「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」第3巻 二つの主従、二人の男!
天正遣欧少年使節に同行したもう一人の日本人少年・晴信と、彼に仕える忍び・桃十郎の冒険行「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」の第3巻であります。
澳門に滞在する一行を襲った突然の伝染病。それを唯一癒す力を持つという仙人を求め、晴信たちは大陸の奥地に向かうことになるのですが…
辛うじて伝染病に罹患しないで済んだのは晴信と桃十郎、中浦ジュリアンと現地の少女・江、そしてマテオ・リッチとエステベス――
彼ら六人は、藁をも掴む思いで、伝説の仙人を求めて澳門を発つのですが、もちろん(?)その旅路が平穏無事なわけがない。
出発早々、彼らの前に立ち塞がったのは、かの張飛翼徳の子孫を自称する豪傑・剛侠の張翔とその配下たち。
晴信たちを倭寇と誤解した張翔とその配下を向こうに回して、早速の大活劇と相成るわけですが…
この場面の描写・演出が実に面白い。
敵の大群に対して二手に分かれた晴信・桃十郎と、リッチ・エステベスの、二つの主従――それぞれの主従がそれぞれ張翔に迫る様が、ページを上下に割った形で、同時進行で描かれるのですから!
文章で書くと普通に見えますが、同じタイミングで、別々のアクションでもって突き進む二組を描くというのは、これはもしかすると、漫画でなければできないような手法。
よほど画面構成やアクション設計を考えておかないと、違和感ばかりが目立つ結果になりかねませんが、これが見事に成功しております。
しかも、そこにそれぞれの主従の個性が出るというのもまたうまい。
先頭に立って真っ先に敵陣に突っ込んでいく晴信と、それを背後からフォローする桃十郎。主を守りつつ、敵を確実に倒していくエステベスと、後方から的確に指示を下すリッチ…
派手なアクションの中でも、それぞれのキャラクター、二組の主従の思想の違いを見せてくれるのには、感心させられます。
尤も、この場面の後、アクシデントで一行は二手に分かれてしまうため、それぞれの主従の直接対比を見ることができるのがここだけなのは少々残念ですが…
しかし、個人的に気に入っているのは、むしろここからの展開であります。
なりゆきから張翔を仲間に加え、明国奥地に向かうこととなった晴信と桃十郎ですが、目の前で苦しんでいる者を見捨てられない晴信が助けたのが、東林党の人間であったことから、事態はややこしい方向に向かいます。
当時の明国の改革勢力とも言える東林党と、その中心人物である顧憲成がここで登場するという意外な取り合わせにも驚かされますが、顧憲成を狙う刺客の罠に対して、晴信と桃十郎が立ち向かう様がたまらない。
顧憲成のみならず、晴信たちもろとも吹き飛ばさんとする爆弾使いの刺客・阿閻。
憲成の身に仕掛けられた時限爆弾を解体せんとする晴信は、桃十郎に背中を預けて、それを妨害せんとする阿閻の相手を任せるのですが――
男が男に背中を預ける。その意味するところを、ここでくどくどと述べるのも野暮というものでしょう。
しかし、人生に不器用という点では似たもの同士の二人が、主従ではなく、むしろ対等な相棒として支え合う姿に、熱くなるなという方が無理というものであります。
この後も、爆弾解除に挑む晴信と、阿閻を迎え撃つ桃十郎の、静と動、二つの戦いを平行して描く様がまた見事で…
正直なところ、今回のエピソードはちょっと長すぎるのではないか、という印象もありますが、しかしここまでのものを見せてもらったら、もう黙るしかありません。
歴史もの時代ものとして、アクション活劇として、そして何よりも燃えるバディものとして――
加速度をつけて面白くなる本作から目が離せないのであります。
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