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2011.12.01

「UN-GO」 第07話「ハクチユウム」

 カメラマンの新十郎は、やる気のない監督の三高の下で、戦争に巻き込まれた現代の日本を舞台とした映画を撮っていた。それぞれ別々の場所から逃げてきた三人の少女が一人の男に愛され、半壊した家の押し入れで暮らすという筋のその映画の撮影に没頭する新十郎と三人の女優。そんなある日、三高が撮影現場で惨殺されているのが見つかる。最後に三高と会ったのは新十郎だが…

 「UN-GO」もいよいよ後半戦、第7話は「明治開化安吾捕物帖」の第12話「愚妖」と、全く独立した安吾の短編「白痴」を原案としたエピソードですが…
 あらすじを見れば一目瞭然のように、これまでの物語とはかなり趣を異にした内容、何しろいつの間にか新十郎がカメラマンになって、戦争はなかった世界で映画を撮っているのですから。

 そして登場人物の方も、原案に留まらず様々な作品からにルーツを持っています。(本作/原案の順)

三高吉太郎(映画監督?)/三高吉太郎(「選挙殺人事件」の登場人物)
伊沢紗代(女優?)/サヨ(「白痴」のヒロイン)+伊沢(「白痴」の主人公)
谷村素子(女優?)/谷村素子(「女体」のヒロイン)
矢田寿美恵(女優?)/氷川澄江(「姦淫に寄す」のヒロイン)+矢田津世子

 三人の女優のうち、紗代は原案たる「白痴」のヒロインがベースですが、残る二人はそれぞれ安吾の別の作品が原典となっております(もっともこの三作品には、簡単に言ってしまえば、愛慾というか肉慾のドロドロをテーマとした作品という共通項があるのですが…)

 さて、前話のラストで、謎の自称作家と面会していたはずの新十郎。と、作家の背後に謎の美少女を見て…というところから、いつの間にか新十郎は映画の撮影現場で、カメラマンとしての自分に疑問も持たず、撮影に没頭していきます。
 その映画の筋は、原案の「白痴」ほぼそのまま(尤も、ヒロインの数は三倍になっていますが)、舞台を「現代」に移し、「実際にはなかった」戦争に翻弄される人々の姿が描かれるようなのですが――

 その合間に彼に囁きかける、誰かの「謎を解け」という声。PCの画面が乱れた後に現れる「守」「風」の文字。いつの間にか首筋に刻まれたバーコード…
 果たして新十郎の身に何が起こったのか――というのは、「因果論」を見れば何となく察せられますが、しかしそれが何を意味するかはわかりません。

 実は前後編の前編である今回は、三人の女優を監督していた三高の惨死体が発見されて終わります。
 おそらくは新十郎が解くべき謎とはこのことなのでしょうが、しかし今の新十郎は謎を解くべき存在である探偵ではありません…少なくとも形の上は。

 前話のラストで自称小説家が語ったのは、探偵とはいかなる存在であるか、いかなる存在であるべきかということでした。
 おそらくは彼が仕掛けた新十郎の今回の姿は、しかし、その探偵の姿からは、遠いところにあるように感じられます。

 しかし、新十郎が探偵である理由は――真実を解き明かす存在である理由は、単なる職業、生活の手段などではなく、もっと彼の存在の根幹に関わるものであることを、我々は知っています。
(もっともその理由は、かなりの部分においてやむにやまれぬものではありますが、その元凶である因果と新十郎が今回切り離されているのが面白い)

 安吾の作品では、しばしば体裁や建前、理性といったものをかなぐり捨てた真実の人間の姿を――その多くは愛慾、特に肉慾の発露の形を取るのですが――描き出します。
 今回の原案である「白痴」は、戦時下という、人間が人間らしく生きることを困難となる一種の極限状況で、その姿をある意味先鋭的に描いた作品であります。

 探偵という表面上の姿を剥ぎ取られた――それでいて、なおも謎を解き、真実を見つけなければならない立場に追い込まれた新十郎の姿は、この「白痴」で描かれたものに近いのかもしれません。
 そして、表面上の姿を脱ぎ捨ててもなお、「探偵」であることが、新十郎には求められているのではありますまいか?

 もちろん新十郎にとってそれが幸いになるかはわかりません。しかし彼であればそれに答えを出してくれるのではないか――と期待しても良いのではないでしょうか。
 もっとも、その前にまず今の窮状から脱出しないといけないのですが…さて。


 それにしても、「因果論」の感想で、新十郎には「ここではないどこか」に行くことも許されない、現実に生きるしかない、などと書いた矢先に、思い切り現実を離れてしまうとは…

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