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2011.11.30

「ばんば憑き」(その2) 怪異を求める人の心

 宮部みゆきの「ばんば憑き」収録作品紹介の後半であります。

「討債鬼」

 手習所の若先生・青山利一郎は、大文字屋から息子の信太郎を斬ってほしいと依頼される。行然坊なる僧によれば、信太郎は店に災いをもたらす討債鬼だというのだが。

 「あんじゅう」に登場した利一郎と行然坊が活躍するスピンオフである本作は、二人が初めて知り合うきっかけとなった事件が描かれることとなります。

 題名の討債鬼とは、人に貸しを作ったまま亡くなった者が、その貸しを取り立てるためにこの世に現れるという存在。行然坊は、兄が継ぐはずだった店を奪った大文字屋の主人に、その息子の信太郎こそが討債鬼だと告げたために起きる騒動に、利一郎が巻き込まれることになります。

 「あんじゅう」で描かれているように行然坊はニセ坊主。そんな彼が言う討債鬼が実在するはずもないように思われるのですが…しかし、真に鬼を生むのは人の心であります。
 実際の鬼を斬るよりも遙かに難しい、人の心の中の鬼を如何に斬るか…

 行然坊をはじめとしてコミカルな登場人物が多いため、物語の印象自体はさまで暗くはありませんが、ここで描かれるものは、実に重く我々の心にのしかかります。

 しかし、鬼もいれば仏もいるのが人の心。理不尽な扱いを受けながらも、なおも父を思いやる信太郎と、彼を守ろうとする利一郎の姿には、そんな希望が感じられるのです。


「ばんば憑き」

 湯治旅の帰りの佐一郎とお志津の夫婦は、ある宿で老女・お松と相部屋になる。佐一郎は、お松から、彼女が五十年までに出会ったある忌まわしい事件を聞かされる。

 本書の表題作であるこの作品で描かれるのは、分家から本家に婿入りし、我が儘放題の妻に振り回される男が、偶然同宿となった老女から聞かされた昔話。
 それは、好きあった男との祝言を目前に、横恋慕した別の娘に殺された娘にまつわる物語でありました。
 その土地では、人に殺められた者の魂を、殺した者の身体に下ろして宿らせる<ばんば憑き>という風習があり、その殺された娘の魂も、その儀式によりこの世に戻ったというのですが――

 本作は、怪異の全てが伝聞で語られます。その怪異の内容そのものももちろん恐ろしくはありますが、しかし、あるいは全ては妄想の産物、虚構なのかもしれません。
 しかし、本作では、そんな不確かな怪異――そしてそれは、人の命と魂を弄ぶものですらあるのですが――をすら信じ、求めてしまう人の心が浮かび上がるのが恐ろしい。

 そして真に恐ろしいのは、自分がその心の動きを、否定できないことなのですが…


「野槌の墓」

 何でも屋の源五郎右衛門は、幼い娘を通じて、化け猫のお玉から仕事を依頼される。彼女は、ある事件が元で人を襲うようになった木槌の怪を斬って欲しいというのだが…

 ラストに収められたのは、人と妖怪の不思議な関わりを描く作品であります。
 男手一つで幼い娘の加奈を育てる何でも屋の源五郎右衛門が、加奈から「「父さまは、よく化ける猫はお嫌いですか」と問いかけられたことをきっかけに、彼は化け猫のお玉から人を襲うようになった妖怪・野槌を退治する羽目になるのですが…

 ここまではよくある(?)妖怪退治ものですが、しかし作者の作品がこれだけで終わるわけがありません。
 何故その妖怪が人を襲うようになったのか――そのあまりにも悲しい事情を知って、源五郎右衛門は大いに悩むことになります。

 心ならずも人を害するようになった――それも彼が望んだわけでもなく――モノを裁かざるをえない彼の苦い心中には、大いに共感できるものがあります。

 しかし、本作では彼にも、そして野槌にとっても、ある救いが訪れることになります。
 本作を含め、本書に収められた作品の多くで描かれるように、人の心には暗い部分が存在するのと同時に、それでもなお、善き部分もまた存在するのですから――

「ばんば憑き」(宮部みゆき 角川書店) Amazon
ばんば憑き


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2011.11.29

「いま本当におもしろい時代小説ベスト100」 …に書きました

 このブログで宣伝はいかがなものかと思いますが、あまりないこと(?)ですので、ここに紹介させていただきます。
 11月28日(昨日)、洋泉社から発売される「いま本当におもしろい時代小説ベスト100」に、執筆者として参加させていただいています。

 本書は、タイトルで察せられるように、時代小説の概説本です。
 このスタイル自体は珍しいものではありませんが、本書の面白いのは、オールタイムベストではなく、基本的に「いま」手に入る、今読むことができる作品を取り上げている点、そして特に初心者を意識しつつ構成されている点であります。

 時代小説がブームと言われて久しい現在ではありますが、それだけにどのような作家の、どのような作品があるのか、よほどのファンでなければなかなか把握できないもの。
 そういった現状の一望のもとに見渡せる一冊として、本書は企画されております。

 個人的に嬉しいのは、今の時代小説界でメインストリームとなっている文庫書下ろし時代小説作家に留まらず、寡作ではあるけれども素晴らしい作品を描くベテランや、デビューしたてでも勢いのある若手、また時代小説プロパー以外の作家なども積極的に取り上げている点で、バラエティに富んだ顔ぶれとなっているのが、何とも私好みのところです。

 さて、私が担当したのは(掲載順に)上田秀人・風野真知雄・築山桂・宮本昌孝・宇月原晴明・荒山徹・富樫倫太郎・矢野隆・天野純希の各氏とその作品の紹介。
 このブログをご覧いただいている方であれば、「ああ、やっぱりねえ…」という顔ぶれ(?)かと思いますが、それだけに気合十分で執筆させていただいたところです。

 もちろん、私の執筆分はベスト100のごく一部であります。そしてそれ以外の記事も、インタビュー、評論、対談などなど、実に面白い――特に末國・細谷両氏の評論はさすが――ので、私が執筆していようがいまいが、本書はこのブログでも間違いなく取り上げた…と、今更言い訳めきますが、感じている次第です。


 と、もう一つ…
 実は、作家・作品紹介ページの他に、「時代伝奇小説応援企画」と銘打って、「本当はこんなに面白い伝奇小説」という記事を執筆させていただいております。
 時代伝奇小説の定義と効能、いま手に入れやすいおすすめの作品・作家等を駆け足で紹介した文章ですが、なかなか時代伝奇小説についてまとめて論じるのが難しい昨今に、これほど恵まれた機会はない、とばかりに持てるものを全て注ぎ込んだ――というのは大袈裟かもしれませんが、偽らざる気持ちであります。

 こちらも含めて、ぜひお手にとってご覧いただければと願う次第であります。

「いま本当におもしろい時代小説ベスト100」(洋泉社ムック) Amazon
いま本当におもしろい時代小説ベスト100 (洋泉社MOOK)

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2011.11.28

「ばんば憑き」(その1) この世の悪意とこの世の善意と

 「怪」誌に掲載された作品を中心とした、宮部みゆきの時代ホラー短編集であります。収録作品は6作ですが、いずれも粒よりの名品揃い。ここでは、全作品を紹介していきたいと思います。

「坊主の壺」

 江戸にコロリが流行する中、田屋の主人は私財を投じて対応に当たっていた。田屋に救われ、女中奉公しているおつぎは、主人のある秘密を目撃してしまうが。

 宮部みゆきの時代ホラーは、そのかなりの割合が商家を舞台としたもの(本書に収録された作品も同様ですが)ですが、本作もその一つでありつつも、かなりユニークな舞台設定となっています。
 というのも、本作の舞台の一つとなるのは、疫病が流行った際のお救い小屋。江戸時代の病人隔離施設であるこの場所で、病人に対して極めて合理的な対応を取る商家の主人・重蔵の姿が、ヒロインを通じて描かれます。

 見る者が見なければその真の姿を現さない絵(それも奇怪な来歴を持った)というアイテムの存在も面白いのですが、やはり圧巻は、その絵がもたらすもの。
 まじないや民間療法が幅を利かせている時代において、冷静に衛生管理の観点から病人に対処する重蔵は、当時としては破格の存在ですが、しかし彼のその知識の裏には、ある墨絵の存在があったのであります。

 優れた力を得た者が、その代償を思わぬ形で払わされるというのは、ある意味定番パターンではありますが、本作で描かれるそれは、こちらの想像を遙かに上回る奇怪なものであり、ただただ驚かされます。
 人々にとって救いになる力であるだけに、その力を背負う者の覚悟が、何ともほろ苦く感じられるのです。


「お文の影」

 深川の長屋の老人・左次郎は、影踏みをする子供とその影の数が合わないことに気付く。相談を受けた政五郎親分は、長屋がかつて忌み地であったことを知るのだが…

 最近、最新作「おまえさん」も発売された「ぼんくら」シリーズのスピンオフにして、短編集「あやし」に収録された「灰神楽」の続編、政五郎親分と人間テレコのおでこ少年が登場する作品であります。

 タイトルからして「半七捕物帳」の「お文の魂」を連想させますが、影踏み遊びにまつわる怪異が描かれるのは「影を踏まれた女」的で、岡本綺堂ファンにはニヤリとさせられる本作ですが、後半で描かれる怪異の真相は、ただただ悲しく重い。
 人の心に隠れた暗い部分を、避けることなく真っ正面から描くのは作者の得意とするところではありますが、本作で描かれるそれはあまりに痛ましく、胸に突き刺さるような印象を受けます。

 しかし、決してそれだけで終わらないのも宮部作品。人の優しさが悲しい魂を救う姿には、決して人の性が悪しきものだけではないことを、我々に示してくれます。


「博打眼」

 近江屋の蔵に奇怪なモノが飛び込んできた時から怪事が相次ぐ。近江屋の娘・お美代は、周囲の大人がひた隠す事件の真相を知ろうとするが、思わぬところに助けが現れる。

 個人的には、この短編集でもっとも気に入った作品。
 博打打ちの叔父が亡くなったことをきっかけに商家を襲う怪異。それは黒い布団にたくさんの目玉が生えたモノの姿をしていた…という導入部から胸躍る(と言って良いのかわかりませんが)本作は、人と奇怪な妖怪との対決を描いた作品であります。

 本作の題名となっている妖怪・博打眼――その名が暗示する奇怪な性質と、人の負の部分が凝ったようなその正体など、妖怪ホラー好きにはたまらないものがありますが、しかし本作の最大の魅力は、その魔に決して屈しない人々の姿にあります。

 理不尽な災いをもたらす超自然の妖魔に対し、挑む人々の武器となるのは、言ってみれば人と人との絆。
 もちろん敵はそれだけで勝てる相手ではありません。しかし(思わぬ)救いの手に応え、魔を滅ぼす原動力となったのは(既にこの世にない人を含めた)人の善き心の繋がりであった、というのが、何とも清々しいのです。

 「お文の影」同様、この世の悪意の存在を描きつつも、同時に存在する人の善意を描く――宮部作品の魅力の一つが、本作にはあると感じられるのであります。

 以下、その2に続きます。

「ばんば憑き」(宮部みゆき 角川書店) Amazon
ばんば憑き

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2011.11.27

「UN-GO」 第0話「因果論」

 戦争が終わった日本に帰ってきた新十郎は、虎山泉に声をかけられた。新興宗教・別天王会で儀式の最中に信徒が獣に襲われて死ぬ事件が発生しているというのだ。そして別天王会の会師は、かつて新十郎と行動を共にした大野妙心という男だと――しかし大野の死を確信する新十郎は、大野を名乗る男の正体を探り始める。果たして新十郎の過去に何があったのか。因果とは何者か。そして大野の正体と、別天王会の事件の背後に潜むものとは…

 第0話を放送途中に劇場公開されるというユニークなスタイルを取ったことで話題となった「UN-GO 因果論」を観ました。
 新十郎と因果の出会いと彼らの関係の秘密を描くという触れ込みでしたが、そうしたイベント性に止まらない、実に興味深い作品であります。

 さて、本作の原案は、「明治開化 安吾捕物帖」の第3話「魔教の怪」と、シリーズとは全く別の長編「復員殺人事件」。今回も本作と原案を対比すれば――(「因果論」/原案の順)

世良田蒔郎(旅行代理店勤務。新十郎の学生時代の友人)/世良田摩喜太郎(別天王の参謀の一人)
倉田由子(NGO「戦場で歌う会」のメンバー)/倉田由子(倉田家の長男の未亡人)
大野妙心(NGO「戦場で歌う会」のメンバー。後に別天王会の会師?)/大野妙心(別天王の参謀の一人)
山賀達也(NGO「戦場で歌う会」のメンバー)/山賀達也(天王会に財産を奪われた青年貴族)
安田紅美(NGO「戦場で歌う会」のメンバー)/安田クミ(天王会の教祖・別天王を名乗る)
佐分利泰男(NGO「戦場で歌う会」のメンバー)/佐分利ヤス(天王会の信者。何者かに惨殺される)

 上記のうち、倉田由子のみは「復員殺人事件」の登場人物。個人的には「復員」が原案に!? と大いに気になっていたのですが、採用されたのはこの由子と、海外の戦地から帰ってきた男が…という部分程度に見えたのは少々残念であります(しかし原案ではとんでもないビッチだった彼女がこちらでは…という皮肉が面白いのですが)
 一方で本作の中心となるのは、登場人物からもわかるように「魔教の怪」。新興宗教の儀式で魔犬に襲われた者が、その後実際に獣に引き裂かれたような姿で惨殺されるというのは、本作では儀式の場で直接殺されるという変更はあるものの、ほぼ踏襲されております。


 さて、冒頭に述べたとおり、本作は第0話であり劇場版という特殊なスタイルだけあって、普段の「UN-GO」からは、かなり異質な構造の物語と感じられます。
 もちろん、「結城新十郎」誕生篇である以上、物語が普通の探偵もののフォーマットに載らないことはある意味当然ではありますが、今回は新十郎の過去の物語(新十郎と因果との出会い)と、現在の物語(別天王会を巡る怪)が、カットバックで平行して描かれ、絡み合いながら一つの物語を縒り上げていく様は、映画ならではの醍醐味…とのみ評するだけでは足りないものが含まれているやに感じます。

