「信長の暗号」下巻
柴智安の汚名を晴らすため、信長が遺した秘宝を求めて剣山に飛んだ蒼海と友海。しかし、南蛮世界をも揺るがす秘宝を求め、伊達政宗の配下が、そして異端モーセイスト派も剣山に向かっていた。仕掛けられた無数の罠、そして秘宝を求める者同士の死闘の果てに待つのは、信長の恐るべき仕掛けだった…
中見利男の「信長の暗号」の後編であります。
織田信長が宣教師ヴァリニャーノに与えたという安土城の絵屏風。そこに記されているという、日本と南蛮世界を揺るがす秘宝の在処を示す暗号を巡る争いも、いよいよここに完結を迎えることとなります。
この秘宝争奪戦のプレイヤーとなるのは、上司とも恩人とも言える柴智安の汚名を晴らすべく、秘宝を手に入れんとする暗号師・蒼海と少年忍者・友海。そして彼らと行動を共にするのは、バチカンの密命を受けて日本に渡ったヴァリニャーノ二世、信長の命を受けてイエスの聖骸をバチカンから盗んだと言う(!)盗賊・堂上進介…
そして、秘宝の存在を別ルートより聞きつけた伊達政宗に派遣された、連歌師、陰陽師らがそれを追い、さらには、これまで幾度も蒼海・友海と死闘を繰り広げた異端モーセイスト派と暗号神・恵知座が、果心居士と風魔一族を味方につけて、秘宝を奪わんといたします。
そして剣山中に仕掛けられた無数の罠、そして空海が遺した秘宝の守護者が彼らの行く手を阻み、彼ら秘宝争いのプレイヤーは、一人、また一人姿を消していくこととなるのですが…
正直なところ、どんでん返しに次ぐどんでん返しと、終始一貫したテンションの高さに驚かされた「秀吉の暗号」「軍師の秘密」に比べると、本作はかなりシンプルなストーリーとなっております。
信長の秘宝の正体や、そこに至るまでの展開も、「一体この作者は何を考えているのだ!?」という気分になった前二作に比べると、おとなしく見えるのですが…
もちろん、中見作品がそんなに素直に終わるわけがない。終盤のあまりに意外すぎる展開には、ただただ感動! …とまではいきませんが(さすがに、遡り適用的な側面が大きく過ぎるので…)、大いに驚かせていただいたことは間違いありません。
しかし、本作の真に伝えんとしたことは、最終章の内容に尽きるでしょう。
この「信長の暗号」を巡る戦いの真の勝者は誰であったのか、そして何より、それは何のためであったのか?
そこに描かれたものは、シリーズ第一作から変わることのない、ともすれば歴史の流れの中で忘れ去られかねない、歴史の闇の中に葬り去れかねない、人間性というもの――
冷徹なロジックを重んじるはずの蒼海が、冷徹に任務を遂行すべき友海が、何よりも重んじてきたものであります。
このシリーズは、本作でもって、一端の結末を見たように思われます。
しかしながら、この人間性というものがある限り、そしてそれを虐げんとする者がいる限り――いずかまた、蒼海と友海に出会うことができるでしょう。
その日を楽しみにしつつ…
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