「信長のシェフ」第4巻 姉川の合戦を動かす料理
戦国時代にタイムスリップしてしまった現代人シェフ・ケンが、料理でもって織田信長に仕え、時代を切り開いていく時代料理漫画「信長のシェフ」も早くも4巻目。
この巻では、姉川の合戦とその前後に活躍するケンの姿が描かれるのですが、いやはやこれがまた実に面白いのです。
巧みな料理の腕と、それ以上に見事に「客」の心を読む力で、これまで数々の危機を乗り越えてきたケンですが今回の姉川の合戦での彼は、まさに八面六臂。
信長の命でお市のもとに潜入したものの、正体がばれてあわや打ち首、の窮地から逃れたかと思えば、信長のくノ一・楓との敵陣からの逃避行となり、そしてようやく帰陣したかと思えば、早速、姉川の合戦の逆転の切り札を任せられ…
全く、毎回毎回異なるシチュエーション、それももちろんこの時代、この物語に合った形で設定されたそれに沿って発揮されるケンの料理には、驚かされるばかりであります。
特にこの巻の冒頭のエピソードは圧巻。前巻のラストで浅井に捕らわれ、打ち首寸前…となったところで、危うくお市の声がかりで処刑は繰り延べとなったものの、助命につけられた条件は、食が細い茶々でも食べられる肉料理を作ること。
満足に調理道具も調わない環境でケンが作った料理とは何と…
いやはや、このエピソードは単行本化が待ちきれずに雑誌で読んでいたのですが、連載始まって以来の絶体絶命のピンチと、その緊迫感とあまりにかけ離れた料理の内容(三盛亀甲剣花菱の旗まで立ってる!)に驚いたり吹き出したりしたのを憶えています。
もちろん、それが単なるネタで終わらず、きちんとした(先に触れたように客の心理を踏まえた上での)ロジックに基づいたものであるのが面白いところなのですが、そのネタものに留まらない面白さは、本作の歴史ものとしての部分にも見ることができます。
諸説ある浅井長政の信長に対する裏切り、二人の間に亀裂が生じた理由が、市とケンの会話の中から語られるくだりなど、ケンという、この時代における異物――そしてそれは実は信長も同様の存在なのですが――があって初めて浮き彫りになる信長と長政の視線の違いが実に面白く、そして説得力が感じられます。
さらに、姉川の合戦において前半は押されていたと言われる織田軍による巻き返しに――そこにケンがもちろん絡むのですが――当時の一般的な軍の構造と、織田軍のそれの根本的違いが踏まえられている点など、なるほど、と唸らされるばかりなのであります。
この巻で浅井・朝倉戦は一息ついて、次にケンが向かう先は当時の最先端の文化が集まる商都・堺。
ここでも発揮されるであろうケン流の戦国料理と、本作流の歴史解釈が今から楽しみであります。
(にしても、戦場でホルモン焼き食う家康と忠勝はやっぱりヘン)
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