「書生葛木信二郎の日常」第2巻 大正時代を舞台とする理由
大正時代の帝都東京を舞台に、小説家を目指す青年・葛木信二郎が、自分以外の住人全てが妖怪の下宿屋・黒髭荘で出会う事件の数々を描いた「書生葛木信二郎の日常 黒髭荘奇譚」の第2巻であります。
妖怪を視る力を持つ故か、ごく平凡な(日常生活を送っていても妖怪に出会ってしまう進二郎。その怪難(?)ぶりは、この第2巻でも相変わらずです。
それだけではなく、冒頭のエピソードでは、生き別れの兄・悌一郎が登場。これがまた、スペック的には信二郎の上位互換のうえに茶目っ気も異常にある困った人物であります。
さらに後のエピソードでは、その悌一郎とニアミス状態で許嫁の美女・操緒も上京。信二郎とも幼なじみで、彼にとっても密かにあこがれの人なのですが、しかしその正体は…と、いかにも本作らしいややこしいシチュエーションが展開されることになります。
(にしてもこの兄弟、なんだかんだで二人ともケモナー…)
それにしても第1巻同様、やはり今回も女性陣は人間・人外含めて魅力的なキャラクター揃い。
新登場の恋に恋する脳天気な少女妖怪・煙羅や、今回はちょっとゲスト陣に押され気味の管理人の尋さんも、実に可愛らしく、(第1巻の感想でも述べましたが)あまり絵的なものに興味のない私も素直に感心であります。
特に、操緒さんはその正体がまた反則的で…
と、それはさておき、実はこの巻で特に印象に残ったのは、以前の事件で信二郎と知り合った少女・華子が、新しい人形を手に入れて以来不思議な夢を見るようになった「君に至る夢」というエピソードであります。
夢の中での華子は、軍人の恋人・喜一を持つ病弱な少女・妙子であり、その夢を見続けるうちに、いつしか華子の精神は妙子のそれに入れ替わっていきます。
実は華子が手に入れた人形は、かつて妙子が手にしていたもの。華子が追体験することとなった妙子の人生の中では、喜一は日露戦争に出征し…とくれば、この先の展開は容易に予想ができるように思えるのですが、しかし、この先の一ひねりがなかなかよろしいのです。
私は第1巻の感想で、本作が大正時代を舞台とする必然性が乏しい、ということに触れました。折角ユニークな時代を舞台としつつも、この時代でなければならない、というものが感じられないのが、何とも勿体なく感じられました。
しかしこのエピソードにおいては、この物語がこの時代(明治でも昭和でもなく、この時期)でなければならない理由が――変化球気味ではありますが――きちんと用意されているのが、嬉しいのです。
第1巻に比べると、連続もの的要素も増してきた本作。謎だった黒髭荘の家主の正体もいよいよ明かされるようで、キャラクターや絵柄のみならず、物語面の魅力にも、期待できそうな予感です。
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