「明治開化 安吾捕物帖」と「UN-GO」を繋ぐもの
私は時代もの以外、基本的に今のアニメにほとんど興味がないのですが、この秋からノイタミナ枠で放送予定の「UN-GO」(アンゴ)は非常に気になっております。
何となればこの作品、坂口安吾の「明治開化 安吾捕物帖」を原案としているのですから…!
今回、原案となっている「明治開化 安吾捕物帖」は、短編全二十話からなる連作短編小説。
捕物帖と言いつつ舞台は明治二十年代前後、洋行帰りの紳士探偵・結城新十郎を主人公とする探偵小説であります。
(ちなみに約40年前に「新十郎捕物帖・快刀乱麻」のタイトルでTVドラマ化されていますが、最終回以外テープが残っていないのが誠に残念)
さて、この「安吾捕物帖」の目立つ特徴は、その物語展開でありましょう。
奇怪なシチュエーション下で怪事件が発生、警察でも歯が立たず、名探偵登場…というのは、これは定番中の定番ではありますが、しかし本作においては、新十郎の推理の前に、何と勝海舟の推理が入るのであります。
この時代の勝は、氷川に隠居した状態ですが、彼に事件の概要を吹き込むのが、探偵マニアの剣術使いで新十郎と行動を共にする泉山虎之介。
その情報を元に、勝が安楽椅子探偵よろしく、事件の謎を解き明かしてみせるのですが――それが毎回毎回、新十郎の推理で覆されて真相が明かされ、一件落着、というパターンなのです。
この辺りの構造が、「UN-GO」でどの程度再現されるか、それはあまりに情報の少ない現在ではわかりません。
何しろ判明している登場人物が、新十郎と、原案では同じく新十郎と行動を共にする探偵マニアの戯作者・花廼屋因果(「UN-GO」では相当にアレンジされているようですが)の二人だけなのですから…
しかし、確実に反映されるであろう、もう一つの原案の特徴が存在します。
――それは、原案が、二重写しの形で「戦後」を描き出している点であります。
「安吾捕物帖」の舞台となる明治前期は、角書にあるとおり文明開化の時期であり、新しい時代への期待に満ちた時期…というのはあくまで一面。
その一方で、維新の動乱が終結した後、薩長の勢力が占領軍のように江戸に乗り込み、政治・文化・風俗あらゆるものを変えていった時代でもありました。
そして、そんな物語の第1話が発表されたのは1950年。
太平洋戦争終結からわずか5年――平和は取り戻したものの、今なお戦争の爪痕が色濃く残る時代であり、そして占領軍が大きな影響力を行使していた時期です。
そんな時代に発表された「安吾捕物帖」は、明治を舞台とし、その時代独自の事件や文化・風俗をモチーフにしつつも、その一方で、それと共通する昭和の事件や文化・風俗を同時に――いや、時として逆に昭和を明治に移植する形で――描き出します。
実に、この作品は、物語の中の戦後に仮託して、現実の戦後の姿を描くという性格を色濃く持つ作品なのです。
(もっとも、必ずしも全作品にこの構図が当てはまるわけでは、もちろんありませんし、その照合もかなり無理矢理な作品もありますが…)
さて、ここで「UN-GO」の公式サイトに目を向ければ、結城新十郎のキャラクター紹介の項に、「“戦後”の東京で本当の真実を追い求める」とあるのが目に入ります。
戦後――原案の内容を知らなければ、単なる(少々変わった)舞台設定と見過ごしてしまいかねませんが、しかし、このタームが原案でどれだけ大きな意味を持つかは、今ご説明した通り。
そして、これまで幾多の時代アニメの名品を送り出してきた會川昇がメインスタッフに名を連ねている以上、これは偶然ではなく、必ずや意識的に用いられたものでありましょう。
「安吾捕物帖」を、近未来を舞台とした物語にアレンジしたという、「UN-GO」。
その「安吾捕物帖」が、過去の戦後を通じて現在の戦後を描いた作品であったとすれば、果たして、近未来の戦後を通じて「UN-GO」は何を描き出そうとするのか…
原案の内容を如何にアレンジしたかも当然気になるところではありますが、それ以上に、この点にこそ、注目したいところです。
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