「笑傲江湖」第3話・第4話 引退式の惨劇
さて、TVドラマ版「笑傲江湖」の第3話・第4話であります。
色魔・田伯光に付け狙われる美少女尼僧・儀琳を救うため、あえて実力では遙か上の伯光に挑む我らが令孤冲…というところで第2話が終わりましたが、物語はまだまだ序章であります。
実力差を埋めるため、椅子に座ったままの勝負を持ちかけた令孤冲。それに伯光が乗った隙に儀琳を逃がそうとする令孤冲ですが、逃げない儀琳。いやいやいや、そこはちゃんと逃げようよ、と突っ込みたくもなるのですが、良く言えば一途、悪く言えば頭の固い儀琳は、わざわざ戻ってきてしまうのでした。
何とか奇策でもって勝負に勝ち、伯光を追い払ったものの傷の重さにダウンした令孤冲を担いで連れて行こうとする儀琳ですが…途中、どこかで落として彼と離ればなれに。
その後、ようやく再会した師匠をはじめ、武林の人々の前で、あらぬ疑いをかけられた令孤冲の弁明のために真相を語ろうとするのですが、そこでも無駄に話が長い…と、スタッフはもしかして儀琳が嫌いなのではないか、と言いたくなる扱いであります。
(話は飛びますが、4話ラストで、捕らえられた令孤冲のところに忍び込んできた時の分からず屋っぷりもひどい)
主人公周辺がいきなり迷走している間、集まってきたのは武林の名士たち。令狐冲の師である華山派総帥・岳不群、儀琳の師である恒山派総帥・定逸師太、第1,2話で暴虐の限りを尽くした青城派総帥・余滄海などなど…
一気にキャラクターが増えて少々混乱しますが、彼らはいずれも主人公たちよりも世代が上の、色々な意味で大人のキャラたち。それだけに一筋縄ではいかない面子ですが、それが面白いのは言うまでもありません。
さて、そんな武林のビッグネームが集結したのは、衡山派の高弟・劉正風の引退式のため。その引退式の模様は、第4話で描かれるのですが、これが流血の惨事に繋がるとは…
と、その前に驚かされたのは、第3話のラストから第4話冒頭の繋がらなさ。この面々の前で、上に述べたとおり儀琳が令狐冲に救われた一部始終を語り、彼にかけられた疑いを晴らす…はずなのですが、さあこれからというところで第3話は終わり、そして第4話ではその辺りが全て吹っ飛んで、いつの間にか令狐冲の疑いが晴れた(らしい)ということになっているのです。
そもそも第3話のラストは夜だったのに、第4話の冒頭は昼だったし…これはもしかして、撮影は3話単位で行われていて、班が変わったとかそういうのかと思ってしまいました(さすがにここまでひどい切れ方はこの回くらいのようですが)。
閑話休題、第4話のクライマックスは、この劉正風の引退式の惨劇であります。
居並ぶ武林の名士の前で、黄金の盥で手を洗うという儀式でもって、引退をするはずだった劉正風。しかしそこに乱入してきたのは、嵩山派一門。彼らは正風が魔教・日月神教の長老・曲洋と親交を結んでいることを暴き、彼が魔教と結んで武林転覆を狙っていると糾弾します。
ここで華山派をはじめとする正派にとって、魔教は不倶戴天の敵。正派の面々は正風に事の真偽を糺し、もし潔白であるのなら曲洋の首を取れと命じるのですが――
実は正風と曲洋の親交は事実、しかしそれはあくまでも簫と琴、音楽を通じてのもの。いかにも真っ正直な武術家である正風はそのことを隠さず、そしてもちろん曲洋を討つことも断るのですが、それが悲劇を招くことになります。
あろうことか嵩山派は正風の妻子を彼の眼前で惨殺――
その血しぶきが、正風が手を洗おうとした盥にまで飛び散るというのも視覚的にキツいのですが、それ以上に精神的にキツいのは、ただ一人残した幼い子に刃を突きつけ、正風と魔教の繋がりを告発させるくだり。
この辺りの嫌らしさは、視覚的聴覚的に迫ってくる映像作品ならではでしょう。
はっきり言えば、我々にとって正派も魔教もよくわからない区分けで、そのためにここまで無残なことになるのには理解できない部分もあります。しかしこれは、イデオロギー対立の暗喩だと考えるべきもの。
(嵩山派の凶行を、令狐冲以外の正派の人間が阻もうとしないのがその一つの証でしょう)
そうであるならば、これが本作のような物語世界特有のものではなく、かつて、いや今でも世界のどこかで起きている惨劇を映したものだと感じられるのであります。
金庸作品が荒唐無稽な武術合戦を
描きつつも広範な読者層に愛されているのは、この辺りの目配りもあってのことではないか…と今更ながらに感じた次第です。
と、とりとめがなくなってしまいましたが、私としては今回はこの引退式の惨劇を見せてくれただけで結構満足しております。
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