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2011.12.31

1月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 さて、あっという間に一年が終わり、また新しい一年がやってきます。今年は大変なこともありましたが、個人的にはそれに負けないくらい良いことも色々とあった一年でした。来年も良い作品に出会えますように…
 というわけで2011年最後の更新は、2012年1月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。

 …と、始めてみたものの、文庫の小説の方はどうにも寂しいというのが正直なところではあります。

 新刊では、角川文庫から澤見彰「はなたちばな亭恋浪裏」と高橋由太「ちょんまげ、ばさら ぽんぽこ もののけ江戸語り」のダブル化け狸小説(!?)が刊行、それぞれシリーズ第3弾と第2弾と、なかなか面白いシリーズだけに、新刊は嬉しい限りです。
 そしてまた、渡瀬草一郎の新作「源氏 物の怪語り」が登場。「陰陽ノ京」は一休みということかもしれませんが、来年は大河ドラマが源平ものということで、本作のように源平もの、平安ものが増えるのではと期待しています。と、同じメディアワークス文庫からのかたやま和華「不思議絵師 蓮十 江戸異聞譚」も気になるところです。

 その他、新装版では上田秀人の「将軍家見聞役 元八郎」シリーズの最終巻「蜻蛉剣」が刊行されます。


 小説の方は本当にこのくらいなのですが、それに対して漫画の方はなかなかの内容です。

 新登場では伊藤勢の「陰陽頭 賀茂保憲」が登場。おそらくは「コミック怪」で連載されていた「闇守人」の単行本化だと思われますが、これは楽しみです。も一つ平安ものでは、はしもと榊の「たつめ神龍記」も気になります。
 また、さいとう・たかをの名作を岡村賢二が新たに描く「新・影狩り」も早くも第1巻が登場いたします。

 そしてシリーズものの続刊は、これがまた凄い。せがわまさき&山田風太郎「山風短 忍者枯葉塔九郎」、永尾まる「猫絵十兵衛 御伽草紙」5、水上悟志「戦国妖狐」8、福田宏「常住戦陣!! ムシブギョー」4、原哲夫「いくさの子 織田三郎信長伝」2、下元智絵「かぶき姫 天下一の女」2、蜷川ヤエコ&山村竜也「新選組刃義抄 アサギ」7、柳ゆき助&町田一八「鴉 KARASU」4――
 いやはや、戦国から幕末まで、幅広いラインナップなのが実に嬉しいところであります。

 さらに復刊の方では、小学館の復刻名作漫画シリーズで横山光輝の「死神主水」「暗殺道場」が登場。決して安くないシリーズですが、しかしやはり気になる…横光先生は、先月から文庫化がスタートした「殷周伝説」2も控えています。
 文庫化といえば、小山ゆう「あずみ」と和月伸宏「るろうに剣心」の刊行もスタート。これは毎月嬉しい悲鳴が…


 DVDソフトの方では、何と言っても仮面ライダーと暴れん坊将軍が異次元ドッキングした「劇場版 仮面ライダーOOO WONDERFUL 将軍と21のコアメダル」が注目。さすがに劇場には行かなかったのでこれを機に見たいと思います。
 また、「蜀山奇傳・天空の剣」と「スウォーズマン/剣士列伝」という武侠アクションの名品がデジタル・リマスター化。さらに「流星剣侠伝 大人物」と「大旗英雄伝」の、古龍原作BOXも発売であります。

 そしてこのブログでも全話取り上げてきた「UN-GO」もソフト化開始。坂口安吾の原案をどのようにアレンジしたのか、ぜひお確かめ下さい。



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2011.12.30

「あやし」(その3) 閉ざされた世界の鬼

 宮部みゆきの時代ホラー短編集「あやし」収録作品の紹介、ラストの第三回目であります。

「時雨鬼」

 ある悩みへの助言を求めて口入れ屋を訪れたお信。そこで彼女の前に現れた口入れ屋の女房と名乗る女は、かつて鬼と出会った過去を語る…

 「鬼」と呼ばれる存在がしばしば登場する本書ですが、本作もまた、「鬼」が登場する作品。しかし、他の作品がそうであるように、本作の鬼もまた、独特の存在であります。

 恋しい男から奉公先を変わるよう促され、悩んだ末にかつて世話になった口入れ屋を訪れたお信。そこで彼女は、口入れ屋の女房だという見知らぬ女と出会い、お信の心中を知るかのように遠慮のない言葉をぶつけられます女。そして女は、かつて時雨の中で出会った鬼の存在を語るのです。

 実のところ、本作においては、本当に怪異が現れたのかはわかりません。しかし、それでもなお、そこに、人の世に、「鬼」がいることを、これ以上なくはっきりと本作は描き出します。
 果たして人と鬼と――その境目がどれだけ薄く、危険なものであるか、物語の結末は我々に語りかけるのです。


「灰神楽」

 奉公人が刃傷沙汰を起こした店に駆けつけた岡っ引きの政五郎。その奉公人が、火鉢の灰神楽に見入っていたことを知った政五郎だが…

 「ぼんくら」シリーズに登場する政五郎親分の登場する一編であります。
 ある商家で、奉公人の娘が主人の弟に斬りつける事件が発生。加害者と被害者の間に全く関係はなく、途方に暮れた政五郎は、娘が火鉢の灰神楽を見とれていたことを知ります。

 本作で描かれる怪異は、一応その原因らしきものは示されるものの、しかし、その正体は全くわからぬまま、政五郎を含めた周囲の者たちは、それに振り回されるままに終わるのが、何とも言えない後味を残します。
(この辺りの味わいは、岡本綺堂的と言えるかもしれません)

 灰神楽とは、火の気のある灰の中に、水などをこぼした時に灰の舞い上がる様を言いますが、本作の怪異もまた、その灰神楽のような曖昧模糊としたもの…と言いたいところですが、その中から、パッと人の胸を突き刺すようなものが飛び出してくるのが、また恐ろしいのです。

 ちなみに本作で描かれた怪異の真の正体は、「ばんば憑き」に収録された「お文の影」で明かされることとなります。


「蜆塚」

 桂庵の米介が見舞いに出かけた亡き父の碁敵。彼は、米介の父が、そして自分が出会ったある者たちのことを米介に語る…

 最後に収められたのは、老人との何の気ない会話の中に、江戸に潜む奇怪な者たちの姿が浮かび上がる一編です。

 若気の至りで家を飛び出し、父と言葉を交わすこともないまま、その死後に家業の桂庵(奉公などの周旋屋)を継いだ米介は、父の碁敵だった老人から、不思議な者たちの存在を聞かされることになります

 老人も、そして米介の父も、いや、同業の者たちも出会ったことがあるという者たち…
 一見平和な江戸の町の中に、人ならざる者が静かに入り交じっているという内容にもゾクゾクさせられます。しかしそれ以上に、老人たちの語りの中の存在が、フッと自分の隣にもいたことを知る、恐怖の遠近法とも言うべき描写が、ただ見事であります。


 三回に渡り紹介してきた全九編、これらはほとんど全てが、商家を舞台とした作品です。

 当時の商家は、主人一家のみならず、数多くの奉公人たちが、その中で働き、その中で生活を送ることになります。
 数多くの人々が、そこで一日の、いや一生の大半を送る閉ざされた世界――それが商家なのであります。

 実は、宮部みゆきの時代ホラーには、本書のように商家を舞台とした作品が少なからずあることを少々不思議に思っておりました。
 しかし、このような人の生を、人の世をミニチュア化した存在として、作者は商家を舞台に選んでいるのかもしれない…そのように、改めて感じた次第です。

「あやし」(宮部みゆき 角川ホラー文庫ほか) Amazon
あやし (角川ホラー文庫)

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2011.12.29

「あやし」(その2) 人の想いが生む鬼

 宮部みゆきの時代ホラー短編集「あやし」収録作品の紹介、第二回であります。

「梅の雨降る」

 縁日で大凶のおみくじを引いたおえん。ある娘を妬んでいた彼女が、凶運が移るように念じたことが悲劇を招くことに…

 冒頭で主人公と言えるおえんが亡くなり、その弟が、過去を回想するという、一風変わった形で語られる本作は、悲しい罪の記憶の物語であります。

 才気活発でありながらも、その容姿が理由で、別の娘に奉公の口を奪われたおえん。その彼女が、縁日で大凶を引き、かつて聞いたその振り払い方を実行した時、悲劇が起こります。

 誰の心にもふとした拍子に訪れる、妬みや憎しみの想い。それが呪いと変わり、そして成就したと知った時に、人の心に訪れるのは、喜びでしょうか、悔やみでしょうか…?

 本作で描かれるものは、実は怪異ではないのかもしれません。全ては偶然と、気の迷いの産物と、そう読むこともできるでしょう。
 しかし、それが招いた残酷な結果を思えば、そこに人の心の、善悪半ばする人の心の不思議さを感じるほかないのです。


「安達家の鬼」

 病床の義母の世話をすることになったわたし。わたしには何も見えないが、人によっては義母に憑いた鬼が見えるというのだが…

 女中の身分から、とある商家の主人に嫁いだ語り手を通じて、店の隠居――彼女にとっては義母の秘密が語られる本作。
 隠居には、出会った人間の人となりがわかる。いや、彼女に出会った人間で後ろ暗い部分を持つ者は、彼女に何かを見る、と言うべきでしょうか…
 語り手は、やがて隠居が若かりし頃に出会った「鬼」の存在を知ることとなります。

 「鬼」と言えば、角の生えた怪物を思い出しますが、本作におけるそれは、「人ならざるモノ」の意と理解すれば良いでしょうか。
 そして同時にその鬼は、人が、人のある種の想いが生み出したモノでもあります。それをもし鬼以外の言葉で呼ぶとすれば「業」と呼べるのかもしれません。
 なるほど、その姿を目にするのは、人によっては何よりも恐ろしいことでしょう…

 しかし本作においては、その鬼の姿を見ないことを単純に幸いとはしません。業を背負うということ――それは辛いことにも見えますが、しかし人の生はそれだけではないのですから。
 隠居の最期の表情に、それを感じ取るのは、決して楽観的に過ぎるというわけではないと信じたいのです。


「女の首」

 母を亡くし、袋物屋に奉公することになった太郎。しかしそこで彼が見たのは、唐紙に現れた、自分にしか見えない女の首の姿だった…

 幼い頃から口をきかず、母の手一つで育てられた太郎。その母が亡くなり、おっかないが人情家の差配の紹介で、袋物屋に奉公することになった太郎ですが、しかしそこでの生活は、普通の奉公人のそれとはいささか異なるものでありました。

 太郎がそれに違和感を感じ始めた頃、納戸部屋で見つけた唐紙に描かれていたのは、忌まわしい女の首の絵。しかもその絵は他の奉公人には見えず、そして彼の顔を見てにやりと笑ったのでした――

 果たして女の首は何者なのか、何故太郎には見えるのか…本書に収録された作品の中では数少ない、はっきりと魔物が正面から登場する本作では、少年の目を通して、悪夢のようなその姿が、生々しく描かれます。

 しかし、本作で描かれるのは、魔物の脅威のみではありません。それに立ち向かう、人の想い、そしてそれを嘉するかのような小さな奇跡もまた、同時にあるのです。
 本書の中で、特にお気に入りの作品の一つです。


 もう一回続きます。

「あやし」(宮部みゆき 角川ホラー文庫ほか) Amazon
あやし (角川ホラー文庫)

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2011.12.28

「あやし」(その1) 人の中の鬼

 宮部みゆきの時代ホラー短編集「あやし」収録作品の紹介を、これから三回に渡って行いたいと思います。
 いずれも江戸の町、それも商家を舞台とした恐ろしくも悲しく、美しい作品揃いであります。

「居眠り心中」

 木綿問屋の若旦那の子を孕んだという女中のおはる。若旦那の使いで、店を出されたおはるの家を訪れた少年・銀次がそこで見たものは…

 最初の作品は、初めて奉公に出た少年・銀次の目を通して描かれる心中奇譚です。

 木綿問屋・大黒屋の小僧となり、ふとしたことから店の若旦那に気にいられた銀次。
 その若旦那に縁談が持ち上がり、話が順調にまとまったかに見えた時、店の女中・おはるの腹に、若旦那の子供がいることがわかります。

 それはまあ、大変ではありますが、珍しくもない(?)話。結局おはるは店を出され、若旦那の縁談は予定通り行われることになります。
 しかし、毎晩おはるの夢を見るようになったという若旦那から、彼女の家へ使いを頼まれた銀次は、そこで大変なものを見てしまうのですが…

 心中という深刻な響きと、居眠りという気の抜けた言葉と…あまり関係のなさそうな二つの言葉が、クライマックスで見事に結びつく本作。
 果たして銀次が見たものは、予知のビジョンだったのか、単なる白昼夢だったのか…冒頭で語られたある因縁話と相まって、謎めいた描写が、不思議な余韻を残します。

 そしてまた、本作で感心させられるのは、物語を世間に出たばかりの少年の目から描く点であります。
 生々しくなったり、ドロドロとしがちな内容を、まだ男女の間のことに疎い少年を通して描くことで、まるで全てが幻の世界の出来事、まさに白昼夢のように感じられるのです。


「影牢」

 ある事件で一族が死に絶えた蝋燭問屋。店の一番番頭だった老人の元を訪れた八丁堀の与力が知った、店のおぞましい内幕とは。

 様々な怪談、恐怖譚が収録された本書において、最もおぞましい作品はどれか、と問われれば、おそらくほとんど全ての読者が本作を挙げるのではありますまいか。

 主人夫婦と息子三人に娘一人、七人が同時に亡くなった深川の蝋燭問屋・岡田屋で一番番頭を勤めた老人による語りという形式で描かれる本作。
 ここで語られるのは、岡田屋で起きた惨劇の真相――いや、岡田屋で行われていた、無惨な所業の数々なのであります。

 先代主人夫婦が長きに渡り店の実権を握られていたのが、ようやく当代の主人が跡を継いだ岡田屋。
 父たる先代の主人が亡くなり、母たる大おかみが寝付いたとき、当代の主人とその妻が何をしたのか。そしてその息子たちが何をしたのか。
 ここに描かれるのは、人間がどこまで他者に対して残忍に振る舞うことができるのか、という記録であります。

 怪談ファンの方であれば、あるいは頷いて下さるかもしれませんが、恐怖の対象たる怪異が、時として救いに感じられる物語があります。
 それは、怪異に至るまでの経緯、超自然を抜きにした現実が、あまりにおぞましく、恐ろしいものである時に生まれるものであり――本作もまた、その系譜に属するものであります。

 そのおぞましき人間の現実を、そして救いとしての怪異を、老人の淡々とした口調で語り切るのもまた見事。
 正直なところ、何度も読みたい作品ではないのですが、しかし、強く強く印象に残る、そんな作品であります。


「布団部屋」

 頓死した姉の奉公先だった兼子屋に奉公することとなったおゆう。そこには、奉公人を奥の布団部屋に寝かせるという習わしがあった…

 代々の主が短命であることと、奉公人の躾の良さで知られる酒屋の兼子屋。
 前者はともかく、後者は商売人であれば皆が羨むことではありますが、その兼子屋に奉公することになった少女が、その真実を知ることになります。

 兼子屋に奉公していたのが、ある日突然倒れ、そのまま亡くなったおゆうの姉。母のように自分を育ててくれた姉の死を悲しむまもなく、自分も兼子屋に奉公することとなった彼女は、やがて店に不思議な習わしがあることを知ります。

