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2011.10.22

「UN-GO」 第02話「無情のうた」

 無認可タクシーが謎の女に頼まれ、ある屋敷で引き取ったトランク。そのトランクの中には、屋敷の主・長田久子の死体が入っていた。トランクを預けたのは男だったが、海勝はこれを複数犯に見せかけた犯行と推理、久子の愛人・荒巻が容疑者となる。一方、久子の娘・安の元を訪れた新十郎は、久子が何者かに脅迫され、毎月金を届けていたと聞かされる。久子と会っていたのは、アイドルグループ・夜長姫3+1の元メンバーだった…

 さて「明治開化 安吾捕物帳」原案の「UN-GO」第2話は、原案第4話「ああ無情」をベースとした「無情のうた」ですが…
 いやはや、第2話にしてここまでハードルを上げてどうするのだろう、とこちらが心配になるほどの見事な内容。感想を書くのがある意味辛い…

 閑話休題、今回も本作と原案の登場人物を対比してみましょう(本作/原案の順)

長田久子(投資家)/ヒサ(中橋英太郎の妾)
長田安(久子の娘)/長田ヤス(中橋家の女中。中橋の前妻の連れ子)
荒巻敏司(飲食店経営者。久子の愛人)/荒巻敏司(医学生。ヒサの愛人)
小山田新(裏ソフト販売業者)/小山田新作(梅沢一座の座附作者。ヒサのストーカー)
梅澤夢乃(夜長姫)/梅沢夢之助(梅沢一座の女芸人。荒巻の愛人で中橋の元妾)
常実公美(夜長姫)/常見キミエ(看護婦。荒巻の元愛人)
中橋澄香(夜長姫)/スミ(中橋の元愛人の娘。後の梅沢夢之助)
中橋英太郎(中橋澄香の兄)/中橋英太郎(実業家)

 原案側をご覧いただけば何となく察せられると思いますが、ちょい役だった英太郎が、原案では物語の中心にいるなど、相当人物配置には違いが見られます。

 事件の内容も、久子の死体がトランクから発見されるという発端(ちなみに予告で因果がネタにしていたモーロー車夫は、強盗や強姦もやりかねない連中のことで、本作の無認可タクシー運転手は、まだおとなしいですね)自体は共通ですが、その背景事情は、もはや別物と言ってよいほど異なります。

 原案では、実業家・中橋英太郎と妾のヒサを中心としたドロドロの人間関係を縦糸に、渡米した芸人一座の辿った悲惨な運命を横糸とした物語。
 一方、本作は、戦意昂揚アイドル「夜長姫3+1」を巡る悲劇であり、なるほど、原作ではなく原案とクレジットされているのもうなずける内容です。


 さて、その本作の内容ですが…冒頭に述べたとおり、これが実に素晴らしい。

 メンバーの一人がデビュー直前にテロの犠牲となったという戦意昂揚アイドル「夜長姫3+1」。
 しかし戦後には、新情報拡散防止法なる法律により、一転、放送・視聴・データ所持etc.諸々禁止…完全なタブーとなってしまった彼女たちの存在が、今回の事件の全ての発端となります。
(それにしても戦意昂揚アイドル、という冷静に考えれば非日常的な存在が、しかしアニメを見ている我々にとって全く違和感ない存在に感じられるのが恐ろしい)

 この夜長姫を巡る因縁自体は、正直なところ早い段階で察せられるのですが、それでは何故、今になって犯行が行われなければならなかったか、など、冒頭から全く隙のない構成で伏線が張られ、それが一気に吹き出す、終盤の犯人の告白シーンは、まさに圧巻と言うほかありません。

 特に犯人があの歌を一人歌い始めたシーンからは、途中の声の歪みも含めてその歌に込められた無限の想い――哀しみ、恨み、悔恨、喜び、希望etc.全てが入り交じったもの――がビビッドに伝わってきて、胸が締め付けられるような感覚を否応なしに味あわせられました。

 そして犯人に下される、「罰」の内容が、また凄まじい。
 事件の真相を隠蔽することが、そのまま、犯人が事件を通じて訴えたかったことをそのまま封殺し、未来への希望すら奪う――犯人の想いを考えれば、残酷というのも愚かではありませんか。

 こうして見ると、今回も、前回同様、「あの戦争」の「犠牲者」だったわけですが、しかし今回の犯人の動機の方が、ある意味等身大であるだけ、より鮮明に、そして何よりも、他人事でないものとして伝わってくるように感じられます。
 確かにこの事件は、本作の作品世界でなければ起こりえないものであるでしょう。しかし、そこで踏みにじられたものは、現代の我々一人一人が、それぞれの形で胸に抱くものであります。
 放送開始前に、私は、原案が明治の戦後を通じて現代(昭和)の戦後を描いたとすれば、本作は近未来の戦後を通じて何を描くのか? と感じましたが――ちと早すぎるかもしれませんが――その一端が見えたようにも感じられます。


 さて、少し前に希望すら奪われたと書きましたが、しかし、決して絶望のみでは終わらないことが、ラストで、いかにも「今」っぽい形で、そして今回の内容を考えればこれ以上はない見事な形で描かれます。
 それを甘いというのは簡単ですが、しかしこれも人の世の「現実」だよ、と私は信じたいと思うのです。


 ちなみに、作中でほのめかされる安の出自に注目すると、内容にまた少し違った色彩が加わるような気もしますが…それは個々人の感じ方でありましょう。

 も一つ蛇足ですが、夜長姫はもちろん安吾の短編「夜長姫と耳男」のヒロイン(ヤンデレ好きは必読)から、終盤の新十郎の言葉は、安吾のエッセイ「余はベンメイす」がベースとなっています。
 新十郎の言葉が作中では浮いて聞こえる面がありますが、このエッセイが、たとえ世間の誹りを受けようとも、作者の信じる芸術を貫くことの宣言という側面を持つことを考えれば、頷けるものがあるのではないでしょうか。



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