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2011.09.12

「楊令伝 二 辺烽の章」 方臘という男の存在

 文庫化も快調に進行中の北方謙三「楊令伝」、既に第3巻まで刊行されておりますが、本日取り上げますのはちょっと遅れて第2巻であります。
 第1巻に続き、グランドプロローグとも、前作も含めれば転章とも言える内容、巨大な動きが始まる、その直前と言った印象です。

 北方で猛威を振るう幻王=楊令とついに対面した燕青と武松。
 いよいよ再起を目前とした梁山泊に唯一欠けている頭領――かつての晁蓋、そして宋江を継ぐ者として、立って欲しいという二人の言葉に、しかし楊令は容易に頷こうとしません。

 その間も、少しずつ、しかし着実に力を取り戻していく梁山泊。
 江南は太湖に浮かぶ洞庭山を一つの拠点とし、生き残りの頭領たちのほとんどが集結、さらには次なる世代の好漢たちも登場し、全盛期に及ばぬまでも、替天行道の志が絶えることなく受け継がれていることが示されます。
 一方、北方では宋と遼、金の対立が複雑化し、中国皇帝の悲願である燕雲十六州奪還のため、宋金同盟が結ばれるのですが、それがさらに北方の緊張を高めることに…

 そして、江南で動き出すもう一つの勢力。喫菜事魔の教えを説く教団の教祖・方臘が、信者と、密かに育成した軍を以て、宋に対して決起せんとしていたのでありました。

 かくて、梁山泊・方臘・宋・遼・金、様々な勢力の、様々な人々の思惑が複雑に絡み合い、まさに一触即発――というところが、この第2巻では描かれることとなります。


 この中で、水滸伝(原典)ファンとしても、そして「楊令伝」読者としても大いに気になるのは、方臘の存在でありましょう。
 原典では物語の終盤に登場、数多くの豪傑を配下に立ち塞がり、無敵梁山泊軍に数多くの犠牲者を出させた梁山泊最大最後の強敵であろう方臘。
 本作では、原作よりもむしろ史実サイドに立脚したキャラクターとして描かれている印象がありますが、しかし彼の存在は、いわばもう一つの梁山泊、裏の梁山泊として、大きなインパクトを感じさせてくれます。

 宋という国に叛乱を企てつつも、その中核に新しい国を作るという強固な「志」で結びついた梁山泊。
 その梁山泊とは、叛徒という点で共通しつつも、しかし「志」を持たず、方臘への「信仰」を基盤とする点で、方臘軍は大きく異なることとなります。

 果たしてそれが今後の戦況にいかなる影響を与えるか、それはまだまだこれからのお話ですが、しかし、梁山泊に匹敵する、そしてその方向性を異にする勢力の登場は、いやが上にも物語を盛り上げてくれます。
 さらに方臘の人物造形も、その全貌が見えたわけではありませんが、これまで北方水滸伝に登場したキャラクターたちとはまた違う存在感を感じさせてくれるのが、嬉しくも恐ろしいのであります。


 新しい登場人物も、いままでの登場人物――その中でも、あまり変わらぬ者もいれば、老いたり疲れたりと変わった者もいて――も、入り乱れた末に、いよいよ始まる巨大な戦い。
 この巻では、あの英雄(の少年時代)も顔を見せ、これから彼がどのように物語に絡んでくるかも、また楽しみなのです。

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