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2012.07.31

「黒鷺死体宅配便スピンオフ 松岡國男妖怪退治」第2巻 文壇・民俗学・オカルト三題噺

 山崎峰水&大塚英志のコミック「黒鷺死体宅配便」のスピンオフ、「松岡國男妖怪退治」の第2巻であります。
 今回も、明治の文壇と民俗学、そしてオカルトが複雑怪奇に入り乱れた奇譚が展開することになるのですが――

 タイトルロールの松岡國男とは、言うまでもなく日本民俗学の祖であり、そして大塚作品では常連の柳田國男の旧名。
 本作では、その松岡國男と、親友の田山花袋、そして「黒鷺死体宅配便」の主人公の背後霊「やいち」の生前の姿(?)と思われる霊能少年・やいちと、生臭坊主の笹山(これまた原作者の作品では常連のあの人そっくり)の四人が中心となって、明治の日本で起きる怪事件に挑むこととなります。

 この第2巻では、3つのエピソードが収録されていますが、どのエピソードも、史実上の事件や人物と、それを踏まえた怪異や異聞が織り交ぜられ、さながら三題噺の様相を呈しているのが実に楽しい。

 第1話では、後に「遠野物語」の成立に重要な役割を果たす水野葉舟と、有名な戦場怪談である「死なない白い兵隊」(日露戦争で目撃されたかは寡聞にして存じ上げませんが)と催眠術を題材に、日露戦争の二百三高地攻略時の陸軍の高官の連続殺人の謎が。
 第2話では、明治29年の三陸大津波と、花袋の実兄で地震史料を編纂した田山実(実彌登)と、要石を題材に、株に狂奔する人々の姿と、要石の連続破壊事件、さらにある神社での殺人事件が。
 そして第3話では、かの南方熊楠と、柳田といえば(そして原作者の作品でも)お馴染みの山の民、さらには○○○○○○○と××が入り乱れ、奇想天外な山中異界の姿が。
 それぞれ時にコミカルに、時にグロテスクに描かれることとなります。

 いずれも、よくもまあここまで無茶な題材の結びつけ方をするものだ、と妙な感心をしてしまうような物語展開を、キャラの面白さと、何よりも、山崎峰水の――特に怪異描写に関する――作画の確からしさで描き切ってしまうのは、さすがと言うべきでしょう。
 特に第3話など、題材としては盛り込みすぎ、物語もやりすぎなところを、ゲストキャラクターの少女の、あざとさギリギリの造形と、終盤に登場する怪物のユニークにしておそろしいビジュアルで突破してしまった感があり、妙なところで感心させられました。

 しかしながら、その伝奇性・怪奇性の一方で、毎回発生する事件の真相、特に犯人の行動原理の方は、この目的でこの犯行はないだろうと言いたくなるような、どうにも無理があるように感じられるのがどうにも引っかかります。
 これはあるいは、ナマの人間が関わってくるが故の不条理と言うべきものかもしれませんが、その辺りの噛み合わせの悪さは、正直なところ気になります(第2話など、このご時世に実に挑発的な題材なのは良いのですが、それがかけ声倒れに終わっている印象…)。

 設定もキャラクターも大好物だけに、細かいところが気になってしまうのは申し訳ありませんが、スピンオフの枠に留まらない魅力のある作品だけに、贅沢を言いたくなってしまうのであります。

「黒鷺死体宅配便スピンオフ 松岡國男妖怪退治」(山崎峰水&大塚英志 角川コミックス・エース) Amazon
黒鷺死体宅配便スピンオフ  松岡國男妖怪退治(2) (カドカワコミックス・エース)


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2012.07.30

「夢幻組あやかし始末帖 百鬼夜行に花吹雪」 豪快妖怪退治アクション開幕!

 「江戸で一番ヒマな同心」と呼ばれる寺社奉行同心・月影竜之進。黒縁の丸眼鏡で風采の上がらない彼の正体は、江戸を怪異から守る「夢幻組」の組頭だった。大妖怪・牙御前が尾張宗春に取り憑き、江戸を狙っていることを知った竜之進は、夢幻組の配下たちとともに牙御前と配下の妖怪軍団に立ち向かう!

 最近の文庫書き下ろし時代小説のトレンドの一つは、妖怪ものと言っても良いのではないでしょうか。
 これまでこのブログでも数々の妖怪ものを取り上げてきましたが、その中でとりわけユニークな作品の登場することとなりました。
 それが本作、朝松健の「夢幻組あやかし始末帖 百鬼夜行に花吹雪」。これまで数多くの時代伝奇、時代ホラーを発表してきた朝松健ならではの大江戸ゴーストハンター活劇であります。

 時は享保年間、主人公はヒマで知られる寺社奉行所の中でも、とりわけヒマ――すなわち、江戸で一番ヒマな同心という、ありがたくない異名を持つ同心・月影竜之進。
 分厚いレンズの黒縁の丸眼鏡という、およそパッとしない彼の正体こそは、幕府に密かに(…でもないか)設けられた対妖怪機関「夢幻組」の組頭。

 普段は物静かで腰の低い青年ですが、一度怪異を前にしてその眼鏡を外せば、途端にオレ様な美形に変貌、破邪の霊刀・村雨を手にした無敵のヒーローとして活躍する、という寸法であります。
 そして彼を頭とする夢幻組の方も、郷士の子の柴三郎、宮大工の太郎吉、商家の娘のお紺、香具師の半蔵と、そして仔狸の黒右衛門という、士農工商+αのくせ者揃い。
 本作では、彼らが江戸を狙う大妖怪と真っ向勝負を繰り広げることとなります。

 その大妖怪とは、百数十年前に、碁笥神門(ゴケミカド)某という、眉間が心配になる名前の大陰陽師に封印された女怪・牙御前(ガゴゼ …ちなみに妖怪でガゴゼといえば、普通は「元興寺」と書くものですが、などと思っていたら、妖怪マニアの柴三郎から同じツッコミが入っていて苦笑)。
 封印が解けた牙御前は、尾張の徳川宗春の側室に収まり、彼を操って藩政を壟断。さらに領内の狸たちを仙丹に変え、飲むことで己の力の源としていたのでありました。
 かくて三匹の大妖怪をはじめとする妖怪軍団を率いて江戸に迫る牙御前に、真っ向から勝負を挑む夢幻組ですが――


 作者はこれまでも室町時代を舞台に、一休宗純が様々な怪異と対決する「ぬばたま一休」、江戸のゴーストハンターの活躍を描く「本所お化け坂 月白伊織」といった作品を発表してきましたが、しかしそれらの作品と本作が異なるのは、ケレン味と表裏一体のコミカルな味付けでしょう。
 上で述べたあらすじを見ればおわかりのように、本作は最近はやりの妖怪ものの中ではかなりシリアスな部類に入る作品ですが、しかし物語の端々で描かれるのは、竜之進と夢幻組たちとの軽い調子のやりとりであり、そしてギャグスレスレの豪快なアクション描写。

 何しろ、竜之進が出動する際には、屋敷から人間大砲で空高く撃ち出されて飛んでいくのですから凄まじい。
 私も色々な時代ものを読んだり見たりしてきましたが、ここまで文字通りぶっ飛んだ出動シーンは、初めてであります(まあ、白亜紀まで遡れば人間大砲の先輩がいますが、さすがにそれを時代ものと呼ぶのはちょっと)。
 実は作者は、伝説の格闘アクションコメディー青春小説「私闘学園」をはじめとして、コメディのジャンルでも確たる成果を残している作家。本作は、そんな作者のある意味集大成…と言っては大袈裟かもしれませんが、これまで時代ものではほとんど顔を見せてこなかったコミカルな部分も活かされた作品であることは間違いありません。


 もっとも、厳しいことを言わせていただければ、本作においてはまだシリアスとギャグ、リアルさとコミカルさのさじ加減に悩んでいる部分があるように感じられるのも事実。
 また、折角登場した夢幻組の面々も、まだまだ全員がその個性を十分に発揮したとは言えない状況ではあり、キャラクター面で見た場合には、食い足りない部分があります。

 その意味では、まだ手探りの部分も感じられる本作ではありますが、それはシリーズ第1作ゆえというところもあるでしょう。
 本作は早くもシリーズ化が決定しているとのことですが、この先に繰り広げられるであろう夢幻組と妖怪たちの大激闘を、ホラーと伝奇とギャグの大ベテランが如何に描くか、その出来映えについては、私は全く心配していないのであります。

「夢幻組あやかし始末帖 百鬼夜行に花吹雪」(朝松健 ベスト時代文庫) Amazon
夢幻組あやかし始末帖 百鬼夜行に花吹雪 (ベスト時代文庫)

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2012.07.29

8月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 気がつけば梅雨はどこへやらという暑さとなり、もう夏本番の8月。本業が忙しくて夏休みとかお盆休みという言葉とは無縁の言葉を送っている私ですが、そんな私にも暑さは平等にやってきます。せめて面白い時代伝奇ものと出会って暑さを忘れたい…というわけで、8月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。

 …が、8月の新刊は、こちらがちょっと愕然とするほど点数が少ないのであります。

 何しろ文庫小説の方で気になるところでは、平谷美樹「風の王国」と風野真知雄「姫は、三十一」の、ともにシリーズ第3巻くらいのもの。どちらも先が気になるシリーズであるのはもちろんですが、しかしこれだけというのはいかにも寂しい。

 期間の文庫化では、天野純希が元寇を舞台に描いた大作「青嵐の譜」、そしてついに完結の北方謙三「楊令伝」と、こちらも少ないのですが…「楊令伝」は、「読本」も刊行されるようなのが楽しみではあります(ぜひ年表を見たいところ)。


 そして漫画の方ですが…こちらも少ない。

 金田達也「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」第6巻、安田剛士「黒猫DANCE」第2巻、日高建男の漫画版「後巷説百物語」第2巻と、楽しみにしている作品はあるのですが――

 と、上条明峰の「SAMURAI DEEPER KYO」が文庫化開始、それも表紙は描き下ろし!?
 などと、心動かされるニュースもあるのですが、もっともっと心動かしていただきたいところなのです。


 さて、映像、ゲームの方は、劇場版公開に合わせて「るろうに剣心」月間という印象。映像では「新京都編」後編が発売、ゲームではPSPソフト「るろうに剣心 明治剣客浪漫譚 完醒」が発売されるのですが――どちらも前作(にあたる作品)がもう少し…だったので、ここで頑張っていただきたいところです。
 また、サウンドトラックは、劇場版と新京都編それぞれが発売される模様です。


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2012.07.28

「常住戦陣!! ムシブギョー」第6巻 意外また意外な展開の連続!

 江戸から八丈島に舞台を移し、謎の蟲奉行を巡って蟲奉行所と蟲狩の全面衝突が描かれる「常住戦陣!! ムシブギョー」第6巻は、戦闘また戦闘、謎また謎の、かつてない盛り上がりを見せる大波乱の一冊であります。

 年に一度、ある目的のために八丈島に籠もる謎の存在・蟲奉行。蟲奉行所の面々は、その蟲奉行を狙う異能集団・蟲狩から蟲奉行を守るため、八丈島に渡ることとなります。
 江戸の守護は武家見廻り組に任せ、一路八丈島に向かう市中見廻り組と寺社見廻り組ですが、先行していた蟲狩の襲撃に早くも分断され、仁兵衛のみが先行するのですが…。

 しかし彼が出会った蟲奉行は、少なくとも見かけは仁兵衛と同年代の少女。持ち前の(?)早飲み込みを発揮して彼女を奉行のお付きの者と勘違いした仁兵衛は、これまた持ち前の武士道精神を発揮して彼女を守ろうとするのですが、これがかえって奉行の力の発揮を阻むことになってしまいます。

 あまりの空気読まなさに、奉行に敵の回し者と勘違いされてしまう仁兵衛はさすがに不憫ですが、しかしそうこうする間に迫る蟲狩たち。この絶対の危機に、仁兵衛の、蟲奉行所の反撃は…


 と、ここからは、意外また意外な展開の連続であります。
 ついに発揮される蟲奉行の真の力と、それに対する蟲狩の策。蟲狩たちの異能に挑む市中見廻り組の奮戦と、唯一蟲狩と互角に戦える、いやそもそも蟲狩の一員であった無涯と古巣の面々との因縁の対決。
 そして、仲間たちの危機に目覚めた仁兵衛の変貌――

 この辺りは、少年漫画のバトルものの基本を踏まえつつも、大混戦・大乱戦を印象づけるように、一つ一つが筋縄では行かない展開を、次々と惜しげもなく投入してくるのが面白い。
 特に、無涯を除けば(と、もう一人隠れた実力者がいるのですが)明らかに力関係では敵側の方が上というハンディキャップマッチも燃えるのですが、そこに全く予想もしていなかった主人公の「覚醒」「暴走」という一大イベントを展開されるという破格ぶりに驚かされます。

 この二つはある意味バトルものの定番であり、そしてそれと同時に使いどころを間違えると一気にご都合主義の展開に堕しかねない諸刃の剣ではありますが、このタイミングでの投入には、素直に感心いたしました。


 そしてこれだけこちらを驚かせておいて、八丈島編のラストには更なるサプライズが――えっ、享保の時代に、この面子が登場するの!? というよりも彼らに何があった!?
 と度肝を抜かれること請け合いのキャラクターが登場。以前、意外すぎる日本地図が示された際に感じた興奮が、再び甦りました。

 そしてラストにはも一つサプライズのキャラクターが。
 これがまた、これまでに登場に伏線が張られていましたが、ここで出てくるか!(もっとも、ここまで動けると色々と台無しな印象があるのですが…) というキャラクターで、いやはや、最後の最後まで驚かされっぱなし、燃えっぱなしであります。

 相変わらずの主人公のモテっぷりには違和感を感じないでもありませんが――特に武家見廻り組の与力は、そこまで仁兵衛に傾倒していたか――この激動の展開の前には小さい小さい。
 この先もどんどんと意表を突いた展開で、こちらを驚かせていただきたいものです。

「常住戦陣!! ムシブギョー」第6巻(福田宏 小学館少年サンデーコミックス) Amazon
常住戦陣!!ムシブギョー 6 (少年サンデーコミックス)


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2012.07.27

「砕かれざるもの」 ネクストステージの荒山伝奇

 前田家加賀百万石の取り潰しを狙う将軍家光とその尖兵・柳生新陰流。宇喜多秀家の孫で剣の達人・秀親は、前田家救援に向かわんとするが、先手を打った柳生十兵衛に斬られ、その弟・秀景は、兄の仇を討つため八丈島を旅立つ。一方、加賀では第三勢力の出現により、事態が意外な方向に向かっていた…

 荒山徹が地方紙に連載してきた「砕かれざるもの」が単行本化されました。「荒山流”純粋剣豪小説”、ここに誕生!」を謳う、ファンとしては何とも気になる作品であります。

 時は江戸時代初期、三代将軍に就任した直後の家光は、己の権威を示すために加賀百万石の取り潰しを目論みます。しかし加賀前田家には「乾雲坤龍」と称される秘文書が存在。その文書に記された内容は、徳川幕府を崩壊させかねぬものだというのですが…
 ところがその秘文書も加賀に侵入した柳生新陰流一門に奪われ、風前の灯火となった前田家。天下に孤立無援となったかに見える前田家に味方する者は…何と八丈島に!?

