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2011.12.16

「恋閻魔 唐傘小風の幽霊事件帖」 キャラの魅力、振り切れる!?

 相も変わらず、小風やおかしな幽霊たちに振り回されっぱなし伸吉。そんな中、江戸では雨が全く降らず、しぐれや猫骸骨の見世物興業にも影響が出てしまう。さらに、伸吉を狙う凄腕の殺し屋幽霊や、姉を捜すオネエ言葉の水芸人の幽霊など、おかしな連中が現れる。果たして一連の事件の陰には何が…

 今年の後半は完全に月刊ペースで新刊を送り続けてきた高橋由太の12月の新刊は、「唐傘小風の幽霊事件帖」シリーズ第2弾であります。

 深川で貧乏寺子屋を営むヘタレ青年・伸吉の前に、ある日突然現れた美少女幽霊の小風。彼女が何故か寺子屋に住み着いて以来、伸吉の周りは何故かおかしな幽霊だらけになってしまいます。
 どうやら、亡くなったばかりの伸吉の祖母は、実は強力な霊能力者。その力で幽霊たちをこき使ったために、その孫である伸吉が恨まれているようなのですが…

 というのが基本設定なのですが、とにかく
本シリーズはキャラクターが面白い。
 絶世の美少女ながら無愛想で傍若無人、トレードマークの真っ赤な唐傘の力で強烈なパワーを発揮する小風。
 見かけは可愛らしい幼女ながら、金の亡者で夜な夜なインチキ見世物興行を開くしぐれ。
 しぐれの一座の一人(?)にして伸吉の生徒の一人である猫の幽霊、猫骸骨とその弟分のチビ猫骸骨。
 何故か江戸に現れ、何故か伸吉の寺子屋に通う上総介(得意技は鉄砲隊)…

 とにかく個性の固まりのような連中なのですが、この第2弾では、そこに斬鉄剣を持った雪男の殺し屋幽霊や、オネエ言葉の水芸芸人幽霊、さらに小風に横恋慕しているらしい閻魔様とその配下の美女鬼コンビ…
 火に油を注ぐというべきか、またもや賑やかなキャラたちが加わることになります。


 …実を言えば、私は前作を読んだ際、こんな感想を書きました。個々のキャラクターは魅力的だが、それを動かすストーリーが今一つ、だと。

 今読んでみると汗顔の至りですが、本作もストーリー自体は、濃厚な味付けというわけではありません。
 しかし、それでいて前作のような感想にはならない――というより、本作においてはそれが的外れだと感じるのは、とにかく、キャラの猛烈な独り立ちっぷりにあります。

 吹っ切れたと言うべきか、振り切れたと言うべきか――ストーリーが私/俺たちを動かすんじゃない、私/俺たちがストーリーを動かすんだ!
 そんなの個性の爆発が、個性のぶつかり合いが、もの凄い勢いで物語を転がしていく…いい意味で本作は漫画的、コメディ漫画的なのであります。

 元々作者は、個性的なキャラクター、キャラクターの面白さには定評のある作家であります。
 本作においては作者のそんな魅力を突き詰めたと言うか、極限まで達して見せたと言うべきか…

 おいおいおい、お前は一体何を言っているんだ、的な突っ込みを、笑顔で(ここ重要)しているうちに、気づけばもう最終ページ。
 ここまでやられたら、もう脱帽するしかありません。


 おかしな住人が増えまくった伸吉の寺子屋…伸吉にとっては災難以外の何もでもありませんが、しかし申し訳ないですが、彼がひどい目に遭えば遭うほど、本シリーズは盛り上がることとなります。
 次はどんなキャラが登場して、伸吉がどんな目に遭ってくれるのか…これは真剣に楽しみなのです。

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