 それは、奉公人が一人ずつ、店の北東にある小部屋、かつて布団部屋だった空き部屋で寝かされるというもの。
 ただそれだけのことながら、奉公人たちが恐れるその習わしを、おゆうもついに経験することとなるのですが…

 習わしの意味は何なのか、おゆうの姉の死との関連は、そして店に秘められたものとは――
 物語に散りばめられた謎が結びついて一つの真実を描き出す結末には驚かされます。しかしそれ以上に印象に残るのは、恐ろしくもどこか哀しみを感じさせる怪異の姿と、そしてそれに負けぬ人の心の有りようであります。

 鬼を生み出すのが人であるとすれば、それを乗り越えることができるのも人…当たり前かもしれませんが、両者にとって一つの救いとも取れる結末を見るに、そう感じてしまうのです。


 次回に続きます。

「あやし」(宮部みゆき 角川ホラー文庫ほか) Amazon
あやし (角川ホラー文庫)

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2011.12.27

「妖術武芸帳」 第07話「怪異風摩屋敷」

 風摩屋敷の見取り図がある早雲寺で、玄鬼道士が化けた偽住職から幻覚剤入りの茶を飲まされ、崖から転落する誠之介。道士に担ぎ込まれると見せかけて屋敷に潜入した誠之介は、道人を脅して牢を開かせる。丁度その時、自分の目を潰したのが毘沙道人と知った羽化仙女が、覚禅を逃がそうとしていた。道人の制裁を受け死ぬ羽化。覚禅が道士を倒し、誠之介は道人に挑むが、撃退するのがやっとで倒れ伏してしまうのだった。

 今回でちょうど本作も折り返し地点。アバンにダイジェストが入ったり、ラストに妖術コーナーという解説が入ったりと、色々と変化も見られますが、内容の方もかなりの山場であります。

 前回、捕らわれた覚禅を救うため、謎の風摩屋敷に向かう誠之介。北条家の菩提寺・早雲寺の住職から、見取り図を入手しようとしますが、住職は玄鬼道士の化けた偽者――
 道士というより武将のような玄鬼道士は、寺から屋敷に向かう誠之介に襲いかかるのですが、これが見かけ倒しの弱さ。
 が、偽住職に幻覚剤入りの茶を飲まされていた誠之介は、崖から転落してしまうのでした(二週連続で薬入りの茶というのは…)

 しかし、誠之介の捜索を部下に任せ、毘沙道人に結果報告に向かったら、お前が自分で探せと言われる辺り、四賢八僧の中でもやっぱりランクが低いようです…

 さて、道士が住職を殺したことを羽化が咎めたことから、彼女に仏心が目覚めたのではとチクる道士。しかし道人は、彼女は自分が手塩にかけて術を仕込んだのだから裏切るわけがない、盲目でなければ使えない羽化登仙の術のため、目を潰してやったくらいなのだから…と余計なことを喋ってしまいます。

 案の定、その会話を聞いてしまった羽化仙女。自分の目を潰した道人への憤りと同時に、弟・闇童子の将来を案じた彼女は、地下牢に捕らわれた覚禅に、ここ逃がす代わりに、弟を連れて逃げて欲しいと頼むのですが――

 そこに誠之介を担いで道人の前に戻ってきた道士ですが…実は背中の誠之介に刀を突きつけられて脅かされていたというこれまた情けない状態。次いで誠之介は道人に刀を突きつけ、地下牢に案内させるのですが…
 折悪しく、そこでは羽化が覚禅を解き放とうとしている最中。解き放たれた覚禅は怒りの大ジャンプで牢から飛び出しますが、変わって飛び込んだ道人は、言い訳も聞かずに羽化を刺し殺してしまいます。いやそれだけでなく、闇童子に、下手人は誠之介と告げる奸悪ぶりです。

 一方、昇降機に乗って地上に向かう誠之介と覚禅ですが、昇降機が止まったと思いきや、四方の壁から飛び出してくる戦闘員の腕。これを次々と切り落とす誠之介ですが(本当にこの作品、妙に切株描写が多い)その腕が爆発、屋敷は炎に包まれてしまいます。
 炎の中、道士を引き受けて誠之介を先に行かせる覚禅。激しい肉弾戦の末、道士の短刀を、相手の額に叩きこんで倒し、ようやく妖術師相手の初勝利であります(明らかに弱い奴ではありましたが…)

 と、屋敷の回りの堀の上で、道人と対峙する誠之介。道人の妖術・リクオウで放たれた気弾を刀で砕いて防ぎますが、道人は嵐を呼び、堀の水を逆流させ誠之介を襲います。
 さしもの誠之介も奔流とも言えるほどの水の勢いには手も足も出ず、窮地に陥りますが、ここで彼が天に投じた小刀に落雷!
 落雷自体は自然現象ですが、それによって妖術に乱れが生じたということで、嵐を収めることに成功します。
(このリクオウ、婆羅門妖法の中でも主体となる術、雅楽の林邑楽を聞きながら体得するというわかったようなわからないような説明がラストで解説されます。どうも、解説の描写を見る限りでは、気弾だけでなく、その後の天変地異も込みのようであります)

 そして互いの刀と錫杖が交錯、誠之介は地に伏し、道人も大きなダメージを受けたか、その場を退散するのでした。
 そこに襲いかかろうとする闇童子を制止し、真実を告げようとする覚禅ですが、その前に闇童子は逃走。
 覚禅も、意識の戻らぬ誠之介に「貴様のために経を唱えるなんてまっぴらだぜ! 死ぬな、死ぬなよ」と必死に呼びかけながら、その場を去るのでありました――


今回の妖術師
玄鬼道士

 髭面に太い眉、体には小札鎧をまとった道士。罪のない住職を殺して化けるなど、冷酷な性格。首を体の中に引っ込めて刀を躱したほか、術らしい術は使わず、武術も弱い。
 誠之介を罠にはめて殺そうとするが、逆に捕らえられて利用された末、覚禅との対決に敗れて死んだ。

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2011.12.26

「シャクチ」 剣と魔法、文明と国家

 不老不死の秘法を求めて東海の果て、オオヤマトを訪れた徐市が出会った男・サメマ。シャクチと名を改め、徐市とともに中国大陸に渡った彼は、秦、そして漢を巡る戦いの数々に加わり、その恐るべき力を文明人たちに見せつける。時を超えて生き続けるシャクチに課せられた驚くべき使命とは?

 荒山徹の新境地とも言うべき「シャクチ」が、ついに単行本化されました。
 舞台となるのは、紀元前3~2世紀のアジア、特に中国大陸。秦の始皇帝が中国大陸で初の統一国家を樹立し、そしてそれに続く前漢が隆盛を誇った時代であります。

 本作の第1話に登場するのは、その始皇帝に仕えたという伝説の方士・徐市(徐福とも)。不老不死を求めてオオヤマトに漂着した彼は、強大な怪物とも互角に戦う青年・サメマに救われ、蛇を崇める土着の部族の存在を知ります。
 そしてシャクチと名を改めた青年は、徐市と同行して中国大陸に渡るのですが――

 そこからのシャクチの活躍が凄まじい。
 始皇帝、張良、項羽、劉邦といった英傑たちと時に交誼を結び、時に激しく争うだけでなく、奇怪な力を操る妖術師、魔界から現れた妖魔といった超自然的存在を向こうに回して大立ち回り。
 まさに「剣と魔法」の世界を舞台として、野生の快漢の大活劇が、ここに展開されるのであります。

 …実は、この「シャクチ」の物語構造には、モデルと思われる作品があります。それは、R・E・ハワードによる「英雄コナン」シリーズ、いわゆるヒロイック・ファンタジーの先駆とも言える存在です。
 今から約1万2千年の超古代を舞台とするこのシリーズは、群雄割拠のハイボリアに現れた未開の地・キンメリア出身の蛮人・コナンが活躍する姿を描くのですが――ここでピンと来る方もいらっしゃるでしょう。

 そう、ハイボリアを中国大陸に、キンメリアを日本(オオヤマト)に…
 本作は、コナンシリーズを、2千数百年前のアジアを舞台に移し替え、そしてそれだけでなく、コナンの(そしてその他の初期のヒロイック・ファンタジーの)特色である濃厚な怪奇性も含めて、巧みに換骨奪胎した作品なのであります。
(ちなみに、昨年開催されたトークセッションにおいて、作者自身がコナンの影響を認めております)


 しかし…本作の真に驚くべき点は、コナンシリーズのパロディに止まらず、本作ならではの、作者ならではの世界を描き出している点であります。

 本作において、一貫して描かれるもの。そして、主人公たるシャクチが一貫して戦い続ける相手――それは「文明」であります。
 中国大陸に生まれ、発達した文明を受け継ぎ、初の統一国家を樹立した秦、そしてその秦を打倒し、新たな統一国家となった漢…
 実にシャクチは、その文明国を相手に、一人孤独な戦いを繰り広げることとなるのです。
 そこに描かれるのは、「文明」と「未開」との戦いであり、そして文明化の一つの到達点として生まれる存在「国家」に対する、一種透徹した視線なのです。

 人が生まれ、集まり、暮らす――そのごく辺り前の営みを繰り返すうちに、そこに生じる「文明」と、それによって補強される政治形態たる「国家」。
 現代の我々にとって、それらは所与のものであり、あって当然のもの、不可欠なものであります。

 しかし、それは本当に当然のものなのか。何のリスクもなく、享受できるもの、守ることができるのものなのか? その対極に位置する「未開」の男の戦いを通して、作者の初期作品に通じる問いかけを、本作は描き出します。

 もちろん、人が人である限り、いつまでも未開のままではいられません。シャクチの守るオオヤマトも、繁栄を続ければ文明化され、国家となることを避けられません。
 物語の終盤では、それがシャクチにとって重くのしかかることとなるのです。

 そしてその苦悩は、時を越えた現代の我々とも、本来であれば無縁ではないものなのでしょう。


 古代アジアを舞台に血湧き肉躍る剣と魔法のヒロイック・ファンタジーを描きつつ、現代にまで通じる文明と国家の在り方を問う…本作はまさしく作者の新境地であり、そして到達点の一つであると、自信を持って言うことができるのです。

「シャクチ」(荒山徹 光文社) Amazon
シャクチ

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2011.12.25

「UN-GO」 最終話「私はただ探している」

 新十郎のもとに届けられた、爆破事件の真犯人を明かすパーティーへの招待状。「麟」の字の記されたそれは、梨江、泉、速水、不破、倉満、三宅、元山、そしてADにも届けられていた。爆破事件の現場であるTVスタジオに集められた人々を前に、新十郎は推理を始める。爆破事件の真相は、海勝は本当に死んだのか、そして別天王とは何者なのか…

 …終わった。
 「UN-GO」もこれにて大団円。これまでの2話で描かれてきた謎も見事に解決、いやそれだけでなく、本作を通じて描かれてきた新十郎の旅も、ここに一つの結末を見ることになります。

 「名探偵、皆を集めてさてと言い」という有名な文句がありますが、この最終回のスタイルはまさにそれ。
 皆を集めたのは謎の人物ですが、そこでさて、とばかりに、最後の名探偵が最後の推理を行うことになります。
(ちなみにこの芝居がかった「皆を集めて」に、それなりの必然性があるのが素晴らしい)

 実は最終回までの一週間、考えに考え抜いて、ほとんど事件の真相は推理できていたのですが、今回語られる真相は、ほとんどその推理通りの内容ではあります。
(一カ所、誰が運転していたのだろう…というのは気になりましたが、まあ理屈はいくらでもつけられましょう)
 その意味では意外性はさほどでもなかったのですが、しかし、それではその真犯人をどうやって炙り出すか、というのはさすがに予想外で、いやはや最後まで振り回していただきました。


 しかし、真に予想外であったのは、クライマックスで因果と対決(!)した新十郎が語る、別天王の「正体」であります。
 因果と別天王については、既に「因果論」を見ていたこともあり、そこで語られているものに納得していたのですが――
 しかし、そこで語られたものを、新十郎は明確に否定してみせます。別天王の正体は神などではなく、しかしかつてそれを冠したモノ――多くの人々の、いや国そのものの運命すら変えた巨大な「虚構」であると。

 私はこれまで、別天王は言うなれば凶器や舞台装置(トリック)の類であり、因果と対になる存在であっても、新十郎が真に倒すべき相手足り得ないと思って来ました。
 しかし、ここで新十郎が喝破した別天王の正体こそは、かつて国を動かし、戦争に用いられた虚構であり――戦争により真実を奪われた新十郎の最大の敵として相応しい、物語の構造上も見事に対立関係を構成する存在であったかと、ここで得心した次第です。


 そして、真実の奥に隠されたもう一つの真実を解き明かした末に、新十郎は己が真実を求める、その理由を語ります。
 人は悪徳を愛すると同様に、正義を愛する。人の世には、悪と同時に正義がある。俺は人を愛したい。その美しさを知りたいと――

 彼が真実を求める理由、彼が探偵である理由、彼が人の心の中の真実を知ろうとする理由――
 それこそは、己の中の真実を失い、それでも現実の中に生きるしかない新十郎にとって一つの希望であり、そして同時に、この「UN-GO」という物語を通して新十郎の姿を見続けてきた我々、この現実に生きる我々にとっても、同時に希望となるべきものであります。
(一方でそれは、海勝の用意するような美しいだけの真実とは明確に異なり、美しさと同時に存在する、醜さをも直視する覚悟を必要とするのですが…)


 彼はこれからもただ探し続けるのでしょう。そして我々もまた、形は人それぞれであっても、同様に探し続けます。

 だからこそ、この先の新十郎の姿を――人の希望の姿を見たい、見続けたいと心から感じるのです。
 その日がいつか来ることを、今はただ願いましょう。


「UN-GO」第4巻(BDソフト 東宝) Amazon
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2011.12.24

「義風堂々!! 直江兼続 前田慶次酒語り」第3巻 義風は吹けども…

 直江兼続と前田慶次の友情譚、「義風堂々 直江兼続 前田慶次酒語り」の第3巻は、慶次・兼続と豊臣秀吉の対決。もちろん、武力による対決ではありませんが、しかしそれだけに厄介なこの対決の行方は…

 というわけで、この巻ほぼ全てを使って描かれるのは、「花の慶次」(あえて「一夢庵風流記」とは言わない)の序盤の山場、慶次の秀吉との謁見であります。

 「花の慶次」の方では、慶次と秀吉の一対一の対決として描かれたこの場面ですが、しかし本作においては、兼続にも重要な意味を持つもの。
 この謁見、真の狙いは、上杉家に身を寄せる慶次の不始末はすなわち上杉の不始末として、上杉家を潰すことなのですから…

 ここで慶次一人のために上杉家の運命を賭ける、いや秀吉と差し違える覚悟を固めるところが、「いくさ人」の恐ろしいところ。
 そして何より、友のために命を捨てることこそが兼続にとっての「義」…

 かくて、秀吉と慶次の対決の場に兼続も加わることになるのですが、しかし役者はそれだけではありません。
 二人の覚悟を見抜いた石田三成(秀吉を護るため、島左近経由で柳生の遣い手を用意するという展開にニヤリ)、そしてかつて因縁のあった兼続という男を見定めるために徳川家康も加わり、一世一代の対決が幕を開けることとなります。
(ちなみに、さらっと秀吉の大秘密が明かされてしまうのがちょっと面白い)

 …が、やはり兼続を主役とした物語で、このエピソードを描くのは、ちょっと無理があったという印象が否めません。
 もちろん、上に述べた通り、色々と本作ならではの捻りは加わっているのですが、やはりこのエピソードの主役はあくまでも慶次。
 兼続と慶次が合流した、この「前田慶次酒語り」では、これまでも兼続が慶次に喰われる、あるいはキャラがかぶって感じられることがあったのですが、今回は慶次に完全に兼続が主役の座を奪われた感があります。

 この場に居合わせた家康が、慶次と共に死のうとする兼続の姿に「義風」を見るという展開自体は美しく、兼続の存在感をアピールはしているのですが、しかしむしろ、この場で兼続の方に注目する家康に違和感を感じてしまいます。

 これは「花の慶次」既読者の感想かもしれませんが、「花の慶次」の展開に兼続を加えてアレンジしても、やはりリメイク以上の印象は受けません。
 兼続が慶次に打ち勝つには、やはり本作ならではの物語が読みたい…その想いが強くなりました。

「義風堂々!! 直江兼続 前田慶次酒語り」第3巻(武村勇治&原哲夫&堀江信彦 徳間書店ゼノンコミックス) Amazon
義風堂々!!直江兼続~前田慶次酒語り 3 (ゼノンコミックス)


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2011.12.23

「召抱 奥右筆秘帳」 文と武のクライマックス!

