「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」第4巻 暴走晴信、生を問う!
天正遣欧使節の第五の少年・播磨晴信とその供の忍者・桃十郎の活躍を描く「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」第4巻は明大陸編もいよいよ佳境。
疫病に倒れた仲間たちを、澳門の人々のため、治療の術を知るという「仙人」を求めて奥地に向かう晴信一行が見たものとは…
一度はアクシデントで離ればなれになったマテオ・リッチ一行と、晴信主従。
どこまでもスマートに最短距離を往くリッチと対照的に、海賊や明朝の刺客との対決を背負い込んでは悪戦苦闘を続ける晴信主従ですが、それでもリッチの予想を覆して再びの合流に成功します。
そしてようやく彼らがたどり着いたのは、伝説の皇帝にして中国医学の祖の名を冠する地・神農架。
野人伝説も囁かれるこの地(ちなみに神農架の野人は、現代でも時折話題になります)で、彼らは目的の「仙人」と出会うのですが――
実は、この明大陸編のエピソードが始まったとき、一つだけ違和感を感じていた箇所がありました。それがこの「仙人」の存在であります。
忍者を始め、超人的な能力の持ち主が何人も登場する本作において、「仙人」に目くじらを立てるのもおかしな話かもしれません。
しかし、時代設定や登場人物には、実はかなり気を配っている本作において、いきなり時代錯誤な…
などと思っていた私が愚かでした。
この時代にも、「仙人」はいたのです。それも実在の人物が。
その名は李時珍、晩年は瀕湖仙人と称した医師であります。
彼の経歴等は、作中で触れられるためにここでは述べませんが、なるほど、当時の明で最高のレベルの医術を持ち、それでいて野に暮らし、仙人と称した人物とは、今回のエピソードのために存在したような人物であります(もちろん、実際は逆なのだと思いますが)。
しかし今回のエピソードの素晴らしいのは、この瀕湖仙人との出会いが、晴信自身の信念、そしてそれを生むに至った過去の物語に繋がっていく点でしょう。
ある理由から世に受け入れられず、それどころか危険人物として処刑されようという現実を運命として受け入れようとする瀕湖。
それに対し、これまで見せたことのない、これまで見せたのと異なる激情をぶつける晴信――「生きき」るとは、本当に満足できる生とは、死とは何か?
現代とは比べものにならぬほど、死が身近にあった時代だけに、晴信の叫びは大きな説得力を持ってこちらの胸に響きます。
(ちなみにこの問いかけは、作者の師の作品でも為されているのですが、それとは別の角度から答えを提示しているのも見事)
物語はこの後、晴信とリッチの従者――桃十郎とエステベス、二人の最強剣士同士が激突することになるのですが、先のドラマを受けて、本来では味方であるはずの両者が激突する展開もまた見事。
さらにその後の展開も含めて、ある意味定番ではあるのですが、しかし、こちらの胸にグッと来るドラマを見せてくれます。
…私は基本的に連載漫画は単行本でまとめて読む派なのですが、しかし本作はその数少ない例外の一つであります。
そして雑誌で読んだときだけでなく、こうして単行本で再読した際も、恥ずかしながら、毎回涙腺を刺激されまくってしまうのでしまうのです。
長かった今回のエピソードもようやく終わり、いよいよ次巻からは舞台を移して新たなる物語が始まります。
そしてこちらでも、熱く、こちらの涙腺を刺激しまくってくれるであろうことを、私は確信しているのです。
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