「咲姫、ゆきます! 夢見る平安京」 少女陰陽師と式神執事?
時は平安、陰陽頭・大春日家の娘・咲姫は、家の蔵の中で美貌の鬼神(?)の封印を解き、これに空木と名付けて式神にしていた。そんなある日、入内を控えた右大臣家の高嶺姫を占うこととなった咲姫は、高嶺姫が恋を求めていることを知る。夢見の術を使い、高嶺姫の真実の恋を助けようとする咲姫だが…
最近は「小説Wings」誌で活動している如月天音は、ユニークな平安ファンタジーの書き手として昔から注目しております。
最新作の「咲姫、ゆきます! 夢見る平安京」は、その「小説Wings」誌に掲載された作品、いかにも(?)少女小説的なタイトルですが、内容の方はやはりユニークな陰陽師ものであります。
時は平安時代…のいずれの御時にか。主人公は、陰陽頭・大春日の娘にして、陰陽術の才を見せる16歳のおてんば娘・咲姫――
その咲姫が、偶然自分の家の蔵で、不思議な白い鼠を見つけたところから、物語は始まります。
瑞兆かと思いその鼠を追ってみれば、その正体は何と全身白ずくめの美青年。鬼神か妖かわからねど、青年を捕らえた咲姫は、彼に空木と名付け、自らの式神としてしまいます
本作は、そんな咲姫と空木のコンビが、入内を控えて真実の恋を知りたいと悩む右大臣家の高嶺姫のために一肌脱ぐというお話。
人が魂だけで集うという夢の世界(なるほど、だから「恋する平安京」)で、高嶺姫に、外見や家柄に囚われない恋をしてもらおうとする咲姫ですが、もちろんスムーズにいくはずもなく…何故かドタバタ騒動になってしまうというのは、ある意味お約束であります。
正直なところ、これまでの作者の作品に比べると、いささかおとなしい作品ではあり、また、登場するのがいずれも架空の人物(もっとも、咲姫の父が陰陽頭で、その美貌から男女を問わず恋文をもらいまくっているという設定は、あの人物を思わせますが…)というのも、個人的には残念なところではあります。
やはり、いかにおてんばとはいえ普通には外出もままならない姫が主人公というのは色々動かしにくいのかな…などと想像もしますが、しかし、それでも話をきっちり盛り上げ、また、当時の文化風俗を巧みに盛り込んで物語を成立させているのは、ベテランの技というべきでしょう。
そして何よりも、少女陰陽師と式神という組み合わせが、一種の「お嬢様と執事」もののスタイルで描かれているのが、実に面白い。
少なくとも私の知る限りでは、このスタイルは本作で初めて描かれたものであり――このコロンブスの卵は、いかにも作者らしいアイディアだと感心した次第です。
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