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2011.12.06

「UN-GO」 第08話「楽園の王」

 行方不明となった新十郎は、民間刑務所「東関東社会復帰促進センター」に収監されていた。自称・小説家に面会しに行ったはずの新十郎が、囚人とされていたのだ。因果はその背後に、あの存在の臭いを嗅ぎ取る。一方、風守の協力で正気を取り戻した新十郎は、三高殺人事件の捜査を始める。何故三高が殺されたのか、そして何故新十郎が囚人とされたのか…二つの謎は、意外な形で結びつく。

 さて、「UN-GO」第8話は前回の解決編。「明治開化 安吾捕物帖」の第12話「愚妖」と、前回の「白痴」に代わり「選挙殺人事件」が原案とされています。
(今回登場した看守の岡本寒吉は「女体」の画家・岡本+「選挙殺人事件」の新聞記者・寒吉でしょうか)
 もっとも、小田原で起きた奇怪な連続殺人と、土着の奇人変人たちの姿を描いた「愚妖」の方は、あるシチュエーションのみが本作と重なる印象ですが…これはやむを得ないところでしょう。かなりユニークな作品ですので、これはこれでご一読を。

 それはさておき、人によっては「突然何が始まったのだ?」という印象だったかもしれない前回。
 何故、刑務所を訪れたはずの新十郎が、突然撮影現場で映画を撮っているのか? 起きたはずの戦争が起きていないとは? そもそもここはどこなのか…?
 三高"監督"殺人事件よりも、そちらの方が気になった方も多かったかもしれません。

 この辺りは(前回も触れましたが)「因果論」をご覧になった方であれば予想通りの内容。
 強力な催眠術というのは、ミステリであれば普通ほとんど反則であるのですが、しかし、幻覚の中で、「それが現実であれば問題になるはずがなかった矛盾」を手がかりに真相に迫る辺りなど、きっちりミステリしているとニヤリとさせられました。

 さて、今回は幻想と現実の間を埋めるように(?)レギュラーたちのコミカルな側面が色々と見られるのも楽しかったのですが、しかし結末で暴かれる真実は、あくまでも重く、哀しいものである点では、これまでのエピソードと変わるところがありません。

 今回の事件の謎を解くことは、すなわち、映画の主演女優三人の真実を暴くということ――
 これまで結末がなかったシナリオに、結末を与えるという形で三人に新十郎が示した結末こそは、その真実にほかなりません。
 そしてそれは、前回、戦争を巡って三人が発した意見・態度とどこか重なるものであったのが哀しい。

 犯人が殺人を犯した動機は、この幻想の世界の設定に起因するものではありますが、しかしその陰に、現実を拒み、幻想に安住したいと望む心を見ることは、さまで的外れではありますまい。

 そしてその想いは、今回の事件の真犯人とも言える自称・小説家が、新十郎に期待したものであったのですが――
 彼がそのような想いに囚われたりしない、いや囚われることができないことは、これまで本作を、特に「因果論」をご覧になった方であればよくご存じでしょう。

 ラストに新十郎は語ります。
「僕はね、ともかく、もうちょっと残りますよ。僕は逃げたいが、逃げられないのだ。命のとことんのところで、自分の姿を見凝(みつ)め得るような機会には」
 パッと見ると、これはまるで彼が刑務所に――すなわち幻想の世界に――残ることを告げるような内容に見えますが、もちろん彼が残るのは、逃げたくても逃げられないのはこの「現実」なのであります。
(ちなみに、この台詞の直前でバーコードを引きはがした(=幻想を拒否し現実に戻った)後、彼の首筋から血が出るのが、「因果論」の内容と重ね合わせると何とも象徴的に感じられます)

 さらに言えば、この台詞は、「白痴」の主人公のそれがベースではありますが、この「白痴」では現実と非現実の間で揺れ動く主人公の、外部に対する一種のエクスキューズの台詞なのが面白い。
 その点も踏まえて振り返ってみれば、今回のエピソードは、何よりも「白痴」の解題であり――そしてその優れた本歌取りであったと感じた次第です。


 …ラストの告白を見ると、自称・小説家にとって刑務所は「白痴」の押し入れだった、というように見えて、そうであるならば小説家マジ変態なんですが、これはまあ蛇足。

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