「アバンチュリエ」第1・2巻 アルセーヌ・ルパンの馴染み深くて新鮮な冒険
モーリス・ルブランの手になる怪盗紳士ルパン――そのルパンの世界を漫画化したのが本作「アバンチュリエ」であります。
単行本発売以降、ネット上でなかなかの評判でしたので手に取ってみれば…これが実に面白い、見事にルパンの世界を甦らせた快作であります。
今40歳前後で、読書好きな子供時代を過ごされた方であれば、ホームズ、少年探偵団、そしてルパンは、愛読書だったのではないでしょうか。
ポプラ社や偕成社の全集等で、彼らの活躍に胸躍らせた方は、決して少なくないと思うのですが…
しかし、ルパンについては、現在の日本で読むには恵まれていない状況にある、と残念ながら言わざるを得ません。
その理由は簡単、文庫等で手軽に全作品を読める状況にないから…に尽きます。
もちろん、偕成社版の全集はありますし、シリーズ初期の代表作については各文庫から出版されていますが、ルパン物語の全容を掴むには、寂しい状況なのです。
と、そんな状況で、アルセーヌ・ルパン氏のことをだいぶ忘れかかっていた私の前に現れた「アバンチュリエ」を読んでの感想ですが――
下手なキャッチコピー的な表現で恐縮ですが、「ルパンってこんなに面白かったのか!?」の一言に尽きます。
本作は、ルブランによる原作を、ほぼ発表順に追って忠実に漫画化した作品であります。その意味では、内容自体には新味はないのですが、しかしそれでも実に面白い。
もちろんそこには、原作の面白さがあることは言うまでもありませんが、しかしそれに負けず劣らず魅力的なのは、原作に忠実でありつつも、古臭さや違和感を感じさせない、本作のプラスアルファの巧みさであります。
ルパン物語の主な舞台となるのは、今から約100年前の欧州です。それは、当時の読者にとってはほとんどリアルタイムの現実でしたが、現代の我々にとっては、遠い国の、遠い昔の物語。
それを本作においては、緻密なビジュアルと、そして簡潔ながら的を射た解説によって、その遠い物語を、こちらに近づけているのであります。
そしてもう一つ注目すべきは、本作におけるルパンは、紳士というよりも青年というべき姿で――外見のみならず内面も――描かれている点でしょう。
実はこの点も原作通りではあるのですが、我々の頭の中にあるルパン像は、あくまでもある程度年を経た紳士。それが、ビジュアル的にも、言動的にもまだまだ若いルパン青年として描かれているのは、非常に新鮮に感じられるのです。
「アバンチュリエ(AVENTURiER)」とは「冒険家」の意。冒険児ルパンがこれから繰り広げる、遠くて近い、そして馴染み深くて新鮮な冒険が楽しみでなりません。
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コメント
連載では、ついにあの世界一有名な名探偵(名前が少し違う・・・)も出て来て楽しみです。
ルパン氏は孫の活躍するアニメの新作『ルパン三世 血の刻印 〜永遠のMermaid〜』にもチラと出て、こちらは紳士怪盗らしく粋な登場をしていました。
投稿: ジャラル | 2011.12.11 13:20
ジャラル様:
いやー名探偵どの、名前を元ネタ準拠にしてくるかと思ったら、しっかり原作通りの名前(フランス語読みではなくなってましたが)で登場する辺り、本当にこだわってますね。
先日のルパン三世も、思いもよらぬ伝奇もので大喜びしながら見ていました。
投稿: 三田主水 | 2011.12.18 18:51