「絵巻水滸伝」 第99回「破滅之門・後篇」 田虎篇、ついに大団円!
久々に取りあげる正子公也&森下翠の「絵巻水滸伝」は、今月分の更新で田虎篇が完結しました。
長きにわたって繰り広げられて来た梁山泊と「晋国」との死闘もこれにて大団円であります。
河北を制圧し、晋王を僭称する田虎。その圧政に苦しむ人々を救わんと「替天行道」の旗の下に立ち上がった梁山泊軍は、数々の強敵との戦いを乗り越え、ついに田虎を追い詰めます。
しかしそこで田虎が取ったのは、己を信じてきた者たち全てを裏切り、単身金に亡命して国を売ろうというあまりに卑劣な行動。
果たして梁山泊軍は田虎を止めることができるか、かつて田虎の下で志を同じくしながら敵味方に分かれた孫安と卞祥の戦いの行方は、そして何より、両親の仇である田虎を追う瓊英、そして張清の運命は――
最後の最後まで先が読めぬまま展開してきた田虎を巡る物語は、ここについに決着することになります。
原典では、配下こそ多士済々だったものの、本人はさしたる能力は持たず、最後まで暗君だった印象のある田虎。
しかしこの「絵巻水滸伝」では、上に述べたように、追い詰められてもなお奸悪な企みを巡らす強敵として描かれ、その最後まで物語を盛り上げてくれました。
その田虎が最期の刻まで執着したのは、愛妾である白玉夫人――瓊英の母。そしてこの二人とある意味対照的に描かれるのは、張清と瓊英のカップルであります。
あまり男女関係においては幸福なキャラクターが少ない原典において、まず間違いなくベストカップルである張清と瓊英。両親の復仇に燃える中、夢に現れて礫の術を伝授した張清と運命的に出会った瓊英は、彼と結婚し、共に身分を偽って田虎に接近するのですが…
ここで原典と異なるのは、この時点では二人があくまでも形だけの夫婦であること。それぞれ心の内はどうあれ、あくまでもお互いを利用する形となっていた二人の関係は、今回死闘の中で、ついに一つの結末を見ることになります。
この辺り、実のところ、ベタもベタ、甘々な展開ですが、しかしそれがいい。張清を「祝福」しに駆けつけるのが風流な「ご友人」と、彼を梁山泊に導いた和尚であるのも粋な展開であります。
(その一方で、最期まで愛する者を得られなかった田虎の姿が、悪役ながら心に残ります)
もちろん、物語の終わりにあるのは、喜びばかりではありません。哀しみもまた存在します。
しかしそれでもなお、長きに渡る戦いの末に辿り着いた光は、確かにここにあると感じられる、美しい結末でありました。
…と、そんな余韻をぶち壊すようにラストに登場するある人物。
一つの戦いが終わったのも束の間――次回より「王慶篇」の始まりであります。
(にしてもこの溢れる小物感がある意味素晴らしい)
関連サイト
キノトロープ 水滸伝
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