「お江戸ねこぱんち」第四号 猫を通じて江戸時代を描く
すっかり定着したようで何よりの「お江戸ねこぱんち」。一冊丸ごと、猫を題材とした、猫が登場する時代漫画であります。
ここでは、その中でもこのブログ的に面白く読めた三作品を取り上げましょう。
「猫絵十兵衛御伽草紙 外伝 砂漠猫の巻」(永尾まる)
今更言うまでもなく、この「お江戸ねこぱんち」の看板的作品であります。
毎回、こちらでは外伝と銘打ったエピソードが掲載されるのですが、今回の題材は、両国で見世物になったラクダと、それについてきた異国の猫・琥珀。
ちょこちょこと登場しては物語をひっかき回していく猫又トリオの一匹・ハチがこの琥珀に恋するのですが――
なるほど、今回の趣向はハチと琥珀の恋模様か、外伝に相応しいお話だなあ…と思いきや、後半はあっと驚く活劇展開。
一つの悲劇が意外な方向に転がり、この漫画でこれに出会うとは、という存在が登場するのには、完全に不意を突かれました(中近東の知識も持ってるニタは本当に何者なんでしょう)。
二重の意味で外伝に相応しい、72頁というかなりのボリュームもあっという間の作品であります。
「猫暦」(ねこしみず美濃)
今回から掲載が開始された新シリーズの舞台は、寛政期の江戸。剣術道場の娘・おえいの前に、おえいを嫁に迎えに来たという猫又・ナツメが現れたことから物語が始まります。
おえいの曾祖父がかつて猫又と戦った末に意気投合、娶せる約束をしたというのですが、しかしここで物語は意外な方向に転がっていきます。
夜も仕事に出る父を支えたいと願ったおえいは、家計の足しにするため、ナツメと共に猫たんぽなる珍商売を始めたのですが…
そこでおえいたちが足を踏み入れたのは、夜も測量を続ける幕府の司天台。
それをきっかけに、おえいは天文の世界に興味を持つことになります。
物語の背景となるのは、寛政の改暦。初めて西洋の天文学を取り入れたこの暦が成立するまでには、様々な軋轢があったようですが、本作でもその有様がちらりと描かれています。
何となくナツメの出番がなくても話が成立するような気がしないでもありませんが、それはこれからの展開次第でしょう。
気になるのは、天文方(と思われる人物)として勘解由と呼ばれる人物が登場することですが…これはある有名な人物のことなのでしょうか。そうだとすれば、おえいの将来にも大きく関わることとなるのですが…
その辺りも含めて、今後が楽しみな作品です。
「猫の手文庫 ふるさと戀し」(蜜子)
もしかすると「お江戸ねこぱんち」で最大の収穫は、この作者の存在を知ることができたことかもしれない…というのは大袈裟かもしれませんが、個人的にクリーンヒットが続く蜜子の作品は、今回も実に味わい深い佳品であります。
主人公は若き小倉藩士・喜代寿。妻と生まれたばかりの子を置いて江戸に出てきた彼は、ようやく国元に帰ることができるかと思った矢先、藩主の都合で帰国が一年先送りとなってしまいます。
同じ境遇の藩士たちと自棄酒を飲んでいた彼の前に、願いを聞いて来たという艶やかな若衆・玉千代が現れるのですが…
現代流に言えば単身赴任でちょっとノイローゼ気味の喜代寿に対し、同様の境遇だった彼の亡き父は、いつも明るく周囲を励まし、家族に対しても脳天気なほどに強く接していたという人物。
そんな父が御長屋の部屋に描いた船の帆の絵と、謎の若衆を通じて、彼は父の隠れた想いを知ることになります。
お話的にはさまで珍しいものではなく、オチも途中で読めなくはないのですが、天保期の勤番侍たちの実に人間らしくも楽しいだらしなさと、謎の若衆が見せるファンタジックな世界とのコントラストが楽しくも美しい。
ファンタジックな人情ものとして印象に残る作品であります。
こうしてみると、江戸時代の猫そのものを描くという作品よりは、猫を通じて江戸時代の人々を描く作品が自分は好きなのだなあ、という気もしますが、どちらにせよ、このような方式でしか読めない物語というのは在るはず。
これからもこうした猫時代劇を読むことができるよう、期待している次第です。
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