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2011.10.15

「UN-GO」 第01話「舞踏会の殺人」

 「終戦」後の日本の復興特需の中、不正疑惑により逮捕間近の加納グループ社長・加納信実が自宅で盛大なパーティーを開くこととなった。父であるメディア王・海勝麟六の名代として出席した梨江は、そこで「敗戦探偵」の異名を持つ結城新十郎と助手の因果に出会う。そして、信実が自らの無罪を主張する演説を始めんとした時、彼の背中にナイフが…

 坂口安吾の「明治開化 安吾捕物帖」を原案とする「UN-GO」の放送が今週から始まりました。
 本来であれば近未来を舞台とした本作はこのブログの守備範囲外ですが、原案がこの作品であれば話は別…と、既に何回か取り上げており、第1話も試写会の感想で触れているのですが、やはり実際の放送を踏まえて――そしてこのブログ的な観点から原案に触れつつ――紹介するとしましょう。


 さて、この第1話「舞踏会の殺人」は、原案でも第1話である「舞踏会殺人事件」がベースとなったエピソード。
 舞台設定や人物配置、事件の内容などは当然ながら(?)原案を踏まえたものとなっていますが、まず最初に、人物配置を比較して見れば――
 本作/原案(カッコ内は職業)
結城新十郎(探偵)/結城新十郎(探偵)
因果(探偵助手?)/花廼屋因果(戯作者)
虎山泉(検事)/泉山虎之介(剣術使い)
海勝麟六(メディア王)/勝海舟(隠居政治家)
海勝梨江(海勝の娘)/加納梨江(加納の娘)
加納信実(商社会長)/加納五兵衛(政商)
加納敦子(加納の妻)/加納アツ子(加納の妻)
速水星玄(警察官)/速水星玄(警視総監)
小野一刀(議員)/上泉善鬼(総理大臣)
神田政彦(銀行家)/神田正彦(政商)
と、基本的に原案を踏襲していることがわかります。

 しかしながら(これもある意味当然ながら)事件の背景事情は、大きく異なることとなります。原案の方の加納は、政府の国産製鉄所を巡り、時の総理と結んで建設を進めようとする人物であるのに対し、本作の加納は、終戦後の復興特需に関する不正疑惑で逮捕寸前という姿が描かれます。

 原案の方は、明治の政治家と政商の癒着に仮託して、第二次大戦直後の疑獄事件(執筆年代的に昭和電工事件辺りでしょうか)をモデルにして舞台・人物を設定したものと思われますが、こちらの加納には、上り調子の印象を受けます。
 その一方で、本作の加納は、検察・警察にマークされ逮捕寸前の、明らかに斜陽の人物。この辺りの事情が犯行の動機に繋がってくる辺りは実にうまいものだと感じますが、この加納像の違いは、原案と本作と、どちらも「戦後」を舞台としつつも、その先の未来に対する希望の有無に起因するように感じる…というのは、うがった見方でしょうか。

 そしてこの世界観、「戦後」に対する視線は、何よりも、犯行の背景・動機が全て明かされた後の、犯人の叫びに現れているように感じられるのであります。
(個人的には「みんな戦争が悪い」とストレートに口に出して言ってしまうのには違和感を感じましたが、おそらくその印象も込みで言わせているのでありましょう。もちろん最後に触れるように安吾のあの文章にもかけているのではありますが…)

 さすがに30分弱で舞台背景と登場人物の紹介、事件の発生から解決までを描くのはいささか駆け足の印象もなくはありませんが、本作の特異性・独自性を、この犯人の叫びの中に乗せて宣言してみせるのは、さすが…と感心いたしました。

 そしてもう一つ感心したのは、新十郎が解明した事件の真相が、海勝麟六の「配慮」により包み隠され、結局は表に出ることなく、手柄は麟六の方に行ってしまう点であります。
 こうした構図は、社会派ミステリでは決して珍しいものではありません。しかしながら、原案の方では、勝海舟が虎之介からの情報で推理し、一度は解明した事件を、新十郎の推理がひっくり返し、真相が明かされるのがパターンとなっており、この辺りの構図の逆転は、原案読者には特に面白く感じられるのではないでしょうか。

 なるほど、「敗戦探偵」とはこれにもかけてのことか、とニヤリとさせられました。


 そしてもう一つ――ラストの会話が、安吾の「堕落論」をベースにしたものであることはあまりにも明確ではありましょう。
 しかし単に今回の内容に当てはめて引用するだけでなく、新十郎と梨江の会話として再構築してみせたこの会話からは、同時に、これまでも虚構の中に人間の現実の生の在り方を見つめ、その厳しさと小さな希望を描き出してきた、いかにも會川昇らしい視点をも提示してみせたと――そう感じられた次第です。



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コメント

ハズレの少ない「ノイタミナ枠」での期待作で、あえて原作読まずにアニメを見ております。心配した主役の勝地涼
さん(劇場用アニメの経験しか無い)の声優ぶりもまずまずで、安心できました。
 でも30分では推理物はキツイですね。『コナン』のように前後篇が理想かな・・・でも因果の反則能力があると30分以上はムリかも(笑)。

投稿: ジャラル | 2011.10.16 14:07

ジャラル様:
今回は特に第1話で色々な説明込みですから、その辺りは仕方ないかもしれません。
かなり原作をアレンジしていますので、もちろん独立でも楽しめますが、見比べると色々と唸らされる部分があるので、その辺りはいかにもらしいなあ、と感じます。

投稿: 三田主水 | 2011.10.19 00:31

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