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2012.04.10

「柳生番外地」 十兵衛対西洋魔人!

 ジパングに存在するという異界への扉の鍵。それは、柳生十兵衛の眼球だった!? その眼を奪うべく、日本に現れた西洋妖術師。慶安3年3月21日、妖術師の奇怪な術の前に倒された柳生十兵衛だが――果たして十兵衛は本当に死んだのか?

 先月光文社から刊行されたコミック叢書「SIGNAL」VOL.1――星野之宣や畑中純、寺田克也に谷口ジロー、森美夏と、なかなかにマニア好みの面々の作品が収録されているアンソロジーですが、伝奇時代劇アジテーターとして決して見逃すことが出来ないのは、元祖時代劇アジテーター・近藤ゆたかの「柳生番外地」であります。

 伝奇時代漫画の金字塔「大江戸超神秘帖 剛神」の作者による柳生十兵衛もの、と聞いただけで涎が垂れそうになりますが、果たして、その期待は裏切られることはありません。
 冒頭の
「いつの頃からか……黄金の国ジパングには――異界への“扉”を開ける“鍵”あり――との流言あり
――そしてその鍵は……柳生十兵衛の“眼球”なり!――とも」
というナレーションの時点でこちらのテンションは上がる一方。
 そして生ける屍や奇怪な巨人侍を操る仮面の女と十兵衛の対決から、いきなり「柳生十兵衛死す」な冒頭を経て、真の柳生十兵衛の登場へ…

 柳生十兵衛と言えば言わずとしれた人気キャラクター、これまでも様々な物語で描かれてきた人物ですが、本作で描かれる十兵衛像は実に格好良い。
 ギラギラしつつも、どこか枯れたような、疲れたようなものを漂わせた…しかし、これぞ十兵衛! とこちらに思わせるビジュアルは、これはもう作者ならではのものと言うべきでしょう。

 そしてその十兵衛が対決する相手が海を渡ってきた奇怪な妖術遣いというのが嬉しい(しかも彼女が使う術などを指して「魔芸」「南蛮獣」と表現するセンスが素晴らしい)。
 とんでもないすっとぼけたゲストの顔見せもあり、伝奇者としては、もうたまらないものがあります。

 さらに、単にド派手な伝奇活劇のみで終わらないのもまた見事。終盤の二重三重のどんでん返しから浮かび上がるのは、「柳生十兵衛」を巡る残酷な真実であり――荒唐無稽なストーリーを展開させながらも、見事に時代劇として物語を着地させているのであります。

 短編読み切りというのがあまりにももったいない本作――続編を切望する次第であります。

「柳生番外地」(近藤ゆたか 光文社「SIGNAL」VOL.1所収) Amazon
SIGNAL VOL.1 (光文社コミック叢書“シグナル” 27)

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