 立花家に婿入りすることとなった衛悟。しかし完全に併右衛門と決別した松平定信は、併右衛門抹殺の障害となる衛悟を取り除くため、旗本として新規召し抱えすることを画策する。幕府転覆を狙う寛永寺お山衆と結びついた定信は、併右衛門のみならず、意外な人物に恐るべき暗殺の刃を向けるのだが…

 二桁の大台も目前となった「奥右筆秘帳」シリーズ、第9弾のタイトルは「召抱」。
 召抱、すなわち召し抱えと言えば、言うまでもなく家来として人を雇うことですが、それがこの物語にどのような意味を持つのか…と思いきや、これが実に意外な形で関わってくることとなります。

 将軍位、そして幕府の実権を巡る壮絶な暗闘の中で、一度は庇護を求めた松平定信と決別することとなった立花併右衛門。
 しかし、老中の政策すら左右する奥右筆組頭、しかも幕政の闇を知ってしまった併右衛門を、定信が黙って見逃すはずがありません。

 政治的な抹殺は困難、ならば実力行使で…と考えても、最強の楯にして遂に併右衛門の義理の息子となる衛悟の存在があります。
 ならば…という奇策こそが、その召し抱えであります。

 既に徳川幕府が樹立されて約二百年、人も家も飽和状態となった幕府において絶えてなかった新規召し抱え。衛悟が婿入りする前に、新規召し抱えで別家を立てさせてしまえば…
 いやはや、単純といえば単純、無茶といえば無茶。しかしそれだけに、「文」のエキスパートたる併右衛門の目をかいくぐる奇策として、成果を挙げることとなります。


 しかし、ここまでの展開であれば、ある意味前作同様の「文」の戦い、それも前作よりも直接的な危機の度合いは低いわけで、その点ではいささか意外にすら感じられたのですが――

 もちろん、その印象は良い意味で裏切られることとなります。
 一度は奪われた権力の座に返り咲くため、もはやなりふり構わなくなった定信。幕府転覆を狙う朝廷の尖兵たる寛永寺の影の戦力・お山衆と結んだことから彼の妄執は暴走し、その刃は、あってはならない方向に向かうのです。

 …いやはや、この物語が始まった時のことを考えれば隔世の感がありますが、それにしてもこの展開は、すさまじい皮肉であります。
 これまで本シリーズに限らず、権力の魔というものをほぼ一貫して描いてきた作者ですが、それは、本作である意味頂点を迎えたと言えるかもしれません。

 そしてクライマックスで描かれるのは、シリーズ史上最大とも感じられる大血戦。
 本シリーズは「文」のみでも「武」のみでもなく、「文」「武」それぞれの世界で、そしてその両者が絡み合ったところでの戦いが描かれるのが最大の特徴であることは、今更言うまでもありませんが、きっちりとこうして「武」の面も描かれて、大満足であります。
(そしてその中で、併右衛門の衛悟への信頼感が最大限の讃辞として語られるのが、我がことのように嬉しく感じられるのです)

 そしてその果てに描かれるのは、おそらくは最後の戦いの、宣戦布告とも言うべき言葉。
 行き着くところまで行ってしまった戦いが、果たしてどこに落着するのか。そしてその中で、我らが併右衛門と衛悟がどのような役割を果たすのか?
 いよいよシリーズ全体のクライマックスも目前であります。

「召抱 奥右筆秘帳」(上田秀人 講談社文庫) Amazon
召抱<奥右筆秘帳> (講談社文庫)


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2011.12.22

「楊令伝 六 徂征の章」 楊令伝ここに始まる?

 前の巻で童貫軍と方臘軍の凄惨な決戦も終結した「楊令伝」。この第6巻は、巨大な戦いの後の一時の平穏と言うべきか、嵐の前の静けさと言うべきか――しかしその静けさの下で、様々な動きがあることは言うまでもありません。

 一度は江南を完全に支配し、死を恐れぬ信徒を使うことにより、童貫軍を苦しめた方臘もついに敗れ、ひとまずは平穏を取り戻した大宋国。
 しかし、その間に新生梁山泊は着実に力を蓄え、北では遼が敗れた後にその勢力を伸ばす金もまた、決して宋との同盟に甘んじる存在ではありません。

 そして宋の内部においても、朝廷の腐敗はほぼ頂点に達し、民の苦しみは依然続く中、ある者は力でこれを守り、またある者は策でもってこれを作り替えようとするのですが…

 そんな状況のこの巻で中心的に描かれるのは、しかし、梁山泊に集う者たちの、戦を離れた素顔の姿であります。

 老いを実感し始めた、梁山泊創立当時からの面々。その彼らの想いを受け継ぐように、新たに梁山泊に加わった二世メンバーたち。そしてその両者を繋ぐ、梁山泊頭領たる楊令…

 戦のない時期――もちろんそれは次の戦の始まりに直結はしているのですが――に、彼らが何を想い、何をしているのか。
 それは時に微笑ましく、時に切なく、時に暖かく…しかしどれも皆彼らの生き方の一部、生き方の現れとして、魅力的に感じられます。

 考えてみればこの「楊令伝」という物語は、これまで、「水滸伝」における大敗北から必死に這い上がる梁山泊の姿と、宋の南北で繰り広げられた巨大な戦の有り様を、最初からトップギアで描いてきました。
 それはそれでもちろん血湧き肉躍るものがありますが、しかし水滸伝の魅力は、それだけではないのは言うまでもありません。

 個性豊かな好漢たちが梁山泊に集ったことで生まれる個性のぶつかり合いと、それによってよりはっきりと浮かび上がるその漢たちの姿…
 そこに我々が感じる魅力は、たとえ北方「水滸伝」であっても、この「楊令伝」でも変わりはありません。
 そしてそれは、戦の場だけではなく、こうした平時にこそ見えるものもあるのです。

 特に登場した時から戦いの渦中にあった二世世代にとっては、今回ほとんど初めて彼らの素顔を見ることができたような印象もあるのですが――
 実はその最たるものが楊令なのは、面白いと言うべきか、問題と言うべきか。タイトルロールでありながら、その個性というものが今ひとつ感じられなかった楊令も、ようやく一人の若者としての姿を我々に見せてくれるのです。

 その意味では、この巻から真に「楊令伝」が始まる…という言い方は失礼かもしれませんが、それもまた偽らざる印象です。


 しかし、いつまでも平穏な時が続くわけではありません。楊令と童貫との決戦の時は、もう目前に迫っています。

 童貫の方も、思わぬキャラクターとの対面を果たし(なるほど、この組み合わせがあったか! と嘆息)、 彼の中の人間性というものを見せてくれました。
 やはり戦いは人間と人間が行うもの。人間としての素顔をそれぞれ見せた、楊令と童貫の決戦――その時が楽しみであります。

「楊令伝 六 徂征の章」(北方謙三 集英社文庫) Amazon
楊令伝 6 徂征の章 (集英社文庫)


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2011.12.21

「妖術武芸帳」 第06話「怪異人枯し」

 飛脚殺しの罪を着せられ、あわや土地の役人に処刑されかかった覚禅。窮地を誠之介に救われたものの、今度は闇童子を追って、羽化登仙の術に捕らえられてしまう。一方、道士のアジトに迫った誠之介は、楓を利用した道士に飲まされた仙薬渇水により、喉の渇きに苦しみ、術中に陥ってしまう。しかし道士が誠之介に近づいた一瞬の隙に、誠之介の一刀は道士を斬るのだった。しかし覚禅は敵の手に落ちたままだった…

 アバンで描かれるのは、街道を行く飛脚。茶店に立ち寄る間ももどかしく、江戸に急ぐ飛脚ですが、飲んだ茶には、一度口に含めば乾きが止まらない仙薬・渇水が…
 喉の渇きを覚えた飛脚の目の前に現れたのは、山肌から突き出した竹筒から流れる水。しかし彼が顔を近づけると水は止まり、離せば水は流れ――いらついて中を覗き込めば、奇怪、中には瓢箪から水をうまそうに飲む道士の姿があります。

 これこそは毘沙道人配下の四賢八僧の一人・水旱道士。竹筒が巨大化したか、道士に招かれるままに中に入っていった飛脚は瓢箪を受け取りますが、中から出てきたのは砂!
 そしてその場に遺されたのは、竹筒の下で息絶えている飛脚…

 と、いきなり奇怪な妖術描写から始まりましたが、殺されたのは、実は覚禅の依頼で、江戸の大目付・飛騨佐渡守まで道人一派の動きを記した書状を送るはずの飛脚。
 道士は飛脚を殺して書状を焼き捨ててしてしまいますが、道士の奸計はこれに止まりません。

 居酒屋で昼から酒を飲んでいる覚禅の前に現れたのは、死んだはずの飛脚。土気色に変わった飛脚の口から、覚禅を嘲笑う道士の声が流れ、終わったと思えばゴロンと(断面を見せて)生首が転がります。

 そのまま、飛脚殺しの罪で土地の役人に捕まってしまう覚禅は、出るところに出てやろうと最初はおとなしく連行されますが、しかし役人の真の狙いは、隠し目付である覚禅の抹殺。
 そうと知って反撃する覚禅ですが、しかし四方からの目潰しで窮地に陥ったところに、駆けつけた誠之介に助けられるのでした。

 しかし本当に落ち着かない覚禅、誠之介の宿の部屋に隠れた際に闇童子を見つけ、その後を追ってしまいます。天に伸びた夕顔の蔓の上で嘲笑う闇童子を追い、蔓を上っていく覚禅ですが…前回を見ていればご存じの通り、これは羽化仙女の羽化登仙の術。蔓に絡まれ、覚禅は捕らえられてしまうのでした。

 一方、誠之介の前に現れたのは、覚禅の妹・楓。江戸から大目付の言伝を携えて来たという彼女ですが、兄が消えてしまったため、誠之介とともに待つことに。
 彼のために茶を持って行く途中、階段を上っても上れないという怪事に見舞われる彼女ですが、その隙に茶に混ぜられたのは、あの仙薬・渇水…

 その夜、誠之介の部屋を襲う戦闘員たち。それを逆に利用し、戦闘員とすり替わってアジトの道士に迫る誠之介ですが、そこで仙薬の効果が発動してしまいます。
 あの飛脚同様、目の前に現れた竹筒に誘い込まれ、道士に吸い寄せられる誠之介ですが――道士に近づいたとき、彼の刀が一閃!
 道士の眉間はゴケミドロが入ったように割れて、竹筒も割れるのでした。

 しかし、誠之介と駆けつけた楓の前に投じられた文には、覚禅を助けたければ風摩屋敷に来い、との言葉が…というところで次回に続きます。


 妖法を破るには妖法に入る、その心構えで接近し、虚をついて誠之介は道士を斬ったと説明されるのですが、ちょっと今回はストレート過ぎたかな、という印象。
 道士を斬った後、誠之介が平然としているので薬を飲むフリをしたのかと思いましたが、これはむしろ道士が死んで薬の効果が切れたということなのでしょう。

 それにしてもかわいそうなのは、損な役回りばかりの覚禅。面白いキャラなのですが…

今回の妖術師
水旱道士

 水を吐き出す竹筒の幻を用い、相手を竹筒の中に引きずり込んで殺す妖術の遣い手。味も匂いもなく、一度口に含めば乾きが止まらない仙薬・渇水を用いて相手を乾きに苦しめ、術中に陥れる。
 覚禅が江戸に送った飛脚を妖術で殺害、さらに楓を利用して誠之介に仙薬を飲ませて苦しめるが、一瞬の虚を突かれて一刀の下に斬られた。


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2011.12.20

「忍者侍☆らいぞう 魚売りのはつ恋に肩入れする」 忍者として、侍として

 奥州白河から江戸出て、植木屋に見習いとして転がり込んだ青年・竜巻雷蔵。彼は、やる気のなさと女癖から放逐された、(元)忍者だった。植木屋の副業であるよろず駆け込み処の手伝いをすることとなった雷蔵は、魚屋の青年の依頼で、恩人夫婦を捜すこととなったのだが…

 まことに失礼ながら、新刊案内を見た時に我が目を疑った翔田寛の新作「忍者侍☆らいぞう 魚売りのはつ恋に肩入れする」が発売されました。
 ある意味キャッチーなタイトルに、表紙イラストはワカマツカオリ、ライトノベルかケータイ小説と見紛う装丁ですが…しかし、内容の方は、きっちりと真面目な、ミステリ色の強い時代小説でありました。

 時は文政、老中・水野忠成が権勢を誇った頃…
 忍者として人並み以上の腕を誇りながらも、こんな時代に忍者なんて流行らねえ、というダルダルな態度と、同じ里のくノ一たち全てにベタ惚れされてしまったことが元で、主家のある奥州白河から放逐されてしまった忍者侍・竜巻雷蔵が本作の主人公であります。

 そんな彼が、とりあえず江戸で転がり込んだ先は、頑固な老職人・徳兵衛が一人で営む植木屋。この徳兵衛さん、若い頃は同心の手下として鳴らしたこともあったためか、そちらは引退した今でも、人の世話を焼くのが大好き。
 そんなわけで、徳兵衛のもとには困った人間が駆け込んでくるのですが、雷蔵は徳兵衛にこき使われて、その手伝いをする羽目になります。
 今回の依頼人は、十年前の大火事で行方不明となった恩人夫婦を探しているという若き魚屋。彼は、つい先日、浅草寺の人だかりの中で、その旦那の方を見かけたというのですが…

 十年前の火事のことから探索を始めた雷蔵(と、彼に勝手にライバル意識を燃やす徳兵衛の孫娘)は、探索を進めるうちに、この一件の陰に幾つもの謎が秘められていることを知ります。
 火事場で目撃された包丁を持った女、現場から見つかった女性の遺体、夫婦が養っていたというたくさんの子供たち、そしてその中でも目を引くほど美しかった娘――

 探す相手にも、いや、依頼者にも様々な裏があるこの事件を、雷蔵は鮮やかな手並みで解決していくこととなります。


 正直なところ、事件の真相自体は、カンの良い方であれば、後半のある描写で気付くのではないかと思います。
 しかし、そこにさらにある人物の思惑を絡めることにより、事件の展開に一ひねりも二ひねりも見せるのは、これは作者ならではの技というところでしょう。
 そしてそれを受けての雷蔵の行動で、彼のキャラクターをきっちりと見せるのは、シリーズ第1巻のお手本のような展開であります。