 前田利家の娘である豪姫を正室としながらも、関ヶ原の戦に敗れ、今なお八丈島で生き続ける宇喜多秀家。その孫・秀親は、秀家の弟(!)である山田浮月斎の薫陶を受け、希代の名剣士に成長していたのであります。
 しかし秀親が前田家に助太刀することを恐れた柳生十兵衛は彼を闇討ち同然に殺害。一門が絶望に暮れる中、立ち上がったのは、秀親に剣を学んでいた彼の弟・秀景…彼は、兄の仇を討ち、祖母の暮らす前田家を護るため、圧倒的に強大な敵に挑むことを誓います。

 一方、秘文書を奪った柳生一門を襲い、秘文書を横取りした第三勢力が出現。その存在が、秀景の戦いにも大きな影響を与えていくことになるのですが――

 いやはや、「純粋」とは妖術や怪獣抜きのことであったか…と言うと意地悪に聞こえるかもしれませんが、これは私にとってむしろ褒め言葉。何しろ本作には、いかにも作者らしい伝奇性が横溢しているのであります。
 幕府の運命を左右する秘文書に記された家康の秘密。そしてその秘密を脇から奪い取った第三勢力の驚くべき正体と目的と、とんでもないアイディアが並びますが、むしろ主人公回りの設定が実に面白いのです。

 前田家と宇喜多家の繋がり自体は、これは史実の示す通りですが、そこに山田浮月斎が秀家の弟というフィクション(ここ作者お得意の駄洒落めいたネーミング解釈が開陳されるのがまた楽しい)を絡めることにより、前田家・宇喜多家vs徳川幕府の戦いに、見事に疋田陰流vs柳生新陰流がオーバーラップしてくるのに、大いに感心いたしました。

 そして、もちろん、本作は剣豪小説、時代活劇として優れた作品であることも間違いありません。荒山徹は、作品の題材の過激さや盛り込まれたアイディアの派手さ――いわゆるネタっぽさ――に目を眩まされがちではありますが、元々、文章力・描写力において、かなりのものを持つ作家であります。
 本作においては、そんな作者の時代小説家としての地力が遺憾なく発揮されていると言えます。数多くの登場人物が入り乱れる物語の流れを巧みに捌くとともに、随所にそれぞれ全く異なるシチュエーションで剣戟を、アクションを設定し描いてみせるという…
 特にラストの、秀景とあの剣豪の、ケレン味が溢れつつも、同時にロジカルな説得力を持つ決闘描写などは、剣豪作家としての作者の腕を見事に示していると言えましょう。


 もっとも、そんな本作においても瑕疵は皆無ではありません。
 特に気になるのは、秀景の戦いを、特に後半部分では復讐のためのそれとして描いたことにより、彼のキャラクターがいささか平板なものとなっている点。復讐鬼としての顔が前面に出たために、巨大な敵、無情な運命にも負けぬ「砕かれざるもの」としての彼の顔がぼやけてしまったのは、生まれついての将軍と生まれついての流人という対比も面白かっただけに、何とももったいなく感じます。

 また本作には、敵役としてある勢力が登場するのですが、その扱いが、陰謀論的それを出たものでないのに疑問が残ります。もちろん彼らにそうした側面があったことは否定できませんが、それだけを描くのは一面的に過ぎるものであり、また危険でありましょう。
 この辺り、特に上で述べた主人公の行動原理に絡む部分もあり、気になった次第です。


 と、このように今一歩な点は確かにあるものの、しかしそれでもなお(いやその点を含めても)本作は現在の作者の到達点の一つであり、作者が「純粋」な作品でも勝負できることを示すものであります。

 柳生を敵に回し、朝鮮を離れ…それでもなお、荒山作品として面白い。
 本作はそんな、ネクストステージの荒山作品と言えるのではないでしょうか。

「砕かれざるもの」(荒山徹 講談社) Amazon
砕かれざるもの

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2012.07.26

「化粧の裏 御広敷用人 大奥記録」 嵐の前の静けさか?

 吉宗の命を受け、徳川綱吉の養女・竹姫のことを探るべく京に向かった水城聡四郎主従。吉宗と敵対する大奥側についた御広敷伊賀者の襲撃を受けつつも京に着いた聡四郎を、さらに伊賀の里からの刺客が襲う。果たして竹姫の身に、そして彼女が嫁するはずだった会津松平家に秘められた秘密とは?

 勘定吟味役から、御広敷用人へと転身を遂げた(遂げさせられた)水城聡四郎の戦いを描くシリーズ第2弾「化粧の裏」が早くも刊行されました。
 将軍就任直後、幕政建て直しの手始めに大奥潰しを狙う徳川吉宗と、それに抵抗する大奥との間の暗闘に巻き込まれた聡四郎は、今回もまた、命がけの戦いを繰り広げることになるのであります。

 本作の中心となるのは、五代将軍綱吉(正確にはその側室)の養女として江戸城に暮らす清閑寺家の姫・竹姫。
 はじめ会津藩主・の嫡子・松平久千代と、次いで有栖川宮正仁親王と婚約 するも、次々と婚約者が早逝し、未婚のまま未亡人のような暮らしを送る毎日の彼女を巡る謎が、本作を、本シリーズを動すことになります。

 後に浄岸院と呼ばれる竹姫は、もちろん実在の人物。本作で語られるように(そしてそれ以降もまた)波乱に富んだ人生を送った女性であります。
 その彼女を、正室を亡くした吉宗が継室に望んだことから、事態はややこしいこととなります。綱吉の養女である竹姫は、形だけとはいえ吉宗の大叔母。果たして彼女を継室に迎えることができるのか。そして、彼女の人生に陰を落とす婚約者の早逝に裏はあるのか……
 それを探ることとなった聡四郎は、江戸を離れ、京に向かうこととなります。

 最近は江戸を舞台とすることがほとんどの上田作品において、京(とそこに向かう道中)を舞台とし、そして事件は吉宗絡み、とくれば、上田ファンとしては、作者の出世作である「竜門の衛」を思い出して懐かしくなってしまうのですが、それはさておき――

 もちろん聡四郎の旅が平穏無事に済むはずがなく、その道中に襲いかかるのは、大奥側についた御広敷伊賀者。さらに、聡四郎手強しと見て彼らの助っ人に雇われた、伊賀の里の藤林家配下の忍びたちが、聡四郎の敵に回ります。
 武士とは全く異なる戦い方を見せる伊賀者に対し、聡四郎とその家士にして弟弟子である大宮玄馬がいかに挑むか、それが本作の見所の一つと言えるでしょうか。
(一方、これまでの作品では、ほとんどの場合単なる悪役、消耗品として描かれることがほとんどだった伊賀者側にも、彼らの辛く切ない立場を描くドラマがあるのもまた目を引きます)


 …とはいえ、本作は全般的に嵐の前の静けさ、という印象。剣戟面でもドラマ面でも動きは控え目で、シリーズの一編としてはわからなくないものの、一冊の作品として見れば、食い足りない部分があるのは否めません。
 何よりも、竹姫に関してほとんど何も進展がなかったように見えてしまうのが一番引っかかる点で――これから徐々に明かされていくであろうものであることはわかるのですが、聡四郎が京まで行ってきただけに、いささか残念だったと感じます。

 本作で語られる、会津松平家/保科家代々の戒名に隠された秘密には大いに驚きかつ納得させられただけに、なおさらこの点は勿体なく感じられた次第です。


 しかし物語は始まったばかりではあります。
 幕府のドラスティックな改革を目指す吉宗ではありますが、その基盤はまだまだ脆く、大奥に、かつて将軍を争った者たちの中に、そして彼の実家である紀伊徳川家にまでも、敵は存在します。
 聡四郎の戦いはこれからが正念場。戦いが本格化し、様々な謎と秘密が語られるであろうこれからの展開の中で、彼の、そして本シリーズの真価が問われることになるのでしょう。
 もはや一瞬たりとて気を抜いてはいられないのであります。

「化粧の裏 御広敷用人 大奥記録」(上田秀人 光文社文庫) Amazon
化粧の裏: 御広敷用人 大奥記録(二) (光文社時代小説文庫)


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 「秋霜の撃 勘定吟味役異聞」 貫く正義の意志
 「相剋の渦 勘定吟味役異聞」 権力の魔が呼ぶ黒い渦
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 「暁光の断 勘定吟味役異聞」 相変わらずの四面楚歌
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2012.07.25

「笑傲江湖」 第9話・第10話 令狐冲、負傷ロードに踏み込む

 まことに申し訳ないですが、主人公が酷い目に遭うほど面白くなっていく「笑傲江湖」。この第9話第10話では、いよいよ本格的に令狐冲が抜き差しならない状況に追い込まれていくことになるのですが、それには意外な黒幕が!?

 謹慎処分で一年間籠ることとなった洞窟に、さらに奥があるのを見つけた令狐冲。踏み込んでみればそこには数多くの骸骨が転がり、そして岩肌には、戯画化された武術の型が記されています。試みにその型を破ろうとイメトレしてみれば、これが意外な難敵。密かな修行の末、令狐冲はいくつか技を身につけるのですが…

 その後、修行の度合いを見るとのことで、華山派の面々の前で試合をすることとなった彼は、追い詰められてその技を思わず使ってしまいます。が、そこで怒りだしたのは師の岳不群。その技こそは、今や華山派では禁断となった剣術流の技だったのです。
 実は25年前、気功流と剣術流の二派に分かれて激しい内部抗争を繰り広げた華山派。その結果は気功流の勝利に終わり、剣術流は山を追われたのですが…以来、華山派では剣術流の技は禁断となったのであります。その場は自分で編み出したと適当に言い繕った令狐冲ですが…

 と、その後、彼の前に現れたのは久々の田伯光。令狐冲と酒を酌み交わすため、と、とんでもなく高価な酒の瓶を二つ担いできましたが、もちろんこれは盗んだもの。しかも、より価値を上げるために、その他の瓶は全て壊してしまったという無茶苦茶ぶりですが、それでも喜んで酒を酌み交わす令狐冲はどうなの…(そもそも、成り行きで読んだだけかと思いきや、まだ「田兄」と呼ぶ令狐冲)

 と思いきや、それぞれ杯を空けたところで瓶をぶち壊してしまうのは愉快でしたが、怒った田伯光にはまだまだ彼は敵わない。
 さらに儀琳のところに腕づくで連れて行くという田伯光に対抗するため、何かと口実を付けてあの洞窟に戻り、の技を身に着けては戻って戦い、また負けて…と繰り返す令狐冲も愉快なのですが(というか田伯光が人が良すぎる)それでも勝てない彼の前に、突然謎の老人が!

 腰まである白髯に、いちいちオーバーアクションと怪しいにもほどがあるこの老人は風清揚と名乗り、華山派の大先輩であると告げます。この風清揚先生の特訓でついに田伯光に勝つ令狐冲ですが、しかしどう考えても風清揚の技は剣術に見えるのですが…
 この辺り、師匠に注意された直後なんだからもう少し考えようよ、とは思いますが、まあ超体育会系の世界で先輩筋には逆らえないでしょうし、何よりも、この世界では、山に籠もっていたら謎の達人に秘技を伝授されたのは日常茶飯事なのでしょう。たぶん。

 そして何だかジェダイっぽい感じの風清揚先生が令狐冲に伝授してくれたのは、伝説の武芸者・独孤求敗が残した秘剣・独孤九剣。金庸の他の作品にも登場する、「生涯でただ一度でもいいから敗北せんことを願い、ついにそれが得られなかった」武術家が残した、一切の守り手が存在しない攻撃のみの最強の剣――それが後に令狐冲を思わぬ窮地に導くことになるのですが、それはさておき…

 さて、主人公がそんな修行の日々を送っている間に、当の剣術流の残党を見つけだした嵩山派の左冷禅(もっさいジャンプからの凍結アタックアピールは今回屈指の珍場面)は、既に傘下に入った他流派ともども、岳不群追い落としにかかります。
 この辺り、あっさり他流派の傘下に入ったり、他流派の力を借りて平気なのかしら…と思いますが、昨今のニュースとか見れば、あまりよそ様を笑えないですね。

 一方、令狐冲の前にまたも登場する怪人たち――町中で出会ったらちょっと目を逸らしてしまいそうなアレな感じな連中は、自称・桃谷六仙。彼らもまた、令狐冲を儀琳のもとに連れて行こうとします。
 そんな騒ぎの中、嵩山派をバックにつけた剣術流残党が華山に現れ、岳不群退陣をアピール。そのどさくさに口八丁で六仙から逃げた令狐冲は、師に代わって剣術流の封不平との決闘に臨みます。

 封不平もそれなり以上の腕前なのでしょうが、風清揚直伝の技を修得した令狐冲はこれを圧倒。剣を奪って完全に勝負あった、と思いきや、卑怯にも不意打ちを仕掛けてきた封不平の掌を胸に食らってしまうのでありました(その直後、封不平は怒った六仙に文字通りバラバラにされてしまうのですが…)

 さて、ここからが令狐冲の長きに渡る負傷ロードの始まりであります。
 彼を連れ去った六仙は、胸に受けた内傷(気脈の乱れ)を治すため、それぞれ勝手なやり方で気を注入。その様子はどうみても袋叩き以外のなにものでもないのですが(とどめに熱湯風呂に叩き込む鬼っぷり)、もちろん、こんな治療がうまくいくわけがありません。
 体の中で六通りの気が滅茶苦茶に走り回ることとなった令狐冲は、もはや半死半生の有様に…


 と、ラストに描かれるのは、令狐冲受難の真相であります。
 恒山で仏前に向かう儀琳が唱えるのは、経文ではなく、令狐冲を慕う言葉ばかり…もはやキモいモノローグ状態です。

 この儀琳の恋情を知った儀琳親父が田伯光や桃谷六仙を使って令狐冲を娘の元に連れてこようとした…というのが、今回の令狐冲を巡る騒動の真相。
 いやはや、こんなことで瀕死の重傷を負ってしまった令狐冲こそ良い面の皮ですが、しかし彼の受難はまだまだこれからが本番なのであります。

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2012.07.24

「ひなこまち」 若だんなと五つの人助け

 ある日、「お願いです、助けて下さい」と書かれた、しかもと五月十日までと日時を切られた木札を手にした若だんな。折しも江戸では美女の顔を雛人形のモデルにする「雛小町」の評判で持ちきり。そんな中、誰が書いたかわからぬまま、持ち主を助けようとする若だんなのもとに、人間から妖怪から、様々な相手が助けを求めに来て…

 相変わらず好調の「しゃばけ」シリーズ第11弾は「ひなこまち」。最近のシリーズは、短編集でありつつも、そこに収められた作品がある種の繋がりを持つという趣向ですが、それは今回も変わりません。

 ある日、誰が書いたかわからない、しかし助けを求める木札を手に入れた若だんなこと長崎屋の一太郎。
 相変わらずの虚弱体質で何かあると寝込んでばかりの若だんなですが、そんな自分でも誰かの助けになれば…と、木札の主を助けることを決意する若だんなのもとに持ち込まれた、5つの難事件珍事件を本書では描くこととなります。

 そしてもう一つ、本書の物語を貫くのが、タイトルとなっている「ひなこまち」=雛小町。江戸一番の美女の顔を写した雛人形を作るという一種の美人コンテストですが、雛人形が納められるのはさる大名家。
 どうやら、雛人形は口実で、実は大名の側室捜しらしいという噂で、江戸の町は大騒ぎとなってしまいます。

