「つじうろ 了解和尚と柚子姫」 岡っ引き娘とおっさん坊主の捕物帖
岡っ引きの娘・柚子が、自分の目の前で起きた殺人事件の下手人と誤解して捕らえたのは、良海和尚という正体不明の何でも屋だった。以来、何かと自分を構おうとする良海に反発しながら一人事件の探索を進める柚子だが、その身に危機が迫る…
先日発売されたばかりの「コミック乱ツインズ」3月号で、私が一番楽しみにしていたのは、特別読み切りの「つじうろ 了解和尚と柚子姫」。
「裏宗家四代目服部半蔵花録」のかねた丸の新作であります。
なかなかユニークなタイトルの本作ですが、(表向きの)ジャンルは捕物帖。わけありのおっさん坊主と、岡っ引き志望の女の子が怪事件に挑むこととなります。
人のごった返した上野で起きた殺人事件。店の二階から被害者の死体が降ってきたのに出くわした柚子は、自分の目撃した犯人らしき男が坊主頭であったことから、勇躍店に乗り込んで、そこにいた坊主を捕らえます。
…が、その相手こそは店に雇われていた何でも屋・良海和尚。何か頼まれるとすぐに「了解!」と応えることから、二つ返事の良海和尚と呼ばれる、正体不明の坊さんであります。
さて、犯人扱いされた良海和尚、怒るどころか柚子を「姫」と呼んでベタ惚れ。それ以降、柚子が事件の捜査で顔を出す先々に現れては、何くれとなく世話を焼こうとするのでした。
そんな和尚に辟易としながらも、彼からの情報でついに真犯人を突き止めた柚子は、単身乗り込んでいくのですが…
時代劇には、娘捕物帖ものとでも申しましょうか、男勝りのヒロインが探偵役として活躍する捕物帖のバリエーションがあります。
本作もそのジャンルに含まれるものかと思いますが、やはりユニークなのは、ヒロインの相手役(?)となるのが坊主、それも年齢・キャラクターなど色々な意味でおっさんということでしょう。
娘捕物帖ものには、大抵ヒロインを支える男性キャラが登場するのですが、それはほとんどの場合、若くてイイ男。それが良海和尚のようなおっさんとは…しかし、それが実にいい。
自分が女であることに不満を抱き、精一杯突っ張って生きる柚子。そんな彼女を時に間近から叱咤激励し、時に遠くから見守ることができる(説得力がある)のは、やはりある程度社会というものを知ったおっさんでありましょう。
そしてこのおっさんもまた、単なる脳天気なフリーターではありません。
心中ある満たされない想いを抱え、今の自分の生を、まるで余り物のように感じながら日々を暮らす…良海は、実はそんな翳りを抱えた人物。
本作は、自分自身の存在に疑問や不満を抱きながら生きる、そんな似てないようで似ている/似ているようで似てない二人の物語でもあるのです。
しかし、なんと言っても素晴らしいのは、ラストで明かされる良海和尚の「正体」であります。
勘の良い方であれば、冒頭でいきなり正体がわかるかもしれませんが、彼の正体は、知る人ぞ知る人物。
なるほど、本作は捕物帖にして○○○○譚であったか! と、実に自分好みの趣向にニンマリとさせていただきました。
(史実から考えると、本作が成り立つ時期はかなり短い…とか言わない)
キャラクターといいドラマといい、設定上の仕掛けといい、間違いなく水準以上の作品である本作。
もちろんアクションシーンの方も(量は多くないものの)クオリティは折り紙付きなのは、「花録」ファンであればご存じの通りであります。
柚子のみならず、こちらも「またね!」と言いたい、そして「了解」と応えていただきたい、そんな作品であります。
「つじうろ 了解和尚と柚子姫」(かねた丸 コミック乱ツインズ2012年3月号掲載)
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