 と、大事なことを忘れるところでした。作者のファンであれば、雷蔵の「竜巻」という名字を見て、はて? と思われたかもしれません。
 実は彼の祖父は、同じ小学館文庫で展開された「やわら侍・竜巻誠十郎」シリーズの主人公、竜巻誠十郎。

 浪人だった誠十郎の孫が、何故忍者侍になったのか、その辺りは本作をご覧いただくとして、正義感に溢れた熱血漢であった誠十郎の孫が、いかにも「現代っ子」なのは…という印象もあります。

 しかし、雷蔵にも、形こそ違えその正義感が受け継がれているのは言うまでもありません。
 忍者として悪を討ち、侍として人を救う…彼のキャラクターからするとちょっと格好良すぎるかもしれませんが、これから話が大きくなる伏線もあり、ニューヒーローの活躍を楽しませていただくとしましょう。

「忍者侍☆らいぞう 魚売りのはつ恋に肩入れする」(翔田寛 小学館文庫) Amazon
忍者侍☆らいぞう 魚売りのはつ恋に肩入れする (小学館文庫)


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2011.12.19

「UN-GO」 第10話「海勝麟六の葬送」

 海勝が国会に参考人招致された。倉満の追求に答えていく海勝だが、新十郎は爆発事故当日に梨江が自宅で海勝を目撃したことを暴露。さらにその場に現れた因果の質問により、泉は海勝のスキャンダルを口走ってしまう。混乱の中に終わった国会中継の後、退院する海勝。しかし海勝を乗せた自動車は衆人の前で爆発、海勝の通夜が営まれる中、新十郎は別天王の行方に思いを馳せていた。そんな新十郎のもとに届けられた封書の差出人は…

 …困った。
 と、前回と同じ書き出しになってしまいましたが、ある意味前回以上に混沌とした状況となってしまった今回。
 それに触れる前に、前回の感想で書きそびれた、原案である「明示開化 安吾捕物帖」の第10話「冷笑鬼」及び第15話「赤罠」との人物配置の比較を記しておきましょう。(UN-GO/原案の順)

不破重次郎(企業家)/不破重二郎(木場の大商・不破喜兵衛の下の大番頭「赤罠」)
水野左近(公共保安隊隊長)/水野左近(冷酷無比な元旗本「冷笑鬼」)
三原保太郎(同上)/三原保太郎(不破喜兵衛の息子の嫁の兄「赤罠」)
倉満美音/倉三(水野家の奉公人「冷笑鬼」)+ミネ(水野左近の妻「同」)

 プロデューサーの元山南だけは不明です(BONESとフジのプロデューサーの名前を組み合わせたのでは…)が、それ以外は原案でも重要な役どころの人物ばかりであります。
 それがまた意味深に見えて、こちらを混乱させるのですが…(しかし特に「赤罠」は読んでおくと面白いと思います)

 意味深と言えば、冒頭に述べたとおり、今回は全てのシーンが意味深に感じられます。
 国会での海勝の証言、海勝の梨江に対する言葉、倉満の持っていた情報、因果の泉への問いとそれへの答え、因果と新十郎の決別。
 病院での海勝の鼻歌の意味、看護婦たちの会話の内容、事故現場から姿を消した男。
 倉満に渡したハンカチの行方、倉満と水野の関係。そして自称・小説家による別天王への実験結果…

 全てがある真実に向けての情報なのでしょう。しかしそのあまりの密度の前に、見ているこちらは、ただただ圧倒されるばかりなのです。
(しかし、それだけの密度のものを、一つのドラマの流れに乗せて不自然さなく見せるのには、今更ながらに感心いたします)

 その情報の意味を一つ一つ吟味していけば、真相に遠くないところまでは辿りつけるように思うのですが…それを如何に立証すべきか?


 ――そして、謎解きに勝るとも劣らず私が心惹かれたのは、国会に参考人招致された海勝の発言の内容であります。
 以前に新十郎に問いかけたように、海勝は真実はただ一つではないと語ります。「真実など無数にある。一つの真実で満足するのは、そこで考えるのを止めるにすぎない」と…
 あたかも静かな怒りの発露のように見えるその言葉は、その海勝自身が、これまで人々を満足させる「美しい真実」を生み出してきた存在であるだけに、不思議な説得力をもって迫ります。

 そしてその言葉を玩味してみると、本作における真実という概念は、正義という概念に置き換えることができるようにも感じられます(ここで語られた2001年の事件を契機に「正義」の多面性が人々に意識されるようになったのを考えればなおさら)
 …いや、「正しい」という語を関するが故に誤解を招きやすい「正義」という語よりも、より広いものを「真実」で語ろうとしている、というべきでしょうか?

 いずれにせよ、ただ一つの真実を解き明かすべき推理もので――現実に対する鋭いカウンターを入れつつ――「真実」は一つじゃない、と逆説的に提示してみせる点にこそ、本作の面白さと価値(の一端)があると、今更ながらに気づいた次第です。


 しかし、たとえ真実が無数にあるとしても、それでもなお、明かされるべき真実というものは存在するはずです。
 それを解き明かすべく、最後の対決の場に向かう新十郎。そこで事件を解決した上で、新十郎は探偵としての自分と向き合う――それは同時に、かつて見失った自分の中の真実と向き合うことと同義に感じられるのですが――ことができるのか。

 次回、いよいよ最終回であります。

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 「UN-GO」 第05話「幻の像」
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 「UN-GO」 第0話「因果論」
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2011.12.18

「燦 2 光の刃」 三人の少年の前の暗雲

 藩主を継ぐこととなった圭寿に従って江戸に出た伊月だが、慣れない江戸屋敷の生活に苦労する。そんなある日、圭寿の使いで彼が書いた読本の原稿を本問屋に届けた伊月は、その帰りに江戸に出ていた燦と再会、圭寿と会うよう促す。一方、江戸屋敷では、圭寿の命を狙う何者かの企みが進んでいた…

 あさのあつこの青春伝奇小説「燦」、待望の第2巻であります。

 江戸から遠く離れた田鶴藩の筆頭家老の子として生まれ、藩主の二男・圭寿に仕えてそれなりに平穏な日々を送っていた伊月。
 しかし藩主が鷹狩りの最中、「神波の燦」と名乗る謎の少年に襲われたことから、彼の、彼の周囲の運命が動き出します。
 実は燦こそは、伊月の双子の兄弟。彼らの母は、神波の一族の出身であり、伊月の父の下に嫁いだものの、陰謀により一族は抹殺され、燦は祖父ら数少ない生き残りとともに、密かに暮らしていたのでありました。
 そんな驚くべき真実に加え、部屋住みで一生を終えるはずの圭寿が突然家を継ぐこととなり、藩における伊月の位置づけが大きく変化することになります。
 一方、燦の方も、祖父が覚悟の自決を遂げ、その遺言に従って江戸に出ることに…

 そんな展開を受け、舞台を江戸に移した本作で描かれるのは、伊月と燦、同じ血を引きながらも全く対照的な生を歩んできた二人が、同じく故郷を捨て、これまでと全く異なる環境で暮らす姿であります。

 圭寿とともに伊月が移り住んだ江戸屋敷は、江戸屋敷独自の人間関係(そしてそれはすなわち藩の政治の構図に直結するわけですが)に支配された世界。
 それに戸惑い、時に怒りつつも、伊月は徐々に藩主の側近としての振る舞いを学んでいくこととなります。
 一方、下町の長屋に住むこととなった燦も、それまでの自然の中での暮らしと異なる町の暮らしの中で、形こそ違え、かつての自分たちと同様に必死に暮らす人々の存在を知るのでした。

 前巻で描かれた世界が、いわゆるモラトリアム的なものであったとすれば、今回描かれるのは、そこから一歩踏み出した世界。
 それなりに経験を積んだつもりであっても、初めて接する世界に戸惑う彼らの姿は、なかなかに微笑ましいものがあります。

 一方、彼らと同様に新たな世界に踏み出しながらも、伊月の、いや田鶴藩全体の主君としての器の大きさを見せる圭寿の姿はなかなかに頼もしいのですが、彼にも、戯作者になりたいという夢があります。
 その夢が、彼が世間知らずであるからこそ夢見ることができるというのもまた切ないのですが…


 しかし、そんな少年と大人との間で揺らぐ彼らに対し、状況は、さらに過酷な運命を用意しているようです。
 圭寿に対する毒殺の試み。その捜査に当たる隠し目付を襲う凶刃…
 さらに、伊月が圭寿の願いで読本の原稿を持ち込んだ書物問屋も、神波の一族と繋がりがある様子。始まったばかりの彼らの江戸生活の前途は、何やら暗雲が垂れ込めているやに感じられます。


 …と、展開的には今のところ小藩のお家騒動であり、その意味では類型的ではあるのですが、そこに三人の少年の成長物語と、神波一族にまつわる伝奇的秘密を盛り込んだのは、本作の工夫と言うべきでしょう。
 時代小説をよく読む層のみならず、いやむしろ、本作の主人公たちと同年代の若い層にこそ、読んでもらいたい興趣に満ちた作品であります。

 が、唯一最大の不満点は、あまりに分量が少なすぎること。本作で描かれたのは、色々な意味で伊月たちの江戸生活のとば口に過ぎず、食い足りないというのが正直なところです。
 せめて、続巻はあまり待たされないうちに…というのが、切なる願いであります。
こに私は惹かれるのです。

「燦 2 光の刃」(あさのあつこ 文春文庫) Amazon
燦〈2〉光の刃 (文春文庫)


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2011.12.17

「咸陽の闇」 その闇が意味するもの

 始皇帝との対面のため、咸陽の都にやってきた徐福一行。彼らが滞在する村の首塚に、人食い女が出たと騒ぎになる。それをきっかけとしたように、次々と咸陽で起きる事件の数々。果たして、亜人(人造人間)は存在するのか、事件との繋がりは、そして巨大な墳墓を造営する始皇帝の真の狙いとは――

 伝説の方士・徐福と、いずれも一芸に秀でたその弟子たちが、続発する奇怪な事件に立ち向かう歴史伝奇ミステリシリーズの第三弾であります。
 前作までの舞台であった港町・琅邪を離れ、今回は秦の都・咸陽を舞台として、奇想天外な事件が描かれることとなります。

 始皇帝に対面するために咸陽にやって来た徐福たちが滞在する村――その村の少女が、村の首塚で、人を食らう女を目撃したことが、全ての事件の始まりとなります。

 少女の叫びに桃や狂生、残虎といったお馴染みの面々が駆けつけたにも関わらず、その場には人食い女も、食われた犠牲者もいないという状態。
 しかし状況証拠は、確かにその場に何者かがいたことを示しており、さてそれでは誰がどこから来てどこへ去ったのか、そして誰が犠牲者となったのか?
 謎ばかりが残る中、次々と事件が発生し、桃たちはさらなる謎の連鎖に巻き込まれることとなります。

 というわけで、これまでのシリーズ同様、奇怪な事件が続発しては、謎ばかりが山積みになっていくのですが、今回の事件と謎は
「首塚に現れた人食い女」
「若い娘の連続失踪」
「皮だけが残る大量の死体」
「人造人間の出現」

 …人造人間!? と最後の一つには思わず目を疑ってしまいましたが、本作に登場する人造人間は「亜人」と呼ばれる存在。
 男女の交わりから生まれてくるのではなく、人間のパーツをつなぎ合わせ、そこに魂を吹き込むことで誕生するという亜人(一種のフランケンシュタイン・モンスターですな)を作りだし、その技術を応用することによって、人間は不老不死になることができる――
 徐福と同様、始皇帝のために不老不死の研究を行っている巫医・廬生は、この亜人製造に成功したというのですが…

 と、物語は、この亜人の謎を中心に展開していくことになりますが、巧妙なのは、これまでの作品ほど事件の事件性があからさまでなく(そもそも最初の事件からして、誰が犠牲者なのか、そもそも本当に犠牲者がいたのかわからないのですから)、どこまでが事件で、どこからが違うのか、皆目わからなくなっている点でしょう。

 前二作は、ほぼ同じフォーマットで展開する物語ですが、本作は、舞台だけでなく物語構造も――もちろん終盤の大活劇や徐福大人の説教など、欠かせない要素はありますが――このように変えてきている点が、実に楽しいのであります。


 さて、複雑怪奇な謎の数々の先に待っている真実は、現代の我々の目から見れば荒唐無稽なものであるかもしれません(正直なところ、謎のうちの一つの真相は、容易にわかるように思えます)。
 しかしながら、これを当時の人間の立場として考えてみれば、十分に成立する動機であり、また手段であることは間違いありません。
 そしてまた、「闇」が意味するもの――すなわち「真犯人」の犯行の動機を考えれば、いつの世も変わらぬ権力者の発想に、暗澹たる想いすら感じさせられるのです。
(もっとも、ラストに描かれる、それに対する希望の存在は、理想主義的ではありつつも、それなりに納得できるものであります)


 その時代でなければ起きえない事件を描きつつ、ある歴史的事実に一つの解釈を与えた上で、その背後に、現代にまで通じる人の心を描き出してみせる――
 これまでのシリーズがそうであったように、本作もまた、優れた歴史伝奇ミステリと呼んで、さしつかえありますまい。


「咸陽の闇」(丸山天寿 講談社ノベルス) Amazon
咸陽の闇 (講談社ノベルス)


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2011.12.16

「恋閻魔 唐傘小風の幽霊事件帖」 キャラの魅力、振り切れる!?

