「姫は、三十一」 姫さま、新年早々謎に挑む
平戸藩の松浦静山の娘・静湖は、不運が続いて31歳になるまで独り身。大晦日に「来年はもの凄いモテ年になる」と占われた彼女は、新年を期に短歌を始めようと参加するが、そこで屋根の上に死体が発見される。謎解きに乗り出した彼女の前に、次々と素敵な男性が現れるのだが…
昨年大団円を迎えた「妻は、くノ一」シリーズのスピンオフとして開始が予告されていた「姫は、三十一」シリーズが開幕いたしました。
主人公は、「妻は」にも登場した松浦静山の娘・静湖姫。「妻は」の方では、立ち位置的にヒロインのライバルか!? という第一印象だったのですが、あまりに主人公の身持ちが堅かったため(?)あっという間にフェードアウトした可哀想なキャラであります。
この静湖姫、美形であるのに加え才気煥発、しかも名門松浦家の姫で、本来であれば引く手あまたのはずが、縁談が立ち上がるたびに、相手が不幸な目に遭うという不運が続き、行き遅れてしまったというお方。
心惹かれた雙星彦馬は、くノ一織江と手に手を取って濤の彼方に消えてしまい、大晦日に行きつけのおかま飲み屋で飲んだくれていたところに、「来年は三十八万四千年に一度のモテ年」と占われる場面から、物語は始まります。
今年は三十一歳だから、と新しい趣味として三十一文字、すなわち短歌を始める姫ですが、歌会が行われる旗本屋敷の屋根に死体が発見されたことから、彼女の好奇心に火がつきます。
彦馬のように謎を解いて、あわよくばそれを仕事に(彼女は、人間は自分で働かないとダメになるという信念の持ち主なのであります)、と考えた姫は謎解きに乗り出すことに。
しかも、江戸では今回のように、屋根の上や川で死体が目撃され、しかもそれがどこかへ消えてしまうという事件が頻発。姫は、父の書いた「甲子夜話」の記述から、事件の背後にある神の存在を推理するのですが…
と、内容的には、作者お得意の、ユニークなキャラクターたちが次々と登場する、ライトな時代ミステリという印象。
主人公からしてかなり破格のキャラクターですが、生真面目な時代ものファンは顔をしかめるかもしれませんが(その辺りに最初からエクスキューズを用意しているのもある意味すごい)まずは肩の力を抜いて理屈抜きで楽しめる作品であります。
姫があまりに彦馬彦馬言うのが気になるという部分は正直なところありますし、そこに「妻は」人気を当て込んだ計算も透けて見えるのですが――そして我々読者もそれに乗りたがっているのですが――それでもやはり面白いものは面白い。
事件の引き金となった人々のある行動も、突飛ではあるのですが何だか不思議な説得力があり、謎は謎でも、人の心の中の謎を描いたものとして評価できます。
あとは姫にどれだけ感情移入できるかですが――都合六人登場するタイプの違う男性陣にクラクラくる辺り、一歩間違えれば単なる困った人ですが、そうは感じさせないのはさすがと言うべきでしょうか。
この辺りは、女性読者の意見をうかがってみたいところですが…
何はともあれ、シリーズはスタートしました。まだまだ先行きは見えませんが、しかし決して読んで損はない、そんなシリーズになる予感がいたします。
(個人的には伝奇要素が少ないのが残念ですが、姫の警護役の秘剣の正体がちょっと面白いので、これはこれで)
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