「陰陽師 瀧夜叉姫」第1巻 新たなる漫画版陰陽師
マイペースに展開してきた印象があるためか、もうそんなに!? と驚いてしまったのですが、今年で夢枕獏の「陰陽師」シリーズは25周年とのこと。それと合わせて、ということではないのでしょうが、新たな漫画版「陰陽師」が登場しました。
それが、「月刊COMICリュウ」誌で連載中であり、この度単行本第1巻が刊行された「陰陽師 瀧夜叉姫」であります。
原作は、「陰陽師」シリーズでも数少ない長編の一つ。(特に最近の作品では)史実とはあまりリンクしないファンタジックなエピソードが多いシリーズですが、この「瀧夜叉姫」は、その中でも明確に史実を舞台とし、活劇的要素も少なくない一種の異色作ですが――しかしそれだけに漫画化には向いた作品とも言えるのではないでしょうか。
物語の舞台となるのは、平将門が起こした乱から二十年後の京。そこでは孕み女が腹を割かれて殺されるという猟奇殺人が連続し、さらに不思議な女性が率いる「盗らずの盗人」が横行するという、何やら穏やかならぬ状況にありました。
そんな中でも相変わらずの晴明と博雅ですが――そこに現れた晴明の兄弟子・賀茂保憲が現れたことから、二人は事件に巻き込まれていくこととなります。
かつて将門の乱で俵藤太と共に戦った豪の者・平貞盛の顔に、謎の瘡が出来たと、保憲は言うのですが――何故彼がそれに関心を持ったか言わぬまま、去っていく保憲。
晴明も独自に動き始めるのですが、しかしすでに貞盛のもとには、あの蘆屋道満が…
と、この漫画版の第1巻の時点では、物語はまだまだ序章というべき部分に留まるのですが、しかしメインのキャラクターの大半は登場し、役者はほぼ揃った、という印象。
そして、物語の方はほぼ原作に忠実…とあれば、気になるのはそのキャラクターの絵柄ですが、これは正直に言って賛否分かれるかもしれません。
安倍晴明は、これだけメジャーでありつつも、恐らくは受け手それぞれによって、頭に浮かぶビジュアルが異なるキャラクター。人それぞれに晴明像があるのだと思いますが、私個人の趣味からすると、ちょっとこの晴明は美しすぎるかなあ…と(ちなみに原作の挿絵を担当する村上豊によるお髭の晴明像もちょっと…と個人的には思います)。
しかしもちろんこの辺りは、描く側のの解釈次第。作画を担当する睦月ムンクの、漫画を読むのは恥ずかしながら初めてなのですが、会話メインで展開していくという難しい原作をコマ割りの工夫などでうまく消化してビジュアライズしていると感じますし、同時に漫画的なケレン味の効かせ方もなかなかと感じます。
物語はいよいよこれからが本編。その中で晴明たちキャラクターがどのように描かれていくのか。その中で、おそらくはこちらの違和感も消えていくのでしょう。
原作に力負けしない漫画版となってくれるのではないか…今はそのような予感がいたします。
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