 相も変わらず、小風やおかしな幽霊たちに振り回されっぱなし伸吉。そんな中、江戸では雨が全く降らず、しぐれや猫骸骨の見世物興業にも影響が出てしまう。さらに、伸吉を狙う凄腕の殺し屋幽霊や、姉を捜すオネエ言葉の水芸人の幽霊など、おかしな連中が現れる。果たして一連の事件の陰には何が…

 今年の後半は完全に月刊ペースで新刊を送り続けてきた高橋由太の12月の新刊は、「唐傘小風の幽霊事件帖」シリーズ第2弾であります。

 深川で貧乏寺子屋を営むヘタレ青年・伸吉の前に、ある日突然現れた美少女幽霊の小風。彼女が何故か寺子屋に住み着いて以来、伸吉の周りは何故かおかしな幽霊だらけになってしまいます。
 どうやら、亡くなったばかりの伸吉の祖母は、実は強力な霊能力者。その力で幽霊たちをこき使ったために、その孫である伸吉が恨まれているようなのですが…

 というのが基本設定なのですが、とにかく
本シリーズはキャラクターが面白い。
 絶世の美少女ながら無愛想で傍若無人、トレードマークの真っ赤な唐傘の力で強烈なパワーを発揮する小風。
 見かけは可愛らしい幼女ながら、金の亡者で夜な夜なインチキ見世物興行を開くしぐれ。
 しぐれの一座の一人(?)にして伸吉の生徒の一人である猫の幽霊、猫骸骨とその弟分のチビ猫骸骨。
 何故か江戸に現れ、何故か伸吉の寺子屋に通う上総介(得意技は鉄砲隊)…

 とにかく個性の固まりのような連中なのですが、この第2弾では、そこに斬鉄剣を持った雪男の殺し屋幽霊や、オネエ言葉の水芸芸人幽霊、さらに小風に横恋慕しているらしい閻魔様とその配下の美女鬼コンビ…
 火に油を注ぐというべきか、またもや賑やかなキャラたちが加わることになります。


 …実を言えば、私は前作を読んだ際、こんな感想を書きました。個々のキャラクターは魅力的だが、それを動かすストーリーが今一つ、だと。

 今読んでみると汗顔の至りですが、本作もストーリー自体は、濃厚な味付けというわけではありません。
 しかし、それでいて前作のような感想にはならない――というより、本作においてはそれが的外れだと感じるのは、とにかく、キャラの猛烈な独り立ちっぷりにあります。

 吹っ切れたと言うべきか、振り切れたと言うべきか――ストーリーが私/俺たちを動かすんじゃない、私/俺たちがストーリーを動かすんだ!
 そんなの個性の爆発が、個性のぶつかり合いが、もの凄い勢いで物語を転がしていく…いい意味で本作は漫画的、コメディ漫画的なのであります。

 元々作者は、個性的なキャラクター、キャラクターの面白さには定評のある作家であります。
 本作においては作者のそんな魅力を突き詰めたと言うか、極限まで達して見せたと言うべきか…

 おいおいおい、お前は一体何を言っているんだ、的な突っ込みを、笑顔で(ここ重要)しているうちに、気づけばもう最終ページ。
 ここまでやられたら、もう脱帽するしかありません。


 おかしな住人が増えまくった伸吉の寺子屋…伸吉にとっては災難以外の何もでもありませんが、しかし申し訳ないですが、彼がひどい目に遭えば遭うほど、本シリーズは盛り上がることとなります。
 次はどんなキャラが登場して、伸吉がどんな目に遭ってくれるのか…これは真剣に楽しみなのです。

「恋閻魔 唐傘小風の幽霊事件帖」(高橋由太 幻冬舎時代小説文庫) Amazon
恋閻魔―唐傘小風の幽霊事件帖 (幻冬舎時代小説文庫)


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2011.12.15

「幕末時そば伝」 恐るべき三題噺

 時は幕末、動乱の時代。安泰であったはずの徳川幕府の屋台骨が揺らいだ陰には、ある男たちの姿があった。熊さん八っつあん与太郎…粗忽長屋の面々が、気付かぬうちに歴史を揺るがす!?

 鯨統一郎と言えば、ミステリや歴史もののジャンルで色々とユニーク…という言葉では収まらない作品を発表している作家ですが、本作はその中でも色々な意味で極めつきに「ひどい」作品であります。

 以前「異譚・千早振る」のタイトルで刊行されていた作品の文庫化である本作は、改題されてぐっとわかりやすくなったように、落語をモチーフとした連作短編集です。
 収録作品のタイトルを見れば、「異譚・粗忽長屋」「異譚・千早振る」「異譚・湯屋番」「異譚・長屋の花見」「異譚・まんじゅう怖い」「異譚・道具屋」「異譚・目黒のさんま」「異譚・時そば」と、落語に少しでも興味のある方であればよくご存じのものばかり。 内容の方も、題材となった落語の内容を、ほとんどそのままなぞっているのですが…

 ですが、本作のとんでもないところは、その落語の内容が、幕末秘史に繋がっていく…というより、落語に登場する熊さん八っつあんたちの行動が、実は歴史を大きく揺り動かしていた、というその趣向であります。

 井伊直弼の大老就任、和宮降嫁、大政奉還etc.…もしあの時、この道を選んでいなかったら、今の歴史はなかった(かもしれない)という歴史の分岐点に、いずれも粗忽長屋の面々が絡み、歴史の進む道に影響を与えていたんだよ! と、まあそういう内容なのであります。

 こう書くと、作者が得意とする歴史ミステリのように見えますが、しかし、上記のとおり、各エピソードの内容は、ほとんど元の落語のまま。
 実に本作は、最初に提示される幕末史の裏側の動きが、いかに予定通りのオチに繋がるか、それを楽しむ作品なのであります。

 その繋げ方というのが、また本当に強引で強引で…おもわず「それはない」と突っ込みたくなるようなものばかりなのですが、しかしここまでぬけぬけとやられると、もう笑うしかありません。
(ちなみに、解説の有栖川有栖と全く同じところで私も噴き出しました。あれは本当にない)

 ある意味本作は、史実と、裏面史と、落語とを結びつけて一つの物語を作り上げてみせた、三題噺と言えるのかも知れません。

 そしてそこに、維新だ回天だと言ったところで、歴史の流れを決めるのは、こんな毎日を呑気に暮らしているフツーの人間だったりするんですよ、という作者の皮肉な態度を見る――のは、さすがにうがちすぎかもしれませんが。

 収録作のうち、冒頭の三編は幕末ネタではないというのが個人的には大いに残念ですし、何よりも、あまりにあっけらかんと馬鹿馬鹿しい(仕方ないんですが。落語ですから)内容に、真面目な人は真剣に怒り出すかもしれませんが――
 その意味では読む人間を選ぶ内容ではありますが、しかし何だか嫌いになれない、そんな作品であります。

「幕末時そば伝」(鯨統一郎 実業之日本社文庫) Amazon
幕末時そば伝 (実業之日本社文庫)

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2011.12.14

「妖術武芸帳」 第05話「怪異昇天仙女」

 小田原城に現れ、城主を脅かす毘沙道人。一方、誠之介は、大道芸人に扮した羽化仙女と闇童子の姉弟に襲撃され、羽化登仙の術にの前に意識を失ってしまう。一方、怪しい葬列の行列に襲われた覚禅はこれを返り討ちにして、棺桶の中に捕らわれていた誠之介を救い出す。寺の墓場に赴いた誠之介は、再び姉弟と対決、竹林に誘い込むことで相手の術を封じて勝利する。しかし誠之介は女子供を斬るのは嫌いだと二人を見逃すのだった。

 前回から毘沙道人を追って尾張への旅に出た誠之介と覚禅。一方、追われる毘沙道人は、小田原城に出現していました。
 腰元の小萩を操って城主の大久保弾正の寝所に入り込んだ道人。城主は怪しい奴! と斬りつけ、見事首を落とすのですが…見る間に新しい首が生え、それをまた城主が斬り落とし…と、床に転がった四つの首が宙に舞い、さすがに城主も悲鳴を上げて許しを請います。
 首を斬られた妖術師が首を繋ぐというのは定番(?)ですが、ここでは斬られた首がそこに残って新しく生えてくるというのが面白い。特撮自体は今の目で見るとさほどではありませんが、シチュエーションの面白さに感心します。

 さて、毘沙道人は城主に二つの願い事をします。一つは尾張大納言に加担すること。もう一つは、かつて、北条家に仕えた風魔屋敷の所在地を教えること。弾正は幕府の命に背いて屋敷を何処かに隠したと言うのですが…
 道人は、駄目押しとばかりに小萩を一瞬の間に老婆から骸骨に変えてみせるのでした。

 と、場面は変わって誠之介。何を思ったか、唐人姿の大道芸人の姉弟の芸を見物するのですが…
 その姉弟のとっておきの芸というのは、盲目の姉が地に種を蒔き、水をかけると、あっという間に芽が出て夕顔の蔓が天に伸びていくというもの。その蔓に弟が登っていき、雲の中にその姿が隠れたと思いきや…
 雲の中から降ってくる手裏剣。小柄で誠之介が反撃すると、空からバラバラになった弟の身体が!

 この怪事に誠之介を取り囲む見物人たちですが、しかし誠之介は冷静に、彼らが誠之介が幻術にかかった隙に襲いかかる手はずだったことを見破っていました。
 そして襲いかかる戦闘員を切り捨てる誠之介ですが、その隙に姉が種を蒔き、伸びた夕顔の蔓に巻き付かれた誠之介は天に登った末、夕顔の花から吹き出した花粉によって意識を失ってしまうのでした。
 これこそは羽化登仙の術、遣い手の姉は羽化仙女、体を繋げて復活した弟は闇童子の妖術師姉弟であります。

 誠之介がそんな目にあっているとは知らず、城下を行く覚禅は、娘の亡骸を引き取りたいと門番に懇願する小萩の母と出会います。遺体すら引き渡されないという話に不審を抱いた覚禅は、遺体が葬られたという寺に向かいますが、途中で出会った葬列に従っていたのはあの姉弟。
 怪しいと見て襲いかかった覚禅の予感は正しく、一行はやはり道人の手下。棺桶(当時の棺はもっと桶っぽかったのでは…とか言わない)の中に小萩の遺骨と誠之介が入れられていたのを見た覚禅は、「運が良ければ助かりもしようぜ!」と棺桶ごと崖から投げ落としてしまうのですが…覚禅のこのキャラクター、豪快でいいなあ。

 そして運が良かった誠之介は窮地を逃れ、覚禅と合流。小萩の母とも会い、一連の事件の背後に道人がいることを察知します。
 覚禅は、腹の虫が治まらぬと小萩の仇を討つために別行動し、誠之介は自分が運ばれるはずだった寺へ。そこで真新しい自分の墓を見つけた誠之介は、そこで戦闘員たちの襲撃を受けます。

 さらに襲いかかる羽化仙女の姉弟。しかし誠之介は戦おうともせず、逃げ出してしまいます。しかし逃げるのも限界、竹林に追いつめられた誠之介…仙女は、誠之介に術をかけて手先にしてくれると嘯きます。
 そして再び羽化登仙の術を仕掛ける仙女ですが――以前ほど夕顔の蔓には力はなく、その蔓は誠之介が斬って投じた竹に巻き付いてしまいます。

 そう、誠之介は、根が張り巡らされた竹林で戦うことによって、夕顔の蔓の力を弱めたのであります。
 地に蒔いた種が見る見るうちに伸びて…というのは、実際に様々な伝承に顔を出すある意味定番の妖術エピソードですが、それを生かしつつ、科学的に(?)反撃するのは、本作ならではの醍醐味と申せましょう。

 さらに距離を取って切り倒した竹を投げつけるというクレバーな戦法で攻める誠之介に、さしもの姉弟も追いつめられるのでした。
 しかし「生憎だか私の剣は女子供を斬るのは嫌いと言っている」と、格好良いことを言って誠之介はその場を立ち去るのでした。

 これに対して「このままではすまされないぞ!」と負け惜しみを言う闇童子の声に聞き覚えがあると思えば、演じているのは声優の堀川亮(現・堀川りょう)…人に歴史あり、であります。


今回の妖術師
羽化仙女
 楽器の音に乗せて妖術を操る盲目の少女。その音を聴いた者に、地に蒔いた夕顔の種が見る見るうちに成長して天まで伸びる幻覚を見せる羽化登仙の術を操る。
 一度は術で誠之介を捕らえるが、再度の対決時に竹林におびき寄せられ、竹の根に夕顔の成長を阻まれて敗れた。

闇童子
 羽化仙女の弟。普段は姉と共に大道芸人に身をやつしている。体をバラバラにしてみせて、再び繋いで見せる術を使う。


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2011.12.13

「UN-GO」 第09話「海勝麟六の犯罪」

 ハッカー集団が海勝のJJシステムズに標的を定め、攻撃を開始した。そんな中、海勝がTVの討論番組に参加することとなり、自分に批判的な者たちを集めて殺そうとしているという噂が流れる。果たしてTV局で大爆発が起き、多数の死傷者が出た上、海勝も重傷を負う。新十郎に海勝の無実を証明する依頼をする梨江。しかし、新十郎は捜査を進める中、海勝が別天王を手に入れたのではという疑いを深める…

 …困った。
 いきなりで恐縮ですが、これが今回の正直な感想であります。

 「UN-GO」もいよいよ残すところあと3話、おそらくは前中後編の前編に当たる今回なのですが…謎また謎、という言葉がこれほど当てはまる内容も珍しい。

 アノニマスチックなハッカー集団に海勝会長のJJシステムズが攻撃を受ける中に起きたTV局の爆破事件。その際に放映されていたのは、生中継の討論番組――海勝会長と、彼に批判的な政治家・企業家たちが一堂に集い、激論を戦わせる場であります。
 放送開始前から、この場が海勝による敵対者抹殺の罠という噂が流れていた上、、出演者で生き残ったのは海勝とあと一人のみ…

 さらに、謎の爆破手段はJJシステムズで開発されていたマイクロウェーブ送信技術ではないかという噂まで流れ、海勝の立場が限りなく悪くなる中、新十郎は、ある意味宿敵である海勝のため、真実を明かす依頼を受けることとなります。

 …今回の予告で因果が珍しくシリアスに読み上げていた「わざわざこの犯人を探すぐらいなら、武田信玄が自然死であるか、他殺であるか、自殺であるか、その犯人でもさがした方がマシなぐらいですよ」という台詞。
 これは、今回の原案の一つ「冷笑鬼」で、原案の新十郎が気の染まぬ事件に対して語った言葉ですが、「UN-GO」の新十郎も心境は同じ、ということでしょう。

 それでも梨江の懇願にも似た依頼に応えて捜査を開始する新十郎ですが、しかし、その梨江が「事件当時、海勝が自宅に居た」と発言したことから、新十郎の疑いは、海勝自身に向かいます。
 人間には現実としか思えぬ虚構を作りだし、そしてそこに無い物・者を見せ、在る物・者を消し去る存在――別天王を、海勝が手に入れていたのではないか? と…

 しかしそれも一面的な推理ではあります。別天王の力を、そして何よりも、そんな我々の――これまでのエピソードを通じて培われた――真実を虚構に、虚構を真実に平然と変えてしまうという海勝観を利用して、誰かが罠をかけているのかもしれない。
 疑おうと思えば、海勝だけでなく、速水も、不破も、因果すら疑うことができるのです。


 そんな中、別天王の力に対し、新十郎はある手段で対抗せんと試みます。その有効性はさておき、その手段は、しかし、真実を歪め、虚構を作り出すものに見えます。
 好むと好まざるとに関わらず、真実を解き明かすことを自らの役割と以て任じてきた新十郎にとって、それは彼自身であることを放棄するものではないか?

 さらに言えば、果たして新十郎にとって真実を解き明かすということは、海勝や別天王に隠され、歪められたモノを暴くことと本当にイコールなのか…?
 そんな危うさを感じさせつつ、物語は次回に続きます。

 と、スペースがなくなってしまいましたので、原案との登場人物との対比は次回に送りますが、原案のうち「赤罠」は、“不破”が自らの生前葬を演出するも本当に炎に巻かれて…という内容。
 一方の「冷笑鬼」は、“水野”が己を憎む者を一同に集めて殺し合いをさせんとするも…という内容ですが、さて、それがどこまで参考になるか。

 こちらの方も、これまでのエピソードを通じて培われた原案観(?)があるだけに、困惑させられるばかりなのであります。

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2011.12.12

「秘帖・源氏物語 翁 OKINA」 二つの世界の接点は?

 美貌の貴公子・光の君の妻・葵の上に妖しいものが取り憑いた。六条御息所の生霊かと思われたそれは、しかし、それに止まらず、様々な妖異を生じる。並みの陰陽師では歯が立たぬ相手に、光の君は外法陰陽師の蘆屋道満のもとを訪れる。葵の上に憑いたものは、二人にある謎かけをするのだが…

 夢枕獏の新作「秘帖・源氏物語 翁 OKINA」が発売されました。最近流行の(?)文庫・単行本・電子書籍同時刊行というスタイルですが、発行形態に負けずに、内容の方もなかなか、いやかなりユニークなものとなっております。

 本作は、「源氏物語」の第9帖「葵」を題材とした物語。
 光の君(光源氏)の正妻・葵の上が、賀茂祭の際に、光の君のかつての恋人・六条御息所と車争いを起こしたことをきっかけに、御息所の生霊に憑かれる――
 このエピソードは、その奇怪さゆえに、私のような「源氏物語」にあまり親しんでいないような人間にも知られているのではないかと思います。

 が、本作では、これを基にしつつも(御息所が芥子の匂いで自分が生霊となっていたことを悟る場面などもそのまま)、大きく大きく膨らませた物語が展開されていきます。
 そう、本作においては、葵の上に憑くのは、御息所の生霊だけではありません。その他、奇怪な妖たちや神々、様々なモノが取り憑き――そして何よりも、それに挑むのはあの蘆屋道満なのですから…!

