「UN-GO」 第06話「あまりにも簡単な暗号」
三年ぶりに刑務所から出所した矢島という男が新十郎のもとを訪れた。かつて海勝と友人だった矢島は、所内で手に入れた海勝の蔵書の間から、自分の原稿用紙に書かれた暗号を見つけたのだ。新十郎が解いたその暗号の内容は、待ち合わせの指示だった。矢島や新十郎、梨江は、暗号が海勝と矢島の妻の密会に使われていたのではないかと想像する。彼女は、矢島が不在の間に失明し、二人の子供は行方不明になったというのだが…
「明治開化 安吾捕物帖」を原案とする
「UN-GO」ですが、今回はそこから離れて、全く別の安吾の作品を原案としています。
その作品は「アンゴウ」。安吾と暗号と暗合をかけたと覚しき題名の作品ですが、一種のミステリという内容、戦争直後という舞台、そしてタイトル(?)といい、いつかは本作で使われるのでは…と密かに思っていたのですが、その予想が今回当たりました。
さて、本作と原案との対比ですが…人物配置は、ほとんど一致しています。
矢島(元評論家。釈放された政治犯)/矢島(元編集者。帰還兵)
矢島タカ子(矢島の妻)/同
矢島秋夫(矢島の子)/同
矢島和子(同上)/同
そして物語の方も――
偶然かつての友人の蔵書を手にして、その間に挟まれた自分の原稿用紙に書かれた数字の羅列を発見した矢島。
本の頁・行・文字数を示すと覚しきその暗号を解いた彼は、その内容が待ち合わせの指示であり、女性の筆跡であったことから、妻と友人の不貞を疑うこととなります。
その妻は矢島が家を空けていた間に失明し、そして二人の子供は行方不明になっていたのですが…あらましは、本作も原案もほとんど同様です。
しかし最も異なるのは、矢島の友人があの海勝麟六であり、そして矢島が解決を依頼したのが、新十郎であったことであります。
なるほど、確かにこの形であれば、本来全く関係のない作品も、「UN-GO」の世界に繋がるわい…と感心いたしましたが、しかし、これまでのエピソードがそうであったように――いや、登場人物も物語展開も近いだけ一層――本作は単なる本案では終わらない姿を見せることになります。
原案では、悲劇ではあるものの、それはそれで日常の一ページで終わるかもしれなかった物語が、本作ではそれを大きく踏み越えて事件となり、それが惨劇を招く…
もちろんそれは、直接的には本作と原案の設定の違いから起因するものではあります。しかしそれだけではなく、事件を解決し、真実を解き明かす存在である探偵が介入したことが、逆に事件を生み出し、もう一つの真実を作り出す――すなわち、新十郎という探偵が関わったことで、物語が事件へと変貌する様が、今回のエピソードでは描かれているのです。
(もっとも、そのために原案の感動が薄れてしまった、というのは無視できないことではあるのですが…)
実はこの「UN-GO」という作品が始まる前、一つ期待していたことがありました。
それは本作が、「探偵」という存在の在り方に、自覚的に踏み込んでいくのではないか、ということであります。
なるほど「探偵」と名乗れば、そのように設定されれば、彼が事件を解決し、真実を解き明かすことは当然に感じられます。しかしそれは本当に当然のことなのか。探偵という存在がいること自体に一つの意味があり、そしてそれが世界に影響を与えるのではないか…
今回のエピソードは、まさにその点に触れたものであり――そして、ラストに登場した人物の言葉から考えれば、それが単なる一過性のものではなく、これからの展開にも、本作の本質に関わるものであると、そう考えて良いのではないでしょうか。
そこにいかなる答えが用意されているのかはわかりません。しかし、私の期待が裏切られることはないように感じられるのです。
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