 因果の正体と、新十郎と因果の関係については、最近の本編である程度察することができたのですが、しかし二人の出会いは、こちらの想像を遙かに上回る壮絶なもの。
 新十郎と行動を共にしていたNGOの青年たちが、作中で描かれた「戦争」の最初の犠牲者――というより、その引き金となったことも、本編で触れられていたやに思いますが、しかし、その本当の最期の姿には言葉を失います。

 「真実」を解き明かすというのは、本作全体を貫く、そして新十郎自身の行動原理ではありますが、しかしここで描かれる「真実」の姿は、残酷と言うも愚かな凄まじさ。
 確かに、ここで描かれる真実は、浅ましく、愚かなものであるかもしれません。しかし、我々がそれを笑うことができるのか――その問いかけに自信を持って頷くことができる者がどれだけいるか?
 表面上の残酷さよりもなお一層、その想いが胸に突き刺さります。

 一方、別天王を巡る事件においてもまた、「真実」の存在が大きな意味を持つことになります。
 大野妙心の傍らに立つ美少女・別天王。その存在と能力は、まさに因果の宿敵と呼べるもの。この両者の――そして「結城新十郎」と「大野妙心」の対決は、推理ものというよりもほとんど完全に能力バトルものとなっており、その辺りに違和感を感じる向きもあるかもしれません。
(とはいえ、この「能力」、個人的にはミステリで一番やってはいけないトリックだと感じた原案のそれを、見事に昇華していると言って良いでしょう。また、推理ものと能力バトルの関係については、「ミステリマガジン」最新号の會川昇インタビューをご覧いただきたく)

 しかし、この対決の勝利の切り札となったのが「真実」であり――「真実」を巡る対決なのですから一見当然のようですが――そしてそこで過去の物語と現在の物語が交錯する物語構成の妙には、ただただ感心するしかありません。
 そして、過去と現在、二つの覚悟の象徴として描かれる「歌」に込められた想いを想像するだけでもう…
(またそれが、一定の年齢層以上にはクリティカルヒットする曲だけに、もう!)

 會川昇の作品には、しばしば、自らの居場所を求めてさまよう者の姿が描かれます。それは、新十郎も同じ…だったかもしれません。
 しかし、彼にとってもはや「ここではないどこか」も、己が帰るべき世界も存在しません。彼はもはや、どこに行くこともできず(まさにUN-GO!)この現実で、堕ちて、生きるしかないのです。

 この「因果論」のクライマックスは、単なる能力バトルの結末だけでなく、その厳然たる、あまりに残酷な事実の宣言にほかならないのであります。
 ある意味、全てが終わった時点から始まる――「UN-GO」という物語には、相応しい始まりかもしれません。
(そして、この第0話のラストも、あの人が締めるというのが、如何に変格に見えようと、本作が「UN-GO」であることを示しているようで面白い)


 正直なところ、この「因果論」という物語は、とても簡単には咀嚼できるものではなく――そして、「因果論」を観た後に本編を見返すことにより、新たに見えてくるものも無数にあることでしょう。

 これはまた、「因果論」を観なければ本編は楽しめないということではもちろんありません。
 しかし「UN-GO」という物語に魅力を感じる方であれば、間違いなく「因果論」は観ておくべきだと――それは断言してしまって良いでしょう。


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2011.11.26

「石影妖漫画譚」第5巻 恋する退魔僧の熱血!

 さて、妖怪バトル人情ものという不思議な路線になったものの、それはそれでなかなか面白い「石影妖漫画譚」。長きに渡った入間編が前の巻で終わり、新章に入ったわけですが、こちらもなかなか波乱含みの展開であります。

 先の戦いで破壊された石影の筆を復活させるため、毛羽毛現の妹分である毛倡妓のもとを訪れた石影一行。
 しかし毛倡妓はかつての経験から人間(の男)不信、石影は協力を拒まれてしまいます。
 そんな中、毛倡妓の棲む雪山に巨大な怪物・白い狒々が出現。その狒々・しろがみに、毛倡妓が人間と思い込んで勝手に熱を上げる退魔僧・鳳蓮が挑むこととなります。

 というわけで、この巻まるまる一冊を使って描かれるのは、このしろがみとの対決編。
 狒々というのはまたメジャー妖怪ではありますが、本作に登場するしろがみは、その狒々の中でもアッパークラスと言うべきでしょうか、様々な能力で鳳蓮や毛倡妓、石影を苦しめることになります。
 特に、一度は痛撃を与えたかと思いきや××して…というのは、バトルものでは定番ではありますが、まさか実在の(?)妖怪がこんなことをするとは! という驚きがありました。いや楽しい。

 しかしそんなバトル展開と平行して描かれるのは、鳳蓮の成長劇――実はこの巻の主人公は、彼と言っても過言ではありますまい。
 密かに恋する毛倡妓(この時点で僧としてはいかがなものか…ですが)を守るため、寺の法具を持ち出して、というのはなかなか熱血していますが、しかしその実、彼は非常なびびり性。
 しろがみとの戦いで形勢不利になるや、毛倡妓を見捨てて一人で逃げ出すという、男であれば一番やってはいけない行為をやらかしてしまうのですが――

 もちろん、ここで終わるようであれば文字通りお話にならないわけですが、彼の決意の表れと、秘められた能力の発動がシンクロして描かれるドラマはなかなか熱く、この辺りの描写には、本作の連載開始当初の人情もの路線の流れも感じられるのにはちょっと感心いたしました。


 と、鳳蓮の話ばかりになってしまいましたが、ラストはきっちり石影が締めて、このしろがみ編もいよいよ終盤。
 鳳蓮の師匠(このキャラの狂いっぷりもなかなか面白い)の采配によりしろがみの方は一段落したものの、さて毛倡妓の方は…
 バトル人情ものとしての綺麗な〆に期待しましょう。


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2011.11.25

「ご存じ大岡越前 雲霧仁左衛門の復讐」 フィクションだからこそ描けるもの

 江戸の町を襲った火事の最中、千両箱を狙った男を捕らえた南町奉行・大岡越前の内与力・池田大助。だが男は牢で自決、男の兄である盗賊・雲霧仁左衛門は、越前への復讐を誓う。一方、偶然、幼馴染みのお千を町で見かけた大助は千々に心乱れるが、雲霧の恐るべき陰謀は二人を巻き込んでいく…

 以前刊行された「ご存じ遠山桜」に続く、鳴海丈が講談のヒーローたちを復活させてみせる「ご存じ」シリーズの第二弾は「ご存じ大岡越前 雲霧仁左衛門の復讐」であります。
 名奉行といえば、(最近は別口もおりますが)やはり遠山の金さんか大岡越前。その意味では納得の題材ですが、本作でメインとなって活躍するのは、大岡越前の懐刀、内与力(奉行個人の家臣)の池田大助であります。

 こちらはおそらく、ご存じとはいかないのではないかと思いますが、池田大助は、本作にも登場する石子伴作と並んで、講談などで大岡越前の配下として活躍する人物。
 登場する作品では、TVドラマ化もされた野村胡堂の「池田大助捕物帳」がありますが、本作はむしろ三代目三遊亭金馬の落語(!)「池田大助」の影響が大きいようです。

 この落語は、お忍びで江戸の町を視察する大岡越前が、桶屋の子・大助が子供たちを集めてお奉行ごっこをしているのに出くわして…という内容ですが、本作ではこれを大助の子供時代のエピソードとして、換骨奪胎しているのであります。
 ちなみに、本作で大岡越前の理想とする法の在り方は「桶の箍」――緩くてもきつすぎても桶が成り立たない――なのですが、そこに大助が桶屋の息子だった、という設定を絡めてくるのには感心しました。

 さて、本作では、越前により武士に取り立てられ、立派に成長した大助が、雲霧仁左衛門の陰謀に立ち向かうことになるのですが、もう一つ大事な要素が、大助の幼馴染みであるお千との悲しい恋模様です。
 互いに憎からず想い合いながらも、大助が武士となったことから離ればなれとなったお千。
 ある事件の最中に偶然お千と出会った大助は、家が没落して数々の惨苦を味わった末、彼女が金で躰を売る稼業となったことを知ってしまうのであります。

 一度蜘蛛の巣にかかった蝶のような身の上の自分は、ただもがくしかない。自分のような人間が大助の傍にいるわけにはいかない…と哀しい決意で大助の前から消えようとするお千ですが、しかし彼女がかかったのは蜘蛛ならぬ雲霧仁左衛門の一味の魔手。
 大助に捕らえられた自分の弟が自決したのを逆恨みして、江戸壊滅、越前抹殺を目論む雲霧との戦いは、大助にとって二重に大きな意味を持つことになります。


 作者の時代小説の多くでは、目を覆わんばかりのバイオレンスが描かれます。本作に登場する雲霧一味は、まさにそうした側面を体現するような外道たちであり、その跳梁には、この世の悪意というものの存在をまざまざと見せつける思いなのですが…
 しかし、作者は一方で、人の善意の存在を、善意の勝利を描いた作品もものしています。そして、本作もその一つであります。

 どれほど悪意が幅を利かせようとも、善意は負けない。善意が必ず勝利を収める時が来る…それは、もちろんフィクションの世界だけのことかもしれません。
 しかし現実には難しいことだからこそ、せめて報われたい、救われたい――講談の大岡裁きは、まさにいつの時代も変わらぬその想いが生み出したものではなかったでしょうか。

 そうであるならば、本作の大助がその善意を体現するものとして、そして越前がその善意を護る者として描かれるのは、むしろ必然でありましょう。

 フィクションだからこそ描けることがある…当たり前かも知れませんが忘れがちなそのことを、思い出させてくれる作品であります。

「ご存じ大岡越前 雲霧仁左衛門の復讐」(鳴海丈 光文社文庫) Amazon
ご存じ 大岡越前: 雲霧仁左衛門の復讐 (光文社時代小説文庫)


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2011.11.24

「アタラクシア 戦国転生記」 異形の腕が導く戦国奇譚

 戦国の戦乱とは無縁に山中の隠れ里で平和に暮らす孫一、清助、咲の三人の若者。しかし、ある日突然里を襲撃した野盗・黒十字衆により咲はさらわれ、清助は孫一をかばって斬られてしまう。孫一も左腕を失い、追い詰められた時、異形の腕が彼の肩から現れる。恐るべき力を持つその腕の正体は…?

 以前、山田風太郎の「いだ天百里」を「NADESI」のタイトルで漫画化した岩田やすてるの新作は、戦国を舞台に異形の腕を持ってしまった少年の姿を描く「アタラクシア 戦国転生記」であります。

 突如謎の一団に村を襲われ、親友をはじめとする周囲の人々を殺された少年・孫一が、連れ去られた幼なじみの少女を追う…という内容自体はさほど新味はありません。
 しかし本作の最大の特徴は、彼の奪われた片腕の代わりのように己の身に宿った、鬼の腕とも見える異形の腕の存在でしょう。

 筋肉ではちきれんばかりの腕は、その姿に違わず恐るべき力を発揮し、立ちふさがる敵を薙ぎ倒すのであります。
(この辺り、上で述べた「NADESI」が足技アクション主体だったのに対し、手技主体というのはちょっと面白い対比)

 しかし恐るべきは、その力が、孫一では制御しきれないものであること。文字通り腕に振り回される彼が、敵のみならず、わずかに生き残った里の人々の命を奪い、さらには自らを守って倒れた清助の亡骸をも両断してしまう姿を描く第1話は、実に衝撃的であります。

 大きすぎる力が、時として持ち主の心身を傷つける忌まわしきものとなる、というのはまま見かけられるものではありますが、本作はその力の負の側面――というより、裏も表もないのかもしれませんが――を執拗に描くことで、強い印象を残します。

 もっとも、非常にすっきりしないのは、孫一が気弱な少年という設定もあり、少なくともこの第1巻の時点では、腕の力に怯え、戦いを拒否する場面ばかりであることなのですが…
 ある意味自然な反応ではあるのですが、あまり主人公が涙ながらに後悔ばかりいるのも、気が滅入るものです。

 果たして孫一がその力を前向きに受け止める日が来るのか、そして何よりも腕の正体は何なのか――
 攫われた咲が、敵から「舎脂」と呼ばれることからなんとなく察せられるところですが、この第1巻のラストに登場した「毘」の旗を掲げた一軍との関係も含め、その謎解きに期待いたしましょう。


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2011.11.23

「妖術武芸帳」 第02話「怪異みず地獄」

 尾張藩の江戸家老の前に現れ、その死を予言する死者たち。怪しげな道士の後をつけて五重塔に至った誠之介はそこで毘沙道人と対峙するが、塔は炎に包まれ、覚禅の助けで辛うじて脱出するのだった。予言通り洪乱道士の術により苦しむ家老の前に現れた道人は、自分を尾張大納言に会わせろと告げる。その術の有り様を目撃したため、道士に襲われる楓。そこに駆けつけた誠之介は、覚禅の助けを得て洪乱道士を討つのだった。

 尾張藩の侍三人が、国元に帰参しようと旅立つ場面から始まる今回。しかしその前に現れた黒衣に右上の犬歯が長く伸びた怪人・洪乱道士が出現、彼らに死を宣告します。
 これに怒った三人の刃を素手で握り止めた道士は、彼らの足元から水を湧き出させ、見る見るうちに彼らは水の中へ…

 と、屋敷の中の尾張藩の江戸家老の周囲が突然暗闇に包まれ、驚く家老の前に青白い顔で現れたのは、先ほどの三人…彼らは陰々滅々と、家老が今宵九つに死出の旅に出ると告げるのでありました(この辺り、子供番組としてはかなりコワイ演出であります。その後に出てくる骸骨はいまいちですが…)