 そして本作は道満がこのモノ憑きに挑んだ時から、新たな側面を見せることとなります。
 葵の上に憑いたモノは、光の君と道満に二つの謎をかけます。それは――
「地の底の迷宮の奥にある暗闇で、獣の首をした王が、黄金の盃で黄金の酒を飲みながら哭いている――これ、なーんだ?」
「固き結び目ほどけぬと、中で哀れな王が泣いている。この結び目ほどくのだーれ。」

 現代の人間、特に神話伝承に興味がある方であれば、あれ、これはもしかして…とすぐに答えを思いつくかもしれませんが、それが合っているかはさておき、光の君と道満はあくまでも平安時代の人間。
 彼らは、持てる知識を総合して、この二つの謎の挑むことになりますが、それは、同時に、この国に隠れて伝わった、異国のモノとの対峙に繋がっていくこととなります。
 摩多羅神や大酒神といった隠れたる神々、そして彼らがおわす太秦寺や比叡山…二人の冒険は、ちょっとした民俗学的謎解きの旅として、次々と思わぬ方向に転がっていくことになるのですが――

 その旅の果てに光の君を待つモノが何であるか、それはもちろんここでは語りませんが、大げさに言えば、かつてシッダールタが達したものに近いのではないか…と感じられるものと申せましょうか。
 しかしそれが、光の君のパーソナリティと結びつき、一つの結末を迎える姿は一つの「源氏物語」の結末として、頷けるものがあります。


 しかし、個人的にどうにもすっきりしないのは、完全なる虚構である「源氏物語」の世界に、曲がりなりにも実在の人物である蘆屋道満が、何の説明もなく登場することであります。

 確かに、物語の内容的に、道満が登場すべき理由はそれなりにあるのですが、しかしそれで本来交わらないはずの二つの世界の住人が競演する理由になるとは思えません。
 もしかして、世界観的に大きな仕掛けがあるのでは、と密かに期待したのですが…

 こんなところを気にするのは私だけかもしれませんが、しかし、ある意味本作の趣向の根元に関わる点であり、そこは何とかしていただきたかった…というのが正直なところであります。

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2011.12.11

「UN-GO」 第04話「素顔の家」

 佐々家で起きた、当主・風守の焼死事件。しかし、死んだはずの佐々風守の正体は、7年前に禁止された人工知能・R.A.Iだった。R.A.Iが、開発者・佐々駒守の養子・風守として振る舞っていたのだ。しかし、それでは炎に包まれて死んだ人間は誰なのか? その謎に一つの答えを見出す新十郎。再び佐々家を訪れた新十郎たちの前に、意外な人物が姿を現す…

 色々あって感想を書き損ねてしまい、時間も経ったのでもういいかな…と思っていたのですが、恥ずかしながら今頃になってやはり書くことにします、「UN-GO」第4話について。

 前後編の後編に当たる今回は佐々家で起きた当主風守焼死事件の解決編…なのですが、前編・第3話のラストで、死んだはずの風守が、実は人工知能・R.A.Iだった、という事実が明かされます。
 良かった、焼け死んだ風守は本当はいなかったんだ…で終わるわけもなく、それでは焼け死んだのは誰だったのか、そして誰が、何のために手を下したのか? という新しい謎がここに現れたことになります。

 そして語られるのは、そもそもR.A.Iとはどのような存在であり、そして何故禁忌の技術として抹消されたのかという事実であります。
 佐々駒守によって開発されたR.A.Iは、データ領域をネットワーク上にクラウド化することで、メインプログラムは非常にコンパクトにすることを可能とした人工知能。
 それを人型のボディに搭載することで、人間とほとんど同様の行動を取らせることまで可能となったのですが――

 ちなみにR.A.Iの名称は、原案の一つ「万引一家」に登場する癩病から取ったのでありましょう。
 登場人物などは「覆面屋敷」から取られており、原案としてはあるトリックを引用されているのみに見える「万引き家」ですが、予告で因果が突っ込んでいるように、この両作品はかなり似通った、ある意味鏡写しのような作品のため、是非どちらもご覧いただきたいものです。

 閑話休題、人間とほとんど同様で、しかし人間でない存在が現れれば、それに色々とよからぬことをさせようと考える者が出てくるのは、ある意味当然のなりゆき。それゆえR.A.Iは公序良俗に反する存在として取り締まられ、駒守も警察の強制捜査時に謎の爆死を遂げたため、完全に失われた技術となったのであります。表向きは。

 しかし、世界中のネットワークにアクセス可能な人工知能、しかもほとんど人間と変わらぬボディまで持てる存在となると、それはもう何でもアリな存在で、ミステリにならないのでは…
 などと初見の際には思ってしまったのですが、もちろんそんな安直な展開になるわけもなく、それどころか――ある種SFミステリ的な興趣を持たせつつ――そこから今回のテーマとも言うべき展開に雪崩れ込んでいくのはただ見事、と言うべきでしょうか。

 漫画やアニメに関心のある方であれば、今回語られた、かつて起きたというR.A.Iにまつわる騒動に、つい先日の都条例を――あの、非実在青少年のことを連想するのは容易いでしょう。
 果たしてフィクションを、その登場人物への扱いを元に取り締まることが正しいことなのか…今回のエピソードのラストにおいて、ある人物が語る言葉は、作り手(と同時に消費者)からのそれに対する異議申し立てに他なりません。

 しかし本作では、作り手に対する被造物への――すなわちフィクションへの――無制限の、そして無責任の自由を認めるわけではありません。被造物を自由にできる立場であるからこそ、ある程度の節度が必要になる…というのは正論にすぎるかもしれませんが、ここで新十郎は語ります。
「人間は美しいもの楽しいこと、ゼイタクを愛するようにもう一つ…正しいことを愛する。なんなら正義と言ってもいい。(中略)
あらゆる悪いことを欲すると並列に、人は正しいことを愛する生き物だ」

 作り手への、そして消費者への歯止めとして、人間の内面に訴えかけるかのようなこの言葉は、一見理想主義的な、ナイーブなものに見えるかもしれません。
 しかし、この言葉が、安吾の「デカダン文学論」を――人間が、「悪徳」と同時に、正しいもの、正義を愛する心を持つ点に、倫理の根本を求めた文章から取られていることを思えば、そこに私は強い説得力を感じるのです。
(そして、それが風守の「無実」の証明に繋がる展開に感服)


 安吾の生きた時代もまた、様々な形で表現に関する問題、表現に関する規制が存在していました。
 安吾の時代と我々の時代、そしてUN-GOの時代――SFミステリ的なフレームワークを用意しつつ、その点に三つの時代の接点を見出し、描いて見せた点で、ある意味実に本作らしいエピソードであったと、今更ながらに感じた次第です。

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2011.12.10

「アバンチュリエ」第1・2巻 アルセーヌ・ルパンの馴染み深くて新鮮な冒険

 モーリス・ルブランの手になる怪盗紳士ルパン――そのルパンの世界を漫画化したのが本作「アバンチュリエ」であります。
 単行本発売以降、ネット上でなかなかの評判でしたので手に取ってみれば…これが実に面白い、見事にルパンの世界を甦らせた快作であります。

 今40歳前後で、読書好きな子供時代を過ごされた方であれば、ホームズ、少年探偵団、そしてルパンは、愛読書だったのではないでしょうか。
 ポプラ社や偕成社の全集等で、彼らの活躍に胸躍らせた方は、決して少なくないと思うのですが…

 しかし、ルパンについては、現在の日本で読むには恵まれていない状況にある、と残念ながら言わざるを得ません。
 その理由は簡単、文庫等で手軽に全作品を読める状況にないから…に尽きます。
 もちろん、偕成社版の全集はありますし、シリーズ初期の代表作については各文庫から出版されていますが、ルパン物語の全容を掴むには、寂しい状況なのです。

 と、そんな状況で、アルセーヌ・ルパン氏のことをだいぶ忘れかかっていた私の前に現れた「アバンチュリエ」を読んでの感想ですが――
 下手なキャッチコピー的な表現で恐縮ですが、「ルパンってこんなに面白かったのか!?」の一言に尽きます。

 本作は、ルブランによる原作を、ほぼ発表順に追って忠実に漫画化した作品であります。その意味では、内容自体には新味はないのですが、しかしそれでも実に面白い。
 もちろんそこには、原作の面白さがあることは言うまでもありませんが、しかしそれに負けず劣らず魅力的なのは、原作に忠実でありつつも、古臭さや違和感を感じさせない、本作のプラスアルファの巧みさであります。

 ルパン物語の主な舞台となるのは、今から約100年前の欧州です。それは、当時の読者にとってはほとんどリアルタイムの現実でしたが、現代の我々にとっては、遠い国の、遠い昔の物語。
 それを本作においては、緻密なビジュアルと、そして簡潔ながら的を射た解説によって、その遠い物語を、こちらに近づけているのであります。

 そしてもう一つ注目すべきは、本作におけるルパンは、紳士というよりも青年というべき姿で――外見のみならず内面も――描かれている点でしょう。
 実はこの点も原作通りではあるのですが、我々の頭の中にあるルパン像は、あくまでもある程度年を経た紳士。それが、ビジュアル的にも、言動的にもまだまだ若いルパン青年として描かれているのは、非常に新鮮に感じられるのです。


 「アバンチュリエ(AVENTURiER)」とは「冒険家」の意。冒険児ルパンがこれから繰り広げる、遠くて近い、そして馴染み深くて新鮮な冒険が楽しみでなりません。

「アバンチュリエ」第1・2巻(森田崇 講談社イブニングKC) 第1巻Amazon / 第2巻 Amazon
アバンチュリエ(1) (イブニングKC)アバンチュリエ(2) (イブニングKC)

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2011.12.09

「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」第4巻 暴走晴信、生を問う!

 天正遣欧使節の第五の少年・播磨晴信とその供の忍者・桃十郎の活躍を描く「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」第4巻は明大陸編もいよいよ佳境。
 疫病に倒れた仲間たちを、澳門の人々のため、治療の術を知るという「仙人」を求めて奥地に向かう晴信一行が見たものとは…

 一度はアクシデントで離ればなれになったマテオ・リッチ一行と、晴信主従。
 どこまでもスマートに最短距離を往くリッチと対照的に、海賊や明朝の刺客との対決を背負い込んでは悪戦苦闘を続ける晴信主従ですが、それでもリッチの予想を覆して再びの合流に成功します。

 そしてようやく彼らがたどり着いたのは、伝説の皇帝にして中国医学の祖の名を冠する地・神農架。
 野人伝説も囁かれるこの地(ちなみに神農架の野人は、現代でも時折話題になります)で、彼らは目的の「仙人」と出会うのですが――

 実は、この明大陸編のエピソードが始まったとき、一つだけ違和感を感じていた箇所がありました。それがこの「仙人」の存在であります。
 忍者を始め、超人的な能力の持ち主が何人も登場する本作において、「仙人」に目くじらを立てるのもおかしな話かもしれません。
 しかし、時代設定や登場人物には、実はかなり気を配っている本作において、いきなり時代錯誤な…

 などと思っていた私が愚かでした。
 この時代にも、「仙人」はいたのです。それも実在の人物が。
 その名は李時珍、晩年は瀕湖仙人と称した医師であります。

 彼の経歴等は、作中で触れられるためにここでは述べませんが、なるほど、当時の明で最高のレベルの医術を持ち、それでいて野に暮らし、仙人と称した人物とは、今回のエピソードのために存在したような人物であります(もちろん、実際は逆なのだと思いますが)。


 しかし今回のエピソードの素晴らしいのは、この瀕湖仙人との出会いが、晴信自身の信念、そしてそれを生むに至った過去の物語に繋がっていく点でしょう。
 ある理由から世に受け入れられず、それどころか危険人物として処刑されようという現実を運命として受け入れようとする瀕湖。

 それに対し、これまで見せたことのない、これまで見せたのと異なる激情をぶつける晴信――「生きき」るとは、本当に満足できる生とは、死とは何か?
 現代とは比べものにならぬほど、死が身近にあった時代だけに、晴信の叫びは大きな説得力を持ってこちらの胸に響きます。
(ちなみにこの問いかけは、作者の師の作品でも為されているのですが、それとは別の角度から答えを提示しているのも見事)

 物語はこの後、晴信とリッチの従者――桃十郎とエステベス、二人の最強剣士同士が激突することになるのですが、先のドラマを受けて、本来では味方であるはずの両者が激突する展開もまた見事。
 さらにその後の展開も含めて、ある意味定番ではあるのですが、しかし、こちらの胸にグッと来るドラマを見せてくれます。


 …私は基本的に連載漫画は単行本でまとめて読む派なのですが、しかし本作はその数少ない例外の一つであります。
 そして雑誌で読んだときだけでなく、こうして単行本で再読した際も、恥ずかしながら、毎回涙腺を刺激されまくってしまうのでしまうのです。

 長かった今回のエピソードもようやく終わり、いよいよ次巻からは舞台を移して新たなる物語が始まります。
 そしてこちらでも、熱く、こちらの涙腺を刺激しまくってくれるであろうことを、私は確信しているのです。


「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」第4巻(金田達也 講談社ライバルKC) Amazon
サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録(4) (ライバルKC)


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2011.12.08

「妖術武芸帳」 第04話「怪異まわし笛」

 江戸家老は既に国表に出立したという情報に、覚禅と誠之介は江戸を発つ。途中、虚無僧姿の妖術師の襲撃を辛くも退けた二人は、香たき殿の配下の忍者・百地八双と合流した。その晩、あの虚無僧が出現、追跡した八双の手で倒された。しかし、誠之介も覚禅も八双こそが妖術師でだと見抜いていた。尺八の音に乗せた八双道士の妖術に苦しむ二人だが、誠之介は二刀を打ち鳴らして音を打ち消して妖術を破り、道士を倒すのだった。

 日本征服を目論む怪人・毘沙道人の陰謀に立ち向かう鬼堂誠之介の活躍を描いた「妖術武芸帳」もいよいよ物語が本格的に動き出し、誠之介と覚禅は、江戸を発って尾張に向かうこととなります。

 道人と結んだと思われる尾張藩の江戸家老を見張る覚禅。と、彼の見張る江戸屋敷の前に現れた虚無僧が尺八を吹くと、もくもくと煙が吹き出し、虚無僧の姿は消え失せてしまいます。
 そして聞こえてくるのは、江戸家老は既に尾張に出立したと告げる何者かの声――

 一度住処に帰った覚禅は、そこで前回受けた傷の手当てを受けていた誠之介に毒づきつつ、尾張が目的地になることを告げます。
 と、覚禅が一足先に出ていった後、何者かの気配を察知して天井に小柄を投げた誠之介。そこから顔を出したのは、白影、いや霧の遁兵衛、いやいや百地八双を名乗る剽軽な中年忍びでありました。
 香たき殿から誠之介の警護を命じられたと語る八双に、自分も尾張に向かうことを伝言するように告げ、誠之介も旅立ちます。

