「明治骨董奇譚 ゆめじい」第1巻 骨董品に込められた念の正体は
明治終わり頃の京都の骨董店・夢堂。その店主の老人、通称「ゆめじい」は京都一の目利きと目されていた。しかし彼の本当の力は、物に宿った念を感じること。夢堂に持ち込まれる曰く付きの品物に秘められた謎を、ゆめじいは次々と解き明かしていく。
骨董品もの、美術品ものとも言うべき作品は、一ジャンルを築いていると言ってもよいほどの作品数があるかと思いますが、その中には、ファンタジックな色彩を帯びた作品も少なからず存在します。
本作「明治骨董奇譚 ゆめじい」もその一つ。明治末期の京都を舞台に、目利き腕利きの老骨董店主・ゆめじいが、骨董品にまつわる様々な謎を解き明かしていく連作短編であります。
京都一の目利きとして知られ、同業者や好事家、警察ややくざにまで一目置かれるゆめじいの真の力は、物に宿った念を感じ取ること。
店に持ち込まれる、あるいは商売の最中にゆめじいが出会う曰く付きの品物…そこに宿った念を手がかりに、ゆめじいがその曰く因縁に迫っていくというのが本作の基本スタイルです。
もちろん、曰く付きの品物だからといって、持ち主や周囲に害を与えるものばかりではなく、むしろ持ち主を護り、助けるものも存在しますが、しかし多くは、むしろ祟りとも呪いとも呼べる効果を及ぼすものであります。
そして、そんな品物の背後にあるのは、その多くが、明治という時代が抱えてきた歪みとも軋みとも呼べるもの。あまり安直な表現は使いたくありませんが、「闇」と呼んでも良いかもしれません。
近世から近代へ、激しく時代が動く中で、その動きの中に取り残され、忘れ去られた物・者・モノ…ゆめじいの謎解きは、それを拾い上げて、ある時はそれを忘れた者に突きつけ、ある時はそれを弔って眠りにつかせることにより、一種の浄化をもたらす行為であります。
その意味で本作は、優れた時代もの、優れた時代ミステリと呼ぶことができるでしょう。
しかし面白いのは、ゆめじいが決して善意の人でも正義の味方でもなく――むしろ守銭奴とも呼べる、生臭い部分を持った人物であることでしょう。
もちろん対象はあくどく儲ける者や弱者を泣かして恥じない者がほとんどですが、騙す・嘘をつく・脅かす…様々な手練手管でそうした手合いから大金を巻き上げる悪党ぶりであります。
そのある種の人間臭さは、ややもすれば「イイ話」になりがちなスタイルの本作に、ピリッとしたアクセントを与えるとともに――あくまでもこの世に生き、この世を動かすのは、結局人間であるのだと、皮肉混じりに教えてくれるように感じるのであります。
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