「新・影狩り」第1巻 やつらが血の臭いに乗って帰ってきた!
江戸時代、幕府は、諸大名の落ち度を暴き取り潰すため、公儀隠密「影」たちを送り込んだ。それに対する諸藩の自衛手段は、「影」を殲滅し、口を封じることのみであり、そのために雇われる者は「影狩り」と呼ばれた。十兵衛・月光・日光――やつらが血の臭いに乗って帰ってきた!
さいとう・たかをが時代劇画の世界でも大活躍していることは今更言うまでもありませんが、その代表作の一つが、「影狩り」であります。
財政難に苦しむ徳川幕府が、諸藩を取り潰し、領地を没収するために送り込む「影」と総称される公儀隠密たち。
そして「影」と対決し、これを殲滅するために大名側に雇われる十兵衛・月光・日光の三人の浪人、人呼んで「影狩り」。
この両者の死闘を描く「影狩り」(以下「原典」)については、このブログでもいずれきちんと紹介するつもりであったのですが、その前に本作がリメイクされ「新・影狩り」として復活したのには、いささか驚かされるとともに、大いに嬉しく思いました。
というのも、本作の作画を担当するのは岡村賢二。時代アクションものを描かせれば、職人芸的巧さを見せる作家の手により、原典は見事に復活したと言えるのですから…
本作の主人公である影狩り三人衆――知勇に優れ豪剣の使い手である十兵衛、寡黙で冷静な月光、陽気で女好きな豪傑の日光。
この三人は、原典ではいかにもさいとう・たかをらしいビジュアルなのですが、本作ではそれを踏まえつつも、完全に岡村賢二のキャラクターとして消化し、借り物ではない自分のものとして動かしているのが嬉しい。
特に剣戟シーンは、三人のキャラクターがそのまま現れたアクションが素晴らしく、少なくともこの点では原典を上回っていると言っても過言ではないのではと感じます。
さて、原典の魅力は、主人公を従来の時代ものに多かった隠密側ではなく、これに対する存在として設定したこともさることながら、そしてこの「影」vs「影狩り」というある意味単純な基本構造の上で、バリエーション豊かな物語を展開させてみせた点にあると言えます。
もちろんその点は、本作において健在であることは言うまでもありません。
この第1巻には4つのエピソードが収録されていますが、その内容を見ても、本作がバラエティに富んだ内容を許容することがよくわかります。
日光の影狩り参入と草(土地に根付いた隠密)の悲劇を描いた「影狩り参上」、江戸への献上品を守る旅と消えた死体の山の謎「虐殺の峠」、城修築の認可状を狙う伊賀の怪忍者との対決編「忍鴉」、幕府転覆を狙う軍学者と手を組んだ十兵衛の恩師との悲壮な対決「我執の剣」――
剣と忍術、剣と剣の激しい戦いあり、姿なき「影」の行方を追う謎解きあり、そしてその戦いの陰の哀しい人の情あり…
この第1巻を読んだだけでも、「影狩り」がどのような作品であるか、ご理解いただけるのではないかと思います。
そしてその面白さに、作者の画力が大いに作用していることもまた、言うまでもありません。
個性的なキャラクターと様々な物語を許容する設定が、名手の筆と結びついた時、何が生まれるか…
この先も末永く、影狩り三人衆の新たなる活躍を読めることを期待します。
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