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2012.08.27

「長州シックス 夢をかなえた白熊」 六番目の男の見た夢

 幕末に長州からヨーロッパに秘密留学したいわゆる「長州ファイブ」には、実はもう一人の男がいた。自らを藩主の落胤と語る彼――白石阿定(くまさだ)、人呼んで白熊は、ヨーロッパに渡りながらもロンドンで姿を消していたのだ。その彼が、伊藤俊輔に明かした驚愕の秘密とは…

 これで何度目かはもう忘れましたが、「また荒山先生か!」と嘆じさせられる作品、今月の「小説現代」に掲載された「長州シックス 夢をかなえた白熊」であります。

 言うまでもなく本作のタイトルの元ネタは、映画ともなった「長州ファイブ」、いわゆる長州五傑。幕末に長州藩からヨーロッパに派遣され、主にロンドン大学で学んだ井上聞多(井上馨)・遠藤謹助・山尾庸三・伊藤俊輔(伊藤博文)・野村弥吉(井上勝)の五人であります。
(まあ、伊藤俊輔と井上聞多はすぐに帰国してしまうのですが…)

 さて、本作にはそれに加えてもう一人の男がいたという意外伝です。
 自ら藩主・毛利敬親の落胤と名乗る彼「白熊」は、最初は阿部定光と名乗り、次いで白石家に養子に入ってから白石阿定(くまさだ)と改名した人物(白石家のくまなので「白熊」…)。

 不思議と金回りが良く、事に当たっては妙に冷静な彼を、井上聞多などはうさんくさい人物と見て毛嫌いしますが、伊藤俊輔は何故か彼に好かれ、身分の隔たりなく交誼を結びます。
 そしてこの二人が加わった秘密留学に、白熊も資金援助を条件に強引に参加。しかし彼はロンドン上陸早々に姿を消してしまうのです。

 と、本作は、その後の白熊氏の消息を訪ねられた伊藤俊輔の回想という形で語られることになります。
 久々に再会した時には、英国人に扮装して、フー・ワンチューなる怪中国人に仕えていた白熊。何やらいかがわしい道に進んだらしい彼は、俊輔に対して驚くべき秘密を記した手紙を送るのですが――


 いやはや、もはやほとんど落語の如く、ラストのオチに向かって怒濤のように展開していく本作。
 オチ自体は、舞台や主人公のある設定を考えれば、比較的早く気づく方もいるかもしれませんが、しかしあまりといえばあまりの飛びよう、タイトルを見てこのオチを連想する人間は、エスパーとしかいいようがありません。
 以前同誌に掲載された「シュニィユ 軍神ひょっとこ葉武太郎伝」は、タイトルと内容がそれなりにリンクしていましたが、本作は…

 それで面白くないか、と言われればそうではないのが困ったもの(?)。
 言うまでもなく悪魔博士が元ネタのフー・ワンチュー氏の設定も、この時代というものを(そして元ネタの設定を)それなりに踏まえたものですし、そして何より本作の根幹を成す(というのは大袈裟ですが)同時代性というのは、時代伝奇もののある意味基本でありましょう。

 どう考えてもオチから逆算して構成したような作品ですが、まずは奇想天外なホラ話として(そして最近映画やTVで人気のあのシリーズの外伝として!?)素直に楽しむとしましょう。

「長州シックス 夢をかなえた白熊」(荒山徹 「小説現代」2012年9月号)


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