として描かれているのが素晴らしい。
初めは単なる闖入者にしか思えなかった彼ら、ひとかたまりで「百鬼夜行」という存在にしか見えなかった彼らが、物語が進むにすれ、一人一人が個性を持った存在として、魅力的に見えてくる…
と言うのは妖怪馬鹿のアレな目から見た感想ではありますが、シリーズのレギュラーである道冬の邸の付喪神たちに通じる魅力が、今回の百鬼夜行にはあるのです。
しかし、そう思わされるのも、本作の恐るべき仕掛けのうちかも知れません。
こうして親しみすら感じられるようになってきた百鬼夜行――その背後には恐るべき真の狙いがあるのですから。
都中を騒がす百鬼夜行。しかし百鬼夜行が好き勝手に夜の闇を行くのは、むしろ当然と思いきや、しかし…そこを逆手に取った陰謀が、そこには存在するのです。
未読の方のために、この陰謀の正体には触れませんが、しかし、百鬼夜行をこのような形で使った作品を、私はこれまで見たことがありません。
何故吉昌が狙われたのか、何故都中を騒がせたのか…そこにきちんと意味を持たせた上で――そして上で触れた百鬼夜行に感じてきた親しみも絡めて――ラストで繰り広げられるまさかまさかの大スペクタクルには、ただただ感心するばかりであります。
キャラクターものとしての面白さに寄りかかるのではなく、物語としての面白さを――それも、今まで見たことのないようなアイディアでもって――描き出す。
いやはや、正直に言って、ここまで魅せてくれるとは思っていませんでした。
レーベル的に、ちょっと敬遠する方もいらっしゃるかもしれませんが、しかしそれは絶対にもったいない! と断言させていただきます。
さて、その一方で、いよいよ道冬の実父の正体と、晴明との因縁も明らかとなり、シリーズ的にもいよいよ佳境といった印象。
そちらも大いに気になるところではありますが、しかし、こうなったらまだまだこれからも魅せてほしい、これからもできるだけ長く――と、心から願うところなのです。
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