 さて、屋敷の外には、何やら印を結んでいた道士の影が。その後をつけてどこぞの五重塔にやってきたのは、我らが鬼堂誠之介。
 塔に潜入した彼の前に現れた毘沙道人は、誠之介の経歴をずばりと言い当てるのですが、それが面白い。
 道人によれば、誠之介は、五歳の時に日本を離れ、以来ルソンマカオジャカルタ清国を渡り歩いた人物であると…なるほど、誠之介は当時としては稀な国際人でありました。

 その誠之介の国際感覚に訴えるように、西洋からの侵略に対して、我が清国(!)と同盟を組もうと誘う道人ですが、もちろんこれを鵜呑みにする誠之介ではありません。
 毅然と断る誠之介は、道人の首を一刀の下に落としますが、道人は平然と首を取ってすげ治してしまいます。
(しかしここで西洋の侵略に言及したということは、もし番組が続いていたら西洋妖術師も登場したのかも…)

 更に、宙に浮いて道人が窓から飛び出すや、炎に包まれる塔。そこに現れた覚禅は、地上から塔に鉤縄を投げて脱出を促します。
 縄を伝って途中まで降りたところを、洪乱道士に縄を切られたものの、無事地上に降り立った誠之介は、覚禅と共に敵の兵士を撃退するのでした。
 しかし共闘しながらも自分自身の任務とやらに拘る覚禅を、自室に誘う誠之介。そこには、書物など西洋のご禁制の品々が山積みされ、誠之介は覚禅に地球儀を見せて、世界の大きさを語るでありました。

 と、刻はまもなく九つ。尾張藩江戸屋敷では、江戸家老が飲もうとした水差しから勢いよく、限りなく水が噴き出します。
 部屋の戸はビクとも動かず、宿直の侍は妖術で固められ、あわや家老が水に飲まれかかった時、舟に乗って現れたのは毘沙道人。
 彼は、命を助けるのと引き換えに、尾張大納言に会わせるよう、家老に命じます。何と道人は、時の将軍・家治を呪殺し、尾張大納言を将軍に据えると言い出すのですが――

 そこに通りかかった腰元・楓が部屋の中を覗いてみると、そこでは洪乱道士が家老の顔に水をかけていただけ。どうやらこの術により家老は溺れたと錯覚していたようですが…一見微妙なようで、この辺りは由緒正しい(?)妖術描写で楽しいのです。

 さて、気付かれて逃げ出した楓は洪乱道士に捕まり、あの足元から湧き出る水の術をかけられてしまいますが…
 そこに馬で駆けつけたのは、もちろん誠之介。香たき殿の情報により、尾張藩江戸屋敷の怪事を察知してきたのです。
 楓を馬で逃がした誠之介ですが、しかし道士の地獄雪崩の術で突如現れた地割れに飲まれかかってしまいます。誠之介危うし!

 が、その時強い光が道士の顔に当たり、気が散って術が敗れた一瞬に、誠之介の一刀が道士を斬るのでした。
 月光を手鏡で反射させて道士の気を逸らしたのは、覚禅。何と楓は覚禅の妹だというのですが…
 仮は返したと去って行く覚禅を見送る誠之介なのでした。


今回の妖術師
洪乱道士

 毘沙道人配下の四賢八僧の一人で、黒衣に右上の犬歯が長く伸びた男。幻術を得意とし、無限に水を湧き出させてその中で相手を溺れさせたり、地割れで相手を飲み込む地獄雪崩などを操る。
 数々の妖術で尾張藩江戸家老を脅かし、誠之介も苦しめたが、覚禅が反射した月光に目が眩んだ隙に誠之介に斬られた。


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2011.11.22

「絵巻水滸伝」 第94回「幻夢」 一騎当千の怪人現る!?

 しばらく取り上げてきませんでしたが、その間ももちろん連載は続く「絵巻水滸伝」
 田虎編に入ってからは快進撃の続く梁山泊軍ですが、やはり敵も新たな国を樹立せんとする存在だけあって一筋縄ではいきません。いよいよ、恐るべき敵が梁山泊軍の前に立ち塞がることとなります。

 田虎軍の目を惹き付けるため、東路と西路に別れて進軍する梁山泊軍。西路を行く盧俊義軍は大軍で敵の目を引きつける陽動となり、東路を行く少数精鋭の宋江軍が、本隊として田虎のいる威勝を目指す――

 抱犢山を守る“黒龍”唐斌の意外な行動で“一百華旗”山士奇の守る壺関を抜いた宋江軍は、このままの勢いで昭徳城を攻めることになります。
 と、そこで梁山泊軍の策を見抜き、宋江軍を討つべくただ一人現れた黒衣の怪人――それこそは、田虎が僭称する「晋国」の国師・幻魔君喬道清!
 そのおどろおどろしい渾名が暗示するように、奇怪な幻術と妖術の遣い手であります。
 実は梁山泊が十節度使をはじめとする官軍の猛攻を受けていた際、一度顔を見せた喬道清ですが、梁山泊と本格的に対決するのはこれが初めて。
 戦力を二分したとはいえ、猛者揃いの梁山泊軍に対して、ただ一人挑むというのは、無謀と言うも愚かに思えますが…しかし、さすがはと言うべきか、その恐るべき力は梁山泊軍を――いやそれだけでなく田虎軍をも巻き込んだ混沌の中に放り込み、戦場を大混乱に陥れます。
(この辺り、ベタな感想で恐縮ですが、往年の名作ゲーム「水滸伝 天命の誓い」の戦場で、敵の妖術をくらって自軍が次々と行動不能となって、好漢たちも自分も呆然とした時のことを思い出しました)

 しかし、混沌の妖術と言えば、梁山泊にも遣い手はいます。
 そう、かつては喬道清同様に梁山泊の前に立ちはだかった混世魔王樊瑞が、喬道清に挑むこととなります。
 実は上記の梁山泊に喬道清が姿を現した際にも、彼と対峙した樊瑞は、いわば因縁の間柄。これは激しい戦いが期待されたのですが――


 実はここしばらくの展開は、これまでの官軍戦や征遼戦と異なり、物語の流れや人物の動き自体は原典とほとんど同じと言ってよい内容ではあります。
 しかし、そのディテールの書き込みと、それが生み出す物語の盛り上がりは、これまで同様、原典を遙かに上回ります。

 今回も、幻術に苦しめられる梁山泊の面々の姿を臨場感たっぷりに――そして如何にも本作らしい掘り下げとともに――描き出し、梁山泊軍の久々の(?)危機を、大いに盛り上げてくれるのが嬉しい。
 やっぱり水滸伝はこの辺りも含めて水滸伝だよねえ…というのは、意見が分かれるかもしれませんが――

 どうやら、喬道清の力にはまだまだ謎と因縁がある様子。その内容も含めて、この先の展開もまだまだ気になるところであります。

関連サイト
 キノトロープ 水滸伝


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2011.11.21

「咲姫、ゆきます! 夢見る平安京」 少女陰陽師と式神執事?

 時は平安、陰陽頭・大春日家の娘・咲姫は、家の蔵の中で美貌の鬼神(?)の封印を解き、これに空木と名付けて式神にしていた。そんなある日、入内を控えた右大臣家の高嶺姫を占うこととなった咲姫は、高嶺姫が恋を求めていることを知る。夢見の術を使い、高嶺姫の真実の恋を助けようとする咲姫だが…

 最近は「小説Wings」誌で活動している如月天音は、ユニークな平安ファンタジーの書き手として昔から注目しております。
 最新作の「咲姫、ゆきます! 夢見る平安京」は、その「小説Wings」誌に掲載された作品、いかにも(?)少女小説的なタイトルですが、内容の方はやはりユニークな陰陽師ものであります。

 時は平安時代…のいずれの御時にか。主人公は、陰陽頭・大春日の娘にして、陰陽術の才を見せる16歳のおてんば娘・咲姫――
 その咲姫が、偶然自分の家の蔵で、不思議な白い鼠を見つけたところから、物語は始まります。

 瑞兆かと思いその鼠を追ってみれば、その正体は何と全身白ずくめの美青年。鬼神か妖かわからねど、青年を捕らえた咲姫は、彼に空木と名付け、自らの式神としてしまいます
 本作は、そんな咲姫と空木のコンビが、入内を控えて真実の恋を知りたいと悩む右大臣家の高嶺姫のために一肌脱ぐというお話。
 人が魂だけで集うという夢の世界(なるほど、だから「恋する平安京」)で、高嶺姫に、外見や家柄に囚われない恋をしてもらおうとする咲姫ですが、もちろんスムーズにいくはずもなく…何故かドタバタ騒動になってしまうというのは、ある意味お約束であります。

 正直なところ、これまでの作者の作品に比べると、いささかおとなしい作品ではあり、また、登場するのがいずれも架空の人物(もっとも、咲姫の父が陰陽頭で、その美貌から男女を問わず恋文をもらいまくっているという設定は、あの人物を思わせますが…)というのも、個人的には残念なところではあります。

 やはり、いかにおてんばとはいえ普通には外出もままならない姫が主人公というのは色々動かしにくいのかな…などと想像もしますが、しかし、それでも話をきっちり盛り上げ、また、当時の文化風俗を巧みに盛り込んで物語を成立させているのは、ベテランの技というべきでしょう。

 そして何よりも、少女陰陽師と式神という組み合わせが、一種の「お嬢様と執事」もののスタイルで描かれているのが、実に面白い。
 少なくとも私の知る限りでは、このスタイルは本作で初めて描かれたものであり――このコロンブスの卵は、いかにも作者らしいアイディアだと感心した次第です。

「咲姫、ゆきます! 夢見る平安京」(如月天音 新書館ウィングス文庫) Amazon
咲姫、ゆきます! ~夢見る平安京~ (ウィングス文庫)

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2011.11.20

「UN-GO」 第06話「あまりにも簡単な暗号」

 三年ぶりに刑務所から出所した矢島という男が新十郎のもとを訪れた。かつて海勝と友人だった矢島は、所内で手に入れた海勝の蔵書の間から、自分の原稿用紙に書かれた暗号を見つけたのだ。新十郎が解いたその暗号の内容は、待ち合わせの指示だった。矢島や新十郎、梨江は、暗号が海勝と矢島の妻の密会に使われていたのではないかと想像する。彼女は、矢島が不在の間に失明し、二人の子供は行方不明になったというのだが…

 「明治開化 安吾捕物帖」を原案とする
「UN-GO」ですが、今回はそこから離れて、全く別の安吾の作品を原案としています。
 その作品は「アンゴウ」。安吾と暗号と暗合をかけたと覚しき題名の作品ですが、一種のミステリという内容、戦争直後という舞台、そしてタイトル(?)といい、いつかは本作で使われるのでは…と密かに思っていたのですが、その予想が今回当たりました。

 さて、本作と原案との対比ですが…人物配置は、ほとんど一致しています。

矢島(元評論家。釈放された政治犯)/矢島(元編集者。帰還兵)
矢島タカ子(矢島の妻)/同
矢島秋夫(矢島の子)/同
矢島和子(同上)/同

 そして物語の方も――
 偶然かつての友人の蔵書を手にして、その間に挟まれた自分の原稿用紙に書かれた数字の羅列を発見した矢島。
 本の頁・行・文字数を示すと覚しきその暗号を解いた彼は、その内容が待ち合わせの指示であり、女性の筆跡であったことから、妻と友人の不貞を疑うこととなります。
 その妻は矢島が家を空けていた間に失明し、そして二人の子供は行方不明になっていたのですが…あらましは、本作も原案もほとんど同様です。

 しかし最も異なるのは、矢島の友人があの海勝麟六であり、そして矢島が解決を依頼したのが、新十郎であったことであります。
 なるほど、確かにこの形であれば、本来全く関係のない作品も、「UN-GO」の世界に繋がるわい…と感心いたしましたが、しかし、これまでのエピソードがそうであったように――いや、登場人物も物語展開も近いだけ一層――本作は単なる本案では終わらない姿を見せることになります。

 原案では、悲劇ではあるものの、それはそれで日常の一ページで終わるかもしれなかった物語が、本作ではそれを大きく踏み越えて事件となり、それが惨劇を招く…
 もちろんそれは、直接的には本作と原案の設定の違いから起因するものではあります。しかしそれだけではなく、事件を解決し、真実を解き明かす存在である探偵が介入したことが、逆に事件を生み出し、もう一つの真実を作り出す――すなわち、新十郎という探偵が関わったことで、物語が事件へと変貌する様が、今回のエピソードでは描かれているのです。
(もっとも、そのために原案の感動が薄れてしまった、というのは無視できないことではあるのですが…)


 実はこの「UN-GO」という作品が始まる前、一つ期待していたことがありました。
 それは本作が、「探偵」という存在の在り方に、自覚的に踏み込んでいくのではないか、ということであります。
 なるほど「探偵」と名乗れば、そのように設定されれば、彼が事件を解決し、真実を解き明かすことは当然に感じられます。しかしそれは本当に当然のことなのか。探偵という存在がいること自体に一つの意味があり、そしてそれが世界に影響を与えるのではないか…

 今回のエピソードは、まさにその点に触れたものであり――そして、ラストに登場した人物の言葉から考えれば、それが単なる一過性のものではなく、これからの展開にも、本作の本質に関わるものであると、そう考えて良いのではないでしょうか。
 そこにいかなる答えが用意されているのかはわかりません。しかし、私の期待が裏切られることはないように感じられるのです。

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2011.11.19

「信玄の軍配者」 勘助、人として起つ!