 そんな中で描かれる5つの物語は、以下の通りであります。
若だんなの数少ない人間の友達が相続した船箪笥の引き出しが開かないことから始まる騒動「ろくでなしの船箪笥」
落語家が高座で何者かに斬りつけられた事件をきっかけに、江戸の町でおかしな事件が頻発する「ばくのふだ」
雛小町捜しを当て込んだ古着売りから古着を盗む一味を若だんなと妖怪たちが追いかける「ひなこまち」
花見に出かけた若だんなの前に、河童の禰々子が持ち込んだ秘薬が元で大騒動となる「さくらがり」
そして再び河童の秘薬がもとで不思議な世界に引っ張り込まれた若だんなが助けを求める相手と出会う「河童の秘薬」


 正直なところ、若だんなが(結果的にせよ)人助けをするというのは、あまり珍しいことではないような気もいたします。個々の事件の謎解きも、さほど入り組んだものではなく、その意味では、人助けという要素は、さまで大きいものには感じられないのは、個人的には残念な点ではありました。

 その一方で、若だんなと妖怪たちの大騒ぎは相変わらず――いや、今回は物語の性質上、若だんなが表に出ることも多いためか、フォローする妖怪たちの出番も多く、今まで以上にドタバタ騒動が繰り広げられている感があり、キャラクター小説としては相変わらず楽しい作品となっています。
 その意味では相変わらずのアベレージヒッターということで、ファンであれば安心して楽しめる一冊ということができるでしょう。

 個人的には「ばくのふだ」の冒頭、怪談で評判の落語家(何故か目かつらをつけていて素顔が見えない)が高座で怪談を語る最中、「何故その話を知っているのか」と侍が斬りかかり、噺の結末はわからないまま、騒動の中で両者とも姿をくらましてしまう――
 という、いかにも江戸怪談にありそうなエピソードが非常に面白く、この辺りは師匠譲りの作者の技だなぁ…と嬉しく感じた次第です。


 ちなみに、初登場が「ゆんでめて」の一編と、ちょっとややこしい立場だったために今後の登場が危ぶまれていた(?)禰々子河童は、何事もなかったようにすんなりと再登場。
 いささか拍子抜けしましたが、兄やたちと正面から腕っ節でやりあえる豪快さは相変わらずで、これはこれで大いに歓迎すべきでしょう。

「ひなこまち」(畠中恵 新潮社) Amazon
ひなこまち


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2012.07.23

「楊令伝 十三 青冥の章」 岳飛という核

 気がつけばこの「楊令伝」も残すところあと3巻。梁山泊、南宋、金、斉…幾つもの国が生まれ、中原の混沌は少しずつ収まりつつあるものの、天下と国家を巡る人々の想いは、未だ複雑に交錯し続けています。

 東西を結ぶ貿易により国力を蓄え、張俊ら他の勢力の攻撃にも全く揺がない強力な軍を持つに至った梁山泊。その豊かさは、中原で領土を限定することによりもたらされたものですが、しかし梁山泊が「天下」を取ることを望む者の声が、少しずつ目立ち始めます。
 一方、金の傀儡国家である斉では、青蓮寺から独立した扈成が政治の実権を握り、斉に走った張俊と組んで、金とも距離を取り始めます。
 そして軍の強化に走る岳飛は金の大軍と激突。その前には金軍の切り札と言うべき蕭桂材が立ち塞がることに…

 と、物語は、どこが着地点かわからぬまま、この巻も多くの人間の運命を飲み込んで展開していくのですが、その中で一つの核となっているのは、紛れもなく岳飛でしょう。

 つい先日、本作の続編にして大水滸伝完結編である「岳飛伝」の第1巻が発売されましたが、既に岳飛はこの巻から(いや、もっと前からであったようにも感じますが)、天下国家を巡る物語の主人公の一人として描かれていると感じます。

 実際、タイトルロールである楊令が、童貫を破って自由貿易圏としての梁山泊を成立させてから、一種非常に落ち着いた存在となってしまったのに対し、岳飛の運命は激動そのものであります。
 自らの師であり、生きる上での指針とも言えた童貫を失い、自らを慕う兵を抱えて放浪し、兵を養うために領土と民を持った岳飛…

 本作には様々な国家が登場しますが、その中でもある意味成り行きで国家的なものを背負うこととなった岳飛が、天下と国家のあり方を問い続ける本作において、特異な、そして重要な立ち位置を占めることは、ある意味必然なのかもしれません。

 そしてこの巻において、岳飛の運命は、更なる変転を迎えることとなります。
 遼、そして金においてその力を認められつつも、北宋建国の功臣の血を引くが故に発言権を持たず、そして自らもその運命を受け入れてきた蕭桂材。ある意味対照的な存在である岳飛と蕭桂材との対決は、この巻のクライマックスであると言ってよいでしょう。
 激しすぎる軍と軍の激突の末、文字通り伝家の宝刀である護国の剣を抜いた蕭桂材と岳飛の決闘は、その一種運命的な結果と、その直後に岳飛にもたらされたある衝撃的な事実を含めて、強く強く印象に残ります。

 と、激動の人生を送る岳飛ですが、梁山泊の方も、少しずつ少しずつ、暗雲が近づいているように感じられます。
 この巻の結末である人物を襲う運命は、これまでこの人物がある意味貧乏くじを引いてばかりだったために、天を仰ぎたくなるようなものではありますが、しかしその残酷さもまた、この大水滸伝の一つの顔であります。
 彼を含めて、梁山泊の面々がこの先いかなる運命を辿るのか、残すところわずか2巻であります。


 …ちなみに、この巻で個人的に強い印象が残ったのは、実は完顔成の存在であります。実はこの巻の時点の彼と、この私は同い年…同い年でこれか、と我と我が身を振り返って、色々と考え込んでしまった次第です。
 本当に全くもって個人的ですが…

「楊令伝 十三 青冥の章」(北方謙三 集英社文庫) Amazon
楊令伝 13 青冥の章 (集英社文庫)


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2012.07.22

「この時代小説がすごい! 文庫書き下ろし版」 文庫書き下ろし時代小説の現在と未来

 久々に宣伝混じりで恐縮ですが、宝島社から「この時代小説がすごい! 文庫書き下ろし版」が発売されました。
 タイトルから想像がつくかも知れませんが、いわば「このミステリがすごい!」「このライトノベルがすごい!」の時代小説版とも言うべき、2012年度の文庫書き下ろし時代小説ガイドブックです。

 「このミス」等がそうであるように、本書もまた、ランキング企画を中心に構成されています。
 書評家・ライター・書店員を中心とした選者(私も選者の末席に加えていただいております)がそれぞれ6作品を選んで投票し、その結果を「2012年度文庫書き下ろし時代小説ランキング」発表するとともに、トップ20作品ガイドが掲載されています。

 以降、ランキング上位作家インタビューや、各出版社による「我が社のイチオシ&隠し玉」と、このミスでもお馴染みの企画が並びますが、面白いのは、「佐伯泰英徹底ガイド」というコーナー。
 もはや殿堂入りと言っても差し支えない作者だけに、実は上記のランキングでは投票対象外(ちなみに、その他にも発行元である宝島社の作品も対象外となっています)となっており、佐伯作品オンリーのランキング&12作品紹介を用意する…という趣向であります。

 そして巻末には「文庫書き下ろし時代小説完全ガイド」として58作品の紹介が並び、ランキング20作品+佐伯作品12作品+この58作品と、実に90作品が本書においては収録されています。

 実は私も、この紹介記事のうち、
上田秀人「奥右筆秘帳」「お髷番承り候」「闕所物奉行 裏帳合」「大奥同心・村雨広の純心」「妻は、くノ一」「姫は、三十一」、片倉出雲「勝負鷹」、楠木誠一郎「武蔵三十六番勝負」、澤見彰「はなたちばな亭」、翔田寛「忍者侍☆らいぞう」、高橋由太「もののけ本所深川事件帖オサキ」「つばめや仙次ふしぎ瓦版」「ぽんぽこもののけ江戸語り」、千野隆司「戸隠秘宝の砦」、築山桂「左近 浪華の事件帳」、鳴海丈「お通夜坊主龍念」「ご存じ大岡越前」、米村圭伍「ひやめし冬馬四季綴」
の各シリーズ・作品の紹介を担当させていただいておりますので、ご覧いただければ幸いです。


 さて、私事(?)はさておき、本書は非常に興味深い内容を含んでいます。
 その興味深い点とは、ランキングの内容。投票によって選ばれたベスト20の作品が、正直に言ってなかなか意外なものが多いのであります。。

 未見の方のためにも、ここでそのランキングの詳細を述べることはもちろんいたしませんが、いわゆる「文庫書き下ろし時代小説」と言ったときに浮かぶような「人情もの」「捕物帖(奉行所もの)」は――少なくとも全体の刊行点数に占めるこのジャンルの割合に比べれば――少なめで、むしろそれ以外のジャンルの作品、特に若手・中堅どころの作家の作品が多く含まれているように感じられるのです。

 これはもちろん、私が後者の作品を特に好むことから目につくように思うだけかも知れません。また何よりも、選者受けする作品がそうした中に多く含まれていたから、という点が大きいようにも思います。

 しかし、それでもなお、このランキングに見られるのは、「文庫書き下ろし時代小説」の多様化の姿でありましょう。これは多分に願望が交じっていますが、このランキング結果によって、今後の(文庫書き下ろし)時代小説シーンに、小さからぬ変動が生じるのではないか、とすら感じるのです。

 そして「文庫書き下ろし時代小説」が、従来の時代小説読者層を広げたところにその隆盛の一因があるとすれば、これは決してネガティブなものではなく、更なる読者層の拡大に繋がっていくのではないか――私はそう感じます。


 2012年という今の文庫書き下ろし時代小説の世界の姿を描き出したものであるのはもちろんのこと、この世界の未来の姿も予感させる…そんな一冊。
 私が投票・作品紹介に参加させていただいたことは全く抜きにして、一時代小説ファンとして見てもおすすめできるガイドブックです。

「この時代小説がすごい! 文庫書き下ろし版」(宝島社) Amazon
この時代小説がすごい! 文庫書き下ろし版

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2012.07.21

「戦国妖狐」第9巻 虚構と史実、同日同刻二つの戦い

 「戦国妖狐」も第二部、千夜編に突入してから早3巻目。千夜の物語もここで最大の山場に突入いたしました!

 己に執拗につきまとう黒龍の少年・ムドに月湖をさらわれ、彼との対決を余儀なくされる千夜。強大な力を持つムドに挑むため、千夜は、己の中に眠る闇(かたわら)と正面から向き合うことを決意します。
 そしてその中で、彼の封じられていた過去が――

 一方、足利義輝は、真介、斬蔵、華寅に、意外なことを打ち明けます。剣の修行の中で、己の未来を視るようになった義輝は、その果てに遂に「時を完結」させ、自らの死を知ったのだと…
 未来を受け入れた義輝は、その日に死ぬことを決め、自分の周囲の人間たちを逃がすことを真介らに依頼します。

 千夜とムドの対決の日、そして義輝が死ぬ日――それこそは永禄8年5月19日。
 その運命の日に向かって、登場人物たちの物語は加速していくことになるのですが、 この千夜編に登場したキャラクターたちのドラマが、この一日のために集約していく様はただただ圧巻であります。

 その中で、主人公たる千夜のドラマは、人と闇という存在を描いてきた本作の(第一部を含めた)一種の総決算として強く印象に残ります。
 遂に封印された己の記憶を取り戻した千夜が、何を想い、何を選択するのか? 人の生とは何か、闇の力とは何か――その両者を結びつけ、折り合いをつけることはできないのか?
 千夜がたどりつくその答えは、いかにも少年漫画的なものでありつつも、しかし同時に本作ならではのものであり、これまでの物語を見守ってきた者にとって、大いにうなづける、そして笑顔になれるものであることは間違いありません。

 しかし――そんな千夜のドラマすら圧倒してしまう巨大な存在感を見せるのは、やはり剣豪将軍義輝その人であります。
 義輝が、松永久秀に攻められ、その異名の所以たる剣の技を存分に発揮した末に討ち取られたというのは、歴史ファン、戦国ファンであればよくご存じでしょう。

 数では勝る松永軍も正面からでは全くかなわず、畳で四方から押し包んだ、あるいは槍で足元を狙って討ち取ったなどという説もありますが、しかしそれを本作では、真っ向からひっくり返してみせる義輝の大暴れ。
 そのぬけぬけとした暴れっぷりはもう痛快の一言で、前の巻に初めて登場したキャラクターとは到底思えない存在感に、ただただ脱帽です。

 誰が義輝を倒すのか、と言いたくなるような状況の中に登場するのが…という、物語の本筋への引き戻し方もインパクト十分ですが、義輝のもう一つの辞世の句が語られる最期の場面もまた見事。
 かなり個性的なビジュアルと言動ではありましたが、しかし、不思議に「ああ、足利義輝だ」と感じられるキャラクターであったと感じます。


 さて、虚構の戦いと史実の戦い、同日同刻に行われた二つの戦いは終結し、おそらく虚構と史実は再び分かれて別の物語が始まるのでしょう。
 戦いの中にポジティブな意味を見出した千夜がどのような旅を続けることになるのか。そして迅火との、五人の怪人との出会いは…、この戦国の中で描かれる今後の物語が待ちきれません。


「戦国妖狐」第9巻(水上悟志 マッグガーデンブレイドコミックス) Amazon


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2012.07.20

「燦 3 土の刃」 三人の少年、ついに出会う

 版元からの原稿の修正指示に悩む圭寿。気晴らしに屋敷の庭に出た彼を襲う暗殺の刃を阻んだのは、燦だった。成り行きから伊月と共に圭寿の警護を行うこととなった燦だが、圭寿の中に得体の知れないものを感じていた。そして圭寿とともに読本問屋を訪れた燦は、そこで意外な存在と出会うのだった。

 最近、私が気になる時代ファンタジー、時代伝奇小説を手に取ると、かなりの確率で解説や推薦の言葉を寄せているあさのあつこの青春伝奇小説「燦」の第3巻が刊行されました。

 田鶴藩の筆頭家老の子で生真面目な少年剣士・伊月、彼の双子の弟であり、田鶴の地に潜む謎の神波一族の一員である燦、そして伊月の主であり、藩主の次男でありながら読本作家になることを憧れる圭寿――
 彼ら三人の少年を巡る物語は、田鶴から江戸へと舞台を移しつつも、さらに動いていくことになります。

 主であり、幼なじみであり、親友でもある圭寿が、兄である藩主の長男の突然の死により次期藩主に就くこととなり、突然慌ただしくなった伊月の周囲。
 圭寿について江戸に出たものの、慣れない環境に戸惑うことばかり。しかも、江戸藩邸では圭寿の命を狙う謎の存在が暗躍し、探索に当たっていた隠し目付が惨殺されることとなります。

 そんな緊迫する事態の中で圭寿を悩ませるのは、余事にあらず、伊月を通じて江戸の版元・須賀屋に見せたところ、書き直しを命じられた読本の原稿のこと。
 なかなかインスピレーションが湧かず呻吟する彼が気晴らしに出た上屋敷の庭で待ち受けていたのは、文字通りの罠!?
 と、冒頭から緩急激しい――いや、お家騒動(と思われる)と、クリエーターの産みの苦しみが同時に描かれる作品をほかには知りません――展開に驚く間もなく、三人の少年を巡る物語は展開していきます。

 そんな本作で注目すべきは、やはり圭寿と燦の出会いでしょう。
 圭寿にとっては、頼もしい伊月の双子の弟。しかし燦にとっては、己の一族の仇である藩主の息子…どう考えても一波乱も二波乱もありそうな関係ですが、しかし野生児・燦も、圭寿のマイペースの前にはたじたじとなってしまうのが面白い。
 その結果、伊月・圭寿・燦と、ほとんと三すくみのような関係が成立することになって、何とも微笑ましいのであります。
(しかし燦の直球すぎる下世話な言葉にはドキッと…)

 しかし、楽しいことばかりではないのが青春。上屋敷の庭にまで潜入してきた謎の敵の正体はいまだわからず、そして得体の知れぬ人物は思いもよらぬ出自を明かすこととなります。
 そしてまた、圭寿の父たる田鶴藩主は、死を黙然として恐るべき怨念とも執念とも言えるものを見せることとなります。
 その言葉に、三人を襲う更なる運命の波乱を感じるのですが――

 しかし、これは声を大にして言いたいのですが、何故今回もこれほど分量が少ないのか。
 三人それぞれのドラマが描かれ、盛り上がってきたところで次巻に続く、というのは、あまりに殺生であります。

 早く、早く続きが読みたい…まんまと作者の掌の上で転がされているような気もしますが、切なる願いなのであります。

「燦 3 土の刃」(あさのあつこ 文春文庫) Amazon
燦 3 土の刃 (文春文庫)


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2012.07.19

「笑傲江湖」 第7話・第8話 快男児、娘心に惨敗す?

