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2012.05.27

「義風堂々 直江兼続 前田慶次酒語り」第4巻 その男の眼帯の下に

 「義風堂々 直江兼続」の第2シリーズ「前田慶次酒語り」も、早いものでもう単行本4巻目であります。
 慶次と秀吉の対面が描かれた前の巻は、「花の慶次」のスピンオフというよりリメイク的色彩が強く感じられましたが、この巻では再び兼続を中心に物語が展開することとなります。

 慶次と兼続の命はおろか、上杉家の存亡までがかかった慶次と秀吉の対面も無事に終了、慶次が傾奇御免のお墨付きをもらってまずはめでたし…ではありますが、この巻で描かれるのは、その波紋の一つであります。

 慶次と秀吉の対面で、秀吉の脇に控えていた小姓――ごつい上に額にVの字の傷が入った面構えで、前髪立てがあまりにも似合わないこの小姓、前の巻では島左近経由で用意された柳生の剣士、とのみ語られましたが、これがなんと柳生宗章。
 宗章、通称五郎右衛門は柳生石舟斎の四男で、宗矩の兄…などというよりも、隆慶作品でいえば、「柳生非情剣」に収録された「逆風の太刀」の主人公と言うべきでしょうか。

 短編とはいえ隆慶作品の主人公となるだけあって(?)、面白い逸話の残る宗章ですが、ここでは、下城途中の兼続に対し、「どうしても貴殿の死に顔を思い浮かべることができなかった!」と物騒な絡み方をするのが面白い。
 その理由については、意地悪な味方をすれば、あの場で兼続を持ち上げる苦肉の策と言えなくもないですが、しかしここで描かれる真相の意外性と、何より狂気すら感じさせる物騒さは、隆慶イズムを汲んでいるようでなかなか楽しめました。
 その後、島左近も加わっての手打ちもまた、豪快でなかなか良いのであります。

 さて、冒頭のエピソードの話が長くなってしまいましたが、以降この巻で描かれるのは、秀吉の小田原攻めにまつわる物語。
 「花の慶次」では、慶次はこの時に幸村を連れて伊達政宗のところに赴いて色々暴れていましたが、兼続の方は、後々まで彼の人生に関わる人物と出会うこととなります。

 それは大谷吉継。石田三成とは共に秀吉の腹心として育ち、彼とは最期まで盟友として関ヶ原で運命を共にした人物であります。
 後に病に冒され、覆面を被っていたという逸話もある吉継ですが、本作の時点ではまだまだ青年で健康そのものと思いきや、なにやら眼帯をしている様子です。

 確かに後に吉継は失明したという話もありますが、さて――と思いきや、眼帯の下にあるものと、その由来は、いかにも本作らしい、物騒で暑苦しく、そしてどこか不器用な切なさを感じさせるもの。
 なるほど、吉継は秀吉だけでなく家康にも高く評価されていたと聞きますが、今回のエピソードを見ればそれも納得、かもしれません。

 さて、小田原攻めは基本籠城戦で、お話としては地味になるのではという印象はありますが、この巻の終盤ではここに新キャラクターが登場。
 戦場の月夜に一人笛を吹くという、風流なのか無鉄砲なのかわからぬその人物に兼続は同じ立場の人間としてのシンパシーを感じるのですが…
 この人物については、いやいやいや、あなたここに来ている場合ではないでしょう、と思わないでもありませんが、兼続とこの人物自体の取り合わせはなかなか面白い。

 なるほど、「花の慶次」では慶次があの人物と出会っていた一方で、兼続はこの人物と出会っていたのか…と感心しつつも、この出会いがさらに面白い動きを生んでくれれば、と感じた次第です。

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