 素直でない覚禅に六郷の渡しで追いついた誠之介ですが、そこにあの虚無僧が出現。同じ渡し船に乗り合わせた二人を前に虚無僧が尺八を吹き出すと、霧があたり一面に…
 これぞ婆羅門妖法(「ばんしゅうらく」? 字は不明)、霧の中から戦闘員が続々と襲いかかる上、舟のそばに現れた強烈な渦巻きに翻弄される二人ですが――何の拍子か術が解けた後にはただ静かな水面が広がるのみなのでした。

 さて、そこに追いついた八双と宿に泊まる二人ですが、覚禅は八双が敵ではないかと疑い、陰陽五行とは何か、天道十法とはと、あれこれと問答を仕掛けますが、それをきちんと答える八双(ちなみに、この会話の中で、覚禅が夢想流棒術の達人でもあることがわかります)。
 江戸屋敷前で、覚禅に家老の尾張行きのことを伝えたのも八双とのことですが――

 とりあえずは疑いも解けたか、誠之介が八双に虚無僧捜索を命じた矢先、彼らの宿に虚無僧が出現。一度は追い払われたものの、再度虚無僧を追った八双は、川縁で死闘の末、虚無僧を倒します。
 と、橋の上にもう一人の虚無僧出現!? と思いきや、その正体は覚禅。離れたところから見ていた覚禅は、八双が倒した虚無僧が、服だけで中身がなかった――妖術不死菩薩!――であったことを看破。
 そして誠之介の方も、自分たちしか知らないはずの江戸家老の件を知っていたことから八双が敵であることを既に見抜いていたのでした。

 と、八双の変装を脱ぎ捨ててその下から現れたのは、不気味な青痣の男・八双道人。
 再び彼が尺八を吹き始めると、今度は二人の立つ橋が崩れ始め、さらに戦闘員がぞくぞくと出現、これは全部倒したものの、橋は完全に崩れてしまいます(このシーンの特撮がなかなかのもの)。
 立っているのがやっとの状態で、しかし、音には音と気付いた誠之介は、二刀をカンカンと打ち合わせて、尺八の音を打ち消してしまうのでありました。

 術さえ破ればこちらのもの。覚禅の攻撃はすり抜けたものの、橋の上で待ち受ける誠之介と対峙した道士。二人の体が一瞬交錯した次の瞬間、道士は倒れるのでした。
(獲物を取られたと負け惜しみの覚禅がおかしい)


 今回は、同じ枠で以前放送されていた「隠密剣士」で、主人公の剣士をサポートする忍者役で活躍した牧冬吉が八双役で登場。
 このキャストでこの役柄であれば…とこちらが完全に納得しているところに実は! というのは、実に面白い仕掛けであったと思います。


今回の妖術師
八双道士
 尺八の音を聴いた者に幻覚を見せる妖術の遣い手。伊賀忍者・百地八双に化けて誠之介らと行動を共にしつつ、妖術不死菩薩で虚無僧の衣装を操って攪乱した。
 正体を誠之介と覚禅にそれぞれ見破られ、正体を現して襲いかかるが、尺八の音を誠之介の打ち合わせる二刀の音でかき消され、誠之介の抜き打ちに斃された。


今回の妖術師
夢幻道士

 手に持った青い花を用いて、相手を異世界に引きずり込む夢幻奈落の術を操る僧形の男。
 尾張藩江戸屋敷を窺う隠し目付たちを夢幻奈落に引きずり込み、手足の如く操った。覚禅を捕らえ、誠之介も狙うが、火薬の爆発で術を破られ、一刀の下に斬られた。


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2011.12.07

「おいち不思議がたり」 彼女が謎に挑む理由

 深川の長屋で医師の父を手伝いながら忙しい毎日を送るおいち。彼女には、この世に想いを遺して死んだ者の姿を視るなど、不思議な力があった。ある晩、おいちの夢に現れた必死の形相で助けを求める娘。それは奇しくも、叔母が持ってきたおいちの縁談相手と因縁があった…

 児童文学や青春小説で活躍するあさのあつこは、また同時に少なくない時代小説を執筆しています。
 その一つである本作は、以前「ガールズ・ストーリー おいち不思議がたり」の題名で刊行された作品の文庫化であります。

 主人公・おいちは、貧乏医師の父・松庵の手伝いをして暮らす16歳の少女。
 母を早くに亡くし、父一人娘一人で暮らす彼女を心配して、おせっかい焼きな叔母が何くれとなく顔を出すのですが、彼女は娘らしい生活にはほとんど興味を持たず、父の手伝いで人を助けること夢中の毎日を送っております。

 そんな彼女の秘密は、怪我や病気で担ぎ込まれる者の姿を予知できたり、死んだ者の魂と言葉を交わしたりできるという能力。
 その能力のために、叔母が持ってきた見合い先の薬種問屋にまつわる謎に巻き込まれることになって…というのが、本作の物語であります。


 正直なところ――多くの方も感じているようなのであまり言いたくはないのですが――霊感を持つ思春期の少女が怪事件に巻き込まれる時代小説、というスタイルは、どこかで聞いたような気もいたします。
 しかし本作においては、は、ヒロインを医者の娘としたことが工夫であり、最大の特色でしょう。

 父の手伝いで様々な患者と接するおいち。それはすなわち、様々な生と死を見つめてきたことと同義であり、彼女にとって、死者であれ生者であれ、救いを求める者は同じ存在。
 いや、生の重みを知っているからこそ、死者の声に耳を傾け、その想いを叶える――それが生者の命を救うのであればなおさら――ことに彼女が必死になるのは、むしろ必然であり、読んでいて大いに頷けるものがあります。

 この世にあり得ざるものの存在が見え、声が聴こえるというのは、もちろん人並み外れた能力ではありますが、しかしそれが即ち、謎に挑み、真実を問いかける理由にはなりますまい。
 そこに一つの必然性を与え、そしてそこに思春期の少女の、未来に迷いつつも少しずつ踏み出していく心を描いた本作は、なかなかに読み応えある作品であったと思います。


 しかし、結末のある人物の告白を読んで、本作の元のタイトルである「ガールズ・ストーリー」の「ガールズ」は"girls'"の意かと思いましたが、さすがにそれは深み読みのしすぎだったようですね。

「おいち不思議がたり」(あさのあつこ PHP文芸文庫) Amazon
おいち不思議がたり (PHP文芸文庫)

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2011.12.06

「UN-GO」 第08話「楽園の王」

 行方不明となった新十郎は、民間刑務所「東関東社会復帰促進センター」に収監されていた。自称・小説家に面会しに行ったはずの新十郎が、囚人とされていたのだ。因果はその背後に、あの存在の臭いを嗅ぎ取る。一方、風守の協力で正気を取り戻した新十郎は、三高殺人事件の捜査を始める。何故三高が殺されたのか、そして何故新十郎が囚人とされたのか…二つの謎は、意外な形で結びつく。

 さて、「UN-GO」第8話は前回の解決編。「明治開化 安吾捕物帖」の第12話「愚妖」と、前回の「白痴」に代わり「選挙殺人事件」が原案とされています。
(今回登場した看守の岡本寒吉は「女体」の画家・岡本+「選挙殺人事件」の新聞記者・寒吉でしょうか)
 もっとも、小田原で起きた奇怪な連続殺人と、土着の奇人変人たちの姿を描いた「愚妖」の方は、あるシチュエーションのみが本作と重なる印象ですが…これはやむを得ないところでしょう。かなりユニークな作品ですので、これはこれでご一読を。

 それはさておき、人によっては「突然何が始まったのだ?」という印象だったかもしれない前回。
 何故、刑務所を訪れたはずの新十郎が、突然撮影現場で映画を撮っているのか? 起きたはずの戦争が起きていないとは? そもそもここはどこなのか…?
 三高"監督"殺人事件よりも、そちらの方が気になった方も多かったかもしれません。

 この辺りは(前回も触れましたが)「因果論」をご覧になった方であれば予想通りの内容。
 強力な催眠術というのは、ミステリであれば普通ほとんど反則であるのですが、しかし、幻覚の中で、「それが現実であれば問題になるはずがなかった矛盾」を手がかりに真相に迫る辺りなど、きっちりミステリしているとニヤリとさせられました。

 さて、今回は幻想と現実の間を埋めるように(?)レギュラーたちのコミカルな側面が色々と見られるのも楽しかったのですが、しかし結末で暴かれる真実は、あくまでも重く、哀しいものである点では、これまでのエピソードと変わるところがありません。

 今回の事件の謎を解くことは、すなわち、映画の主演女優三人の真実を暴くということ――
 これまで結末がなかったシナリオに、結末を与えるという形で三人に新十郎が示した結末こそは、その真実にほかなりません。
 そしてそれは、前回、戦争を巡って三人が発した意見・態度とどこか重なるものであったのが哀しい。

 犯人が殺人を犯した動機は、この幻想の世界の設定に起因するものではありますが、しかしその陰に、現実を拒み、幻想に安住したいと望む心を見ることは、さまで的外れではありますまい。

 そしてその想いは、今回の事件の真犯人とも言える自称・小説家が、新十郎に期待したものであったのですが――
 彼がそのような想いに囚われたりしない、いや囚われることができないことは、これまで本作を、特に「因果論」をご覧になった方であればよくご存じでしょう。

 ラストに新十郎は語ります。
「僕はね、ともかく、もうちょっと残りますよ。僕は逃げたいが、逃げられないのだ。命のとことんのところで、自分の姿を見凝(みつ)め得るような機会には」
 パッと見ると、これはまるで彼が刑務所に――すなわち幻想の世界に――残ることを告げるような内容に見えますが、もちろん彼が残るのは、逃げたくても逃げられないのはこの「現実」なのであります。
(ちなみに、この台詞の直前でバーコードを引きはがした(=幻想を拒否し現実に戻った)後、彼の首筋から血が出るのが、「因果論」の内容と重ね合わせると何とも象徴的に感じられます)

 さらに言えば、この台詞は、「白痴」の主人公のそれがベースではありますが、この「白痴」では現実と非現実の間で揺れ動く主人公の、外部に対する一種のエクスキューズの台詞なのが面白い。
 その点も踏まえて振り返ってみれば、今回のエピソードは、何よりも「白痴」の解題であり――そしてその優れた本歌取りであったと感じた次第です。


 …ラストの告白を見ると、自称・小説家にとって刑務所は「白痴」の押し入れだった、というように見えて、そうであるならば小説家マジ変態なんですが、これはまあ蛇足。

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2011.12.05

「ちょんまげ、ちょうだい ぽんぽこ もののけ江戸語り」 剣豪+妖怪時代劇開幕!?

 柳生宗冬が何者かに襲われ、家伝の柳生の大太刀が奪われた。以来、侍たちが次々とちょんまげを奪われる事件が続発、宗冬はかつて"ちょんまげ、ちょうだい"と異名を取った相馬家の者の仕業を疑う。が、その相馬家の子孫・小次郎は、半妖狸のぽんぽこと、空きっ腹を抱えて妙な仕事を請け負う毎日で…?

 本年の後半はほとんど完全に月刊ペースで作品を発表してきた高橋由太の11月の新刊は、新シリーズ「ぽんぽこ もののけ江戸語り」の第1弾「ちょんまげ、ちょうだい」であります。
 作者お得意の、妖怪が登場するちょっとコミカルな時代小説ではありますが、今回は妖怪の存在はあくまでも脇で、むしろ剣豪小説的な面白さがあります。

 本作の主人公となるのは、相馬蜉蝣流なる秘剣を操る青年剣士・相馬小次郎。
 彼の祖父・二郎三郎元信は家康の影武者を務め、戦場に出れば相手の髷を苦もなく奪ってくることから、ついた異名が"ちょんまげ、ちょうだい"という人物であります。

 その孫である小次郎は、家伝の技を継ぎ、しかも美形といういたれりつくせり(?)の人物なのですが…惜しいかな、彼の技は太平の世ではもはや時代遅れ。
 始終空きっ腹を抱えて、口入れ屋の世話になる小次郎なのでありました。

 そんなある日、"ちょんまげ、ちょうだい"のニセモノが現れ、江戸を騒がせて…というのが今回のお話。
 牛若丸と弁慶よろしく大男とともに現れ、柳生にゆかりの者ばかりを狙う"ちょんまげ、ちょうだい"の正体は誰なのか。小次郎が出会った男装の美剣士・丸橋弥生がその正体なのか?
 そして下手人と疑われた小次郎と柳生新陰流の対決の行方は――


 というわけで、なかなかシリアスな展開なのですが、それをひっかきまわしてくれるのが、小次郎のお供・ぽんぽこであります。
 見かけは可愛らしい町娘ですが、ぽんぽこの正体は、二郎三郎元信の代から相馬家と共に暮らす半妖狸。当然、様々な妖力を持っているのですが、しかし彼女(?)がまたとんでもないド天然キャラ。

 狸なのに稲荷神社が好きだったり、卵焼きが大好物だったり、とにかく緊張感の欠けらもないマイペースぶりで――それでいて「人でなし」なことをさらっと言ったり――一人で場をさらっていくのが本当に楽しいのであります。

 とはいえ、冒頭に述べたように彼女はあくまでも脇を固める位置で、直接的に物語に絡むというわけではありません。しかしそれがかえって、その強烈なキャラクターと物語のバランスがよく取れていて、単なる剣豪ものに終わらない、しかしそれでいてお話の展開を崩したりしない、物語のいいアクセントになっていると感じます。


 このぽんぽこのキャラクターにも見られるように、今回はキャラクター配置やストーリー展開をかなりシェイプアップして、その分掘り下げた物語を展開しているという印象があり、大いに好感が持てます。
 シリーズの方は、一月おきに三作連続刊行されるとのことですが、単なる妖怪ものに止まらない一歩踏み込んだ作品として、今後の展開が楽しみであります。


「ちょんまげ、ちょうだい ぽんぽこ もののけ江戸語り」(高橋由太 角川文庫) Amazon
ちょんまげ、ちょうだい  ぽんぽこ もののけ江戸語り (角川文庫)

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2011.12.04

「妖術武芸帳」 第03話「怪異おぼろ雪崩」

 尾張藩江戸屋敷を窺う幕府の隠し目付たちを妖術で捕らえた夢幻道士。道士に操られる隠し目付たちの手により、覚禅も捕らえられてしまう。覚禅を追って藩邸に潜入した誠之介もまた、道士の妖術に陥り、夢幻奈落なる空間に陥り、隠し目付たちに襲われる。仕掛けておいた火薬を爆発させ妖術から脱出した誠之介は、傷の痛みで正気を保ち、道士を倒す。誠之介と覚禅は、香たき殿の助けで藩邸を脱出するのだった。

 第1話から敵か味方か謎の存在だった怪僧・覚禅。その正体が今回ほぼ明らかになります。
 彼の正体は、どうやら大目付配下の隠し目付。彼の他にも、数多くの隠し目付が、前回毘沙道人が接近した尾張藩江戸屋敷を監視しています。

 しかし、尾張藩邸から現れた謎の駕籠を、ぞろぞろと追っていく姿はいかがなものかと思うのですが…案の定、駕籠は罠、中から現れたのは、道人配下の四賢八僧の一人・夢幻道士でありました。
 手にした花を隠し目付たちに見せつける道士。その花が開いていく様に目を引きつけられる目付ですが、花から黄金の花粉が吹き出し、それに引き寄せられるように巨大な花の中に目付は吸い込まれていきます。
 そして花は閉じ、その場に残ったのは道士のみ…
 そうとは知らぬ覚禅は、完全に敵の術中に陥った仲間たちに襲われ、捕らわれてしまうのでした。

