「魔王信長」第2巻 超人大名たちの死闘
自らの魂を悪魔に売り渡し、信長は不死身の肉体と常人離れした能力を得た。桶狭間の戦で単身今川義元を倒した信長は、美濃をも手中に収め「天下布武」を掲げて天下取りに乗り出す。しかし信長の前に、風林火山の四人の武田信玄が立ち塞がる。そして、信長の周囲にも、彼に抗する者たちが…
風野真知雄の幻のヤングアダルト時代小説「魔王信長」第2巻の紹介であります。
死後の魂を売り渡し、悪魔の力身につけた不死身の武将と化した信長が、この第2巻ではいよいよ本格的に乗り出すことになるのですが――しかし、第1巻同様、信長以外の戦国大名も只者ではない、というより信長同様の人外の妖人揃いという印象であります。
この巻の冒頭で描かれるのは、かの桶狭間の戦。油断していた義元を、奇襲により信長が破り、奇跡の勝利を挙げた…というのは史実のお話で、本作の信長は、自軍よりも遙か以前に単身義元のもとに乗り込み、一騎打ちをしてのけるのだから、色々な意味で凄まじい。
(第1巻の紹介でも触れましたが、BASARA的というか無双的というか、一種時代の先取り的感性に驚かされます。もちろん、原点はむしろ講談的世界観なのだとは思いますが…)
これに対する義元も常人ではない。凄まじい威力を持つ鞠を放つ奇怪な蹴球術(これも先取り…)でもって、信長をあわやというところまで追い詰めます。
そして、その常人離れした力の正体とは何と…!(何でこの方が駿河に、とも思いましたが、調べてみると全くの無縁でもないんですね。義元が京を目指すという理由付けにもなっているのが面白い)
しかし、この巻の白眉は何と言っても武田信玄でしょう。影武者を巧みに使ったことで知られる信玄ですが、本作の信玄は、影武者というよりも同一人物が四人――風林火山から一文字ずつ取って、風の信玄、林の信玄…と称する――存在するという設定。
もちろん(?)一人一人の信玄は異能を持ち、単身敵陣に乗り込んでくるという展開で、ここまで突き抜けられるとむしろ気持ちがいいほどであります。
短筒を使う火の信玄の前に窮地に陥った信長を救ったのは光秀の○○! というシーンなど、問答無用で燃えてしまうのであります。
しかし、そんな本作においても、戦国大名=超人、というわけでは必ずしもありません。
たとえば木下藤吉郎(彼は山の民の出身で本名猿飛ナントカではありますが)、たとえば徳川家康…
本作においては、彼らに代表される普通の人間の視点も用意され、彼らの目から見た信長の超人ぶりに対する畏れと不安も並行して描かれることとなります。
そして、そんな彼らの血筋から、やがて信長に抗する者たちが生まれてくるようなのですが――それは次の巻の物語となります。
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