「黒猫DANCE」第1巻 黒猫が見つめる総司の未来
時は嘉永5年、多摩郡日野で暮らす少年・沖田惣次郎は、無頼の青年・土方と共に、町を襲った盗賊を斬る。剣の道を志すようになった惣次郎は、地元の天然理心流道場で豪快な青年・島田(後の近藤勇)と出会う。後に新撰組の中枢を担う三人の出会いから、歴史が動き出す…
いつになっても変わることなく人気の新撰組、その新撰組を扱った漫画が一体いま幾つあるのか、私にもわかりませんが、その中にまた一つ、新たな作品が加わりました。
それが本作、「黒猫DANCE」…タイトルだけ見ると新撰組もの、時代ものには到底見えませんが、少年時代の沖田総司を主人公とした、なかなかにユニークな作品です。
「源さんも山南も平助も山崎も、近藤さんも死んだ。新撰組は壊滅だ。剣の時代は終わったんだ」
洋装の土方歳三の、そんな衝撃的な言葉から始まる本作。
実はこれは、9歳の少年・沖田惣次郎、言うまでもなく後の沖田総司が見た夢の中の出来事。それが後にどんな意味を持つことになるかは、当の惣次郎にとってわかるはずもなく、夢に過ぎません。
…しかし、それが運命であるかのように、その日、惣次郎は18歳の土方歳三と出会い、そしてその手で初めて人を斬ることとなるのです。
まだまだ虚構の入り込む余地は少なくないとはいえ、幕末の有名人としてやはりそれなりに記録も残っている新撰組の面々。
そのため、登場人物の造形や、彼らが出会う事件などは、どうしても似てくる部分は出てきてしまうもので、実のところ、近藤や土方のキャラクターは従来の作品に見られるそれとさまで異ならないように感じます。
しかし未知数なのは、まだ子供の総司。彼にはまだまだ様々な未来の可能性があるということでしょうか――総司がどのようなキャラクターとして描かれることとなるのか、それはこれからのお楽しみであります。
…そして、実にこの点こそが、本作最大の仕掛けであるようです。
恐らくはタイトルの由来であろう、総司の前に現れた一匹の黒猫。その黒猫は、総司の未来への選択を見守る存在として描かれるのであります。
その黒猫(の、ようにみえるもの)が、果たして何者なのか、それはまだわかりません。しかし、黒猫と沖田の因縁は、新撰組ファンであればよくご存じの通り。この黒猫はあの黒猫なのか、だとすれば、未来と過去を見通しているようなこの存在は――
と、気になる仕掛けはあるのですが、実は私が何よりも本作を気に入っているのは、第1話ラストのこのナレーションがあまりにも格好良かったためであります。
「それは人類史上最後に剣の高みに辿りつく男の最初の一振りであった」というナレーションが。
「黒猫DANCE」第1巻(安田剛士 講談社月刊マガジンKC) Amazon
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