「忍剣花百姫伝 1 めざめよ鬼神の剣」 全力疾走の戦国ファンタジー開幕!
戦国時代、忍者の城・八剣城が何者とも知れぬ軍勢に滅ぼされて十年ーー何者かに襲われた玉風城の火海姫は、謎の青年剣士・相馬天兵と孤児の捨て丸に救われる。天兵こそは八剣城に仕えた八忍剣の技を継ぐ一人であった。行方知れずの八剣城の姫君・花百姫の行方を探す天兵。果たして花百姫はいずこに…
私がいま一番注目するレーベルの一つであるポプラ文庫ピュアフルがまたしてもやってくれました。越水利江子の少年少女向け時代ファンタジー「忍剣花百姫伝」の文庫化がスタートしたのです。
とにかく本作は冒頭から全力疾走であります。
凄腕の忍びたちに守られた八剣城が、謎の敵に滅ぼされる(直前の)姿を描くプロローグから、一転物語は十年後――
戦盗人に捕らわれた玉風城の美しき男装の麗人・火海姫と、盗人たちに育てられた孤児捨て丸が登場。そしてそこに謎の天外城の一員である天兵と九郎じいがあらわれ、鮮やかな手並みで敵を蹴散らしていく姿が描かれます。
そして火海姫にベタ惚れした豪傑・鳴神流山率いる鳴神一党が、今度は玉風城の兵を名乗る者たちに襲われ、そこにも助っ人に入る天兵。
一方、火海姫に引き取られた捨て丸の意外な正体が明かされ、そしてそれが物語に新たな動きをもたらすことに――
八剣城と同時期に滅ぼされた白鳥城で繰り広げられる奇怪な儀式。それを差配する謎の美剣士の魔手は捨て丸や天兵、流山にまで及び、物語は謎が謎呼ぶまま展開していくことになります。
いやはや、次々と新しいキャラクターが登場し、次々と新しい事件が発生、息をつく間もないとはまさにこのことであります。
この辺り、正直なところいささか慌ただしく感じる部分はあります。
とはいえ、本作が元々小中学生からを対象とした作品であることを考えれば、次々と新しい情報を投入して興味をつなぎ止めるという手法はよく理解できます。
それにしても本作を読んでまず感じたのは、本作が「笛吹童子」といった「新諸国物語」シリーズや、「神州天馬侠」や「天兵童子」といった吉川英治の一連の少年時代小説の系譜にある、ということです。
(これはこちらの勝手な想像ですが、天兵という名前や、大鷲に乗って空を飛ぶこっぱ丸の存在には、吉川作品の影響が感じられます)
時代ものが少年少女向けエンターテイメントの王道であった時代の手触りを持った物語が、現代の少年少女に支持を得て、そして今こうして文庫化されて、より多くの読者の目に触れるようになったというのは、本当に嬉しく、心強いことであります。
この「忍剣花百姫伝」は全7巻。文庫版はこれから一月おきに刊行されるとのことですが、それをとても待ってはいられない、というのが今の正直な気持ちなのです。
「忍剣花百姫伝 1 めざめよ鬼神の剣」(越水利江子 ポプラ文庫ピュアフル) Amazon
| 固定リンク
コメント