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2012.02.22

「柳生黙示録」 島原地獄変、真の完結!

 寛永14年、異国で客死したはずの高山右近が帰国した。恐るべきキリシタンの秘密を知る右近を襲う森宗意軒率いる神聖ハポン騎士団の七剣士の秘剣と妖術。その戦いに巻き込まれた柳生十兵衛には、キリシタンと隠れた因縁があった。しかし彼の前に現れた天草四郎の正体は、彼の想像を絶するものだった…

 ついにと言うべきか、ようやくと言うべきか、ある意味幻の作品となっていた荒山徹の「柳生黙示録」が単行本化されました。

 寛永14年、オランダ船が長崎にもたらしたもの。その報が届くや、幕臣たちを震撼させたその正体は、20年以上前にマニラで客死したはずの高山右近その人でありました。
 右近といえば、信長、秀吉に仕えた筋金入りのキリシタン大名であり、相次ぐ禁教令に従わず、それ故海外に追放され、そこで没したはずの人物。
 それが生きて、しかもおそるべき秘密を握って帰国したことから、暗闘が開始されることとなります。

 右近の口を封ぜんと襲うのは、伝奇者にはお馴染みの森宗意軒とその配下、神聖ハポン騎士団の黙示録の七剣士。そしてこれに立ち向かうのは、我らが柳生十兵衛!

 というわけで、島原の乱前後を舞台に展開される本作は、いかにも荒山作品的なガジェットと展開満載の作品。
 特に、柳生十兵衛――というより柳生一家とキリシタンの因縁、そしてそこに結びつく天草四郎の驚愕の正体など一見無茶苦茶な展開ながら、文章の確かさと、伝奇的構成力――伝奇要素をうまく繋ぎ合わせる力とでも言いましょうか――の高さで一気に読ませてしまうのは、さすがというほかありません。


 さて、そんな本作が冒頭で述べたようにある意味幻だったのには、理由があります。
 「小説トリッパー」誌に連載されていた本作は、最終回において、こちらが驚くほど(悪い意味で)ヒドい展開、ベタな言い方をすれば、ジャンプの打ち切り漫画的な内容――それも「ソードマスターヤマト」の最終回クラス――を迎えてしまったのです。

 さすがにこのままの形で単行本化は困難だろう…というのは万人の認めるところで、本作は雑誌連載終了からだいぶ時を経て、大幅に加筆修正を加えられた形でこうして刊行されたのであります。
(それ故、一昨年の柳生もの断筆宣言との関係はノーカンと言うべきでしょうか)

 そして迎えた真のラストですが…これが別のベクトルで実に(こちらはもちろん荒山ファン的には良い意味で)ヒドい。
 「なぜだ」と言いたくなってしまいたくなる超展開は色々な意味でこちらの想像を絶するものであり、ここまでくれば、やはり荒山柳生、荒山伝奇はこうでなくては…と感じ入る他ありません。

 作者は以前のトークライブで、「「柳生黙示録」は「魔界転生」でしょうか」と聞かれて「然り」と答えていますが、これは別の作家のほうの「魔界転生」だろう…と言うほかありません。


 が、そんないかにも作者らしい楽しさに満ちた本作ではあるのですが、諸手を挙げて歓迎する気になれない部分もあります。
 それは本作における悪の源、全ての黒幕として、キリスト教、なかんずくイエズス会が設定されていることに依ります。

 なるほど、キリスト教の布教の歴史、さらにイエズス会の性格を見れば、本作の内容が全くの事実無根とは言えず、実際のところ、他の作家による同様な趣向の作品もいくつもあります。
 それでもやはり気になってしまうのは、本作におけるそれらの描写が、まだ陰謀論の域を出ていない程度のものであり、そしてまた、島原の乱という多大な犠牲者を出した事件の原因を語るに、いかにも軽すぎる――言い換えれば、その描く内容に比して、説得力が足りないからにほかなりません。

 これが、作者の十八番たる朝鮮ネタであれば、一種の愛ゆえの暴走としてこちらも納得できるのですが、本作においては、まだまだその域には達していない――そう感じるのです。

 あるいはそれは、柳生十兵衛という絶対的なヒーローを配置した故に、絶対的な悪を必要としたということなのかもしれませんが、そうであるならば、本作のラストの展開もまた、いささか違った色彩を持って見えてくる…というのはさすがに穿った見方だとは思うのですが。


「柳生黙示録」(荒山徹 朝日新聞出版) Amazon
柳生黙示録


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