 さて、江戸城中では香たき殿が時の将軍・徳川家治(演じるは坂口祐三郎!)に香をふるまいます。八代将軍から三代に渡って使えてきたという香たき殿は、将軍の相談役となっているようですが、ここで初めて香たき殿は、家治に道人の存在を語ります。

 さて、舞台は誠之介の屋敷に移ります。行方不明となった兄を探してやってきた楓の前に現れたのは、同じく行方不明となった目付二人。彼らについていきそうになった楓を止めたのは、もちろん誠之介であります。
 と、楓を人質に誠之介を捕らえようとする目付に対し、誠之介は刀を差し出すのですが…床に仕掛けておいた紐を引っ張ると天井から稲光(?)のようなものが放たれ、それを浴びた目付は、術が解けたか、死体に変わってしまうのでした。

 こうして変事を知った誠之介は、覚禅の行方を追って、夜に尾張藩邸に潜入。しかしその前に、夢幻道士が現れます。
 焦らず騒がず、持参の蝋燭を燭台に立ててから道士と対峙するほど落ち着いた誠之介ですが、花を斬ってみろという道士の挑発に乗ってしまいます。しかし、斬っても斬っても花は元のまま――そして、開いていく花に、彼もまた引き寄せられ、その向こうの世界、夢幻奈落に落とされてしまうのでした。

 魔空空間か幻夢界のはしりのような異空間で彼に襲いかかるのは、行方不明となった目付たち。思うように太刀を振るえず、体中に傷を負わされ窮地に陥った誠之介ですが――しかし彼には奥の手が。
 先に燭台に立てておいた蝋燭に繋がった紐。それを引っ張ると蝋燭に仕掛けられた火薬が大爆発! 術が破れ、彼は現実に戻るのでした。
 本作における妖術の数々は、基本的に幻術と呼ぶべきもの。たとえ奇怪な世界に陥ろうとも、現実的な物理現象によって、術を破ることができる…今回も、そんな誠之介の策が、妖術を打ち破りました。

 庭にぶら下げられていた覚禅を発見した誠之介。その背後に道士が忍び寄りますが…しかしもちろん、それに気付かない誠之介ではありません。
 再度術をかけようとする道士ですが、しかし目付に斬られた傷が誠之介を現実に留め、一刀の下に道士を斬るのでした。

 さて、尾張藩邸から脱出した誠之介ですが、しかしまだ意識が戻らない覚禅を抱えて藩士に追われてしまいます。
 が、追ってきた藩士が見たのは、夜道を行く三丁の駕籠…呼び止めると、その一つから顔を出したのは何と香たき殿。他の駕籠には上様愛用の香道具が入っていると言い放った香たき殿は、さらに葵の御紋を見せつけて藩士を土下座させ、悠々と去っていくのでした。
 もちろん、残る駕籠の中身は誠之介と覚禅だったのですが――この辺り、香たき殿を演じる月形龍之介が水戸黄門役者としても知られることを思えば、ニヤリとできる場面でありました。


今回の妖術師
夢幻道士

 手に持った青い花を用いて、相手を異世界に引きずり込む夢幻奈落の術を操る僧形の男。
 尾張藩江戸屋敷を窺う隠し目付たちを夢幻奈落に引きずり込み、手足の如く操った。覚禅を捕らえ、誠之介も狙うが、火薬の爆発で術を破られ、一刀の下に斬られた。


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2011.12.03

12月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 既に3日くらい踏み込んでしまいましたが、12月であります。平成23年、2011年もこれでおしまいであります。
 皆さんにとって、今年はどのような一年だったでしょうか? 良いことも悪いことも、様々にあったかと思いますが、どうせ終わるのであれば、せめて楽しい気分で終わりたいもの。その助けになるかもしれない、12月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。

 12月の文庫時代小説では、今年も大活躍した上田秀人・風野真知雄の新作が登場。上田秀人は奥右筆秘帳シリーズの最新巻「召抱〈奥右筆秘帳〉」が、そして風野真知雄の方は、大団円を迎えた「妻は、くノ一」シリーズのスピンオフ「姫は、三十一」が刊行されます。「姫は、三十一」の方は、果たして伝奇要素があるかはわかりませんが、思わぬところで伝奇していたりする風野作品だけに、楽しみにしたいと思います。

 その他楽しみな作品としては、とうとう今年の後半は月刊ペースを守りきった高橋由太の「恋閻魔 唐傘小風の幽霊事件帖」、第1巻から少し間が開きましたがやはり続きが楽しみなあさのあつこ「燦 2 光の刃」に注目です。

 また、文庫化や新装版の方では、まず先月の「剣豪将軍義輝」に続き、宮本昌孝の「海王」が文庫化。そして毎月刊行が続く上田秀人の「将軍家見聞役 元八郎」シリーズの新装版は第5弾の「風雅剣」が登場です。
 その他文庫化としては、輪渡颯介「無縁塚〈浪人左門あやかし指南〉」、矢野隆「蛇衆」(おお、なんとタイミングのいい(?))が刊行されますが、「蛇衆」の方は、漫画版の第2巻も同じ月に登場です。

 そして12月の角川文庫山田風太郎ベストコレクションは名作「風来忍法帖」と、個人的に好きなエッセイ集「あと千回の晩飯」。一方、徳間文庫からは「人間臨終図鑑」の新装版第3,4巻が刊行され、山風ファン的には師走に嬉しいプレゼントであります。

 もう一つ、久々刊行の「異形コレクション」は「物語のルミナリエ」。時代ものが掲載されているかはわかりませんが、期待したいと思います。


 さて、漫画の方は、女性向けが元気な印象。「女子が読む少年誌」のキャッチコピーも面白い「コミックジーン」からは、アニメ化も間近な霜月かいりの「BRAVE 10」の新シリーズ「BRAVE10 S」第1巻と、個人的には大いに期待しているところのゆづか正成「海賊伯」第1巻が登場。
 一方、ちょっと驚いたのは岡野玲子(&夢枕獏)の「陰陽師」新シリーズ「陰陽師 玉手匣」第1巻ですが…果たして今度はどこまで行ってしまうのでしょう。

 その他、毎月読んでは泣かされている金田達也「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」第4巻、先月から発売延期となった阿部川キネコ「姫武将政宗伝 ぼんたん!!」第5巻、原作からの翻案の塩梅がなかなか良い森秀樹の「腕 駿河城御前試合」第2巻など、数は多くありませんが、楽しみな作品ばかりであります。

 そしてまた、潮漫画文庫からは、横山光輝先生の遺作「殷周伝説」が刊行開始されます。かの「封神演義」を如何に横光先生が料理したのか…こちらも楽しみです。


 最後に映像関係では、武侠もので「処刑剣 14BLADES」「酔拳 レジェンド・オブ・カンフー」「レイン・オブ・アサシン」と楽しみな作品が連続。この辺りの作品をコンスタントに見ることができるというのは本当にありがたいことです。



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2011.12.02

「千里伝」 人と"人"との間に

 征東大将軍の父と異類の母の間に生まれた千里は、父と母が異形の者に襲われて姿を消したと知り、その後を追って旅立つ。吐蕃の少年・バソン、元少林僧の絶海と出会い、自分たち三人が天地を作り変える力を持つ五嶽真形図の器となるべき存在と知る千里だが、彼らの他にも、図を狙う者たちがいた…

 文庫化にあたってがらっと装丁のイメージが変わった本作は、中国は唐代を舞台とした神仙武侠ファンタジー。いかにも仁木英之らしい、エンターテイメントとして楽しく、そしてその中に重いものを秘めた佳品です。

 本作の主人公は、後に武人としてその名を轟かせる実在の人物である高ベン、字は千里。…なのですが、もちろんその千里が、ただ者であるわけがありません。
 人間の父と異類の母の間に生まれた故か、本作の千里は17歳ながら、その姿はどうみても5歳児。しかも、名家の生まれに加え、生まれながらに優れた武芸の腕を鼻にかけた千里は超傲慢でわがままというキャラの立ちっぷりであります。

 そんな彼が巻き込まれたのは、この世界の命運を賭けた壮大な冒険であります。
 かつて西王母が武帝に与えた五嶽真形図――天地を思うままに作り替えることを可能とするこの秘宝は、文字通りその器にあらずと武帝の前から去り、以来千年…今また世界に現れた図を、人のみならず、かつて人に敗れてこの世界を追放された異類たちもまた、求めていたのです。

 千里は、かつて西王母が遺した図の器となる可能性を秘めた三つの器の一つ。吐蕃の天才狩人・バソン、元少林僧で一途に武の頂点を求める絶海と共に、本来であれば三人でこの世界の人の希望を担うべき者なのですが、他人との協調性ゼロの彼の存在が全てを引っかき回してしまうこととなります。
 果たしてこの世界の運命は、人と異類との戦いの行方は如何に…

 と、本作は、個性豊かな面々が活躍するキャラクターものとしても、希有壮大なファンタジーものとしても、非常に楽しい作品であります。…が、それだけに留まらないのが本作の、作者の魅力。
 千里の冒険の中で描かれるのは、「人」が、他者と結びつき、理解し合うことの難しさと尊さ――これであります。

 この世界は、確かに人の住む地ではあります。しかし、この世界の外側には、かつてこの地に住んでいた"人"たちが存在します。
 人から見れば神話の世界の怪物にしか見えない異類である彼らではありますが、彼らもまた、彼らなりの生活を抱え、人と変わらぬ情愛を持つ存在なのです。

 そんな人と"人"とは、共存はできないのでしょうか。確かにそれは容易なことではないでしょう。人は同じ人との間でも憎しみ合い、戦いを続ける存在なのですから。
 しかし本当にそれで良いのか? それ以外の道はないのか? 本作は、そう強く問いかけてきます。

 千里というキャラクターは、主人公ではありながら、その外見以上に、内面的な部分で、異色の存在です。独善的で傲慢で、自分以外の他者を――特に唐の人間から見れば蛮族であるバソンを――見下し争う姿は、正直に言って、あまり魅力的には感じられません。
 しかし、物語が進むにつれ、何故千里がこのようなキャラクターなのか、このようなキャラクターでなければならなかったのか、それがはっきりとわかるようになります。

 ある意味、人の悪しき部分を集めたような千里は、しかしそれが故に、一人一人に欠けるものと持てるものを知ることができる者であり、そして何より、人と"人"双方の存在を受け止めること者なのだと…


 私が仁木英之の作品を読むたびに感じるのは、作者の優しさ――人と、人が作り出す世界に対する、優しい眼差しであります。
 人の善き部分を信じるその想いは、本作でも健在であり…そしてその点が、私が本作をこよなく愛する所以なのです。

「千里伝」(仁木英之 講談社文庫) Amazon
千里伝 (講談社文庫)

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2011.12.01

「UN-GO」 第07話「ハクチユウム」

 カメラマンの新十郎は、やる気のない監督の三高の下で、戦争に巻き込まれた現代の日本を舞台とした映画を撮っていた。それぞれ別々の場所から逃げてきた三人の少女が一人の男に愛され、半壊した家の押し入れで暮らすという筋のその映画の撮影に没頭する新十郎と三人の女優。そんなある日、三高が撮影現場で惨殺されているのが見つかる。最後に三高と会ったのは新十郎だが…

 「UN-GO」もいよいよ後半戦、第7話は「明治開化安吾捕物帖」の第12話「愚妖」と、全く独立した安吾の短編「白痴」を原案としたエピソードですが…
 あらすじを見れば一目瞭然のように、これまでの物語とはかなり趣を異にした内容、何しろいつの間にか新十郎がカメラマンになって、戦争はなかった世界で映画を撮っているのですから。

 そして登場人物の方も、原案に留まらず様々な作品からにルーツを持っています。(本作/原案の順)

三高吉太郎(映画監督?)/三高吉太郎(「選挙殺人事件」の登場人物)
伊沢紗代(女優?)/サヨ(「白痴」のヒロイン)+伊沢(「白痴」の主人公)
谷村素子(女優?)/谷村素子(「女体」のヒロイン)
矢田寿美恵(女優?)/氷川澄江(「姦淫に寄す」のヒロイン)+矢田津世子

 三人の女優のうち、紗代は原案たる「白痴」のヒロインがベースですが、残る二人はそれぞれ安吾の別の作品が原典となっております(もっともこの三作品には、簡単に言ってしまえば、愛慾というか肉慾のドロドロをテーマとした作品という共通項があるのですが…)

 さて、前話のラストで、謎の自称作家と面会していたはずの新十郎。と、作家の背後に謎の美少女を見て…というところから、いつの間にか新十郎は映画の撮影現場で、カメラマンとしての自分に疑問も持たず、撮影に没頭していきます。
 その映画の筋は、原案の「白痴」ほぼそのまま(尤も、ヒロインの数は三倍になっていますが)、舞台を「現代」に移し、「実際にはなかった」戦争に翻弄される人々の姿が描かれるようなのですが――

 その合間に彼に囁きかける、誰かの「謎を解け」という声。PCの画面が乱れた後に現れる「守」「風」の文字。いつの間にか首筋に刻まれたバーコード…
 果たして新十郎の身に何が起こったのか――というのは、「因果論」を見れば何となく察せられますが、しかしそれが何を意味するかはわかりません。

 実は前後編の前編である今回は、三人の女優を監督していた三高の惨死体が発見されて終わります。
 おそらくは新十郎が解くべき謎とはこのことなのでしょうが、しかし今の新十郎は謎を解くべき存在である探偵ではありません…少なくとも形の上は。

 前話のラストで自称小説家が語ったのは、探偵とはいかなる存在であるか、いかなる存在であるべきかということでした。
 おそらくは彼が仕掛けた新十郎の今回の姿は、しかし、その探偵の姿からは、遠いところにあるように感じられます。

 しかし、新十郎が探偵である理由は――真実を解き明かす存在である理由は、単なる職業、生活の手段などではなく、もっと彼の存在の根幹に関わるものであることを、我々は知っています。
(もっともその理由は、かなりの部分においてやむにやまれぬものではありますが、その元凶である因果と新十郎が今回切り離されているのが面白い)

 安吾の作品では、しばしば体裁や建前、理性といったものをかなぐり捨てた真実の人間の姿を――その多くは愛慾、特に肉慾の発露の形を取るのですが――描き出します。
 今回の原案である「白痴」は、戦時下という、人間が人間らしく生きることを困難となる一種の極限状況で、その姿をある意味先鋭的に描いた作品であります。

 探偵という表面上の姿を剥ぎ取られた――それでいて、なおも謎を解き、真実を見つけなければならない立場に追い込まれた新十郎の姿は、この「白痴」で描かれたものに近いのかもしれません。
 そして、表面上の姿を脱ぎ捨ててもなお、「探偵」であることが、新十郎には求められているのではありますまいか?

 もちろん新十郎にとってそれが幸いになるかはわかりません。しかし彼であればそれに答えを出してくれるのではないか――と期待しても良いのではないでしょうか。
 もっとも、その前にまず今の窮状から脱出しないといけないのですが…さて。


 それにしても、「因果論」の感想で、新十郎には「ここではないどこか」に行くことも許されない、現実に生きるしかない、などと書いた矢先に、思い切り現実を離れてしまうとは…

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