 かつて足利学校に学んだ山本勘助こと四郎左は、放浪の末に駿河の今川家で彼に恨みを持つ者に捕らわれ、六年間の軟禁生活を送っていた。そこで甲斐から追放された武田信虎と出会った四郎左は、成り行きから甲斐に向かい、武田晴信と対面する。一世一代の大芝居で晴信の軍配者となった四郎左だが…

 富樫倫太郎をブレイクさせた歴史小説「信玄の軍配者」の続編であります。

 タイトルからわかるように、今回物語の中心となるのは、武田信玄(晴信)に仕えた伝説の軍配者・山本勘助。
 山本勘助という人物は、時に実在を疑われるほど謎の多い存在ではありますが、しかしそれだけに、創作者にとっては、扱い甲斐があると言えるでしょう。

 前作をご覧になった方はご存じかと思いますが、このシリーズの勘助は、非常にユニークなキャラクターです。
 実は本作の勘助は、勘助であって勘助でない存在なのであります。彼の正体は、かつて山本家に仕えていた男・四郎左。幼い頃に流行病で親兄弟全てを失い、自らも醜い容貌となった彼は、家財を奪われて下人に身を落とすことになります。
 それでも不屈の精神で生き抜いてきた四郎左は、山本家の勘助が足利学校に向かうのに下人として同行するのですが…そこで勘助が野盗に命を奪われたことから、四郎左は勘助の名を借り、足利学校で学び始めるのでした。

 もちろん、それがバレずにすむ訳もなく、四郎左は学校で得た二人の親友・小太郎と冬之助に見送られ、放浪の旅に出るのですが――
 という展開を受けての本作ですが、前作から時は流れて約20年後。小太郎は既に北条家の大軍配者となったにもかかわらず、四郎左は職なし…どころか、かつての山本家のことを知る者に捕らわれて、軟禁状態。
 もう四十路となっても芽が出ずのたうち回る四郎左の姿には、何とも身につまされるものがありますが、それはさておき…

 しかしそこで彼の運命の一大転機が訪れます。甲斐から追放された武田信虎と出会った彼は、こともあろうに、武田晴信暗殺の命を押しつけられてしまうのでありました。
 なるほど、この時期に信虎が今川家の客分となっていたのは事実ですが、ここで二人が出会うことで歴史が動き出すというのは、実に面白いアイディアではありませんか。

 そして紆余曲折を経て、ようやく軍配者としての四郎左の人生が始まるのですが――彼の目を通して描かれる、主君・晴信像がまた面白い。
 晴信(信玄)もまた、作品によって描き方の振れ幅の大きな人物であります。衆に優れた大人物として描かれることもあれば、奸悪な梟雄として描かれることも少なくない晴信ですが…本作ではもちろん(?)前者。

 その容貌から人に疎まれ、苦難の半生を歩んできた四郎左。その果てにすっかり偏屈な性格となってしまった彼を信服させたのは、晴信もまた、父に疎まれ命を狙われながらも生き延びてきた――それ故、人の悲しみ・苦しみがわかる人物であったからにほかなりません。

 もちろん、晴信とて完全無欠ではありません。彼もまた、若さ故に迷い、悩む人物であります。
 言うまでもなく、四郎左も、いや、彼らの周囲の人々もまた…


 本作は、戦国大名と軍配者という、戦国の英雄たちを主人公とした血脇肉踊る歴史小説であります。
 しかし、本作…いや本シリーズが、普段そうした小説を読まない層にまで広く受け入れられたのは、単にそうした側面の魅力だけではないでしょう。
 本シリーズの魅力は彼らもまた一人の弱い人間であり、そしてそんな人々が友情、愛情等々で結びつくことによって、真に実りある人生を送ることが可能になることを、描き出しているからにほかなりません。

 甘いと言えば甘いのかもしれませんが、しかしそれを体現するのが、世の辛酸を舐め尽くした四郎左という点で、本作はそれなり以上の味わいを持つことに成功しています。


 さて、小太郎が早雲、勘助が信玄とくれば、残る冬之助は…というわけで、シリーズ最終巻は「謙信の軍配者」。
 もしや…と思ってきた冬之助が、あの姓に代わり、ちょっと伝奇的にも面白く、こちらの方もやはり見逃せないところです。

「信玄の軍配者」(富樫倫太郎 中央公論新社) Amazon
信玄の軍配者


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2011.11.18

「廓ノ幻」 風魔、幕末に駆ける

 時は幕末、江戸吉原を根城とする幻太郎は、廓一の絵師として遊女たちに評判の存在だった。だが、彼の裏の顔は、先祖代々吉原を陰から守ってきた風魔衆の頭領・十三代目風魔小太郎だった! 吉原を騒がせ、女たちを泣かせる侍たちに、小太郎の怒りが爆発する!

 「週刊漫画ゴラク」誌に不定期連載されていた、幕末の吉原という珍しい舞台を扱った忍者アクション「廓ノ幻」の単行本が発売されました。
 原作は市原剛、絵は今野直樹と、かつて「月刊少年ジャンプ」で大ヒットしたアクション漫画「ダブル・ハード」のコンビであります。

 吉原遊郭を作り、そこを守り、潜む風魔忍者――という設定自体は、吉原の創設者の庄司甚右衛門が風魔の庄司甚内の後身という説から、小説や漫画などではしばしば目にする題材であります。
 その意味では、本作はさほど新味があるわけではなく、遊び人めいた主人公が実は! というのも、まずは定番ではあります。

 しかしながら、本作の面白い点は、時代設定が幕末ということでしょう。
 上で触れた吉原+風魔もの(?)は、実のところ、庄司甚右衛門が存命の、江戸時代前期の時代を舞台としたものがほとんど。
 それはおそらく、風魔がイメージ的にやはり戦国時代に繋がった存在であるのではないかと思いますが、それはさておき、幕末というのはやはり非常に珍しいかと思います。

 しかし考えてみれば、幕末を舞台とするのは悪くないアイディアであります。動乱の時代に吉原もまた無縁なはずもなく、そして動乱の時代こそ、風魔小太郎が活躍しても違和感がない舞台なのですから…

 不定期連載のためか、内容的には基本的に連作短編スタイルなのですが、井伊直弼(ここでは吉原を資金源として傘下に収めんとする悪役)と、水戸家の対立を一つの核として展開していくのはなかなかに面白く、特に直弼との決着編は完全に伝奇もの。
 やっていることは完全に無茶なのですが、あまり見たことのない直弼像で、本作には似合っていたかと思います。

 脇役で登場する勝海舟や土方歳三も、いかにも「らしい」造形で良かった(ただ、海舟はそれなり以上に腕は立ったのではないかと思いますが…)ことですし、一巻で終わりは少々残念なのですが…
 またこのコンビには、ユニークな時代ものを描いていただきたいところです。

「廓ノ幻」(今野直樹&市原剛 日本文芸社ニチブン・コミックス) Amazon

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2011.11.17

「月の蛇 水滸伝異聞」第6巻 急展開、決戦前夜!?

 梁山泊に挑む者の孤独な戦いを描いてきた異聞水滸伝「月の蛇」も、はや第6巻。
 扈三娘・花栄・李逵という強敵を向こうに回した戦いは意外な結末を迎え、さらに物語は大きく動くこととなります。

 翠華の婚約者・扈成の登場により、袂を分かつこととなった飛虎と翠華。しかし扈成の前に彼の妹であり、今は梁山泊の一員である扈三娘が現れ、翠華は囚われの身に。
 さらに李逵と花栄という梁山泊でも屈指の豪傑が迫る…

 という前巻の展開を受けてのこの巻では、囚われの翠華がついに処刑される――というところで、扈三娘が寝返り、花栄と激突。花栄と扈三娘というのは、あるようでなかった組み合わせのように感じられます。
 花栄の弓の前には、さしもの扈三娘も不利のようにも思えますが、彼女も一流の剣士、懐に飛び込んでしまえば勝機は十分以上にあるように思えますが…そこに思わぬ助っ人が現れます。
(その頃李逵は青慈と対戦、追いかけっこの末に古井戸に落とされるというのは、まあ妥当な結末でしょう。古井戸とは因縁がないわけでもありませんし)

 そんな戦いが繰り広げられる中、ようやく飛虎が駆けつけ、ようやくこの戦いも幕か、と思いきや、ここからが意外な展開の連続、物語は激しく動き始めます。

 飛虎の前に現れた新たなる敵。それはかつて彼を全く相手にせず膝を屈させた相手、そして飛虎の師である王進をも上回る使い手、そして何より、飛虎の黒い蛇矛・月の蛇と対になる白い蛇矛の持ち主――林冲であります。
 飛虎にとっては宿命の相手、すなわち宿敵である林冲。しかし本作では最強クラスの達人である林冲を前に、飛虎は…

 一方、飛虎と翠華のもとに急ぐ青慈が出会ったのは、あまりにも意外な存在。
 飛虎たちと同じく梁山泊を敵とする彼らこそは――十節度使!
 宋の辺境を守ってきた10人の節度使が、宿大尉の下、梁山泊に決戦を挑むべく動き出したのであります(もっとも、この時点では3人+1の登場ですが)。

 原典では梁山泊百八星終結後に梁山泊を攻めた(そしてボロ負けした)十節度使。彼らが動くということは、宋軍が動くということなのでしょう。
 本作でこれまで描かれてきたのは、個人の武のぶつかり合いでした。しかし梁山泊には集団のぶつかり合いを――すなわち戦を専門とする軍人たちがいます
 これまでほとんど登場しなかった(花栄も本来軍人ではあるのですが)彼らにいよいよスポットライトが当たるのか? …と、期待は高まります。

 もっとも、個人的に心配なのは、彼らと行動を共にすることにより、いよいよ飛虎と翠華の戦いが、大義名分を持った、ごく普通のものとなりはしないか? という点です。
 これまで「私闘」という側面が強調されてきた二人の戦いが、ここで公の戦いになるのでは…そしてその中で埋没していくのでは、という印象があります。
 もっとも、これまで「私闘」の描き方がうまくいっていたとはあまり思えないのですが(扈成のエピソードも、結局曖昧なままだったという印象です)…というのは厳しすぎる評価でしょうか。

 期待と不安とが入り交じりますが、しかし、これで物語の先行きが全くわからなくなったのは事実。これは大いに歓迎したいところです。


 ちなみに、今回の新登場組は項充と李袞。
 扈三娘に苦戦する花栄の盾として登場する二人は、原典では李逵の盾だった二人ですが、花栄がその李逵と今回行動を共にしているのですから、まず納得の出番ではないでしょうか。
(そして残る樊瑞の存在が気になるわけですが…そもそも、この作品で妖術・仙術はどのような扱いなのか、そこも気になるところです)

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2011.11.16

「妖術武芸帳」 第01話「怪異妖法師」

 登城途中の老中の前に現れ、将軍家治の娘・継姫を要求する怪人・毘沙道人。それを聞かされた謎の老人・香たき殿は、姫を守るべく手配するが、毘沙道人に姫の駕籠は奪われてしまう。が、駕籠の中にいたのは、青年剣士・鬼堂誠之介だった。乱入してきた謎の僧・覚禅とともに手下と戦う誠之介だが、いくら斬っても相手は復活してしまう。これを千里ノ眼道士の妖術と見破った誠之介は、火薬の爆発で術を破るのだった。

 誰得の特撮時代劇ヒーロー紹介、今回から約三ヶ月の間、1969年に放送された「妖術武芸帳」を取り上げます。

 宙に浮かぶ異様な妖術師と対峙する青年剣士というアバンタイトルのビジュアルの時点でたまらないものがある本作ですが、
「そも妖術とは心の技 深く沈むれば万人その掌中にあり 無にせんか天をよみ 風をかぎ地の音を聞く 森羅万象己が意のまま げに 恐るべし恐るべし」
というナレーションも実に良く、冒頭から物語に引き入れられます。

 さて、冒頭で描かれるのは、老中・秋元但馬守の駕籠が、突然怪しの竜巻に襲われる場面。天空高く駕籠は巻き上げられ、落ちてくるのは駕籠かきのバラバラとなった手足(ご丁寧に血糊付き)…というショッキングなシーンです。
 と、老中が駕籠から降りてみれば、そこは怪しい野原。そこにぽつんと存在する堂宇に足を踏み入れてみれば、屏風に描かれた、川に浮かぶ舟の絵から、老人が声をかけてくるではありませんか。さらに、屏風から舟が! この辺り、中国の怪異小説にでも出てきそうなシーンを実際に見せられるとは…と感激であります。

 さて、毘沙道人と名乗るその老人は、時の将軍・家治の姫・継姫をいただきたいと、とんでもないことを言い出します。憤然と岸に降りた但馬守が気付いてみれば、そこはいつの間にか江戸城。しかし、彼の手には、道人から渡された、魚の入った魚籠が…
 この怪事件に但馬守が頼ったのは、謎の老人・香たき殿(「たき」は「火+主」。演じるは月形龍之介!)。香たき殿は、その魚籠を手に釣りに興じるのですが、その前に現れたのは中国服の怪人・千里ノ眼道士。
 しかし、そこですかさず割って入ったイイ声の船頭――その正体は、香たき殿の最も頼りとする男・鬼道誠之介! この世の誠を守る男であります。

 道士と剣を交えた誠之介(ここで唐十官の流れを汲む剣と見破るのにしびれる!)は、相手の剣を叩き折った上、道士を上下に両断! と思いきや、道士は婆羅門妖法の一つ・不死菩薩で復活。姿を消してしまいます。
 そしてその時、香たき殿が手にした魚籠も、謎の僧形の男に奪われてしまうのでした…

 場面は変わって水戸家の上屋敷に向かう継姫の駕籠。が、駕籠は再び妖術で奪われ、真っ赤な異空間に誘われてしまいます。
 駕籠を守っていたのは香たき殿が手配した忍びでしたが、千里ノ眼道士の前には全く及ばず、瞬く間に全滅してしまいます。

 そして堂宇に誘われた駕籠を待ち受けていたのは毘沙道人でしたが――駕籠から現れたのは当然(?)誠之介!
 絵の中の舟に乗って逃れようとした道人を追いかけようとした誠之介を止めたのは、あの謎の坊主。何か理由があってのことかと思いきや、道人が消えて行くのに驚いて屏風に頭から突っ込んで突き抜けてしまうのはどうかと思いますが…

 少林寺拳法を遣うこの謎の坊主・覚禅と成り行きから共同戦線を張ることとなった誠之介は、外で待ち受けていた手下たちと戦うのですが、しかしこの敵、倒しても倒しても立ち上がってくるではありませんか。
「これではまるで不死身じゃわい」の覚禅の言葉に、道士の術を思い出す誠之介。果たして堂宇の上に潜んだ道士が怪しげな印を…
 ここで道士の位置を見破って攻撃するかと思いきや、何と誠之介は、駕籠に仕掛けておいた火薬に着火、堂宇を爆破! 幻術の中で間違いなく存在する駕籠を爆破するという行為が、術を破ったのであります。この辺りの妙なリアリズム、いいですなあ…