 全40話の第7話・第8話ということで、ようやく1/5まで来たTVドラマ版「笑傲江湖」。その割には今回はあまり大きな動きはないのですが、令狐冲の胸中の方は激動…という展開であります。

 これまでの大暴れが祟り、ついに師である岳不群から面壁一年の謹慎処分を食らってしまった令狐冲。面壁とは達磨大師が少林寺で壁に九年間向かって一語も発さず座禅を組み続けたという故事にちなむものですが、さすがにここでは裏山の洞窟に一年間籠もり、一人修行するというもので、まあだいぶおとなしいものであります。
 しかもその間、彼を慕う弟弟子たちが食べ物(酒まで)を差し入れてくれるし、何よりも大好きな岳霊珊と二人っきりになれる…と、ある意味至れり尽くせりのようですが、何ぞ知らん、これこそが長く続く彼の地獄ロードの始まりだったとは。

 令狐冲は華山派掌門・岳不群の一番弟子であり、岳霊珊は不群の娘。令狐冲は岳霊珊を憎からず思っておりますし、彼女の方も何かと彼に懐いてくる。
 華山派の次代は令狐冲と岳霊珊が結ばれて盤石…というのが周囲も含めて暗黙の了解的な状況でしたが、しかしおそるべしは岳霊珊の破壊的な無邪気さと言うべきでしょうか。

 世間知らずどころか人情(特に男の)にも疎い彼女にとって、令狐冲は今のところ大好きな「兄さん」以上のものではなかったということか、令狐冲が面壁中に林平之と急接近。令狐冲が常に側にいればまた違った結果になったかと思われますが、しかし彼と引き離され、そして不群の命で平之に稽古をつけているうちに…という次第。

 最初は毎日のように洞窟に訪ねにきてくれていた霊珊が、だんだん日を開けるようになり…というのは実にわかりやすい関係の変化ですが、それだけに見ているこちらのおなかが痛くなるような展開です。

 にしても、母から譲られた一対の鴛鴦の短剣の片一方を洞窟で令狐冲に渡す→二人でその短剣を合わせる→洞窟の蝋燭が燃え尽きる描写 という、普通だったらこれアレでしょう! というシチュエーションでありながら、結局は何もなかったっぽいのがおそろしい。おそるべきはおぼこの無神経――
 誠に失礼ながら、私は金庸先生は女性描写が今ひとつ…と思っておりましたが、この辺りの厭なリアリティはなかなかのものだ、と感心いたしました。

 まあ、この辺りの展開は、原作を全て読んだ後に見ると、ある人物の、自然かつ善意を装った邪悪な意志が働いていることがはっきりわかるのですが…
 本作のテーマの一つは、人間の情に正派も魔教もない、正邪の対立など曖昧なものだ――言い換えれば、邪に見えたものが正ともなり、正に見えたものが邪にもなる、という点でありましょう。それがここにも表れていたか、と驚かされた次第です。

 と、令狐冲が一人のたうち回っているうちに、相変わらず五山併合を狙う嵩山派の左冷禅は陰謀を巡らし…と思ったらコスプレした岳不群に妨害されたり、儀琳ちゃんは一人令狐冲の無事を祈り…と思ったら魯智深みたいな生き別れの親父が押しかけてきたりと色々と動きはあったのですが、とりあえずこの辺りは今後効いてくるということで…

 第8話のラストシーン、洞窟の令狐冲の前に謎の人影が現れたことで、物語は再び大きく動き出すこととなります。

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2012.07.18

「伏 贋作・里見八犬伝」(その二) 伏という人間の在りかた

 「伏 贋作・里見八犬伝」の続きであります。
 確かに、贋作においても、この後の、安西景連が安房を攻め、追い詰められた義実の言葉から伏姫は八房に嫁ぐ…という展開も同様ではありますが、しかしその先は決定的に異なる形をとります。

 それは、伏姫と八房の間に生まれた(と言われている)子供たちが、馬琴の八犬伝では、やがて心正しき八犬士として成長するのに対し、贋作の方では、彼らは呪われた半獣人「伏」として、この世の闇で生き続けることであります。

 これは個人的な印象ではありますが、馬琴の八犬伝の最もユニークであり、かつ謎めいているのは、八犬士が(たとい霊的にというカッコ付きにせよ)人と犬の間に生まれるという呪われた出生でありながらも、人間の八つの徳目を体現した存在として描かれる点ではないでしょうか。
 この点については既に様々な方が論じていることと思われますが、少なくとも明らかに呪われた物語、忌まわしき物語としての発端が、勧善懲悪の極みとも言うべき物語として昇華していく点には、それが馬琴の個性という以上に不可思議なものを感じさせます。

 その点について、贋作は明確ですらあります。忌まわしい人畜の繋がりから生まれた「伏」は、人間の姿を取りながらもその魂は獣に近い呪われた存在であり、生命としても不完全な存在(伏の寿命は20年程度と、人間よりも遙かに短い)として描かれるのですから。
 もちろん贋作と「伏」の関係含めて一切がこの「伏 贋作・里見八犬伝」という作品であることを考えればむしろ当然ではあるのですが、しかし、八犬士の歪んだ影とも言うべき「伏」の方が、より自然な存在に見えるのは、私だけでしょうか。


 しかし、本作の更に、そして真にユニークな点は、そうでありながらも、「伏」もまた、人間の一つの現れであることを示す点であります。。

 獣の血を受け継ぎ、凶暴な魂を持ち、人ならざる者として差別される「伏」。そんな存在でありながらも、いやそれだからこそ――彼らは肉親の情愛を、愛し愛し合う者の存在を、己が在るべき場所を、誰よりも激しく求める者である。それが、本作の後半で語られる第三の物語、「信乃の語り 「伏の森」」によって示されるのです。

 「伏」が持つ感情、「伏」が求めるものは、我々人間のそれとなんら変わるものではありません。それならば、「伏」もまた人間――人間の持つある側面が突出した存在であるだけなのではないか。少なくとも人間と「伏」は、コインの表と裏のような存在なのではないか?
 そう、本作で別個の存在、対立する存在として描かれる人間と「伏」、そしてその代表というべき浜路と信乃は、人間の持つある二つの心の象徴とも言える存在であります。
 それは「秩序」を求める心と、「自由」を求める心――その二つです。

 贋作で語られる「伏姫」の名の由来。それは、父母に、家族に、そして国家に、城に、里に人々に伏せる――すなわちそれらを平和に治め、それを守ること、「秩序」を求める想いを込めたもの。
 その一方で、数奇な運命を経て彼女から生まれた「伏」たちの本能は、それと対照的に、己の求めるままに他者を殺し、犯し、奪うもの――「自由」が最も極端に表れたものなのです。

 誰にも必ずある「秩序」を求める心と「自由」を求める心。そのバランスは人それぞれであり、そして同時に容易に移ろうものであります。
 贋作において、伏姫と鈍色の関係、そして二人に対する周囲の扱いが、幼少時と成長してからで逆転した形で描かれるのは、この二つの要素の不安定さを象徴するものであり、そして同時に、二つが容易に逆転することを示したものでしょう。(そして浜路と信乃の間の不思議な交感もまた…)

 そしてこの二つは、人が人である限り、必ず存在するのであり――それは、どれだけ儚く不完全なものと見えようとも、信乃のような「伏」がこの先も存在し続けること、そして浜路のような狩人の戦いがこの先も続くことをも意味するのではないでしょうか。


 現実と虚構、虚構と虚構の間に、「八犬伝」という物語を読み解き読み替え、そしてその中に人間と「伏」という存在を浮かび上がらせることにより、人の存在な何たるかを描く――本作はそんな刺激的な作品なのです。そしてこの作品を、アニメ版がどのように読み解いてくれるのか、それもまた、大いに楽しみなところであります。

「伏 贋作・里見八犬伝」(桜庭一樹 文藝春秋) Amazon
伏 贋作・里見八犬伝

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2012.07.17

「伏 贋作・里見八犬伝」(その一) 少女狩人は江戸を駆けめぐる

 江戸で「伏」と呼ばれる半獣人による凶悪な事件が頻発していた。まだ若いが腕利きの猟師・浜路は、江戸に出て浪人の兄・道節とともに伏狩りを始める。そんな彼女たちの活躍を瓦版にする怪しげな青年・冥土と出会った浜路は、伏の起源にまつわる「贋作 里見八犬伝」なる奇怪な物語を聞かされる…

 この秋に「伏 鉄砲娘の捕物帳」のタイトルでアニメ化される「伏 贋作・里見八犬伝」を遅まきながら読みました。
 まさに「南総里見八犬伝」が完結間近の江戸時代後半を舞台に、犬の血が混じっているという言われる凶暴な者たち「伏」を狩るために江戸中を奔走する少女と兄の活躍を描く活劇(…というのが表向き)である本作。
 敵役である「伏」の面々に、信乃・現八・毛野…と、八犬士たちの名前が取られており、そしてそれに抗する主人公の名が浜路、兄は当然(?)道節というのにまず驚かされますが、しかし本作の仕掛けはそれだけに留まりません。

 浜路(そして「伏」)に何かとつきまとい、彼女の活躍を瓦版にして売る変わり者の青年・冥土――実は彼は、「南総里見八犬伝」の作者である滝沢馬琴の子であり、父とは微妙な距離を取っている、いわゆる不肖の子。
(ちなみに記録に残る馬琴の男子はこの時既に亡くなっているので架空の存在と思われますが、それはさておき)
 そして父の八犬伝執筆の際に彼が安房に取材し、それを元にまとめたもう一つの八犬伝が「贋作・里見八犬伝」であり、「伏」たちの出自を語る物語なのです。

 本作は、大きく分ければ二つのパートに分かれます。浜路が伏を向こうに回して活劇を繰り広げるパートと、冥土が記した「贋作・里見八犬伝」の内容を記したパートと…(さらに後半には、伏の信乃が語る自身の物語のパートも加わりますが)。
 すなわち、「南総里見八犬伝」という物語を柱として、虚実が縦横に入り乱れる物語――本作は、そんな作品なのであります。


 その本作で中心となるのは、もちろん、鉄砲片手に山から出てきた少女狩人・浜路の活劇であることは間違いありません。
 「南総里見八犬伝」の儚げな浜路とは全く対照的に、まだ幼いながら狩人としての魂を持ち、山だしならではの物怖じしない活発さで獲物に向かって突き進んでいく彼女の暴れっぷりは、なかなか痛快。
 吉原を、江戸の地下に張り巡らされた地下通路を、そして江戸城内部を、伏を追って彼女が縦横に駆け巡る様は、呑気でだらしないがいざという時には頼りになる兄・道節との掛け合いも楽しく、この辺りはさすがにこの作者ならでは、と言えます。

 しかしそんな痛快なエンターテイメントの皮を被りながらも、その下で「八犬伝」という物語、そして人間という存在にまで踏み込んだ物語を描き出すのが、本作の曲者たるゆえんでしょう。
 ある意味本作のメインであり、そして私が浜路の活躍以上に大いに興味を引かれた部分――それこそが、冥土が記す「贋作・里見八犬伝」のその内容です。


 安房国を治める里見義実に一人の娘が生まれた。森の民の占い師から呪いの子と呼ばれた彼女を、伏姫と名付けた義実。美しくも男勝りに育った伏姫は、己に似ない醜い弟・鈍色と激しく憎み合うが、二人の前に八房という犬が現れた。鈍色から八房を奪った伏姫だが、彼女と八房を数奇な運命が結びつける…

 このようなあらすじの「贋作」。これだけ見れば(鈍色の存在はあるものの)、我々のよく知る八犬伝の発端と、大きくは異ならないように思われます。しかし…

 長くなりますので、次回に続きます。

「伏 贋作・里見八犬伝」(桜庭一樹 文藝春秋) Amazon
伏 贋作・里見八犬伝

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2012.07.16

「十 忍法魔界転生」連載決定記念 「魔界転生」総まくり

 時代伝奇ファンにとって最近最も大きなニュースは、せがわまさきによる山田風太郎の「魔界転生」の漫画化、「十 忍法魔界転生」の連載開始ではないでしょうか。
 この作品自体は連載開始後に取り上げたいと思いますが、ここで、今までに発表された「魔界転生」という作品のバリエーションを振り返ってみるのも悪くない試みでしょう。

 言うまでもなく「魔界転生」は山田風太郎による小説ですが、この作品の持つものは、後世のクリエーター(そして売り手)にとって大いに魅力的であったらしく、商業作品を挙げただけでも、かなりの数にのぼります。
 そのうちの多くはこれまでこのブログ等で取り上げていますし、まだの作品についても近いうちに取り上げたいと思いますが、ここではリストアップがてら、簡単に各メディアごとに各作品に触れてみたいと思います。

○小説
「魔界転生」(1964-65)(山田風太郎 角川文庫ほか) Amazon
 言わずとしれた元祖であり、作者の作品の中でも最も有名な作品でしょう。旧題「おぼろ忍法帖」、後に「忍法魔界転生」、そして現在のタイトルに変更。
 忍法帖としても、剣豪小説としても破格の作品でありますが、立川文庫等で語られてきた剣豪たちの物語を、一種のパロディとしてまさに転生させて、こうして現代まで残したことが、ある意味最大の意義かもしれません。

○映像
「魔界転生」(1981)(監督:深作欣二 東映) Amazon
 魔界転生の名を一躍知らしめることとなった角川映画。十兵衛役ははまり役の千葉真一ですが、それに勝るとも劣らぬ存在感を沢田研二演じる天草四郎が見せたことで、以降の作品のほとんどでは、四郎が敵の中心として描かれることに…
 物語的には、骨子の部分と登場人物を借りたほとんど別物でありつつも、それでもなお面白い名作。本当に燃え落ちる舞台の中での、十兵衛と但馬守(若山富三郎)のラストバトルは、既に伝説であります。

「魔界転生 The ARMAGEDDON」「同 魔道変」(1996)(監督:白井政一 徳間ジャパンコミュニケーションズ) Amazon
 全二作のビデオシネマ。十兵衛役は渡辺裕之。ビデオシネマであることを考えればまずまずですが、オリジナル部分で時々妙にぶっ飛んだシーンを楽しむべきでしょうか(春日局の転生は魔界転生史上に残る珍シーン)。
 珍しく四郎が敵方の中心ではなく、原作の森宗意軒の立場に由比正雪がいるのも特徴。日本では未DVD化。

