「曇天に笑う」第3巻 曇天の時代の行く先は
明治時代の琵琶湖周辺を舞台とした伝奇アクション「曇天に笑う」の第3巻は、起承転結で言えば転と言うべきか、大激動の展開。
思いも寄らぬ形で姿を現したオロチの器が、曇神社の三兄弟の運命を大きく動かしていきます。
兄・天火に負けない剣を拾得するため、右大臣・岩倉具視直属部隊“犲”の隊長のもとを訪れた三兄弟の次男・空丸。彼は犲との取引のため、琵琶湖にそびえる巨大監獄・獄門処に潜入することとなります。
獄門処で囁かれる、「獄門処に入る科人はある物を持って来るべし」という謎の掟。獄門処の奥に潜み、その「ある物」を手にする
謎の存在に接近する空丸ですが、対面したのは、彼と意外な因縁を持つ相手であり、そしてその因縁は曇神社の居候・白子にも及ぶことに…
そしてかろうじて獄門処を脱出してきた空丸を迎える天火と宙太郎。久々に揃って騒々しい、そして暖かな空気の中に過ごす三人ですが――
(そしてその中で、本作が明治初頭というこの時代に描かれることの意味の一端が描かれるのも嬉しいのです)
しかし、その直後に最大の悲劇が待ち受けているとは!
本作は、数多くのキャラクターが登場する物語であります。曇神社の三兄弟と白子、犲のメンバーたち、獄門処に潜む者、等々…
そのキャラクターたちが一見無造作に登場し行動する姿に、本作の開始当初は、正直なところ、いささか戸惑いました。
しかし物語が進み、その全貌が少しずつ見え始めてきたとき…物語におけるキャラクターたちの位置づけ、役割が見えてきた時の興奮は、かなりのものがあります。
本作の根幹に位置する存在、オロチ。300年に一度、人の体を器として復活し、この世に災いをまき散らす怪物――
その怪物と三兄弟がどのように絡むのか。それが第2巻のラストで描かれた時には、「そう来たか!」と大いに驚かされたものですが、この第3巻で描かれたその先の物語は、さらなる驚き――というよりむしろ、ほとんど困惑と呼んだ方が適切なほど――をもたらしてくれました。
あまりネタバレになるといけませんが、三兄弟の物語であるはずの(とこちらが思いこんでいる)本作において、この先、一体どうするつもりなの? と真剣に驚かされた次第なのです。
もちろん、本作に登場するのは三兄弟だけではありません。第2巻でその驚くべき正体を現した白子もその一人ですが、この巻では、それだけでは見えなかった彼の本作における立ち位置が見えてくることになります。
なるほど、本作の魅力は、個性的なキャラクターたちのドラマが様々に展開し、そしてそれが互いに思いも寄らぬ影響を与えながら、物語の根幹に絡み、さらなる巨大な物語を作り出す点にこそあるのでしょう。
しかし、実はまだその巨大な物語にも空かされていない部分はあります。それは、本作の根幹部分と、本作の最も特異な舞台設定との関わりですが――
もちろんそれは、その両者を結ぶ存在である三兄弟のこの先の物語が描かれることにより、明かされるのでしょう。
それが、この曇天の時代を晴れに変えるのか、雨に変えるのか…これほど先が気になる物語もありません。
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