 と、気付いてみれば二人がいたのは大川橋の上。後ろから襲いかかった道士を誠之介が斬った際に、道士の懐中から落ちた袋を奪って逃げていく覚禅。果たして彼は敵か味方か…というところで、次回に続きます。


今回の妖術師
千里ノ眼道士

 唐十官の流れを汲む剣と、自分や他者を復活させる婆羅門妖法・不死菩薩をはじめとする数々の妖術を操る男。
 継姫の駕籠の警護についた忍びをたった一人で全滅させ、妖術で誠之介と覚禅を翻弄するが、堂宇の爆発に術を破られ、最後の力で誠之介に襲いかかるも返り討ちにされた。


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2011.11.15

「UN-GO」 第05話「幻の像」

 戦時中、衆議院議員・島田白朗と聴衆を守るため、爆弾を積んで集会に突入してきたトラックを遠ざけて爆死した三人の学生がいた。その三人を讃えるブロンズ像の除幕式に招かれた新十郎は、島田の息子の爾朗と像の作者・平戸葉子と出会う。島田の不正蓄財を糾弾せんとする山本定信らが式典に突入してきた混乱の中、新十郎は、像の台座の中から山本の部下二人の死体を発見する。新十郎は、隠匿された金塊を奪いに来た二人を島田が殺害したと推理するが、島田にはアリバイが…

 「UN-GO」第5話は、「明治開化 安吾捕物帖」第13話「幻の塔」を原案とした内容。
 突然、日本(のアニメ)で一番有名な戦争の英雄の声を当てた方によって英霊が顕彰されるのに驚かされますが、しかし本編はそれよりもさらに刺激的で、そして示唆に富んだ内容であります。

 と、ここで毎度恐縮ですが、「UN-GO」と原案の登場人物の対比を(UN-GO/原案

島田白朗(衆議院議員。作家)/島田幾之進(武芸者。馬賊とも噂される)
島田爾朗(白朗の息子。俳優)/島田三次郎(幾之進の息子。侏儒)
平戸葉子(慈郎の友人。彫刻家)/平戸葉子(商人・平戸久作の娘。三次郎と結婚)
山本定信(島田の元ボディーガード)/山本定信(清の利権を握る人物)
三久休次郎(山本の部下。死体で発見)/三休(七宝寺の住職。死体で発見)
五味乱忘(同上)/五忘(三休の息子。死体で発見)

 今回も登場人物の配置的には、かなり原案に沿った印象があります。事件の方も、原案では島田家の新築の別荘の床下から、二人の死体が発見されるという内容で、大きく異なるという印象はありません。
 しかし、本作で二人の死体が発見されるのは、ブロンズ像――それも、戦時中に島田たちを守って死んだ三勇士を顕彰するための像である点が、決定的に異なります。

 戦争においては、ある意味付きものと言える「美談」。しかし先の戦争において少なからぬ傷を負ったらしい新十郎にとっては、その美談には素直に頷くことはできないものであり、その印象もあって、彼は犯人を島田だと指摘するのですが――

 確かに、厳然として存在する現実に「美談」という物語を見出す時、そこには、誰かの意図が――美談の主の想いとは異なる、何かを隠し、何かに誘導するものが――入り交じる危険性が存在します。
 人間が物語を必要とする存在であることは疑いはありませんが、それを現実の中に求めることへの危険性から、一種の疑いを抱くというのは、一人新十郎のみではないでしょう。

 そんな目で見ると、新十郎の考えも大いに頷けたのですが――しかし、因果が島田爾朗から引き出した答は、島田のアリバイを裏付けるもの(ちなみにこの展開、因果がいれば推理の必要がない、という本作への批判に対するこの上もない皮肉な回答でしょう)。
 本当の敗戦探偵となってしまった新十郎は大いに落ち込むのですが…

 しかし、ここで新十郎を再起させるきっかけが、人が他人のために命を投げ出すという、彼が疑念を抱いていた行為を、彼自身も――それも、物語の根幹に関わる形で――行っていたことだった、というのが面白い。
 確かに、美談はフィクション、誰かが作り上げたものなのかもしれない。しかし、たとえ本人にはそこまでの覚悟はなくとも、他の選択肢はなくとも、その行動が他人の救いになるという行為は、確かに存在する。
 そしてその行為に対して感動する人の心があるのであれば、その美談は(当然ある種の危険性は内包したままなのですが)確かに「現実」のものであり、語られる価値と必要性がある――

 この辺りは、安吾のエッセイ「特攻隊に捧ぐ」を踏まえた部分も大きいかと思いますが、物語と現実の関係に冷徹な目を向けつつ、そこからさらに一歩踏み込んだ物語と現実の姿を見出すという、今回の内容には、大いに唸らされた次第です。

 原案は、海外雄飛を肯定的に捉えた内容(本作の島田「白朗」という名前は、実在の馬賊であり、原案の島田のモデルとも思われる小日向白朗から取ったものでしょう)でしたが、本作は、原案の枠組みは守りつつも、全く異なる物語を――しかし安吾の思想を踏まえつつ――構築してみせたと言えるでしょう。
(ミステリ的には、真犯人が暴かれる証拠がある意味杜撰ではあるのですが、しかし視聴者も新十郎と同じ視点に立ってしまった場合、それに気付かないというのが秀逸)

 「UN-GO」という作品の面白さ、(大袈裟に言えば)存在意義というものが凝縮しているようにすら感じられる、見事な回でした。


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2011.11.14

「楊令伝 五 猩紅の章」 一つの闘いの終りに

 「楊令伝」もこの第5巻で全体の1/3、ここに最初の山場である、童貫率いる宋軍と、方臘軍の決戦が描かれることになります。

 北で勃発した宋と遼の戦いは、宋を見限った聞煥章による燕国樹立の企てにより長期化すると思いきや、青蓮寺の暗躍によりあっけなくその企ては失敗。新国家を夢見た元・遼軍の将軍たちは、ある者は死に、ある者は去り、ある者は投降し、北での戦いは終わりを告げることとなります。
 一方、その間に新生梁山泊は周囲の城市を瞬く間に陥落させ、自由貿易圏を設立。かつての梁山泊が点であったとすれば、こちらは面とも言える戦略で、宋という国の中に、新たな国とも言えるものを生み出します。

 ――という北の状況は前半のうちに描き終わり、後半はひたすら宋軍と方臘軍の最後の激突が描かれることとなります。
 双方ともそれぞれの戦略を練りに練った末、ついに落とされる決戦の火蓋。
 …なのですが、この決戦がこれでもか! これでもか! とばかりに畳みかけるように続いていくのが凄まじい。

 なるほど、あまりに強大な、そして巨大な力同士がぶつかりあえば、どちらかの勢力を全て滅ぼすなどというのはまず不可能。方臘軍が信徒を大量動員していることを考えればなおさらであります。
 そんな状況下で戦いに決着をつけるには、どちらかの頭を叩きつぶすしかない。逆に言えば、どちらかの頭を叩きつぶせば、それまでどれほど追い詰められても戦いは勝てる――

 当たり前ではありますが、これまで作中で描かれたことがないほど大量の血が流されたこの戦いにおいては、その当たり前のことが、重い意味を持ちます。
 かくて、童貫が、岳飛が、方臘が、石宝が、そして呉用が、最後の最後まで死力を尽くすこの戦いには、読んでいてもただただ圧倒されるばかり。
 決着がついた時には、こちらがホッとしたくらいですから――

 それにしても、この最初の山場に、梁山泊が(もちろん呉用の意図が戦いには働いているにせよ)直接的にはほとんど絡んでいない辺り、「楊令伝」という作品を象徴しているようにも感じられるのが面白いところです。


 さて、そのような感想を漏らしつつも、個人的にこの巻で一番印象に残ったのは、実は南の戦いよりも、北の戦いが終わった後の、男たちの姿でした。

 北辺の軍閥の長として独立独歩を守ってきた耶律大石。宋建国の英雄と遼の皇族の双方の血を引きながら、政治に関わることなく生きてきた蕭珪材(北方作品的にはある意味楊令以上の宿業を背負っている人物であります。)。
 この二人の英雄が、燕国建国という夢を見て、そしてその夢が敗れた時――そのそれぞれの姿、それぞれの身の処し方が、(すっきりしない部分も含めて)実にいいのです。

 もう一人、梁山泊に近いところにいながら、結局梁山泊に加われずに金国で戦ってきた唐昇も含めて、この三人の姿からは、順境ばかりではない人生において、カッコイイ大義名分だけでは生きられない、それでも生きていくしかない男の姿が描き出されていて、実にいいのであります。

「楊令伝 五 猩紅の章」(北方謙三 集英社文庫) Amazon
楊令伝 5 猩紅の章 (集英社文庫)

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2011.11.13

「月の光のために 大奥同心・村雨広の純心」 ただ任務のためだけでなく

 新井白石の食客で新当流の達人・村雨広は、将軍家継の生母・月光院を警護するための大奥同心を命じられる。その月光院が、かつて想い合った幼馴染み・お輝であったことを知り、千々に乱れる村雨の心。しかし、月光院と家継には、将軍位を狙う紀伊吉宗配下の四人の奇怪な忍びたちの魔手が迫っていた…

 風野真知雄の最新作にして新シリーズ第一弾は「月の光のために 大奥同心・村雨広の純心」。
 「大奥同心」というタイトルを聞いた時には、今回は伝奇風味は少ないかな? と勝手に思い込んでしまいましたが、それは私の大間違い。

 何しろ導入部からして、次代の将軍位を狙う紀伊吉宗が、配下の紀伊忍び(御庭番の前身)の奇怪な術の遣い手四人を送り込み、現将軍である家継を暗殺させようというのですから!
(ちなみに古くからの風野ファンにとっては、「刺客、江戸城に消ゆ」で暗殺者に命を狙われることとなる吉宗が、暗殺者を送り出す側になることに複雑な感慨が…)

 そして幼い家継、そしてその生母である月光院を狙う不穏な陰を察知した新井白石や間部詮房によって設置されたのが、大奥同心というわけ。
 主人公で塚原卜伝の流れを汲む新当流の達人・村雨広は、その剣技を買われて、他の二人、そして大奥の協力者たる大奥女中・絵島とともに、大奥同心に抜擢されることとなります。

 かくて、三人の大奥同心vs四人の紀伊忍びの暗闘が展開される…というのは、本作の物語の半分でしかありません。
 実は、村雨が守るべき月光院こそは、彼の幼馴染みであり、純粋に想い合った仲でありながら引き裂かれたお輝の後身。
 彼女との離別から10年、しばらくを抜け殻のように過ごしてきた村雨にとって、月光院を守ることは、単なる任務ではなく、それ以上に、己の心の中の、最も大事な部分を守ることでもあるのです。

 大奥同心の戦いを縦糸に、村雨と月光院の秘められたロマンスを横糸に――伝奇とロマンス(英語にすると一緒ですが)の組み合わせは、作者の代表作たる「妻は、くノ一」に通じるものがありますが、本作は二人を隔てる壁があまりに厚いゆえに、なお一層切ない味わいがあります。

 そして、切ない想いを抱えるのは、村雨と月光院だけではありません。彼らの周囲の人々――特に、彼らの戦う相手たる紀州忍びたちもまた、単なる書き割りのキャラクターではなく、それぞれの想いを抱えて、それぞれの戦いを繰り広げることとなります。
 作者が、ごくわずかな文章で、そのキャラクターの存在を鮮やかに描く技の持ち主であることは、愛読者であればよくご存じかと思いますが、それは、本作でも遺憾なく発揮されているのです。

 史実に照らせば、――そして、あまりにも意外な本作のラストを見れば――この後、村雨たちを待つ運命は、決して明るいものではないように思われます。
 果たして、その暗い予感は的中するのか否か…もちろん、それが外れることを心から期待しているところです。

「月の光のために 大奥同心・村雨広の純心」(風野真知雄 実業之日本社) Amazon
月の光のために - 大奥同心・村雨広の純心 (実業之日本社文庫)

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2011.11.12

「戦国SAGA 風魔風神伝」 ヒーローズに風神見参!

 「全国のセブン-イレブン、セブンネットショッピング、ぱちんこホールにてお取り扱い中」という一文が気になる「月刊ヒーローズ」誌が創刊されました。
 パッと見た時には、時代ものが結構あるな…という印象しかなかったのですが、よく見れば「戦国SAGA 風魔風神伝」は、宮本昌孝の「風魔」の漫画化ではないですか!