「魔界転生 地獄篇 第一歌」「同 第二歌」(1998)(監督:浦田保則 アミューズ・ビデオ) Amazon
 全4巻予定のOVA作品。残念ながら2巻までが発売されて未完となっています。十兵衛の声は玄田哲章、四郎の声は置鮎龍太郎。
 転生衆が集まってきたところでの終了でしたが、十兵衛と四郎が島原の乱で一度対決するなど、オリジナル要素、それもアニメらしいぶっ飛んだ部分(荒木又右衛門の足八本とか)が多く、未完、さらに日本では未DVD化なのが惜しまれます。

「魔界転生」(2003)(監督:平山秀幸 東映) Amazon
 十兵衛役は佐藤浩市、四郎役は窪塚洋介。魔界転生の過程がかなり独特なため、登場する転生衆も一風変わったキャラクターが登場しますが、一本の映画としてみた場合には今ひとつ盛り上がらないというのが正直なところです。

○漫画
「魔界転生」(1987)(石川賢 講談社漫画文庫ほか) Amazon
 あの石川賢による魔界転生漫画化の、いや時代伝奇漫画の金字塔。原作の設定を踏まえつつも、作者が幾度かモチーフとした神と悪魔の戦いの次元まで達した作品内容は、ある意味原作を超えたと言えます。
 無茶苦茶やっているようで、キャラクターのビジュアルなどは存外原作の描写を踏まえているのも見事。

「魔界転生」(1999)(とみ新蔵 リイド文庫 全2巻ほか) Amazon
 現在のところ、原作にほぼ忠実な唯一の漫画版。剣豪漫画の巨匠が描くだけに、剣戟描写は確かなものがあります。あまりにも真っ当なすぎる漫画化なのがかえって寂しい、というのは失礼かもしれませんが…

「魔界転生 夢の跡」(1997)(鳥羽笙子 角川書店あすかコミックスDX 全2巻) Amazon
 なんと田宮坊太郎を主人公とした極めてユニークな作品。四郎によって魔界転生した坊太郎が、かつての想い人と瓜二つの娘と出会ったことから…と、少女漫画的趣向を取り入れることで、十兵衛vs四郎の物語でありつつも、坊太郎視点で描くことにより、全く異なる味わいの作品となっています。

「魔界転生 聖者の行進」(2003)(九後奈緒子 角川書店あすかコミックスDX) Amazon ブログ記事
 2003年映画のタイミングで発表された漫画。独特の絵柄・描写のために好き嫌いははっきりわかれるかと思います(特にアクション描写は感心しません)が、四郎に死という救いを与えようとする十兵衛、望まぬ生を嫌悪し十兵衛の強さに天主の姿を見る四郎と、キャラクター描写は面白い作品です。

○舞台
「柳生十兵衛 魔界転生」(1981)(JAC)
 千葉真一が十兵衛を、志保美悦子が四郎を(!)演じた豪華版。配役を見ればわかるように、天草四郎女性説に基づいているとのこと。未見なのが非常に悔しい…

「魔界転生」(2006)(G2 松竹ホームビデオ) Amazon ブログ記事
 中村橋之助が十兵衛を演じた舞台…というとかなり意外に感じられるかもしれませんが、確かに線は細いものの、成宮寛貴演じる四郎(これがまたはまり役)らの悲しみを受け止める人間味溢れる十兵衛像はなかなか良い。ストーリー的にも原作に近いのが特色ですが、最大の弱点は殺陣が今一つなところでしょうか。

「魔界転生」(2011)(劇団ヘロヘロQカムパニー) ブログ記事
 関智一率いる劇団ヘロヘロQカムパニーによる舞台で、関智一の十兵衛をはじめ、浪川大輔の四郎など、有名声優も多数出演。
 転生シーンなど、舞台でここまでやると思わなかった描写の数々も面白いですが、最大の特徴は深作版と原作の良いところ取り的にアレンジされたストーリー。ラストがちょっと慌ただしいですが、意欲作です。

※演劇については上記以外も上演されているかとは思いますが、とりあえずある程度のメジャーどころをピックアップしました

○ゲーム
「魔界転生」(D3パブリッシャー プレイステーション2用ソフト) Amazon
 2003年版映画に合わせて発売されたのですが、何故かローグライクゲーム。ベースとなっているのが悪名高きSIMPLE2000シリーズの「THE ダンジョンRPG 忍 魔物の棲む城」――というだけでゲーマーの方にはどのような作品か予想できると思います。最初はフルプライスで、後にSIMPLEシリーズで再販されましたが、ワゴンの常連でした。


 以上、大変駆け足でしたが、これまで発表された「魔界転生」はほぼカバーできているかと思います。

 個人的なオススメを挙げるとすればとしては、原作はもちろんとして、深作欣二の劇場版と、ヘロヘロQカムパニーの舞台版は、魔界転生初心者(?)が見ても楽しめるのではないかな、と思いますので、ぜひ(石川賢版は次点)。

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2012.07.15

「風の王国 2 契丹帝国の野望」 激動の時代を生きる者たち

 己が渤海の王族の血を引くことを知った明秀は、契丹からの圧力を受ける渤海への援兵を募るため東日流に帰国。宿敵・耶律突欲の方術に対するため、御靈使を探す。一方、渤海では、契丹との摩擦を避けるため、耶律突欲に芳蘭を輿入れさせんとしていた。国のために受け入れる芳蘭だが、思わぬ波乱が…

 10世紀前半の東日流と渤海を舞台とした大河活劇「風の王国」の第2巻であります。

 遣渤海使の一行に加わって海を渡り、そこで契丹の皇太子にして間諜の耶律突欲を向こうに回しての活劇を繰り広げる中、自分が陰謀で国を追われた渤海王族の生まれと知った明秀。

 己のルーツを知った明秀は、渤海王からの、対契丹への援兵を請う国書を携え、二月ぶりに東日流に帰還することとなります。
 さらに明秀は、優れた方術使いである突欲と戦うため、同様の力を持つ者・御靈使を求めて東日流の三つの聖地――神津野・野辺地・宇曾利を訪れ、そこで数々のこの世ならざるものを垣間見ることに…

 その一方、契丹の侵略に怯える渤海王は、突欲が拉致されかかったという契丹の言いがかりの前に、渤海の港町・麗津を治める大徳信の妹・芳蘭を差し出すことを決定。
 突欲の待つ遼陽まで旅することとなった芳蘭ですが、しかしそこに思わぬ妨害者が現れ、事態は全く予想もしなかった展開を迎えることとなります。


 全10巻を予定しているという本シリーズの第2巻ということで、起承転結でいえばまだ起の部分と言えるかもしれない本作。
 今回は明秀が渤海と東日流を往復するという役回りで、動きが控えめだったせいか、物語の方も前半は比較的落ち着いた印象なのですが、しかし終盤は怒濤の展開であります。

 おそらくは本シリーズのヒロインであろう芳蘭が、宿敵たる突欲の下に輿入れという危機(?)に、まさかこういう時に動くと思われなかった人物が動き、そして本人も気づかぬ心の底が暴かれていく中始まる大殺陣!
 途中、ある意味ネタバレとも言える(この物語の時点からは)未来の史実を記した一文が挿入され、何故ここでそんな野暮を…と思いきや、それが全く別の意味を持って立ち上がってくるラストには、ただただ驚かされました。


 そしてまた、本作の見所はこうした派手な活劇だけに留まりません。
 明秀、芳蘭、突欲…メインとなる人物だけでなく、本作に登場するキャラクターが、皆それぞれに確とした個性を持ち――すなわち、己自身の意志を持ってこの激動の時代に生きている様が、何とも魅力的に映ります。

 この巻で初登場した面々――食えない爺さんぶりを発揮する東日流王・安東高星、まだその能力は未知数ながら激しくキャラが立った御靈使三人娘(?)、契丹を利用して渤海の支配体制を崩そうとする須哩奴夷靺鞨のゲリラたち等々――も、単なる書き割りにならぬ、まさしくその時代に確かに生きた存在として、感じられるのであります。

 そしてそれは、明秀たちの敵役となる契丹側も変わりません。
 この巻のサブタイトルでは悪の帝国のような扱いの契丹ではありますが、しかしその皇帝とその不遇の子たる突欲の会話を見てみれば、彼らの征服行為もまた、幾多の国が生まれ、滅ぶ大陸の熾烈な歴史の流れの中で、何とか生き残ろうとする必死の試みであり――その意味では彼らも明秀と異なることなく、必死に時代を生きた存在であると理解できます。


 しかしそれであったとしても、いやそうだからこそ、彼らは自分たちの存在を賭けて戦わざるを得ません。
 御靈使から、歴史の中の「標」と呼ばれた明秀――彼の存在が、この激動の歴史の中で人々をどこに導くのか。大河ロマンの醍醐味がここにあります。

「風の王国 2 契丹帝国の野望」(平谷美樹 角川春樹事務所時代小説文庫) Amazon
風の王国 2 契丹帝国の野望 (ハルキ文庫 ひ 7-8 時代小説文庫)


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2012.07.14

「忍剣花百姫伝 2 魔王降臨」 動き出すキャラクターたちの関係性

 捨て丸こそは行方不明となっていた八剣城の姫・花百姫だった。仲間たちと引き離され、海賊船・九鬼丸に拾われた捨て丸。しかし玉造城の危難を知らせる報を知った捨て丸は、水天の法で駆けつけようとするが、異空間に迷い込んでしまう。そして玉造城の火海姫にも、八忍剣と意外な繋がりがあった…

 戦国時代を舞台に、忍者の城・八剣城の花百姫と、彼女を護る勇者たちの戦いを描く時代活劇冒険ファンタジー「忍剣花百姫伝」、待ちに待った文庫版の第2巻が登場です。
 第1巻の時点で怒濤の展開に大いに興奮させられましたが、この第2巻も引き続き波瀾万丈、解けた謎、深まる謎、いよいよ物語は盛り上がるばかりであります。

 野武士たちに育てられていた孤児の少年・捨て丸。男勝りの美しき姫・火海姫を擁する玉風城と、豪傑・鳴神流山率いる鳴神一党の争いに巻き込まれた捨て丸は、その中で自分の失われた記憶を取り戻します。
 十年前、何者かの襲撃により一夜にして滅んだ八剣城――捨て丸こそはその城の忘れ形見・花百姫であり、伝説の九神宝の一つ・天竜剣を継ぐ者であったのです。

 この第2巻では、不審な行動を見せる謎の美剣士・美女郎によりいずこかへ飛ばされてしまった捨て丸が、鳴神一党に加勢する九鬼一幻斉率いる海賊の隠れ島を訪れる場面から始まりますが、それと並行して、各地にちりぢりとなったメインキャラクターたちも様々な動きを見せることとなります。

 八忍剣の一人であり、人知れず姫を守護してきた水天の法の使い手・霧矢。策略によって一党を壊滅状態に追いやった美女郎に怒りを燃やす流山。父の口から自らの出生にまつわる意外な秘密を知らされる火海姫。そして天竜剣と対になる地竜剣の使い手である相馬天兵は何と…!

 善魔入り乱れた様々なキャラクターたちがそれぞれの想いを胸に出会い、戦い、別れ…互いの道に影響を与え合い、その関係性が複雑なうねりとなって物語を動かしていく。
 これこそはまさに伝奇ものの醍醐味、大きな魅力の一つでありますが、この第2巻においては、どこを取ってもその魅力に満ちあふれていると言えましょう。まったく、まだ第2巻なのにここまでクライマックスの連続でいいのか、と言いたくなってしまうほどであります(もっとも、第1巻の時点で冒頭から既に全力疾走だったのですが…)

 そして、実はそんな物語において中心的な位置を占めているのは、現時点で物語の悪役をほぼ一手に引き受けている感のある美女郎であります。
 空間転移術である飛天の法を操る八忍剣の一人でありながら、奇怪な死人の軍を率い、そして巨大な謎の魔物と行動を共にする美女郎。人の心を持たぬように冷酷にして不敵な表情を見せる美女郎ですが、しかしそこに時折――自分では人を捨てたと嘯きつつも――時折、情のようなものが見えるのがまた気になるところ。
 色々な意味で実においしすぎるキャラクターではありますが、果たして彼は何を目的として行動しているのか、それが明かされる時が、物語の大きな秘密が明かされる時であることは間違いありますまい。


 この巻のクライマックスでは、その美女郎の非道を止めるために水天の法で異空間に飛び込んだ捨て丸が、ついに天竜剣を覚醒させるとのですが(このシーンの疾走感がまたお見事!)、それはまた、彼女の存在が敵に知られたということでもあります。
 戦いが新たな次元に踏み込んだ中で、捨て丸の、彼女を取り巻くキャラクターたちの関係性がどのように変化していくのか。そしてこれから先、どんなキャラクターが登場するのか。
 第1巻の感想でも述べましたが、今回もまた、次の巻までの2ヶ月が待ち遠しくて仕方ないのであります。


 ちなみに、捨て丸と霧矢が水天の法で飛び込んだ異空間の正体(?)は、なんと滑りすじ。 ここでこういうワードがフッと出てくるのも、異世界ではなく(多分にファンタジックとはいえ)我々の知る世界を舞台にした物語ならではの楽しさではありますまいか。

「忍剣花百姫伝 2 魔王降臨」(越水利江子 ポプラ文庫ピュアフル) Amazon
忍剣花百姫伝(二) (ポプラ文庫ピュアフル)


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2012.07.13

「ぐわんげ」 闇と黄金と破壊の室町シューティング

 Xbox360購入記念の時代劇ゲーム特集(ということにして下さい)第2弾はケイブのシューティングゲーム「ぐわんげ」。
 いわゆる弾幕シューティングに分類される作品ですが、舞台は室町時代、主人公は式神を連れた三人の男女という、極めてユニークな作品であります。

 13年前(!)の1999年にアーケードゲームとして発売され、長らく家庭用に移植されてこなかった作品ですが、現在はXbox360のダウンロード配信でプレイすることが可能となっているのはありがたいお話です。

 時は室町時代、主人公は狂気に陥り人食いと化した仮面の男・シシン、鬼討ちの家に生まれながらも式神を宿し家を追われた少女・小雨、凶暴な式神を宿した賞金稼ぎの少年・源助の三人。本作は、この三人がそれぞれの目的のため、黄泉への扉の先にあるという獄門山に潜む神を討つために戦いの旅を繰り広げる様がバックグラウンドとして設定されています。
 あくまでも室町時代というのは設定上で、史実と絡むということはほとんど全くないのですが、しかし作品の設定からビジュアルに至るまで、全体を支配する昏い(そして時に荒々しい)ムードは、室町時代の雰囲気を良く表しているのではないか…と個人的には感じます。

 何しろ、本作で言う式神とは、いわゆる陰陽師が使役するそれとはまた異なる存在。
 主に宿り、超常的な力を貸すものの、主とは別の意志を持ち、そして力を貸す代償に主の命をわずか一年で食らい尽くす、一種の寄生生物なのであります。
 つまり主と式神の関係は、主従や相棒と言うよりも、お互いに利用しあう関係。両者の間の緊張関係が生む殺伐とした空気は、本作の基調を成しているという印象があります。

 そしてゲームシステムとしても、この式神は極めて大きなウェイトを占めます。呼び出された式神は> フェデラル・ヒルで、敵の放つ弾に重ねることでそのスピードを遅くする能力を持ちます。同時に式神は敵に重なると爆弾を落としてダメージを与えるのですが…
 面白いのは、式神によって敵が倒された場合、その敵が放っていた弾で、式神の力で遅くなっていたものは、金(得点)に変わるという点です。つまり式神の存在は攻防一体の上に稼ぎの手段であり、そして稼ぐためには敵弾を画面上に出来るだけ多くの敵弾を出させる必要がある。
 このハイリスクハイリターンの構図が、プレイヤーの意志が、わかりやすく明確な形で反映されるのには、感心させられました。

