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2012.09.29

「アダンダイ 妖怪絵師録花錦絵」第1巻 妖怪絵師が描く理由

 時は寛政7年、怪しい噂の立つところにどこからともなく現れる一人の絵師がいた。その男の名は、三浦屋八右衛門。妖怪たちを百物語の絵巻に収めるため、弟子のお沢のみを連れて旅を続ける八右衛門は、各地で奇怪な事件に巻き込まれる。後に葛飾北斎と名乗る男の、若き日の物語。

 絵師――それも、怪異を描く絵師の物語が、時代ものでは少なくないことは、これまでもこのブログで折に触れて述べてきましたが、その中にまた一編、ユニークな作品が加わりました。
 それが佐伯幸之助の「アダンダイ 妖怪絵師録花錦絵」であります。

 本作の主人公・三浦屋八右衛門は、弟子のお沢に荷物を担がせては諸国を放浪する絵師。傲岸不遜を絵に描いたような彼の目的はただ一つ、諸国の妖怪を己の手で絵として残すこと――
 かくて、彼がその過程で出会う妖怪たちと、彼らにまつわる事件が、本作では描かれることとなります。

 そして、そんな本作の何よりユニークな点は、八右衛門「たち」に、妖怪画を描く目的、描かなくてはならない理由が明確に存在することでしょう。
 ここから先は少々ネタバレとなってしまいますが、八右衛門の旅には、もう一人のお供が…いや、八右衛門が供をする者が存在します。

 その名は、中国の大妖怪・白澤(はくたく)。人語を解し、万物に――特に、妖異鬼神の類に精通するという伝説の聖獣であります。
 この白澤が、妖怪たちが人々の記憶の間から薄れ、名前も忘れられてゆくのを憂い、その存在を絵として描き留めることで、妖怪たちの生命、存在を残そうとした、そのパートナーが三浦屋八郎右衛門、後の葛飾北斎なのであります。

 なるほど、白澤に関しては、かつて中国の伝説の皇帝・黄帝が白澤に出会い、彼(?)が語った無数の妖魔の存在を描き留めて「白澤図」なるものが生まれたという有名な伝説が存在します。
 そして北斎には、「百物語」を冠しながらも、わずか五図のみで描き止めとなってしまった――しかし、そのうちの何枚かは、誰もが目にしたことがあるような――浮世絵シリーズがあります。

 この両者を組み合わせて、消えゆく妖怪たちを後世に残すという、大袈裟に言えばノアの箱舟的存在を構想したアイディアは、見事と言うべきでしょう。
(北斎の「百物語」が、わずか5作しかないのがまた妄想を刺激します)


 しかしながら――そうした根っこを持つからこそ、逆に不満な点もあります。
 正直に言ってしまえば、本作に登場する、八右衛門に絵に残される妖怪たちはまだまだ魅力に乏しい。
 妖怪ファンをニヤリとさせるようなひねりがあるわけでも、あるいは本作ならではの斬新なアレンジがあるわけでもなく、ただ妖怪の記号的な部分しか見えてこない印象があります(物語のテーマ的に狙ってやっていたらそれは本当に凄いのですが…)

 これが仮に全く史実に基づかない妖怪ものであったり、主人公が単なる興味のみで妖怪画を描くという内容であれば割り切りも出来るのですが、設定が良くできているだけに、そして絵的なセンスも良いだけに、逆にそう感じてしまうのであります。

 もちろんこれは期待の裏返し。
 この点がクリアされた時、妖怪ものとして、絵師異聞ものとして傑作が登場するかもしれない…その時を期待したいのであります。

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