 宮本昌孝の「風魔」(現在は祥伝社文庫に収録)は、戦国時代末期に活躍した忍者・風魔小太郎を主人公とした伝奇活劇。
 北条家に仕えた風魔小太郎と風魔一族が、北条家滅亡後、最後の足利公方・氏姫を守り、自由と独立のため、豊臣家と徳川家の暗闘の中で活躍する作品であります。

 風魔一族といえば、北条家が滅んだ後も江戸を荒らし回った剽悍な集団、その頭領たる風魔小太郎も、鬼神のような外見の怪物めいた巨人という印象もあります(同じ作者の「陣借り平助」ではこちらのイメージですね)。
 しかし「風魔」における風魔小太郎は、いかにも宮本作品の主人公らしい爽やかな人物。どこか茫洋とした中に、男として、頭領としての器の大きさを感じさせる好漢であり、世の中から自由というものが失われていく時代に飄然と立ち向かう様が、実にいいのです。
 その本作が漫画化されるというだけで期待してしまうところに、作画担当はかわのいちろう!
 かわのいちろうは、現在は歴史漫画の「信長公記」を連載していますが、元々は「隠密剣士」「赤鴉」と、時代伝奇アクションを得意とする作家。
 なるほど、「風魔」を漫画化させるのに不足ない実力の持ち主であります(ちなみに監修とキャラクターデザインはかわの氏の師匠に当たる村上もとか)。

 この「戦国SAGA 風魔風神伝」第一話の見開きの扉絵では、まだ登場していないキャラクター(というかこちらがほとんどですが)も含めて、原作のメインキャラクターが勢揃いしていますが、原作読者であれば誰が誰か一目でわかってしまうほど、原作のイメージを再現していると感じます。

 第一話の内容の方は、まだまだプロローグと言うべきか、小太郎とヒロインの龍姫(足利氏姫)の登場編といった印象ですが、その中でも、刺客相手に繰り広げられる小太郎の豪快なアクションがきっちりと描かれており、この先も楽しみにしてよさそうです。
(ちなみに「隠密剣士」でも風魔一族を描いているのは因縁というべきか…)


 なお、冒頭に触れたように「月刊ヒーローズ」誌には、本作の他にも、坂本龍馬が死から復活して冒険を繰り広げる「坂本龍馬異聞 ドラゴンエフェクト」(K STORM&池上遼一&山口頼房)、大航海時代に世界を目指す日本人青年を描く「海傑エルマロ」(井上紀良&中川トシヒロ)も連載されており、そちらもこれからの展開が気になるところであります。


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2011.11.11

「青い森の国」下巻 人間の歴史の一ページを

 猿人たちの襲撃により、村長が死んだサヤの村。新たに村長に立候補したの父・ナジの危険性を知るナムは、重傷の身を押して自分も立候補する。一方、村を襲った巨獣マグを追うヒカリの前に、マグを操る男・タチが現れる。恐るべき術を操るタチに苦しめられるヒカリ。果たして村の運命は…

 今から5,500年前、縄文時代前期の青森は三内丸山遺跡を舞台に描かれる超古代アクションの下巻であります。

 海の向こうから漂着した記憶喪失の青年・ヒカリが巻き込まれた戦い――それは、村に住む人々と、森に住む猿人(ミッシングリンク)との生存競争でありました。
 猿人の中にも人間との融和を望む者がいることを知ったヒカリは、彼らと手を結ぼうとしますが、その動きも虚しく、主戦派の猿人はヒカリの留守中に村を襲撃。

 恐るべき巨獣の前に、ヒロイン・サヤに想いを寄せる戦士ナムは瀕死の重傷を負わされてしまうのですが…

 という展開を受けた下巻では、引き続き人間と猿人の戦いが描かれる…部分もありますが、しかしそれ以上に物語の中心となるのは、人間と人間、それも同じ村の中の、親子の戦いであります。

 猿人との戦いで亡くなった村長の座を巡り、激しく争うこととなるナムとナジの親子――外敵が迫るにもかかわらず、村の中で、骨肉相食む争いが繰り広げられるというのは、あまりにも悲しく、情けないことのように感じられますが、しかしそれもまた、人間の一つの姿。
 そしてその過激な世代間闘争は、ヒカリという外側に立つ者の存在を通して描かれることにより、単なる世代ではなく、人間という存在の二つの在り方の対立としてすら、感じられるのです。

 そう、ヒカリは、確かに物語の中心で戦い、活躍することになるのですが、しかし、彼の立場は――菊地ヒーローの多くがそうであるように――部外者であり、一種の傍観者ですらあります。
 本作の真の主人公は、ただの人間として生き、死んでいくナムたち村の人々であり、ヒカリはその手助けをするに過ぎないのです。

 本作の終盤の展開は、残酷なものであり、一つの悲劇であります。納得がいなかい向きもあるでしょう。
 しかし、この展開こそが、人間の歴史の一つの姿なのであり、そしてその積み重ねが今に至る歴史を作り上げてきたと言うのは、間違いではありますまい。本作は、その一ページを、ヒーローの目を通じて切り取ったものなのであります。


 上巻の感想で述べたとおり、やはり地味な作品ではあります。あくまでも物語は一つの村を巡る攻防戦――それも、物理的なものというより精神的なもの――であり、菊地作品おなじみの超人・妖人も、一人登場する程度です。

 それでもなお、上下巻の長丁場を他の作品同様――いや、はっきり言ってしまえば作者の他の最近の作品よりも――退屈せずに読み終えることができたのは、人間を描こうという、そのシンプルな意図が物語に貫かれていたからでは…そう感じた次第です。

「青い森の国」下巻(菊地秀行 竹書房) Amazon
青い森の国(下)


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2011.11.10

「快傑ライオン丸」を見終えて

 さて、「快傑ライオン丸」全54話を完走したわけですが、全体を通しての感想であります。
 と、その前に、分量が多くなりすぎてしまったので書けなかった最終回の感想から。

 あまりにショッキングだったラスト一話前からそのまま続いて、冒頭に錠之介の死という、実に盛り上がる展開からスタートしたこの最終回。

 そして始まったゴースンとの決戦は――正直なところ、ちょっとあっさり気味、という印象は否めません。
 やはり、あれだけ強大なゴースンが、獅子丸の命と引き替えとはいえ、一寸法師戦法の一撃で倒されるのはどうにも…
(真っ正面から突っ込む→ゴースンサンダーで打ち落とされる、という毎度のパターンが今回もあったこともありますが)

 しかし、これは前回触れましたが、死を覚悟した獅子丸の心情を、決して露骨ではなく、故郷の飛騨に咲く花に託して描くという場面は実にいい。
 ここまで死亡フラグを立てたら、逆に生きて還っても良かった気もしますが、しかしそれは獅子丸の覚悟を無駄にすることになってしまうのでしょう。
 これも大団円と言うべきでしょうか。


 さて、全編通しての感想ですが、これはもうとにかく面白かった! の一言に尽きます。
 それも、特撮ヒーローものとしてだけでなく、時代劇として面白かった、というのが実に大きい。

 戦国時代にライオン丸というネーミング、しかもライオン顔の剣士!? という、誰もが初めに抱くであろう違和感は、正直なところ私にもありました。
 しかし、いざ実際に作品を見てみれば、背景描写が、獅子丸たちが旅の途中で出会う人々が、物語内容が、変に特撮ヒーローナイズされず、きっちりと時代劇として作られているため、その違和感はすぐに消えてしまいました。

 いやむしろ、真っ当な時代劇世界の中に、ライオン丸も含めて異形の存在が居るという強烈なコントラスト(茶店で団子を食うネズガンダー!)が、むしろ時代劇としての本作のリアリティを際だたせたようにすら感じるのです。

 そしてもちろん、変身ヒーローものとして見ても、本作は非常に面白いことは言うまでもありません。
 基本はゴースンを求めて旅する獅子丸たちが事件(怪人)に出会って…というパターンが大半なわけですが、しかしそれでマンネリを感じさせない、物語のバラエティの豊かさはもちろんあります。
(中盤のイベント編である果心覚書編など、本当に盛り上がりました)

 しかしそれ以上に、登場する敵キャラクターの魅力が大きいでしょう。特撮史上に残るであろう名ライバルキャラ・タイガージョー(戸野広浩司氏の急逝が本当に惜しまれます…)はもちろんのこと、個性の固まりのような面子が多かったゲスト怪人の存在は、本作の面白さのかなりの割合を占めるのではないかと感じます。
 トビムサシ、ムイオドロ、オオガミラス、ネズガンダ-、ハンザキ…すぐに思い浮かぶこのあたりの怪人、人間よりも人間らしい連中として、単なるやられ役ではない怪人像を、これでもかと印象付けてくれました。


 と、敵が魅力的なだけではもちろんいけません。
 本作の主人公チームは、主人公とヒロインと子供という、特撮ものでは一種定番の組み合わせですが、しかし、沙織さんも小助も、単なる賑やかしなどでは決してありません。(あ、沙織さんの序盤の捕らわれっぷりはあれはあれとして)
 作中で幾度も描かれるように、沙織も小助も、獅子丸とは対等な存在。三人一組でゴースンに挑む力となるというのが、実に良いのです。
 そして、そんな三人であったからこそ、最終回で二人に別れを告げる獅子丸の姿が、印象的だったのかもしれませんが――


 まとまりがなくなってしまいましたが、一年強という決して短くない期間、一度も見ていて退屈することはなかったというのは、間違いのないお話。
 本作をもって、特撮ヒーロー時代劇の一つの究極の姿と言っても、大袈裟ではない…心より、そう感じる次第です。


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2011.11.09

「快傑ライオン丸」 第54話「ライオン丸 最後の死闘」

 錠之介は獅子丸の腕の中で逝き、怒りのライオン丸はガンドドロを倒す。ついにゴースンに挑むライオン丸だが、ゴースンサンダーの前に敗れてしまう。獅子丸は、小助の言葉から、命を捨ててゴースンにぶつかる決意を固める。ついに京に足を踏み入れたゴースンに対し、ライオン丸はその口の中に飛び込んだ。ライオン丸の刃が体内からゴースンを貫き、大爆発するゴースン。沙織と小助は、獅子丸が天に還っていく姿を見るのだった(完)

 衝撃の前回ラストから、そのまま突入する今回はいよいよ最終回であります。

 地に伏したタイガージョーの元に駆け寄る獅子丸(ここでマントが一瞬ジョーの顔を覆うと、錠之介に戻っているのがいい)
「お前との勝負を預けて、俺だけ先に逝ってしまい、すまん…」「これぐらいの傷が何だ!」「今度ばかりは応えたぜ。すまん、先に逝かせてくれ…」
と、実に男臭い会話を交わし、錠之介は獅子丸の腕の中で逝くのでありました。

 当然激しい怒りに燃える獅子丸ですが、しかしガンドドロはやはり強い。ライフル乱射の前に変身すらできないところに、タイガージョーの魂が宿ったマントが舞い降り、銃弾を防ぐではありませんか。
 その隙に獅子変化! と、ここで最終回タイトルが! これは燃えます。

 久々登場のライオンバックルで遠隔操作した太刀でライフルを弾くライオン丸ですが、接近戦でも強いガンドドロ。再び形勢逆転されてしまうのですが…
 と、そこに再び奇跡が! タイガージョーのマントは今度はガンドドロの頭に被さり、その間に復活したライオン丸の太刀がガンドドロを貫きます。
 …ここで本体が倒れたと思ったら、(中の人付きで)毛皮が逃げ出したのには驚きましたが、これに対し胴鎧に刻まれた正義の「心」を放つライオン丸。背中に心の文字を食らった毛皮はダウン。本体もろとも大爆発!

 錠之介の墓を河原に作る三人。背中を向けて立ち尽くす獅子丸、ゴースンを倒したら錠之介を飛騨に連れていこうという沙織、眼帯を形見に持つ小助――それぞれの形で、大きすぎる彼の死を悼むのでした。

 さて、悲しむ暇もなく京に向かった三人は、ついに巨大神変化したゴースンを発見。
 ゴースンの前で変身ポーズに入る獅子丸に対して放たれるゴースンファイアーを、果心居士(お久しや!)の幻影が防ぎます。
 以前知ったゴースンの弱点である胸の紋章を狙うライオン丸ですが、やはり象牙でないのがいけないのか、またもやゴースンサンダーでノックアウトされてしまうのでした。

 ダウンしてしまった獅子丸(その際、オロチ、デボノバ、トビムサシ、何故かトドカズラとハチガラガの幻影を見る獅子丸)を前に、思いつめた表情で小助と頷き合う沙織。
 ゴースンが「ジャラモンよご照覧あれ」と何やら祈りを捧げている間に、二人は爆弾を足元に仕掛け(気付よゴースン)大爆発!
 が、もちろんゴースンに効くはずもなく、二人ともゴースンサンダーを喰らってしまうのでした。

 もはや打つ手なしとなった三人。しかし獅子丸は、小助の「おいら死ぬことなんてへっちゃらだい! ゴースンを倒して死ねるんならね!」という言葉に、何かを感じます。
 滝に打たれ、座禅を組んだ末に獅子丸が呟く言葉は「死のう…」

 何事もなかったように、花を摘んで帰ってきた獅子丸。この花は、飛騨の山奥に一杯咲いていた花だと笑うのですが――寡黙な獅子丸の、これが精一杯の想いでしょう。故郷を懐かしみつつ、二人に声なき別れを告げるこのシーン、獅子丸の想いが伝わってきてグッと来るのです。

 そして寝ている二人を置いて一人出て行く獅子丸。二人が見たものは、花畑に残された太刀と笛のみ…
 そしてヒカリ丸を呼んで獅子丸が向かう先は、ゴースンが大破壊を繰り広げる京であります。ゴースンを前に大ジャンプをした獅子丸は最後の獅子変化!
 迎え討つゴースンサンダーを刀で反射させ(もっと早くやれとか言わない)、その大きな口の中に飛び込みます。

 そしてゴースンの体内で、ゴースン土に還れ! と太刀を突き刺したライオン丸の「さらば!」の言葉とともに、ゴースンは大爆発するのでした。

 その中に獅子丸がいたことを悟り、号泣する二人。沙織は、獅子丸はヒカリ丸と空へ還っていったのだと呟き、小助とともに飛騨へ帰っていくのでした…

 と、長くなってしまったので全体の感想は次回に。


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2011.11.08

「孫文の義士団 ボディーガード&アサシンズ」 彼らが彼ら自身であるために

 1906年10月の香港。武装蜂起に向けた密談のため孫文が香港を訪れることを知った清朝は、暗殺団を差し向ける。これに対し孫文を支援する商人・ユータンは、孫文を守るための義士団を結成する。そして運命の日、上陸した孫文に次々と襲いかかる暗殺者。次々と命を投げ出して孫文を守る義士たちだが…

 劇場公開時から大いに気になっていながら、うかうかと見逃してしまっていた「孫文の義士団」をようやく見ることができました。

  孫文が亡命先の日本から帰国、香港に向かうと知った西太后は、孫文暗殺を配下の凄腕・シャオグオと暗殺団に命令。香港警察はこれを清国内の揉め事として無視を決め込むこととなり、孫文らを援助してきた大商人・ユータンは、自分たちの手で孫文を守ることを決意します。

 ユータンの下に集まったのは、少林寺出身の大男・臭豆腐、父を暗殺団に殺された少女・ホン、許されざる愛の傷を引きずり物乞いとして暮らすリウ、ユータンの家の車夫・アスー…そして、ユータンの妻の元夫で博打狂いの不良警官・チョンヤン。