 と、これはもちろんゲーマーとしての感想。時代ものとしては、先に述べたとおりあくまでも設定上に留まる…のではありますが、しかし個人的には、本作をプレイして受ける印象は、奇妙なほど「室町時代」を感じさせるのです。
 式神をはじめとする魔という闇の存在、その闇を前にしても尽きぬ人の欲望の象徴である金、そして画面上にぶちまけられる無数の破壊。
 闇・黄金・破壊…そのそれぞれが一体となって、どこか美しいビジュアル絵巻を成す様が、実に「室町」的である。というのは、これは室町伝奇好きの牽強付会な見方に過ぎるかもしれませんが、しかし本作が、本作でしか描けない世界を、設定から操作感、ゲーム性まで一体となって描いているのは、間違いありません。


 まあ、登場する妖怪の中には江戸時代の(妖怪画を元にした)ものも含まれていますし、敵の中でやたら木造戦車が目立ったりするので、やはり「的」どまりに留めておくべきなのかもしれませんが、それはそれで。

「ぐわんげ」(ケイブ Xbox Live Arcade用ソフト)

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2012.07.12

「鋼の魂 僕僕先生」 真の鋼人は何処に

 雲南の国境地帯・程海までやって来た僕僕と王弁たち。唐・吐蕃・南詔の三国の争いに巻き込まれたこの地で、一行は戦災孤児を育てる宋格之と呉紫蘭に出会う。押し寄せる大軍勢を前に、彼らをはじめ程海の人々を救うためには、湖底に眠るという無敵の「鋼人」を目覚めさせるしかないというのだが…

 美少女ボクっ子仙人とニート青年の珍道中…というレベルでは収まらなくなってきた人界と仙界を繋ぐ冒険活劇「僕僕先生」、第6弾は「鋼の魂」であります。
 前々作「さびしい女神」、前作「先生の隠しごと」と、二人にとってはなかなかハードなエピソードが続きましたが、今回は小休止の印象。といってもそれは二人にとって、というだけであって、物語の方は今回もキャッチーな外観とは裏腹に、骨太の内容です。

 吐蕃の医術を学びたいという王弁に希望で、はるばる雲南の国境ちかくの町・程海までやってきた一行。彼らは、その程海から少し離れた所でで独立した生活を営む宋格之と呉紫蘭という二人の男女、そしてたくさんの子供たちと出会います。
 この子供たちは戦争で親を亡くした子供たち、格之と紫蘭は彼らに生きるための術を仕込みながら暮らしていたのですが、実はこの二人はわけあり。
 実は格之は玄宗皇帝の隠密機関・胡蝶所属の「捜宝人」。そして紫蘭は、ある宝を求めるその格之によって父を殺された娘――そんな関係にありながら、「子供を育てる」ということで結びついた二人が、実は本作の中心と言えます。

 本作においては、王弁と僕僕は、狂言回し的位置づけにあります。彼らはあくまでもこの地を通りがかった旅人であり、そして彼らの目を通じて本作は語られることになるのですが、しかし、あくまでも物語の中心にいるのは格之と紫蘭、そしてこの程海の地に暮らす人々に他なりません。
 程海は、唐と吐蕃と南詔という三つの大国が領土を接し、鎬を削る地。そこに暮らすのは、以前から雲南の地に暮らす人々だけではなく、格之と紫蘭の子供たちに象徴されるように、これらの国に滅ぼされた国の人々であり――すなわち、この地から他に行く場所を持たない人々であります。

 大国同士の争いの前には、いかな僕僕の術も無力――いや、無力ではないのかもしれませんが、彼女はその力を積極的に用いようとはしません。
 そこでクローズアップされるのが、この地に眠るという宝…格之がかつて皇帝から直々に捜索を命じられた宝、その手がかりのために紫蘭の父を殺めた宝である伝説の「鋼人」。
 はるかな昔、この地を守って無敵の力を誇った空にそびえる鋼の勇者、いつしか姿を消したものの、この地の湖の中に眠ると言われる伝説の巨人を最後の希望として人々は力を合わせ、王弁たちもその探索に力を貸すこととなるのです。

 果たして本当に鋼人は存在するのか。その力のほどは、そしてその正体は…大国の軍勢が迫るというタイムリミットの中描かれる探索行自体ももちろん楽しいのですが、しかし本作で最も印象に残り、魅力的であるのは、この鋼人への希望を中心に、人々の心が結びつき、確かな力となっていく様でありましょう。
 程海に暮らす人々も、決して一枚岩ではありません。それどころか、同じ危機を前にしても、互いを疑い、それぞれのエゴに動かされ傷つけあうという、度し難い――しかしそれだけにまことに人間くさい人々なのです。
 しかしそうであっても、人は同じ目的のために手を携えることができる。互いを想い、支え合うことができる――本シリーズで幾度も描かれてきた人間という存在に対する希望は、本作においても確かに存在します。
 そしてそんな人の心の光こそが、鋼人にも負けぬ力なのであり――そして、本作の最終章のタイトルが「鋼人たち」である意味なのでしょう。
 そう、本作は僕僕たちが脇に回らなければならない物語、普通の人々が中心にならなければならない物語だったのであります。


 現実はもちろん甘いものではありません。どこまでも厳しく、残酷で、思い通りにはならない冷たい世界であります。仁木作品は、ユーモラスで賑やかな見かけの中で、その世界のシビアさを描き――そしてそれと同時に、その中でも決して消えることのない希望の光を、どこまでも優しい眼差しで描きます。

 それは、無骨な鋼の身体に隠された「鋼の魂」の存在にも似ている…というと綺麗すぎるかもしれませんが、しかし、その優しさこそが仁木作品の本質であり、最大の魅力であるというのは、仁木作品のファンの方は頷いて下さるのではないでしょうか。

「鋼の魂 僕僕先生」(仁木英之 新潮社) Amazon
鋼の魂 僕僕先生


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2012.07.11

「笑傲江湖」 第5話・第6話 友情の結末と秘伝の争奪戦と

 えらく間が空きましたが、TVドラマ「笑傲江湖」の第5話・第6話であります。
 今回は前半で正派と魔教の間の悲しい友情の結末が描かれ、後半で林平之と辟邪剣譜争奪戦が描かれるという、ある意味わかりやすい構造であります。

 第4話ラストで嵩山派に捕らわれた令狐冲と岳霊珊、儀琳の三人ですが、突然壁に自分の姿を映し出す形で現れた(これ、絶対武術のレベルじゃないと思います)聖姑に助けられてあっさり脱出成功。岳霊珊と別れた令狐冲と儀琳は、隠棲していた劉正風と曲洋の二人と再会します。

 ついに秘曲「笑傲江湖」を完成させた二人は楽譜を令狐冲に託し、最初で最後の合奏を行うのですが(ここで儀琳が隣にいるのに、この曲を聴いたのは自分だけと喜ぶ令狐冲の頭はどうなっているのか)、しかしそこにも嵩山派の魔の手が。
 何だか最近裏方ばかりやっている印象の聖姑により雑魚は一掃されたものの、その間に一派の高弟・費彬により曲洋の孫が殺され、手負いの令狐冲たちも全く及ばぬ有様…
 というところで個人的に今回のハイライト、飄然と現れた劉正風の兄弟子、瀟湘夜雨莫大先生の仕込み剣が一閃! 前回から外道ぶりを発揮してきた費彬をすれ違いざまに、斬られたとも気づかせずに斬る様は、ある意味お約束ではありますが、実に痛快。無茶苦茶強い爺さん愛好家としてはたまらない展開でありました。

 さて、劉正風と曲洋はここでフェードアウト(自決したことがほのめかされる)し、令狐冲は儀琳とも別れて一人ほっつき歩く間に、師匠の岳不群が青城派の面白総帥・余滄海と戦うのを覗き見たり、存在を忘れかけていた林平之の両親を見つけたりと、イベント遭遇率の高さを発揮。
 林平之の両親は、ここで息子を華山派に託すと令狐冲に告げて力尽きる(母親の方は床に頭を叩きつけて壮絶死)のですが、ここで令狐冲だけが遺言を聞いたことが、後々問題にならなければいいのですが…

 さて、晴れて林平之が入門した華山派ですが、無敵の剣法を記したという辟邪剣譜の継承者である彼が加わったということは、剣譜を狙う者たちが華山派を狙うことになったということであります。
 というわけで、第6話では華山に帰る一行を襲う数々の敵の魔手が描かれるのですが、令狐冲がおとなしくしているおかげで比較的落ち着いた物語展開。
 一カ所、突然林平之が船上から誘拐されかかっているところから始まる場面があり、尋常ではない省略の仕方で面食らうことはありましたが…

 さて、ここで華山派を襲うのは嵩山派と青城派なのですが、どちらかと言えば頭を使っているのは嵩山派。占い師に化けて平之を誘き出そうとしたり、魔教の者たちに化けて攻撃を仕掛けようとしたり(それが逆鱗に触れてまたもや聖姑にブッ殺されるわけですが)、果たしてどの辺りが「正派」なのか、原作既読者にもわからなくなってきます。
 もっとも、この正派や魔教といった区分にさしたる意味がないことはある意味原作のテーマの一つであるわけですが…原作未読の方はそろそろ混乱してくるのではないかと余計な心配をしてしまった次第。

 さて、そんなわけで今のところ悪役をほとんど一手に引き受けている嵩山派ですが、ついに総帥の左冷禅が登場。原作でも屈指の実力者だっただけに期待したのですが、ビジュアル的には小太りのおじさんだったのが非常に残念…
 それはともかく、まだ色々と悪だくみのタネはあるようなので、これからも物語を引っかき回してくれるのでしょう。


 そして一番物語を引っかき回す主人公はようやく華山に帰還。師匠の奥さんと突然始めた文字通りの真剣勝負の結果…ところで、次回に続くことになります。
 …本当に引き方がよくわからないドラマですなあ。

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2012.07.10

「修羅 加藤段蔵無頼伝」上巻 惡忍、信濃に現る

 越前・越後を騒がせた後、加藤段蔵の姿は信濃善光寺平にあった。飯綱大明神の主・千日太夫のもとに身を寄せた段蔵は、武田家の重臣・香坂昌信に接近し、武田晴信を動かそうとしていた。しかし雑賀衆、服部正成、風魔小太郎、そして復讐鬼・土髑髏と凶獣・邪見羅ら凄腕たちが段蔵を狙い、動き始めた…

 惡忍・加藤段蔵が帰ってきました。
 伊賀と甲賀を同時に敵に回しながら意に介さず、己の欲望のままに周囲を操って乱と戦を巻き起こすピカレスクヒーロー、再びのお目見えであります。

 前作「惡忍 加藤段蔵無頼伝」では、初お目見えとなった段蔵が、越前朝倉家に接近して一向一揆と事を構え、さらに越後に移って長尾家で大騒動を引き起こす様が描かれました。
 その中で、かつて段蔵が伊賀を捨て、悪忍と化す原因を作った服部兄弟を倒した段蔵は、一端は戦国の闇の中に姿を消したのですが――

 もちろん、これで段蔵の戦いが終わるわけではありません。本作において、段蔵は信濃善光寺平に出現。数々の宗教上の聖地であり、越後と甲斐の間で独自の勢力圏となっているこの地を足がかりに、今度は段蔵は武田家に接近することとなります。
 実は本作の冒頭で描かれるのは、第二次川中島の戦い、いわゆる犀川の戦いとも呼ばれる合戦ですが、その陰で糸を引いていたのが実は段蔵、という趣向。
 いやはや、史実においても上杉と武田の間で跳梁したと伝えられる段蔵(もっとも、その結果、信玄の命で討たれたと伝えられておりますが)ですが、まさか川中島の合戦まで動かしてくれるとは思いませんでした。

 前作同様、本作においても周到な事前の準備と巧みな話術、そして何よりも事に及んでの桁外れの胆力で、周囲の人々を利用し、目的とする相手の懐に潜り込んでいく段蔵の悪党ぶりを存分に楽しませていただきました。

 しかし本作の魅力は、もちろんそれだけではありません。段蔵をはじめとする、裏世界の住人たち――忍びたちの死闘も、前作以上にスケールアップ。
 毒物使いのお六と火術使いのお七の弁天姉妹や、小ずるく立ち回る(がいつも段蔵に振り回される)黒駒の座無左ら、ある意味段蔵サイドの面子も健在ですが、しかしそれ以上に今回は敵方が凄まじい。

 段蔵すら利用して邪魔だった二人の兄を排除し、今再び段蔵の首を狙う魔童子・服部半蔵正成。一見騒々しいカブキ者(戦国ドレッドヘア…)ながら底知れぬ実力を持つ雑賀孫一と雑賀衆。段蔵が春日山城から奪ったある物を奪回するために牢獄から解き放たれた軒猿衆の最終兵器・第三の目を操る邪見羅。そして、段蔵と正成に激しい復讐心を燃やす屍人使いの怪人・土髑髏――

 いやはや、段蔵を中心にしてとんでもない面子が集まったもの。まだまだ顔見せ的な印象ではありますが、彼らがそれぞれ誰と戦い、どのような戦いを見せてくれるのか、考えただけで胸が躍ります。


 この上巻では、冒頭の犀川の戦いの場面に至るまでの段蔵たちの姿が描かれますが、さて、戦の火蓋が切られた背後で、忍びたちがどのような闇の戦いを見せてくれるのか。
 下巻で見せてくれるであろう段蔵たちの大暴れが楽しみであります。

(ちなみに、前作ラストで読者を愕然とさせてくれたあの大ネタは本作でも健在。果たしてどこで切り札が切られるか、そちらも色々な意味で期待します)

「修羅 加藤段蔵無頼伝」(海道龍一朗 双葉社) Amazon
修羅(上) 加藤段蔵無頼伝


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2012.07.09

「石影妖漫画譚」第8巻 総力戦開始の時!

