「信長のシェフ」第2巻 料理を通した信長伝!?
戦国時代で目覚めた記憶喪失の青年・ケンが、ただ一つ覚えていた現代の料理のテクニックで信長に仕え、様々な難事を解決していく極めてユニークな戦国グルメ漫画「信長のシェフ」、待望の第2巻であります。
第1巻では、ケンがわけのわからないまま戦国時代でそのシェフとしての手腕を発揮し、信長に認められていく姿が描かれた、いわば導入部でしたが、今回はそんな彼が本格的に「信長のシェフ」として活躍する姿が描かれていくこととなります。
北畠具教との戦いを終わらせる料理、足利義昭を挑発しつつ足下に抑えるための料理、正月の酒宴で危難に陥った秀吉を救うための料理、義昭に朝倉討伐を認めさせるための料理――
料理で人助け、料理でトラブル解決というのは、これはもうグルメ漫画の定番中の定番ではありますが、本作は舞台が舞台であります。
時あたかも信長がいよいよ天下に覇を――すなわち天下布武を――唱え始めた頃、当然ながら数々の難敵が信長の前に現れるのに対し、ケンの料理が状況打開の切り札となるのですから面白い。
まさに歴史を動かす料理と言うべきでしょうか、内容的には相当に真面目、タイトルから受ける印象ほど「飛んだ」内容ではないのですが、しかしそのスケールは、グルメ漫画でも屈指と申せましょう。
そして、本作が面白いのは、歴史ものとしての味が、単なる添え物に終わっていない点であります。
本作の信長は、目的達成のためであれば、極めて合理的な態度で臨む一種のマキャベリストとして描かれており、その天下布武も、決して武力で押すだけのものではありません。
こうした信長像は、決して珍しいものではないでしょう。
しかしながら、本作では、料理/食事という一見戦とは無関係な、しかしその戦を行う人間の存在の根幹に関わる行為をフィルターにすることにより、信長という武将のユニークさを浮かび上がらせることに成功していると感じます。
特にこの第2巻の冒頭で描かれた、北畠具教との和睦(実質は具教の降伏)を巡るエピソードなど、人間の心理面にまで踏み込んだ信長の戦略が実に面白く、こういう料理の使い方があったか! と舌を巻いた次第です。
「信長のシェフ」として生きる決意をいよいよ強くしたケン――まだまだ信長の天下布武は前途多難ではありますが、それはとりもなおさず、ケンの料理の腕が存分に振るわれる余地があるということでもあります。
ユニークなグルメ漫画として、そして一風変わった信長伝として…いよいよこの先の展開が楽しみであります。
ただし、ピンチの時に現代の記憶がフラッシュバックして打開策を見つけるというのは、これは定番パターンではありますが、少しずるいなあ、と思わなくもありませんが…
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