 彼らの任務は、孫文が香港に上陸し、同志たちと武装蜂起に向けた秘密の会合を行う一時間――その一時間を稼ぐこと。
 かくて、香港の市街を戦場として、暗殺団と義士たちの死闘が繰り広げられることとなります。


 アクションものの映画や漫画で、「ここは俺に任せて先に行け!」という場面が登場することがしばしばあります。
 強敵から仲間を守り、己の身を挺して足止めをする――その代償は、得てして残った者の命であることが大半ですが、本作のクライマックスは、まさにその連続と言えます。

 ただ孫文の命を奪うためであれば、どのような手段でも平然と使う暗殺団――その魔手から孫文を救うには、己の命を投げ出し、ぶつけるしかない。
 その一瞬に壮烈輝く義士たちの姿には、ただただ目を奪われるばかりであります。

 が、本作の真に感動的な部分は、彼らが戦う理由、命を賭する理由が、決して孫文を守るため、すなわち革命のためだけではないことであります。
 ある者は復讐のため、ある者は死に場所を求めて、またある者は、恩義ある者に恩を返すため――彼らが戦うのは、革命という大義名分のためではありません。
 彼らが戦う理由は、彼ら自身の胸にあるものを全うするため、彼らが彼ら自身であるためなのです。

 そんな姿が最も鮮烈に描かれているのは、ドニー・イェン演じるチョンヤンでしょう。
 最初ははした金のために暗殺団側のスパイとして働いていた彼が戦う理由。それは、彼に愛想を尽かして娘とともに家を飛び出し、奇しくも義士団を組織したユータンの妻となっているかつての妻に、ユータンを守ることを頼まれたからであります。
 ユータンを守ることは、彼のもとにいる自分の娘の未来を守ること。自分を父とは知らない娘の笑顔に、チョンヤンが命を賭けることを決意するシーンには、ただただ泣かされました。
(にしても「ワンチャイ天地大乱」では孫文を追っていたドニーさんが、こちらでは孫文を守る側に回るとは…というのはさておき、ドニーさんをアクションだけの人と思っていた向きは、認識を改めるべきですな)


 「一将功成りて万骨枯る」という言葉があります。しかし、一人の英雄の背後で命を散らした無名の者であっても、彼らには彼らなりの、彼らにしかわからぬ想いがある――それは暗殺者の側にとっても同様であります。本作が単なる伝奇アクションに終わらないのは、まさにこの点を丹念に描き出した点にあるでしょう。

 ただ英雄の涙のみが、彼らの想いに報いるものであったことを、何と評すべきでしょうか。


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2011.11.07

「鬼舞 見習い陰陽師と試練の刻」 陰陽師たちの学園もの!?

 都で相次ぐ怪異に、体制強化のため試験を行うこととなった陰陽寮。最下位になった場合は退寮もあり得るというこの試験で、トラブルに見舞われた道冬は最下位を取ってしまう。陰陽道・天文道・暦道の最下位の生徒は、それぞれ得業生と組んで再試験に臨むため、合宿することになるのだが…

 先月は若き日の平清盛を主人公とした、作者には非常に珍しい(初の?)一般向け作品「波に舞ふ舞ふ」が発売された瀬川貴次の平安陰陽師もの「鬼舞」シリーズの第4弾であります。
 百鬼夜行を巡る大事件を描いた前作とはだいぶ雰囲気を変えた本作では、主人公・道冬をはじめとする陰陽寮の学生たちが、合宿先(?)で思わぬ騒動に巻き込まれることとなります。

 前巻の事件をはじめとして、様々な怪異が相次ぐことを重く見た陰陽寮は、学生たちを引き締め、怪異への対応体制を強化するため、試験を実施することに。
 最下位は退寮もあり得るというこの試験ですが、道冬は安倍晴明の長男であり得業生(まあ、主席の特待生と思えばいいでしょう)の吉平が勉強を教えてくれることとなり、最下位はあり得ないと思われたのですが…

 何と試験中に、晴明が放った形代が道冬の前に現れ、それをカンニングと誤解された彼は、頭が真っ白になって試験は最下位に。
 幸い、吉平や吉昌の取りなしで退寮は免れましたが、再試験を受ける羽目となります。

 その再試験というのが、得業生とペアを組んで、怪しげな山寺で課題をクリアするというもの。
 道冬と吉平は陰陽道の学生ですが、その他、天文道(吉昌はこちらの得業生)・暦道の学生と共に6人で合宿することになるのですが――まあ、ただで済むわけがないことは、言うまでもないお話であります。


 というわけで、今回はムード的にはいつも以上にゆるいものがありますが、なるほど――これまでもそういう要素はありましたが――陰陽寮で学園ものをやるというのは、コロンブスの卵であります。
 再試験の課題も、まあ試験なだけあって、さまで深刻でないせいか、それぞれのキャラクターの素が出るのもまた楽しいのです(特に今回は、これまであまり前面に出てこなかった吉平の、地味に面白い側面が…)

 しかし、道冬たちがノンキに(?)合宿している陰で、シリアスな事態は少しずつ動いています。

 前作で明かされた、道冬の亡き実父の名。そしてそれは、安倍晴明とは深い因縁を持つものであります。
 晴明が試験中に道冬を妨害するような振る舞いに出たのも、その繋がりなのですが…単純に晴明が善で向こうが悪、という関係ではなさそうなだけに、気になるところです。
 一方、かねてより不審な部分があった道冬の忠僕・行近も、いよいよ尋常ならざる側面を見せ始め、この辺りの因縁が、道冬や吉昌・吉平たちにどう影響を与えてくるかは、注目であります。

 そしてもう一つ、一連の都の怪異の陰に潜む存在も、いよいよその姿を現すこととなります。
 烏帽子もつけず、童子のような形をしたその者の名は茨木――そう、あの茨木童子であります。

 考えてみれば、レギュラーキャラの中に渡辺綱がいる時点で、そちらに繋がることは予想できた訳ですが、しかし、本シリーズがあの伝説をどのように料理してくれるのか、そしてそれが道冬の物語と如何に結びついてくるのか?

 まさか(またもや)主人公闇落ち、ということはないと思いたいのですが…


 と、今回は大家のお姉さんが登場せず、しかも合宿ネタというわけで、これまで以上に野郎だらけの世界だったわけですが…実はニューヒロインが登場します。
 もちろん、このシリーズだけあって、ただのヒロインではありませんが…いかにも瀬川作品らしいキャラなので、こちらにも乞うご期待、であります。

 ってこの人、どこかで見たような…

「鬼舞 見習い陰陽師と試練の刻」(瀬川貴次 集英社コバルト文庫) Amazon
鬼舞 見習い陰陽師と試練の刻 (鬼舞シリーズ)


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2011.11.06

「聚楽 太閤の錬金窟」 超越者の喪ったもの

 殺生関白の噂も流れる豊臣秀次。彼は、聚楽第の地下で、異端の伴天連ギョーム・ポステルとともに、夜な夜な奇怪な儀式を行っていた。それを察知した家康配下の服部党、さらにイエズス会の対異端組織が、聚楽第の地下に潜入する。そこで彼らが見たものは、そして、秀次の正体とは――

 大部の物語全体にちりばめられた、知識の奔流と呼びたくなるほど圧倒的な情報、空前絶後と言うべき奇想…
 宇月原作品にほぼ共通するその魅力、いや脅威を最も感じさせられるのが、この「聚楽 太閤の錬金窟」であることには、ファンの間でも異論は少ないのではないでしょうか。

 安土桃山時代末期を舞台に、殺生関白・豊臣秀次の所業とその正体を巡る本作は、そんな宇月原作品の中でも、屈指のパワー(=とんでもなさ)を持つ物語であることは、間違いないでしょう。

 グノーシス派の教義を収めた怪人ギョーム・ポステルと、奇怪な切支丹忍びともいうべき曾呂利新左衛門を供に、聚楽第の地下に作られた奇怪な大迷宮で夜毎秘儀に耽る秀次。
 その存在は、かつてジャンヌ・ダルクとともに神の名の下に戦いながら、後半生では錬金術と黒魔術に耽り、無数の少年たちを殺害した「青髭」ジル・ド・レイにも比して描かれるのですが――

 秀次については、とかく毀誉褒貶様々に評される人物であります。その殺生関白ぶりも、実際に行われたものという説もあれば、秀頼の誕生で邪魔となった彼を退けるための謀略という説もあり、真実は闇の中と言うほかありません。
 が、本作で描かれる「真実」たるや…いやはや、伝奇狂ですら驚かされる、荒唐無稽かつ奇妙な説得力を持つその幻妖怪奇な内容は、ただただ、幻術でもかけられているような気分となります。

 また、中盤、秀次の正体を探るべく家康により送り込まれた腕利き忍びの服部平六と、イエズス会の異端審問組織のエージェントたるフェルナンド・ガーゴが錬金窟に突入してからの展開は、伝奇アクションとして見ても至妙の域に達したものであり、幻想味だけではない、作者の物語作者としての腕を思い知らされた次第です。


 しかし、それほど心が躍る――あるいは心が凍りつく――ような物語でありながらも、本作から伝わってくるのは、途方もない喪失感と、癒されぬ哀しみの念であります。
 実のところ、本作における秀次の存在は、むしろ狂言回しに近いものがあると言えます。本作の真の主人公は、既に老境にさしかかった太閤秀吉(「太閤の錬金窟」なのですから…)であり、そして彼と奇妙な共感に結ばれた、徳川家康なのですから。

 秀吉と家康、共に歴史に残る英傑でありながら、時に戦い、時に結び、不思議な共存関係を気付いてきた二人には、ある秘められた共通の記憶が存在しました。
 今ではもう決して帰ってこないその光景を求める、あるいは忘れることが、二人の原動力であったとすれば、それは何と哀しいことでありましょう。

 そしてその哀しみは、秀次や淀君、いやジル・ド・レイまで、本作に登場する数々の登場人物が、それぞれの形で抱えるものであります。
 いや、本作の中核を成す、我々人間はそもそも奪われた状態でこの世界に生まれて来たとするグノーシス派の教義によれば、むしろそれは当然のことなのかもしれませんが…


 常人を遙かに超えた力を持ちながらも、いや、それだからこそ抱いてしまう喪失感、抱いてしまう哀しみ――
 それは、本作に限らず、宇月原作品の基調として存在するものかもしれません。

 その伝奇的なパワー、幻想的なストーリーテリング以上に、私が宇月原作品に惹かれるのは、実にその哀しみの存在なのです。
 そしてその意味で、本作は宇月原作品の一つの頂点であると…私は信じる次第です。

「聚楽 太閤の錬金窟」(宇月原晴明 新潮文庫) Amazon
聚楽―太閤の錬金窟(グロッタ) (新潮文庫)

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2011.11.05

「青い森の国」上巻 5,500年前に人間の在り方を見る

 今から約5,500年前、縄文時代前期の東北。その海岸の村に打ち上げられた青年は、ヒカリという自分の名以外、記憶を失っていた。神官の老婆コズマの元に身を寄せたヒカリは、村の周囲の森を跳梁する猿人と出会うが、猿人には平和を求める者と戦いを求める者がいた。後者に襲撃を受けた村の運命は…

 菊地秀行作品において、古代、いや超古代が題材となっているものは決して少なくありません。
 それこそ、人類誕生以前を起源とするようなアレコレが登場することも珍しくない印象がありますが、しかし、物語の舞台として、紀元前3,500年を選んだ作品は、これが初めてではないでしょうか。
 本作は、現代から約5,500年前の東北――現在の青森(それでこのタイトル…)は三内丸山遺跡周辺を舞台とした古代アクションものであります。

 三内丸山遺跡は、今から約20年前に本格的な調査が行われ、その規模の大きさや出土物の豊富さから、縄文都市などと呼ばれて話題となった遺跡であります。
 縄文時代、それも前期から中期にかけてと言われると、失礼ながら(?)穴居人とあまり変わりないような生活を想像してしまうのですが、とんでもない。
 周囲の森からの豊富な果物や植物の採取のみならず、一部の植物の栽培を行なわれていた跡や、入手には交易が必要となる翡翠や黒曜石が出土するなど、この集落では、かなりのレベルの生活を送っていたが窺われるのですから…

 さて、物語の方は、この集落に、海の向こうから筏に乗って一人の青年が漂着する場面から始まります。
 常人であれば間違いなく命を落とす漂流を乗り越えた彼は、しかし、唯一、ヒカリという名前以外、自分が何者で、何故漂流していたかも忘れた記憶喪失者でありました。

 村の掟で、十日間の間、村に滞在して村の暮らしを助けることとなったヒカリは、その周囲に次々と起こる事件に巻き込まれることとなるのですが――
 彼の周囲に現れるのは、美しい村の少女・サヤとその天真爛漫な弟、サヤに横恋慕する村一番の戦士・ナム…と、この辺りはある意味定番のシチュエーションではあります。
 物語の内容の方も、この上巻の時点では、正直に申し上げて、かなり地味という印象。
 猿人――人間と猿の間のミッシングリンクや、彼らが使役すると思しき謎の巨獣など、伝奇的な要素ももちろんありますが、基本的には、ヒカリと集落の人々、ヒカリと猿人たちの関わり合いが描かれ、(もちろん派手な戦闘もあるのですが)比較的静かにものがたりは展開していくこととなります。


 それでも私がこの作品に強く惹かれるものを感じるのは、本作の舞台とするのが、人間という存在が生まれつつある時代であるからに他なりません。

 菊地秀行は、人間という存在をこよなく愛する、人間への希望を捨てない作家であります。
 一見それとは正反対の、エロとバイオレンスが吹き荒れる世界の中にありながら、いやそれだからこそ美しく輝く、人間という存在の善き部分が、菊地作品の中には(時折)あることを、ファンであればよくご存じでしょう。

 そんな作者が、人間という存在がこの地球上に初めて生まれた時代を舞台とするのであれば、そこに描かれるのは、人間とは何であるのか、そして人間を人間たらしめるものとは何か…それではないでしょうか。

 もちろんそれはファンの勝手な思い込みであるかもしれません。
 しかし上巻のラストで語られる四つの言葉――まさに、人間の善き部分の源泉とも呼べるその言葉を見れば、この予感がさまで見当違いであるとは思わないのであります。

 それを確かめるためにも、下巻を手にする価値があると信じるところです。

「青い森の国」上巻(菊地秀行 竹書房) Amazon
青い森の国(上)

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2011.11.04

「無限の住人」第28巻 役者は揃った!

