「いくさの子 織田三郎信長伝」第2巻 あまりにも原哲夫な…
原哲夫の最新作、少年時代の織田信長を主人公とした「いくさの子 織田三郎信長伝」の第2巻です。
第1巻は本作独自の破天荒な信長像の紹介という趣もありましたが、ここからいよいよ本番、さらに破天荒なキャラクターたちが顔を見せることとなります。
海賊の人質となりながらも、自らの配下の不良少年たちを兵としてこれを平らげた上、自分にかけられた身代金を奪い取るという離れ業をやってみせた吉法師(後の信長)。
この巻では、その時点で12歳だった彼が元服するまでが描かれますが、そこまでの道のりはなかなかに険しいものがあります。
というのも、当時の織田家、当時の尾張は、まさに内憂外患の一言。内に尾張国内での争い(主流傍流の織田家同士の争い、さらに織田家内の争い)を抱え、外に美濃の斎藤道三をはじめとする群雄との戦いを抱え――
いかに尾張の虎・織田信秀といえども、この状況はあまりにも厳しい。しかもこの物語開始の時点では、道三との加納口の戦いで織田軍の約半数を失うという大敗を喫した直後なのですから。
そして、その信秀が、最終兵器として育てる文字通り秘蔵っ子が信長というのが、本作の根幹を成す設定であります。
少年時代の信長と言えば、「うつけ者」として知られますが、それは実は、信秀と平手政秀、そして沢彦宗恩によって考えられたカムフラージュ。
うつけ者の姿で内外を油断させているうちに、信長を尾張を背負って立つ大器に育て上げようという策なのであります。
なるほど、うつけ者信長が、一種のカムフラージュというアイディア自体はさほど珍しくはありませんが、それに信秀や教育役たちが関わっていたというのは、なかなかにユニークではありますまいか。
さて、今回初登場の信長の教育役・沢彦宗恩のキャラクターがなかなかにすさまじい。臨済宗の僧侶で信長の教育係、後に参謀という他はほとんど記録の残っていない人物を本作がどのように描いたかと思えば…簡単に言ってしまえば、ほとんどここしばらくの原哲夫漫画の主人公――時に人を食った、時に尊大な態度の超肉体派。公権力横領捜査官か第62代北斗神拳伝承者か、といったといったところ。
何しろ、初登場時からして、件の信長の秘密を探りに来た今川の間者を素手で撲殺するのだから凄まじい。その後も、何かといえば自らの豪腕ぶりをアピールし、信長のためにならぬ者は即撲殺しかねない剣呑な人物として描かれます。
この沢彦に負けていないのが、かの今川義元。義元といえば、貴族趣味に溺れた愚物というのが(残念ながら)一般的なイメージですが、本作においてはその化粧の意味を、常在戦場の死に化粧と解釈する飛びっぷり。
「ノオウ!」の口癖も謎な一種の妖人として、まだ出番は少ないものの絶大なインパクトを与えてくれます。
(この二人ほどではないものの、太原雪斎もやはりバイオレンスな外観)
それにしても、この辺りのキャラクター造形、歴史上の人物のアレンジぶりは、さすがは、と思う反面、あまりにも「原哲夫な」描写で、ネタ的な部分も大きいところがいささか残念でもあり…なかなか複雑なところではあります。
そんな不満もあるものの、やはり戦国豪傑譚として、本作は類作に比べても図抜けた作品であるのは間違いありません。
この巻のラストで元服し、ついに誕生した織田三郎信長(この名前の由来もちょっと凄い)。
内憂外患の状況が変わったわけでもなく、いやこれからが彼の戦いの本番となるわけですが…従来のイメージを踏まえつつも、それを木っ端微塵にぶち壊す、そんな痛快な信長のいくさを見せていただきたいものです。
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