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2011.12.25

「UN-GO」 最終話「私はただ探している」

 新十郎のもとに届けられた、爆破事件の真犯人を明かすパーティーへの招待状。「麟」の字の記されたそれは、梨江、泉、速水、不破、倉満、三宅、元山、そしてADにも届けられていた。爆破事件の現場であるTVスタジオに集められた人々を前に、新十郎は推理を始める。爆破事件の真相は、海勝は本当に死んだのか、そして別天王とは何者なのか…

 …終わった。
 「UN-GO」もこれにて大団円。これまでの2話で描かれてきた謎も見事に解決、いやそれだけでなく、本作を通じて描かれてきた新十郎の旅も、ここに一つの結末を見ることになります。

 「名探偵、皆を集めてさてと言い」という有名な文句がありますが、この最終回のスタイルはまさにそれ。
 皆を集めたのは謎の人物ですが、そこでさて、とばかりに、最後の名探偵が最後の推理を行うことになります。
(ちなみにこの芝居がかった「皆を集めて」に、それなりの必然性があるのが素晴らしい)

 実は最終回までの一週間、考えに考え抜いて、ほとんど事件の真相は推理できていたのですが、今回語られる真相は、ほとんどその推理通りの内容ではあります。
(一カ所、誰が運転していたのだろう…というのは気になりましたが、まあ理屈はいくらでもつけられましょう)
 その意味では意外性はさほどでもなかったのですが、しかし、それではその真犯人をどうやって炙り出すか、というのはさすがに予想外で、いやはや最後まで振り回していただきました。


 しかし、真に予想外であったのは、クライマックスで因果と対決(!)した新十郎が語る、別天王の「正体」であります。
 因果と別天王については、既に「因果論」を見ていたこともあり、そこで語られているものに納得していたのですが――
 しかし、そこで語られたものを、新十郎は明確に否定してみせます。別天王の正体は神などではなく、しかしかつてそれを冠したモノ――多くの人々の、いや国そのものの運命すら変えた巨大な「虚構」であると。

 私はこれまで、別天王は言うなれば凶器や舞台装置(トリック)の類であり、因果と対になる存在であっても、新十郎が真に倒すべき相手足り得ないと思って来ました。
 しかし、ここで新十郎が喝破した別天王の正体こそは、かつて国を動かし、戦争に用いられた虚構であり――戦争により真実を奪われた新十郎の最大の敵として相応しい、物語の構造上も見事に対立関係を構成する存在であったかと、ここで得心した次第です。


 そして、真実の奥に隠されたもう一つの真実を解き明かした末に、新十郎は己が真実を求める、その理由を語ります。
 人は悪徳を愛すると同様に、正義を愛する。人の世には、悪と同時に正義がある。俺は人を愛したい。その美しさを知りたいと――

 彼が真実を求める理由、彼が探偵である理由、彼が人の心の中の真実を知ろうとする理由――
 それこそは、己の中の真実を失い、それでも現実の中に生きるしかない新十郎にとって一つの希望であり、そして同時に、この「UN-GO」という物語を通して新十郎の姿を見続けてきた我々、この現実に生きる我々にとっても、同時に希望となるべきものであります。
(一方でそれは、海勝の用意するような美しいだけの真実とは明確に異なり、美しさと同時に存在する、醜さをも直視する覚悟を必要とするのですが…)


 彼はこれからもただ探し続けるのでしょう。そして我々もまた、形は人それぞれであっても、同様に探し続けます。

 だからこそ、この先の新十郎の姿を――人の希望の姿を見たい、見続けたいと心から感じるのです。
 その日がいつか来ることを、今はただ願いましょう。


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コメント

脚本家によると、推理小説では反則物のキャラを敢えて出したという別天王と因果、ラストは確かに推理物とはほど遠い光景でした(笑)。
陰謀論+○ノニマスという最新ネタを戦後間もなくの作品にミックスした脚本は良かったと思います。
影の主役、海勝麟六は最初「鎌倉の老人」的な存在で出そうとしたがリアリティが無いので、日本版のルパート・マードック(ニューズ・コーポレーションを所有する世界的なメディア王)の設定にしたそうです。孫正義さんでは無かったみたいです。まあどちらがモデルでも、頭の薄さと体格で今回のトリックは使えんでしょうが(笑)。

投稿: ジャラル | 2011.12.27 20:59

ジャラル様:
會川氏のインタビューでも何回か出ていましたが、ファンタジーでも推理ものは出来ますからね。その辺りを踏まえての因果と別天王の扱いは面白かったです。
しかしモデルは孫さんじゃなくて個人的には良かったです…

投稿: 三田主水 | 2011.12.30 18:25

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