 二ヶ月連続刊行の「石影妖漫画譚」、6月に発売になったのは第8巻。妖怪の力を用いる謎の敵を相手に、仲間を救い出すために石影たちはオールスターメンバーで挑むことになるのですが――

 次々と幕府の役人を襲い、妖怪のものと思われる強力な炎で消し炭と変える謎の人斬りを追うこととなった石影と仲間たち。
 しかし敵の正体は、その仲間の一人であるはずのご隠居・掛川武幻でありました。

 かつて入間亜蔵にかまいたちの力を与えた謎の怪人・玩具屋により、火車――それはかつて、武幻が初登場した際に彼に関わった妖怪でもあります――の力を与えられた武幻。その力は完全に石影たちをしのぎ、有り余る力のためか、何とその姿は青年時代のそれに変貌を遂げます。

 さらに、玩具屋はかつて亜蔵を倒し、この先邪魔になるかも知れぬ石影たちを排除するため、武幻同様の妖怪の力を持つ怪人たちを招集します。
 飄々としたお人好しのようでいて、破落戸たちを冷酷に惨殺する「ぬっぺっぽう」のジロー。大量のかけそばを着物の中に流し込むという異常な食事シーンがインパクト十分の「姑獲鳥」の桔梗。そしてこれまで幾度か顔見せがあった謎の外国人青年ベリー…
 さらに、玩具屋に再生されて死体人形と化した亜蔵も加えて五人、いや玩具屋も含めれば六人の敵が登場したこととなり、敵の陣容もいよいよ整ったこととなります。

 この辺りはバトルものの定番、むしろ王道とも言うべき展開ですが、さらに石影たちはそれぞれ自分たちの不足を補うために特訓を開始。「妖力」「覚醒」などイイ感じのワードも飛び出してきて、まことに私のようなバトルもの好きには楽しい展開となってきました。

 そしてそれと並行して武幻変貌の理由も語られるのですが――それまでの派手な展開のインパクトに比べると、今ひとつに感じられたのは事実。
 度重なる悲劇惨劇の前に、武幻が己に課していた誓いを破る辺りの展開は悪くないのですが、しかし、「江戸城に潜り込んで秘密を探りだす次男」「幕府御用達暗殺専門の剣士」など、所々に見られるリアリティのなさが、こちらの気持ちを萎えさせる…というのは言い過ぎでしょうか。

 これだけ人外バトルが繰り広げられているのにリアリティとは、と言われるかもしれませんが、しかし、人外の世界を描くからこそ、その基底にある江戸時代の描写にはもう少し神経を使ってもらえれば…というのは、今に始まった感想ではありませんが、やはり今回も感じてしまった次第です。


 と、また野暮を言ってしまいましたが、やはり敵味方別れての総力戦は盛り上がります。

 こともあろうに火盗改屋敷(これ、要するに騎鉄さんの役宅か…かわいそうに)を決戦場と指定してきた敵に対し、それぞれ特訓を終えた石影たちは万全の体制で迎え撃つのですが…この手のバトルもので主人公が迎え撃つ側というのは珍しい、などと思っていれば思いもよらぬ急展開。いきなり決戦の火蓋が切って落とされることとなります。
 後はもう、ひたすらバトルものの醍醐味を味合わせていただくことを楽しみとしましょう。

「石影妖漫画譚」第8巻(河合孝典 集英社ヤングジャンプコミックス) Amazon
石影妖漫画譚 8 (ヤングジャンプコミックス)


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2012.07.08

大年表の大年表 更新

 伝奇時代劇年表&データベース「妖異聚成」の一コーナー、ある年に起きた史実上の出来事と、小説・漫画等伝奇時代劇の中の出来事、人物の生没年をまとめた「大年表の大年表」を更新いたしました。
 前回の更新が昨年の9月ですから、いつの間にかずいぶん時間が経ってしまいました。

 基本的にデータの羅列、史実もフィクションも一緒くたにして、歴史のタテ糸ヨコ糸を楽しんでいただきたいというこのコーナー、基本的に自己満足以外の何ものでもありませんが、意外と楽しんでいただけるのではないかと思います。

 今回の更新は、データの追加オンリーで、コーナーの構造自体はいじっておりません。ちなみにデータを追加した作品名をざっと挙げますと、以下の通りとなります。
「風の王国」「源氏物の怪語り」「絵伝の果て」「黎明に叛くもの」「魔王信長」「修羅 加藤段蔵無頼伝」「忍び秘伝」「戦国妖狐」「家康、死す」「信長のシェフ」「戦都の陰陽師」「忍法剣士伝」「信長の茶会」「ふたり、幸村」「かぶき姫」「茶坊主漫遊記」「柳生黙示録」「外道忍法帖」「秘伝元禄血風の陣」「月の光のために」「御広敷用人 大奥記録」「妖術武芸帳」「えどたん」「三悪人」「戸隠秘宝の砦」「帝都幻談」「安政五年の大脱走」「夢追い月」「京乱噂鉤爪」「明治失業忍法帖」「CLOCKWORK」「へるん幻視行」「松岡國男妖怪退治」…

 また、海外を舞台にした以下の作品も追加しています。
「シャクチ」「琅邪の鬼」「海遊記」「僕僕先生」「アラビアンナイト(長谷川哲也)」「千里伝」「水滸伝(北方謙三)」「楊令伝」
 その他、色々と隠れキャラ的な作品も追加しておりますので、ぜひご覧になって「なんじゃこりゃ!」と思っていただければ幸いです。

 まだまだ追加したい作品データはありますが、それでもだいぶ充実してきたように思います。
 この先は、「大年表の大年表」ではない「大年表」(ややこしい)のデータも追加していきたいのですが…こちらもいずれまた。

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2012.07.07

「恋は愚かと 姫は、三十一」 姫さま、忠臣蔵の闇を知る

 伊予松山松平家から、堀部安兵衛の書状が発見された。赤穂浪士が吉良上野介を見つけた時、既に殺されていたというその内容の真偽を調べることとなった静湖。しかし芝居小屋の忠臣蔵舞台で、ほぼ同じ状況で吉良役の役者が殺されるという事件が発生。果たして忠臣蔵に秘められた恐るべき秘密とは!?

 「妻は、くノ一」のスピンオフとして開始された「姫は、三十一」の第二弾が刊行されました。
 「妻は」でも活躍した元平戸藩主・松浦静山の娘で、諸般の事情により31歳になっても未婚の静湖姫が、見よう見まねの探偵稼業に挑むというシリーズですが…いやはや、第二弾にして早くも驚愕の内容、何しろ、今回静湖が挑む謎というのは、かの赤穂浪士の討ち入りにまつわる事件なのです。

 かつて本懐を遂げた後、裁定を待つ浪士たちを預かった伊予松山藩松平家で見つかった堀部安兵衛直筆の書状。そこに記されていたのは、かの有名な炭小屋に隠れていた吉良上野介が、既に何者かに殺されていたという、「忠臣蔵」の物語をひっくり返しかねない大秘事でありました。

 その謎解きを、新年から始めた探偵稼業の一環として請け負った静湖ですが、忠臣蔵を「中心ぐらっ」と思い込んでいた彼女の知識では心許ない。
 町の忠臣蔵マニアの若旦那の助言を受けることとなった彼女は、彼と一緒に忠臣蔵の芝居を見ることとなったのですが、しかしその舞台の上で、吉良役の役者兼戯作者が殺されるという事件が発生。しかもその舞台は、実は書状と同じく吉良が既に殺されていたという趣向で――

 と、伝奇もの的にもミステリ的にも実に興味深い展開。
 ここで語られる吉良他殺(?)説は、おそらくは本作オリジナルの内容ですが、しかしそこから忠臣蔵にまつわる、現在でも明確な答が出ていない数々の謎が浮かび上がり、そしてその最たるものである、「何故松の廊下の刃傷が起こったのか?」に収斂していく様は、実にエキサイティングであります。

 そしてその中で、「忠臣蔵」という物語の持つ意味、「忠臣蔵」という物語が今なお残り続ける理由というものにまで切り込んだ考察を加える辺りは、まさに作者の真骨頂でありましょう。(ちなみに作者には、老境にさしかかった最後の四十七士・寺坂吉右衛門を主人公にした、これまた実に作者らしい「罰当て侍」という作品もあります)

 主人公が女性ということもあってか、意識してライトに描こうとしている部分も多々見受けられる作品ではありますが(そしてまたそれが実に楽しいのですが)、しかし作品の根底にあるのは、やはり風野真知雄ならではのエンターテイメント精神であり、歴史観・人間観であると感心した次第です。


 ちなみに本作のある意味タテ糸である、静湖のモテ期問題(?)ですが、前作に登場した6人に加え、本作ではさらに4人の男性が登場。マニアックな若旦那、役者バカ一代、筋肉マニアの若様、そして○○○○○の××というとんでもないキャラも登場して、いやはや本当に先が読めません。

 そしてその一方で、相変わらず静山はユニークな陰謀を巡らしており、幕府側の新たな敵組織も登場。こちらのタテ糸の方も、実に楽しみなのであります。

「恋は愚かと 姫は、三十一」(風野真知雄 角川文庫) Amazon
恋は愚かと  姫は、三十一 2 (角川文庫)


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 「姫は、三十一」 姫さま、新年早々謎に挑む

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2012.07.06

「サムライスピリッツ閃」 リアルさとゲーム性の間で

 アーケード版が約4年前、家庭用が約2年半前に出たものを今頃レビューするのも大変恐縮ではありますが、Xbox360購入(これまた今頃…)記念ということで、家庭ではXbox360でしかできない時代ゲーム、「サムライスピリッツ閃」であります。

 念のためおさらいしておけば、「サムライスピリッツ」シリーズはSNK/SNKプレイモアによるいわゆる対戦格闘ゲーム。
 1993年(19年前…!)の「サムライスピリッツ」以降、2Dもので6作(「零SPECIAL」を含めれば7作)、3Dもので4作(家庭用オリジナルの「剣客異聞録 甦りし蒼紅の刃」を含む)と、結構な作品数を数えるシリーズです。 登場キャラが武器を持つことによる一撃の重さ、伝奇性濃厚な世界観とキャラクターと、他のゲームにはない特徴を持つ本シリーズですが、もちろん私も大ファンであり、最近は家庭用オンリーではあるものの、欠かさずプレイしております(が、腕はド下手)。

 さて、前置きが長くなりましたが、本作は現時点でのシリーズ最新作にして、約10年ぶりの3Dもの。前作に当たる2Dものの「天下一剣客伝」がシリーズ最終作を謳っていただけに、当時は復活をずいぶん嬉しく思った記憶があります。

 登場キャラの方は、全26名のうち、主人公格の猛千代をはじめとして、実に半数以上の14名が新キャラ。物語の方も、従来とは一新され、欧州のレスフィーア王国なる国家を巡る冒険となっています。
 システム的にはまず標準的な3D格闘ゲームと言いましょうか…定番の打ち上げからの空中コンボはありますし、また軸避けと縦斬り・横斬りを絡めた攻撃体系は、3D武器持ち格闘ではまず定番のものでありましょう。


 そんな格闘ゲームとしての格好は整って見える本作なのですが…しかし、初めてプレイした時には、正直なところ悪い意味で驚かされました。
 …イラストと実際のグラフィックが全然違う。

 いえ、もちろんキャラのイメージイラストと実際のゲーム中のキャラ造形が異なるのはある意味当たり前、2Dと3Dなのですから同じ方がおかしい(というのは言い過ぎか)。
 しかし本作においては、北千里による適度に漫画チックなイラストと比べると、3Dモデリングされた「不気味の谷」というのは言い過ぎにしても、別物感が強く漂います(試合開始前のロード画面に大きくイラストが表示されるので尚更)。

 またゲーム性の方も、大斬り一発の脅威こそシリーズの味を感じさせてくれますが、いわゆる飛び道具が削除されたことで、どうしても近距離での差し合いが増えて、窮屈な印象が漂います。
 もちろんこれはこれでリアルなチャンバラということはできますが、今度は空中コンボの存在が…
 この辺りは、格闘ゲームとしての定番と、シリーズの個性とのせめぎ合いではあると思いますが、どうせやるのであれば、思い切りどちらかに極端に振れて欲しかった、とは感じます。

 そして個人的にもっとも大事なキャラ(とストーリー)なのですが、こちらも今一つ…地味の一言。
 それなりにキャラ造形の積み重ねがあるシリーズおなじみのキャラはともかく、新顔のほとんどは、デザインに一発でこれ、という取っ掛かりがあるキャラが少ないのが苦しい。
 新主人公の猛千代も、ぱっと見のデザイン的には悪くないのですが、動かしてみると悪く言えばモブキャラ的に見えてしまうのが苦しい。和風ゴスのヒロイン・鈴姫はその中でも一人気を吐いていると言えますが…
(ちなみに物語の中心が海外ということもあって、新キャラのほとんどは外国人。これがまた個性の薄さに繋がっているように感じられるのです)

 もっとも、良くも悪くも地味な、実際の世界にももしかするといそうなキャラクターデザインというのは、SNKの格闘ゲームの味の一つではあります。ラスボスがプロイセン軍人的なコスというのも、これはこれで悪くありません。
 しかし、先に述べたゲーム性から来る地味さの部分もあり、もう少し踏み出しても良かったのではないか、とは正直なところ感じます。
 それであればせめてストーリー面で弾けてくれれば良かったのですが、魔界のマの字もない展開はどうにも…


 ネガティブな感想ばかりになって本当に申し訳ありませんが、これが正直なところ。新しいものを求めすぎて、違うものに行きあたってしまったというところでしょうか。
 来年はシリーズ20周年ですが、その時にはこのシリーズらしい新作に出会いたいものですが…さて。

「サムライスピリッツ閃」(SNKプレイモア Xbox360用ソフト) Amazon
サムライスピリッツ閃

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2012.07.05

「黄蝶舞う」 歴史の中の人の業、運命の無情

 平治の乱で敗走中に捕らわれ、ある条件で平清盛から命を助けられた源頼朝。伊豆に流された彼は、父・義朝のものと称する髑髏を手にした怪僧・文覚の力を借りて挙兵、ついに平家を打倒する。捕らえた平宗盛に対し、頼朝はあるものの在りかを問うのだが…(「されこうべ」)

 今年の大河ドラマは「平清盛」ですが、そこでナレーター役を務めるのが源頼朝であるのにも表れているように、ドラマの陰の主役は源氏一門であるようにも感じられます。
 本書は、その源氏一門、源頼朝とその子孫たちを主役として描いた、幻想的な作品集であります。

 それにしても考えてみれば、征夷大将軍となった中で、頼朝ほどその一族の中で血を流した人間はいなかったのではないでしょうか。本人はまず天寿を全うしたとしても、その弟や親族たちを滅ぼし、彼の子供たち、彼に続く二代の将軍もいずれ暗殺(に等しい殺され方を)され…
 足利家も徳川家も、それなりの血を一族のうちで流したとはいえ、ここまで悲惨な運命を辿ってはいません。時代の流れというものはあるにせよ、そこにある種の特殊性を見出すことも出来るでしょう。

 さて、本書に収められた五つの作品は、いずれもその源頼朝と子孫たちの辿った運命を、その死の姿を中心に置いて描いた作品であります。

 頼朝の娘で、木曾義仲の子・義高と婚約していながら引き離され、若くして亡くなった大姫の最期を描く掌編「空蝉」。
 若き日にある取り引きでもって清盛に命を救われた頼朝が、文覚上人のある術法の力を借りて天下を取り、かつての清盛と同じ立場に立ちながらも、奇怪な怨念の前に滅んでいく様が描かれる「されこうべ」
 修禅寺に幽閉された二代将軍頼家が、夜毎現れる不思議な姉妹と情を交わす姿を、岡本綺堂の「修禅寺物語」を引きながら語る「双樹」。
 不思議な少女姿の亡霊に導かれ、鎌倉を取り巻く凄まじい怨念の姿を垣間見た三代将軍実朝が、その運命に抗い、やがて受け入れ様を、幕府の複雑な権力闘争と表裏一体に描く「黄蝶舞う」。
 そしてその実朝を暗殺した公暁と、彼と終始行動を共にしたある娘が、幕府への怨念に操られ、滅んでいく姿を描く「悲鬼の娘」。

 いずれも表の歴史に現れた人々の生死を、幻想的なフィルターを通し描いた、重厚な作品揃い。
 怨念やもののけといった、この世ならざるものが登場しながらも、しかしそれが物語のリアリティを損なうことなく、むしろ引き立てる効果を上げているのは、ほんの僅かな描写であっても、そこに込められた人の想いを感じさせる作者の文章の力ゆえでしょう。