 「無限の住人」も気がついてみればあっという間の第28巻。
 最終章に入ってからもそれなりの巻数を数えてきましたが、いよいよこの巻ではメインキャラクターがほぼ全員集結し、いよいよ最後の戦いか!? という盛り上がりであります。

 前巻で、偽一vs阿葉山の副将対決も決着し、水戸路での戦いは、逸刀流の壊滅で終結。
 ここで、冒頭の一話を使って阿葉山の回想の形で描かれる、天津の祖父の死の真相と、逸刀流結成秘話が実に面白いのですが…それももはや空しい過去の物語ではあります。

 そして、天津ら逸刀流本隊の逃走を防ぐために那珂湊に急いだ吐鉤群は、その逃走経路を潰すために、港に停泊する船に乗る者を皆殺しにせよとの命を…
 吐が目的のためなら手段を選ばぬ男であるのは、不死力解明編でよくわかっていたつもりでしたが、いやはや、ここまでとは思いませんでした。

 しかし、人道という側面を無視すれば、これが最も任務達成に手っ取り早い手段ではありますが…
 逸刀流は、武士のある側面――それも、この時代の武士には見られなくなったものを――を具現化した存在ではありますが、吐もまた、別の側面を同様に具現化したものと言えるかもしれません。
 であるとすれば、この両者の戦いは…

 などと、逃避したくなってしまうほど酸鼻な吐の所業ではありますが、そこに現れた影が一つ。
一艘の不審な船に乗り込んだ六鬼団・弩馬のヌンチャクを物ともせず、助っ人に現れた足江進を文字通り一蹴して登場したのは、逸刀流の鬼札と言うべき乙橘槇絵!

作中でほぼ最強キャラの彼女の登場で、一気に逸刀流の巻き返しか? と思いきや、ここでタイミング悪く(良く?)労咳の発作が起きて早速戦線離脱…と、そこに現れた意外な助っ人は万次!?
まるで主人公のような格好良さを(主人公です)見せたと思いきや、突然の乱入者に場は大混乱。そしてそこに天津影久が、そして凛も現れ――ここに、役者はほぼ全員揃った、ということに相成ります。

果たしてここで全ての決着が付くかはわかりませんが、少なくともこの面々が顔を合わせて、誰も命を落とさない、というわけには間違いなく生きますまい。
万次・凛vs荒篠獅子也、槇絵vs弩馬心兵・八宗足江進、そして天津vs吐――
三つの戦いがここに平行して開幕し、いやはや、最終決戦にふさわしい戦いとなって参りました。

果たしてどこまでこの死闘が続くのか、それはまだまだわかりませんが、最後まで見届ける覚悟はこちらにはできています。
せめて、悲劇の数はできるだけ少なくしていただきたいものですが――それはまあ、贅沢というものではありましょうが。


「無限の住人」第28巻(沙村広明 講談社アフタヌーンKC) Amazon
無限の住人(28) (アフタヌーンKC)


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2011.11.03

「琅邪の虎」 真の虎は何処に

 秦の港町・琅邪に、人を喰うという虎が現れた。虎に喰われた者が変じるという妖怪・チョウ鬼の「虎が人の姿をして、災いを振り撒く」という言葉をなぞるように、次々と怪事件が起き、人々の心には疑心暗鬼が生じる。事件の謎を解き、琅邪の町を救うため、求盗の希仁と徐福の弟子たちが立ち上がった!

 歴史伝奇ミステリとして大いに楽しませていただいた「琅邪の鬼」については先日取り上げましたが、本日はその続編「琅邪の虎」の紹介であります。

 港町・琅邪で、方士・徐福が設けた研究所・徐福塾で治療を受けていた少女が行方不明となったのが、今回の事件の発端。
 捜索に当たった求盗(警官)の希仁、巫医の残虎、元踊り子の桃ら、前作でもお馴染みの面々の前に現れたのは、虎に喰われ、妖怪・チョウ鬼(チョウは人偏に長)となったという顔のない女でありました。

 女は、人の姿をした虎が琅邪に災いを振りまくと警告して姿を消しますが、その言葉を裏付けるように、数々の怪事件が琅邪を騒がせることとなります。
 その怪事件というのが、前回同様、帯の言葉を借りれば――
「神木の下の連続殺人」
「暗躍する謎の集団」
「人間の足が生えた虎」
「始皇帝の観光台崩壊」

 前作に比べると少々地味に見えるかもしれませんが、しかし事件の深刻度は、前作を上回ります。
 喰らった人間に姿を変えるという虎に怯える人々は、己の家族にすら疑いの目を向けるようになり、町では疑心暗鬼からの争いが絶えず――
 そして琅邪山に始皇帝が建造された観光台(展望台)が崩壊したということは、一歩間違えれば、琅邪が皇帝に叛意を持っていると捉えかねません。

 事件が解決できなければ、琅邪の町が滅ぼされるかもしれない…この窮地に頼れるのは、あの人物だけ! というわけで、前作ラストで衝撃の正体が語られた名探偵・無心が登場することとなります。


 と、実はこの作品の基本的な構成は、前作とほぼ同様であります。
 すなわち、発端→怪事件の連続→最後の大事件→無心登場→大立ち回り→真相→徐福の説教 という展開に。
 しかしそれでも全く問題なく楽しめるのは、展開・登場人物等々の描写がより洗練されたこともありますが、もちろん本作ならではの事件像の面白さにあります。
(ちなみに今回のアクション展開のクライマックスは、桃と狂生の夫婦戦士ぶりが際だっていて実に痛快!)

 中国では、単なる猛獣という以上の意味を持つ「虎」という存在――本作の冒頭に登場するチョウ鬼の存在もそうですが、一種の神獣としての側面も持つ虎にまつわる数々の伝承を巧みに取り入れて、本作は展開していくこととなります。
 こうした伝承の数々を迷信と笑うことは簡単でしょう。しかしあくまでも当時の人々にとっては――作中に登場する巫術や風水術、儒学の教えと同様――これらは紛うことなき「現実」であり、そしてそれが、奇怪な事件を生み出すこととなるのです。

 単に過去の世界を舞台とするだけではなく、その過去ならではの「現実」を基にして、物語を、そして謎を構成していく――本作は、まさしく歴史ミステリの名にふさわしい作品でありましょう。
(そしてまた、今回もラストで無心殿にギョッとさせられるのですが…)

 ラストには、ミステリファンであればニヤリとさせられるオチも綺麗にはまり、今回も期待通り、いや期待以上の作品でありました。

「琅邪の虎」(丸山天寿 講談社ノベルス) Amazon
琅邪の虎 (講談社ノベルス)


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2011.11.02

「快傑ライオン丸」 第53話「悲しきタイガージョーの最期!」

都襲撃を目前に控えた大魔王ゴースンの行方を追う錠之介は、ドクロ忍者に化けてゴースンに接近するが正体を暴かれ、ガンドドロに追いつめられる。駆けつけた獅子丸と力を合わせガンドドロを撃退した錠之介。なおも単身ゴースンに挑む錠之介は、ゴースンサンダーに片目を潰されてしまう。盲目となったタイガージョーをいたぶるガンドドロの銃弾。駆けつけたライオン丸の眼前でタイガージョーは眉間を打ち抜かれるのだった。

 ついに最終回目前。あまりにも不吉なサブタイトルの今回、冒頭でゴースン八人衆の墓にカーネーションを手向けるのは、ゴースン一の幹部を名乗るガンドドロ。
 後ろから白クマが抱きついたような、見ようによっては可愛いコスチュームですが…

 と、その様子を見ていたのは沙織と小助。ガンドドロの後をつけた二人は、川の近くで姿を見失ってしまいます。
 その辺りにゴースンの本拠があるのではと睨み、探しに向かった獅子丸たちを襲うドクロ忍者の大群――錠之介はその中に紛れ込み、単身ゴースンに接近しようとします。

 都を叩き潰すための力を蓄えている間、山の中に潜んで久々に巨大な唇を見せていたゴースン。その間近まで迫ったものの、ゴースンには変装は筒抜け。錠之介はガンドドロの襲撃を受けます。
 ライフル銃の連射を受け、変身することすらできないまま圧倒される錠之介。タイガー忍法空蝉で服を残して逃れ、ついに変身したタイガージョーは、ガンドドロの懐に飛び込み、ライフルを弾いて接近戦に挑みますが――突如、彼に襲いかかるのは、ガンドドロが被っていた毛皮!

 後ろから彼を羽交い締めするように絡みつく、ゴースン忍法地獄締めで首や足を締め付けられたタイガージョーは大ピンチです。
 そこに駆けつけた獅子丸は、崖の上から大ジャンプ! 一直線に宙を飛び、空中でライオン丸見参!
(この辺りはワイヤーワークですが、ここに来て新しい変身パターンを見せてくれるのは驚きです)
 ライオン飛行斬りとタイガー隼斬りが同時に炸裂! と思いきや、二人をこわっぱ呼ばわりして去っていくのでした。

 戦い終わり、にらみ合う獅子丸と錠之介。それでもその場は収まり、沙織と小助は食事の支度に出かけるのですが、ゴースン打倒に凝り固まった錠之介は、ちょっと辺りを見てくると出て行こうとします。そんな彼に「無理するなよ」と声をかける辺りは、獅子丸の優しさが感じられますが…

 と、罠に捕らえられてしまう沙織と小助。ガンドドロは、ライオン丸をおびき寄せるため、沙織を人質に小助に笛を吹かせようとします。
 一方、ついに巨大神変化したゴースンと対峙したタイガージョーは、真っ向から突撃するも、ゴースンサンダーを残る左目を撃たれてしまいます。それでもなおゴースンに挑むタイガージョーに再び放たれるゴースンサンダー…

 ガンドドロの前に落下したタイガージョーを殺せと命じるゴースン。ガンドドロは、嬉々として盲目のタイガージョーに弾丸を浴びせていきます。
 足を打ち抜かれながらも、ゴースンを倒すまでは死なないと刀を杖に立ち上がるタイガージョー。更に両腕を打ち抜かれながらも、最後の力を振り絞ったタイガージョーの刃は、ガンドドロを貫いた!?

 と思いきや、刃が捕らえたのはガンドドロの背中の毛皮のみ。その時、小助の吹いた笛を聞いて獅子丸が駆けつけたのですが――
 その眼前でタイガージョーの眉間を貫く銃弾!


 と、あまりに衝撃的なシーンで終わったラスト一話前。
 主人公のライバルが、ヒロインと子供の前でさんざんいたぶられた末、ようやく駆けつけた主人公の眼前でとどめを刺されるというのは、凄まじいと言うも愚かでしょう。

 ゴースンを倒すことが自分の生きる道と思いこんだ錠之介の悲しさと言えばそれまでですが、ここまで衝撃的な死を遂げたライバルというのも珍しいでしょう。

 しかし、大魔王ゴースンの都襲撃は目前までせまっています。
 獅子丸よ、全ての苦難を乗り越え、今だ、今こそ変身の時だ!


今回のゴースン怪人
ガンドドロ

ゴースン一の幹部を名乗る最後の使者。ライフルと二本の巨大なナイフを武器とする。頭から背中に被った獣の毛皮を操って絡みつかせ、相手の動きを封じるゴースン忍法地獄締めを使う。
 ゴースンに目を潰されたタイガージョーをいたぶった末、眉間を銃弾で撃ち抜いた。


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2011.11.01

「新撰組秘闘 ウルフ×ウルブズ」第1巻 少年近藤勇の見たものは

 京で恐れられる幕末最強の剣客集団・新選組。しかしその局長・近藤勇は、見た目は10歳の少年だった!? しかし少年近藤勇には、常人にはない力が備わっていた。未来を視ることができる力――その力が近藤に見せる新選組の血塗られた未来。近藤は未来を変えることができるのか?

 「週刊少年サンデー超」(及びWebコミック「クラブサンデー」)連載中の「新撰組秘闘 ウルフ×ウルブズ」第1巻です。

 流行廃りにあまり関係がないということか、コンスタントに描かれ続けている「新選組もの」漫画ですが、この作品はその中でもかなりユニークなものの一つでありましょう。
 泣く子も黙る新選組の鬼の局長・近藤勇が、見た目わずか10歳の少年――もちろん、他のメンバーは史実通り(?)の年齢な一方で――というのは、さすがに他では見られない特色としか言いようがありません。

 何故そんな子供が局長を!? という当然の疑問に、この第1巻の時点では全く答えていないのにはさすがにどうかと思いますが、それはこれから語られるのでしょう。

 今わかるのは、この少年近藤勇が未来を視る力を持ち、その力により、並み居る新選組の剣士たちに勝るとも劣らない戦闘力を持つ――なにしろ、相手の動きを事前に察知することができるのですから――ことと、その力により、新選組の滅びの未来を知ってしまったことであります。

 土方が、沖田が、山南が悲しい最期を遂げる姿を見てしまった勇が、何とかして未来を変えようとする――志士や人斬りたちよりもなお手強い敵との戦いが、これから描かれるのでしょう。
 この巻のラストでは、近藤と同じく少年の姿を持つ謎の敵が登場、おそらくはこれからが本当の戦い、そして近藤の秘密に繋がる物語になるのだと思われますが…さて。


 と、この第1巻だけではなかなか評価しづらい作品ではあるのですが、しかし一点だけどうにも気になってしまったのは、新選組をはじめとする登場人物たちのビジュアルが、どうにも違和感があることであります(特に京都見廻組、作中でもそれなりに由緒あるという設定なんですから…)

 個人的には時代考証云々はそれほど気にしない質ではあるのですが、本作においては、近藤勇という明確な異物がいるのですから、そのインパクトを際だたせるために、せめて他の新選組の面々は、ガチッと定番の姿で描いて欲しかった…というのが、個人的な不満点ではあります。

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