「十 忍法魔界転生」連載開始!
今月発売の「月刊ヤングマガジン」誌より、せがわまさき・画、山田風太郎・原作の「十 忍法魔界転生」の連載がスタートしました。言うまでもなくあの大作「魔界転生」の漫画化です。
連載第一回は「地獄編 第一歌」。ダンテの「神曲」では全体のプロローグとも言うべき「地獄編 第一歌」ですが、こちらでは冒頭からクライマックスであります。
島原の乱の終結直後の戦場を訪れた由比民部之介――由比正雪と、小笠原藩からこの戦に参加していた宮本武蔵が、そこで目撃したものは、死んだはずの軍師・森宗意軒。そして、彼らの眼前で、女体を卵の殻のように破って「生まれた」天草四郎時貞!
というわけで、原作の冒頭部分と大筋異ならない内容ではありますが、しかし――今さら言うまでもないことながら――山田風太郎の世界を漫画として描くことでは間違いなく当代一の作者によってビジュアライズされた「魔界転生」のキャラクター、作品世界はやはり素晴らしい。
宮本武蔵は、「山風短」の「剣鬼喇嘛仏」に登場した際の姿をなぞりつつも、老いたる鬼神とも評したくなるような、静かな、しかし鬼気を感じさせる佇まい。
一方由比正雪は、まさに白面の(小)才子というに相応しい姿であります。
(森宗意軒のデザインは、ちょっと人外に偏りすぎな印象もありますが、せがわ山風漫画の老人キャラは大抵このラインですな)
そして何よりも驚かされたのは、やはり天草四郎の魔界転生シーンであります。
最初に正面からの構図で見た時には、正直なところ、もう少しクローズアップして描いても良いのでは? と思ったのですが、次のページで、女体を脱ぎ捨てる四郎の姿を横からの構図で描くとは――!
魔界転生といえば、やはり女体を割って登場するという設定が強烈な故に、真っ正面からの構図をどうしてもイメージしてしまいますが、ここであえて横から見せることで、殻を割って再誕を遂げた四郎の動きを感じさせるのは、絵としてだけではなく、漫画として素晴らしい。
そしてこの構図を、さらに水面に映ったように、画面の下半分にも逆転した形で描いたのは、彼の魂が、人間としての軛から放たれ、魔人のそれと化したことを示しているのではありますまいか。
この画を見ることができただけで、今回は満足…というのは言い過ぎかもしれませんが、せがわ版「魔界転生」ここにあり、という絶好のアピールであることは間違いありますまい。
(もっとも、そこに至るまでに台詞が多いのは、これはこれで相変わらずの欠点ではあるのですが…)
ちなみに基本的に原作を忠実に漫画化する作者ですがこの「十」においては、四郎とほぼ同時に転生するある人物の存在が省かれるという、かなり(作者にしては)大きな改変が行われています。
これは、おそらく、四郎の魔界転生をより印象的に描く――言い換えれば、魔界転生=天草四郎というイメージを強調する――意図があるのかもしれません。
もう一つ、その人物の没時期と、今回の舞台となる時期が、史実では少々離れているという矛盾が原作にはあったのを正すためではないかとも思うのですが…それはさておき。
第一話にして、強烈な印象を残してくれた本作が、この先、敵の編成を――そして、それを相手とする者をいかに描いてくれるのか。月刊というペースが恨めしい、そんな作品であることは間違いありません。
「十 忍法魔界転生」(せがわまさき&山田風太郎 月刊ヤングマガジン連載)
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