「鞍馬天狗」第1巻 復讐の天狗あらわる!
「コミック乱ツインズ」誌で「幕末狂想曲RYOMA」を連載していた外薗昌也の次回作が、「鞍馬天狗」と聞いた時には、幕末ものつながりか、という程度の印象しかありませんでした。しかしそれが蓋を開けてみれば…と大いに驚かされた、外薗版「鞍馬天狗」第1巻であります。
(作品の重大なネタバレを含みますので、未読の方はご注意下さい)
この「鞍馬天狗」のベースとなっているのは、原作でもまずは代表作、映像化や漫画化の際にも必ずといってよいほど取り上げられる「角兵衛獅子」であります。
非道な親方の下で角兵衛獅子の芸人として働いていた杉作少年が、倉田典膳=鞍馬天狗と出会い、倒幕の志士の連判状を巡る、天狗と新選組の争奪戦に巻き込まれていく…
「少年倶楽部」に連載された少年小説ではありますが、しかし今読んでみても十分面白い快作です。
が…それを今回描くに、作者が用意したのは、あまりにも意外な天狗像=天狗の正体。 「天狗」を名乗る倉田典膳の真の名前――それは、死んだはずの芹沢鴨!! なのであります。
なるほど、確かに芹沢鴨は水戸天狗党の出身。そして、「新選組」と戦うに、これ以上の理由がある人間はいないとも言えますが…それにしても、天狗史上に残る凄まじいアイディアと言ってよいでしょう。
ちなみに本作で描かれる芹沢像は、巷間伝える酒乱粗暴な人物などではさらさらなく、折り目正しい美男子であり、お梅さんとも相思相愛の仲。
それを土方の陰謀に陥れられ、お梅ともども惨殺された――はずが、彼は死の淵から甦り、人を捨てた天狗、鞍馬天狗と化したのであります。
このような設定の鞍馬天狗ですから、当然新選組には恨み骨髄、かつての仲間に対する容赦なども全くなく、斬殺、いや惨殺を繰り返していくのですが…
暗黒と化した彼の心に唯一届いた光、それが杉作少年というのがなかなか面白い。
少年らしい真っ直ぐな正義感、たとえ己の命を賭しても理非を正そうとする心は、生というものに希望を無くした天狗にとって、眩しすぎるものでありつつも、しかし求めて止まぬもの。
復讐のために戦っていた天狗の心にも、少しずつ変化が生じるやに見えるのですが…
さて、本当に天狗の心に光は戻るのか。彼の復讐行は止むことがないのか。
この第1巻の時点では、天狗のキャラクターを除けば比較的に原作に沿った展開を見せる本作ですが、掲載誌の方では驚くべき展開に突入し、全く先が読めない展開となっております。
復讐鬼…いや復讐の天狗・倉田典膳、伝奇な「鞍馬天狗」…いやはや、とんでもない作品が登場したものです。
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コメント
土方が冷血なのに対し、近藤は熱血漢に書かれていますね(本当に芹沢暗殺を知らなかったのか?)。次巻では天狗の前に立ちふさがる「新撰組最強の剣士」との対決が!?
コミック乱ツインズと言えば、さいとうたかを先生の名作『影狩り』が岡村 賢二先生で復活するんですよね。こちらも楽しみです。
投稿: ジャラル | 2011.08.03 12:27
ジャラル様:
近藤のキャラクターはやっぱり原作のものを基本的に敷衍しているのでしょうね。しかし最近の展開は原作からどんどん離れて、全く読めなくなってきましたが…
「新影狩り」の予告カットを見ましたが、原作(?)を踏まえつつも、見事に岡村キャラになっていてちょっと面白かったですね
投稿: 三田主水 | 2011.08.03 23:49
私は昔の武術を体得していらっしゃる先生に合気道を何年も教えてもらっていますがやはり「殺し合い」が基本だそうです。
(ただ愛が根本にあります)
今回のコミック拝見させて頂きましたが・・・ただただすごい気迫!・・・抜刀の真髄をみました・・・。
私の先生はもう目が悪いし頑固なのでこのコミックは拝見出来ないと思いますが、わたしにとってはこの「鞍馬天狗」の太刀筋・・・これこそ私の目指すものだと感じました。
続編を心待ちしております。
ありがとうございました
投稿: 石橋 | 2011.09.16 21:35
石橋様:
ううむ、比較的平和なイメージのある合気道でもやはり「殺し合い」ですか…これは良いこと(?)を教わりました。
実際に刀を抜いては大変ですが、それくらいの刃を心の中に持つということでしょうか。
石橋さんのように感じていただけたら作者も本望でしょうね
投稿: 三田主水 | 2011.09.17 23:46