「猫絵十兵衛 御伽草紙」第5巻 猫のドラマと人のドラマ
ちょっと不思議な力を持つ猫絵師・十兵衛と、その相棒で元・猫仙人の猫又・ニタのコンビを狂言回しとしたお江戸ファンタジー「猫絵十兵衛 御伽草紙」の約9ヶ月ぶりの新刊、第5巻の登場であります。
今回収録されているのは以下の全6話――
猫面を被って念仏を唱えるおかしな物乞いたちを描く「にゃんまみ陀仏」
またもや迷子となったトラ助が思わぬ侠気を見せる「トラ助の花見」
孤独なご隠居と猫又の酒を交えての交流「酒友猫」
引きこもり気味の若旦那と姿なき猫の物語「いない猫」
因業な老女が猫たちのお白州に立たされる「猫のお白州」
化け猫を演じる女形の一夜の不思議な体験「猫芝居」
実のところ、「にゃんまみ陀仏」「猫のお白州」「猫芝居」は、本作が掲載されている「ねこぱんち」誌の作者単独増刊に収録されており、その意味では、個人的にはあまり新鮮さはなかったのですが、それでも何度読んでも良いものは良いのは当たり前のこと。
猫好き、時代もの好きでおまけに涙もろい人間としては、相変わらずストライクゾーンど真ん中の内容で、今回もニヤニヤしたりうるっとさせられたりと、存分に楽しませていただきました。
そんな中で特に印象に残ったのは、本作のマスコット的存在(?)の子猫のトラ助の活躍を描いた「トラ助の花見」でしょうか。
トラ助が迷子になって…という導入部自体は、以前のエピソードにもありましたが、今回はそこに不実な男に泣く辰巳芸者を絡めたお話。
いかにも普通の子猫らしく桜と戯れる(この辺りの猫描写には本当に感心)トラ助と、悲しみに沈みながらも羽織芸者らしい気っ風を見せるヒロインの対比が面白く、そしてそれがトラ助の活躍へと展開していくあたりは本作の面目躍如。
猫のドラマと人のドラマが結びついて、一つの物語を織りなすのが本作ですが、その一つの典型と言ってよいかと思います。
今回は十兵衛やニタ自身の物語が収録されていないのが個人的にはちょっと寂しくはありますが、作品としては完全に安定飛行に入り、全く危なげのない本作。
このままいつまでも、心地よい猫と人の世界を見せていただきたいものです。
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