時代伝奇ファンにとって最近最も大きなニュースは、せがわまさきによる山田風太郎の「魔界転生」の漫画化、「十 忍法魔界転生」の連載開始ではないでしょうか。
この作品自体は連載開始後に取り上げたいと思いますが、ここで、今までに発表された「魔界転生」という作品のバリエーションを振り返ってみるのも悪くない試みでしょう。
言うまでもなく「魔界転生」は山田風太郎による小説ですが、この作品の持つものは、後世のクリエーター(そして売り手)にとって大いに魅力的であったらしく、商業作品を挙げただけでも、かなりの数にのぼります。
そのうちの多くはこれまでこのブログ等で取り上げていますし、まだの作品についても近いうちに取り上げたいと思いますが、ここではリストアップがてら、簡単に各メディアごとに各作品に触れてみたいと思います。
○小説
「魔界転生」(1964-65)(山田風太郎 角川文庫ほか) Amazon
言わずとしれた元祖であり、作者の作品の中でも最も有名な作品でしょう。旧題「おぼろ忍法帖」、後に「忍法魔界転生」、そして現在のタイトルに変更。
忍法帖としても、剣豪小説としても破格の作品でありますが、立川文庫等で語られてきた剣豪たちの物語を、一種のパロディとしてまさに転生させて、こうして現代まで残したことが、ある意味最大の意義かもしれません。
○映像
「魔界転生」(1981)(監督:深作欣二 東映) Amazon
魔界転生の名を一躍知らしめることとなった角川映画。十兵衛役ははまり役の千葉真一ですが、それに勝るとも劣らぬ存在感を沢田研二演じる天草四郎が見せたことで、以降の作品のほとんどでは、四郎が敵の中心として描かれることに…
物語的には、骨子の部分と登場人物を借りたほとんど別物でありつつも、それでもなお面白い名作。本当に燃え落ちる舞台の中での、十兵衛と但馬守(若山富三郎)のラストバトルは、既に伝説であります。
「魔界転生 The ARMAGEDDON」「同 魔道変」(1996)(監督:白井政一 徳間ジャパンコミュニケーションズ) Amazon
全二作のビデオシネマ。十兵衛役は渡辺裕之。ビデオシネマであることを考えればまずまずですが、オリジナル部分で時々妙にぶっ飛んだシーンを楽しむべきでしょうか(春日局の転生は魔界転生史上に残る珍シーン)。
珍しく四郎が敵方の中心ではなく、原作の森宗意軒の立場に由比正雪がいるのも特徴。日本では未DVD化。
「魔界転生 地獄篇 第一歌」「同 第二歌」(1998)(監督:浦田保則 アミューズ・ビデオ) Amazon
全4巻予定のOVA作品。残念ながら2巻までが発売されて未完となっています。十兵衛の声は玄田哲章、四郎の声は置鮎龍太郎。
転生衆が集まってきたところでの終了でしたが、十兵衛と四郎が島原の乱で一度対決するなど、オリジナル要素、それもアニメらしいぶっ飛んだ部分(荒木又右衛門の足八本とか)が多く、未完、さらに日本では未DVD化なのが惜しまれます。
「魔界転生」(2003)(監督:平山秀幸 東映) Amazon
十兵衛役は佐藤浩市、四郎役は窪塚洋介。魔界転生の過程がかなり独特なため、登場する転生衆も一風変わったキャラクターが登場しますが、一本の映画としてみた場合には今ひとつ盛り上がらないというのが正直なところです。
○漫画
「魔界転生」(1987)(石川賢 講談社漫画文庫ほか) Amazon
あの石川賢による魔界転生漫画化の、いや時代伝奇漫画の金字塔。原作の設定を踏まえつつも、作者が幾度かモチーフとした神と悪魔の戦いの次元まで達した作品内容は、ある意味原作を超えたと言えます。
無茶苦茶やっているようで、キャラクターのビジュアルなどは存外原作の描写を踏まえているのも見事。
「魔界転生」(1999)(とみ新蔵 リイド文庫 全2巻ほか) Amazon
現在のところ、原作にほぼ忠実な唯一の漫画版。剣豪漫画の巨匠が描くだけに、剣戟描写は確かなものがあります。あまりにも真っ当なすぎる漫画化なのがかえって寂しい、というのは失礼かもしれませんが…
「魔界転生 夢の跡」(1997)(鳥羽笙子 角川書店あすかコミックスDX 全2巻) Amazon
なんと田宮坊太郎を主人公とした極めてユニークな作品。四郎によって魔界転生した坊太郎が、かつての想い人と瓜二つの娘と出会ったことから…と、少女漫画的趣向を取り入れることで、十兵衛vs四郎の物語でありつつも、坊太郎視点で描くことにより、全く異なる味わいの作品となっています。
「魔界転生 聖者の行進」(2003)(九後奈緒子 角川書店あすかコミックスDX) Amazon ブログ記事
2003年映画のタイミングで発表された漫画。独特の絵柄・描写のために好き嫌いははっきりわかれるかと思います(特にアクション描写は感心しません)が、四郎に死という救いを与えようとする十兵衛、望まぬ生を嫌悪し十兵衛の強さに天主の姿を見る四郎と、キャラクター描写は面白い作品です。
○舞台
「柳生十兵衛 魔界転生」(1981)(JAC)
千葉真一が十兵衛を、志保美悦子が四郎を(!)演じた豪華版。配役を見ればわかるように、天草四郎女性説に基づいているとのこと。未見なのが非常に悔しい…
「魔界転生」(2006)(G2 松竹ホームビデオ) Amazon ブログ記事
中村橋之助が十兵衛を演じた舞台…というとかなり意外に感じられるかもしれませんが、確かに線は細いものの、成宮寛貴演じる四郎(これがまたはまり役)らの悲しみを受け止める人間味溢れる十兵衛像はなかなか良い。ストーリー的にも原作に近いのが特色ですが、最大の弱点は殺陣が今一つなところでしょうか。
「魔界転生」(2011)(劇団ヘロヘロQカムパニー) ブログ記事
関智一率いる劇団ヘロヘロQカムパニーによる舞台で、関智一の十兵衛をはじめ、浪川大輔の四郎など、有名声優も多数出演。
転生シーンなど、舞台でここまでやると思わなかった描写の数々も面白いですが、最大の特徴は深作版と原作の良いところ取り的にアレンジされたストーリー。ラストがちょっと慌ただしいですが、意欲作です。
※演劇については上記以外も上演されているかとは思いますが、とりあえずある程度のメジャーどころをピックアップしました
○ゲーム
「魔界転生」(D3パブリッシャー プレイステーション2用ソフト) Amazon
2003年版映画に合わせて発売されたのですが、何故かローグライクゲーム。ベースとなっているのが悪名高きSIMPLE2000シリーズの「THE ダンジョンRPG 忍 魔物の棲む城」――というだけでゲーマーの方にはどのような作品か予想できると思います。最初はフルプライスで、後にSIMPLEシリーズで再販されましたが、ワゴンの常連でした。
以上、大変駆け足でしたが、これまで発表された「魔界転生」はほぼカバーできているかと思います。
個人的なオススメを挙げるとすればとしては、原作はもちろんとして、深作欣二の劇場版と、ヘロヘロQカムパニーの舞台版は、魔界転生初心者(?)が見ても楽しめるのではないかな、と思いますので、ぜひ(石川賢版は次点)。