「鬼舞 見習い陰陽師と試練の刻」 陰陽師たちの学園もの!?
都で相次ぐ怪異に、体制強化のため試験を行うこととなった陰陽寮。最下位になった場合は退寮もあり得るというこの試験で、トラブルに見舞われた道冬は最下位を取ってしまう。陰陽道・天文道・暦道の最下位の生徒は、それぞれ得業生と組んで再試験に臨むため、合宿することになるのだが…
先月は若き日の平清盛を主人公とした、作者には非常に珍しい(初の?)一般向け作品「波に舞ふ舞ふ」が発売された瀬川貴次の平安陰陽師もの「鬼舞」シリーズの第4弾であります。
百鬼夜行を巡る大事件を描いた前作とはだいぶ雰囲気を変えた本作では、主人公・道冬をはじめとする陰陽寮の学生たちが、合宿先(?)で思わぬ騒動に巻き込まれることとなります。
前巻の事件をはじめとして、様々な怪異が相次ぐことを重く見た陰陽寮は、学生たちを引き締め、怪異への対応体制を強化するため、試験を実施することに。
最下位は退寮もあり得るというこの試験ですが、道冬は安倍晴明の長男であり得業生(まあ、主席の特待生と思えばいいでしょう)の吉平が勉強を教えてくれることとなり、最下位はあり得ないと思われたのですが…
何と試験中に、晴明が放った形代が道冬の前に現れ、それをカンニングと誤解された彼は、頭が真っ白になって試験は最下位に。
幸い、吉平や吉昌の取りなしで退寮は免れましたが、再試験を受ける羽目となります。
その再試験というのが、得業生とペアを組んで、怪しげな山寺で課題をクリアするというもの。
道冬と吉平は陰陽道の学生ですが、その他、天文道(吉昌はこちらの得業生)・暦道の学生と共に6人で合宿することになるのですが――まあ、ただで済むわけがないことは、言うまでもないお話であります。
というわけで、今回はムード的にはいつも以上にゆるいものがありますが、なるほど――これまでもそういう要素はありましたが――陰陽寮で学園ものをやるというのは、コロンブスの卵であります。
再試験の課題も、まあ試験なだけあって、さまで深刻でないせいか、それぞれのキャラクターの素が出るのもまた楽しいのです(特に今回は、これまであまり前面に出てこなかった吉平の、地味に面白い側面が…)
しかし、道冬たちがノンキに(?)合宿している陰で、シリアスな事態は少しずつ動いています。
前作で明かされた、道冬の亡き実父の名。そしてそれは、安倍晴明とは深い因縁を持つものであります。
晴明が試験中に道冬を妨害するような振る舞いに出たのも、その繋がりなのですが…単純に晴明が善で向こうが悪、という関係ではなさそうなだけに、気になるところです。
一方、かねてより不審な部分があった道冬の忠僕・行近も、いよいよ尋常ならざる側面を見せ始め、この辺りの因縁が、道冬や吉昌・吉平たちにどう影響を与えてくるかは、注目であります。
そしてもう一つ、一連の都の怪異の陰に潜む存在も、いよいよその姿を現すこととなります。
烏帽子もつけず、童子のような形をしたその者の名は茨木――そう、あの茨木童子であります。
考えてみれば、レギュラーキャラの中に渡辺綱がいる時点で、そちらに繋がることは予想できた訳ですが、しかし、本シリーズがあの伝説をどのように料理してくれるのか、そしてそれが道冬の物語と如何に結びついてくるのか?
まさか(またもや)主人公闇落ち、ということはないと思いたいのですが…
と、今回は大家のお姉さんが登場せず、しかも合宿ネタというわけで、これまで以上に野郎だらけの世界だったわけですが…実はニューヒロインが登場します。
もちろん、このシリーズだけあって、ただのヒロインではありませんが…いかにも瀬川作品らしいキャラなので、こちらにも乞うご期待、であります。
ってこの人、どこかで見たような…
「鬼舞 見習い陰陽師と試練の刻」(瀬川貴次 集英社コバルト文庫) Amazon
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