 その作者の姿勢は、本書のうち、最も伝奇色の強い「されこうべ」においても明らかであります。
 伊豆に流刑中の頼朝に対し、父・義朝(のものと称する)髑髏を手に文覚が挙兵を迫ったという逸話を踏まえた本作。そこで描かれる頼朝と文覚の姿を、後の後醍醐帝と真言立川流の怪僧・文観のそれに擬える――つまり、ここでいう髑髏が持つ意味とは…!――という趣向は、伝奇慣れした私のような読者から見ても非常に新鮮なものであります。

 しかし私がそれ以上に唸らされたのは、そのような超常的な設定を用意しつつも、ここで描かれる頼朝像、頼朝を突き動かした想いの根底に、ある非常に単純な、そして人間臭い感情の存在を示した点です。
 怨霊やもののけ、呪いといったものの存在がどれほど描かれようとも、その根底にあり、それを形作るのは人の情である(そしてその意味において、生者も死霊も異なる存在ではないというのは「黄蝶舞う」において詳細に描かれる点であります)。
 そんな「事実」を明確に示しているからこそ、本書に収められた作品は、いずれも鬼面人を驚かす類の作品に終わらず、歴史の中の人の業、運命の無情といったものを描くものとして感じられるのだと、得心いたしました。


 本書は数年前に単行本として刊行されたものの文庫化ですが、単行本の時点で読んでおけばよかった…と、今更ながらに感じさせられた次第。

「黄蝶舞う」(浅倉卓弥 PHP学芸文庫) Amazon
黄蝶舞う (PHP文芸文庫)

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2012.07.04

「カミヨミ」第15巻 そして生者の歴史は続く

 明治時代を舞台に、人と、あってはならないものたちとの戦いを描いてきた伝奇漫画「カミヨミ」もついにこの第15巻で完結。
 神代の昔から繰り広げられて来た日輪草薙ノ剣と月輪草薙ノ剣の戦いは、生者と死者との全面対決へと繋がり、最後の決戦が繰り広げられることとなります。

 主人公・天馬の許嫁である菊理の体を奪い、現世へ侵攻せんとする月輪草薙。平将門公の怨念を利用して帝都を封鎖した菊理は、三種の神器を手に入れるとともに、死人の軍団を率いて東京への進軍を開始します。
 一方、一度は破壊されながらも、八俣と飛天坊の尽力で復活した日輪草薙を手にした天馬は、母が率いる零武隊が最終防衛線で死人たちと死闘を繰り広げる中、帝月、瑠璃男とともに菊理が潜む富士山地下に突入。ここに日輪と月輪、二本の神剣が幾たび目かの、そして最後の戦いの時を迎えるのですが――

 もはや物語がここに至れば、描かれるものはごくわずか。それが、日輪と月輪、天馬と菊理の最後の対決であるのは言うまでもありませんが…
 しかし、この長大な物語で戦ってきたのは、天馬だけではありません。母・日明蘭大佐と零武隊の仲間たち、八俣や丸木戸…本作のレギュラー陣も、ラストにふさわしい戦いを繰り広げることになるのですが(零武隊は、結局モブ扱いで終わった人間もいますが…)、しかしそれだけではありません。

 決戦の場で繰り広げられるのは、天馬と菊理、二人の神剣の持ち主だけではありません。同時に展開されるのは、帝月と菊理――二人のカミヨミの戦い。現世と冥界を繋ぐカミヨミ同士の戦いは、半ば当然ながら現世のみならず、冥界にまでその力を及ぼすのですが…
 と、ここで全く予想もしていなかったオールスターキャストの助っ人勢が大集結。
 まさか再び会えると思わなかったこの人物やあの人物の再登場だけでなく、ここまでやるか! 的なとんでもない伏兵まで登場してラストバトルを飾ってくれるのは、派手なもの好きな私としては本当に嬉しい展開であります。
(もっとも、敵の強大さ、巨大さがちょっと見えにくく、助っ人たちの活躍のありがたみが見えにくいのが少々残念ですが…まあ、こういう展開での助っ人は登場するだけでプレゼントであります)


 そして、ついに迎える物語の結末――二転三転した末に最後の戦いは決着し、全ては終わったかのように見えたのですが…
 が、最後の最後に待ち受けていたのは、良く言えばあまりに意外な、悪く言えば身も蓋もないエピローグ。
 …あまりといえばあまりの結末に、最初に読んだときには絶句させられました。

 確かに、とてつもない広がり方をしたとはいえ、本作は異世界を舞台としたファンタジーではなく、あくまでも実際の歴史を踏まえた伝奇物語。その意味では、歴史に対するある種の責任を取らなければいけないのは、むしろ当然ではあるのですが…


 神代の昔からの因縁が解消されたことを明確に示す存在が登場し、そして戦いの後に生き残った者たちによる歴史が続くことを示す…というまとめ方自体は非常に美しかった。
 それだけに、もうちょっとページを取れなかったのかしら、というのが正直な印象なのですが、それはこれ以上言っても仕方ありますまい。

 ラストの着地でちょっと足首を捻った感もありますが、しかし連載8年にも及んだ伝奇活劇もこれにて大団円。描くべきことは全て描かれたと解するべきでしょうし、本作が伝奇漫画として傑作と言うべき作品であったことは、疑いありません。
 結末まで読むことができて本当に良かった、と心から感じます。

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2012.07.03

「無宿島」 社会から封殺された者たちの復讐劇

 石川島に作られた人足寄場、通称「無宿島」。無宿人を収容するこの無宿島に、倫太郎と伊之助の二人の無頼漢が、身分を偽って潜入した。ある目的を秘めて動く二人だが、島では無宿人の怪死事件が続発し、一触即発の空気が流れる。果たして倫太郎たちの目的は、そして無宿島に秘められた秘密とは…

 翔田寛は時代小説では主に文庫書き下ろしで活躍している作家ですが、本作は書き下ろしではありますが単行本、そして内容の方も、文庫書き下ろしのそれとは一味も二味も違う、サスペンスフルな一種のピカレスクものとなっています。

 タイトルであり、本作の主な舞台である「無宿島」とは、石川島の人足寄場の別名。寛政の頃、飢饉などで江戸で爆発的に増えた無宿人を収容し、それだけでなく彼らに様々な職業訓練を施した、今で言えば自立支援施設的な側面も持った、当時としては画期的な施設であります。
 そうはいっても、無宿人を強制的に集め、一定期間閉じ込めるという点では、やはり監獄同様の性格を持つ場所。江戸の人間、特に無宿者にとっては恐怖の的であったことは想像に難くありません。

 しかしこの無宿島に、わざわざ役人を抱き込み、全くの別人を装ってまで潜入する男が二人――旗本の妾腹の子・倫太郎と、元井戸掘り職人の伊之助、江戸で無頼の暮らしを送る二人は、島に眠るあるモノを狙い、密かに行動を開始します。
 物語は、そんな彼らの計画を中心に描かれる…だけではないのが、本作の実に面白いところであります。

 彼らの潜入に前後して、島では無宿人の不審死が頻発。ある者は一見事故に見える死を遂げ、またある者は無残な拷問の末に殺害され――奉行が不可解にもひた隠しにしようとする彼らの死に疑問を持った町奉行所の熱血同心の捜査が、倫太郎の計画と並行して描かれるのであります。

 倫太郎は島の何を狙い、そして彼は何故その存在を知っているのか。無宿人たちの死は彼の計画に関係するものなのか。島の役人や無宿人たちの間の不穏な動きの意味は。そして倫太郎の計画は果たして成功するのか――
 本作は、幾つもの要素が複雑に絡みあい、クライマックスに向けて一気に疾走していきます。

 本作は単行本で400頁近いかなりのボリュームのある作品ですが、作者お得意のミステリ色をふんだんに、さらにクライマックスでは状況が二転三転するサスペンスを仕掛けた物語内容に、一気に読まされてしまいました。
(本編とどのような繋がりを持つのか全く見えなかった冒頭の惨劇が、物語においてどのような意味を持つかが見えてきた時のインパクトはかなりのもの)

 また、人足寄場という、意外に時代ものの舞台として描かれない場所を舞台とした着眼点も見事であります。
 江戸の目の前にあるのにも関わらず無視されるこの無宿島。その存在は、確かに江戸で生きているにも関わらず人別帳を外れ、いないものとして扱われる無宿人たちのそれと重なって見えます。
 本作で描かれるのは、そんな社会から封殺された者たちの逆襲劇・復讐劇なのではないか――そのように感じられた次第です。


 冷静に考えると、倫太郎たちの計画は意外と単純であったり、登場人物が多数に及ぶためか、個々の書き込みは少なめであったりと、瑕疵がないわけではありませんが、しかしそれを補って余りある魅力を持つ、時代ミステリ、時代サスペンスであります。

「無宿島」(翔田寛 幻冬舎) Amazon
無宿島

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2012.07.02

「セキガハラ」連載開始 ファンタジーとリアルの間で

 最近はお堅い(?)作品だけではなく、色々と弾けた作品も掲載するようになったリイド社「戦国武将列伝」誌。その最新号である8月号から、長谷川哲也の「セキガハラ」の連載が始まりました。

 予告の時点から見開きのイラストに「歴史なのに予測不能!?」というキャッチが躍り、ポスターを駅に貼りだすなど、かなりのプッシュがされている本作。
 そのイラストを見れば、関ヶ原に集ったと思しき武将・豪傑たちが大集合…と思われるのですが、時代ものらしからぬコスチュームの人物あり、そもそも人間なのか怪しいキャラありと、見るからに普通ではない空気を漂わせています。
 これはどう考えてもこちら向きの作品と楽しみにしていたのですが…

 さて、その「セキガハラ」の連載第一回は、episode:0として、関ヶ原の戦の2年前を舞台にした物語が展開されます。
 本作の主人公たる石田三成が、当時いまだ存命だった豊臣秀吉の命により、後に言う「醍醐の花見」を差配することになるのですが…まず、その三成のキャラクターが普通ではない。

 三成といえば、武断派と対立した文治派の人間、能吏というイメージが強くある人物。そのため、後世のフィクションでは軟弱であったり、杓子定規だったりと、あまりポジティブではない描き方をされることも少なくありませんでした。
 本作の三成は、確かに能吏ではあるものの、決して文弱の徒ではない人物。何しろ、冒頭で、家康の間者として伏見城に潜入していた伊賀者・峠天士郎を、デコピン一発でKOしてしまうのですから…
 ちなみにこのデコピン、既に老境にさしかかり半ばボケた秀吉にも食らわしており、三成がやる時はやる人物であることを示している…というのはさすがに言い過ぎかもしれませんが、とにかく只者ではない様子です。

 さて、その三成に対して花見の開催を命じる秀吉(ちなみにこの秀吉も、カピタンのような襞襟付きの服をまとった怪人物)ですが、しかしそれと同時に、花見の席で一人始末して欲しい奴がいると三成に告げます。

 秀吉が殺そうとする人物、三成、関ヶ原とくれば、どうしても想像してしまうのは徳川家康のことであります。
 本作の家康は、何故か京まで半ばボケ老人の柳生石舟斎を肩車して走ったり、その状態で石舟斎に粗相されたり、石舟斎に小便をかけられた無頼漢に土下座して謝ったり、かと思えばその無頼漢を一撃で叩き潰したり…と、これまた怪人としか言いようがない人物。
 果たして、桜の舞い散る中、秀吉自ら家康に襲いかかるというある意味ドリームマッチが展開されるのですが――

 と、第一話から、期待通りに意表をついたキャラクター設定、展開の連続。
 醍醐の花見はもちろん史実でありますし、秀吉の死の少し前の出来事として、様々な作品で取り上げられるイベントではあります。しかしそこで秀吉と家康が直接対決し、そしてそれどころか三成が○○を××などいう弾け方をした作品は、さすがに私も知りません。
 その意味では、私のような人間には大好物の作品なのですが…

 しかし、実は、個人的には楽しんだと同時に、不満が残ったのも事実であります。
 物語やキャラクター設定で弾けるのは大歓迎。しかし、それであるならば、キャラクターのコスチュームや描写は、リアルにやって欲しかった…そう感じるのです。

 作者の「ナポレオン」が面白いのは、主人公を初めとして、登場人物たちとその言動をエキセントリック過ぎるほどに濃く描く点にあると感じます。しかしそれも、実際の歴史とそれにまつわる考証を(ある程度)踏まえているからこその面白さではないでしょうか。

 いわば、地に足が付いているからこその弾けぶりであるわけですが、本作のそれは、ほとんど宙に浮いているように感じます。
 もちろん、超人武将たちが活躍する「戦国BASARA」のような一種のファンタジーであれば、それもまあ納得できるのですが、ファンタジーと呼ぶには、本作はまだ真面目と感じます(そして堂々とファンタジーを載せる雑誌でもないでしょう)。

 もちろん第一話の印象で判断するのは早計に過ぎるというもの。いや、おそらくこれから、私の狭い了見など一気に吹き飛ばすようなキャラと物語が待っているのでしょう。
 どうもすみませんでした! とこちらがひれ伏すような展開を期待する次第です。

「セキガハラ」(長谷川哲也 リイド社「戦国武将列伝」2012年8月号)

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2012.07.01

7月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 今年の春はなかなか暖かくならない…などと言っていたのが嘘のように暑くなり、来月ははや7月。今年ももう半分ですよ! …などと興奮する元気もなくなるくらい暑くなりそうですが、こういう時こそ(時も)時代伝奇で楽しみましょう。というわけで、7月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。

 意外なことに(?)小説がかなり充実した印象の7月。
 シリーズものを含む新刊で言えば、いかにも作者らしい青春時代伝奇、あさのあつこ「燦 3 土の刃」。早くも第2巻登場で少々驚いた上田秀人「御広敷用人大奥記録 2 吉宗密命(仮)」 。5月の新刊情報に載っていたものが延期したらしい、個人的には大本命の朝松健 「百鬼夜行に花吹雪(仮)」と、注目の作品が並びます。

 そして文庫化・再販がそれ以上に素晴らしい。
 室町時代を舞台とした時代ファンタジーの名作、佐藤さとる「天狗童子」(やはり完全版がベースなのでしょうか)。某作家も大ファンらしい、派手なタイトルに騙されてはいけない快作、町井登志夫「爆撃聖徳太子(仮)」 。おそらくは「黄金の闇」の改題であろう中見利男「家康の暗号」 。痛快な児童ファンタジーの文庫化第2弾、 越水利江子「忍剣花百姫伝 2 魔王降臨」。そして中国ものでは、文字通り時空を超える大活劇、仁木英之 「千里伝 時輪の轍」 と、気になる作品が目白押し。
 さらに、京極夏彦「覘き小平次」、夢枕獏「陰陽師 天鼓ノ巻」、柴田錬三郎「お江戸日本橋」と、いやはや硬軟取り混ぜ、大変な量であります。

 さらに決して見逃してはいけないのが、大村彦次郎「時代小説盛衰史」の文庫化。あの大著が文庫で読めるというのは、いやはや実にありがたいお話です。


 一方、小説に比べるとかなり寂しいのは漫画の方。

 少しずつ世界観の謎も見えてきた福田宏「常住戦陣!! ムシブギョー」第6巻。歴史上の人物も登場して盛り上がる水上悟志「戦国妖狐」第9巻。若き日の田山花袋と(原作者お馴染みの)柳田国男が怪事件に挑む山崎峰水&大塚英志「黒鷺死体宅配便スピンオフ 松岡國男妖怪退治」第2巻くらいでしょうか…
 あとはコンビニコミックの原恵一郎「次郎長放浪記スペシャル」も気になるところですが、こちらはさすがに単行本の再録のみかと思われます。


 映像ソフト的には、このブログ的には「逃亡者おりん2」のDVD-BOXで決まり! というところで一つ。


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