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2012.09.20

「ちゃらぽこ 真っ暗町の妖怪長屋」 妖怪裏長屋の大騒動!

 本所の場末の場末の通称・真っ暗町にある一軒のボロ長屋。その長屋に住む住人たちは、実は人間に化けた妖怪たちだった。持ち前の正義感から職を辞して親から勘当され、ひょんなことからこの長屋に転がり込んだ旗本の次男坊・荻野新次郎は、妖怪たちとともに思わぬ騒動に巻き込まれる羽目に…

 文庫書き下ろし時代小説の定番シチュエーションの一つが、貧しくもみんな懸命に暮らす裏長屋と、そこに転がり込んできた正義感が強く剣の腕の立つ浪人というやつであります。
 人情話もチャンバラも書けるし、しゃちほこばった侍社会よりも親しみも自由度もある…ということなのでしょうか、とにかく二、三冊に一冊はこのパターンのように思えます。

 本作も、一見このパターンに忠実な作品のように見えます。
 舞台は本所の場末の場末のボロ長屋で主人公は正義感が強すぎて江戸城での勤めを投げ出して勘当された田宮流抜刀術の使い手の青年武士――しかしながら作者はホラーと伝奇の達人・朝松健、パターン通りの作品を書くわけがありません。

 長屋の住人たちは、大家も威勢のいい鳶も色っぽい三味線の師匠も、みんなみんな妖怪変化のお化け長屋――そう、本作はむしろ妖怪もの。
 そして主人公・荻野新次郎(一歩間違えるとカランコロンの幽霊につきまとわれそうな名前ですね)も、格好良く登場した直後に不覚を取って破落戸に袋叩きに遭わされて川に落ち、いきなり土左衛門になる(!)という、とんでもない場面から始まるのですから…

 もちろん主人公が土左衛門や幽霊では格好がつきません。死にかけ…というか死んだばかりの状態で長屋の大家に拾われた新次郎、白蛇の精のお奇多さんに精気を吹き込まれてめでたく生還いたします。
 かくて、勤めを捨てたことで四角四面な実家からは勘当され、行き場がなくなった新次郎は、この長屋で暮らすことになるのですが――

 それなりに平和だった長屋を揺るがす緊急事態。折しも悪徳商人・近江屋が長屋の地上げを狙い、破落戸たち――奇しくも(?)新次郎を袋叩きにした連中であります――を送り込んできたのであります。
 この設定を見て、ははあ、これは水木しげるの「妖怪長屋」のパターンだな…などと考える半可通のマニア(私わたし)もいるかもしれませんが、まだまだ甘い。

 そもそも妖怪が住み着くような環境の裏も裏の長屋を、何故わざわざ地上げしようとするのか? その背後には、とんでもない伝奇的大秘密と、とんでもない黒幕の存在が…!
 本作の最終章のタイトルは「長屋の妖怪大戦争」。これに嘘偽りのない大騒動であります。


 が、実は本作の基本カラーはあくまでもコメディ。展開されるのが深刻な事態であっても、どこか抜けた妖怪たちが右往左往する様は、話のスケール感といい具合にギャップが生じて楽しい。

 実は上で作者を伝奇とホラーの達人と評しましたが、その他にも作者にはスラップスティック・コメディの名手という顔があります。
 本作で繰り広げられる大騒動は、あの名作「私闘学園」を彷彿とさせる…というのは正直(まだ現時点では)言い過ぎですが、しかしあの作品のファンであればニヤリとできる遊びもあって、その意味でも楽しい作品でありました。


 ただし難を言えば、中心となるお化け長屋の住人たちの個性がまだまだ弱いかな、という印象は正直あります。
 キャラクター小説の側面も強い妖怪ものにおいて、この点は正直残念ではあります。

 願わくば、彼らがいよいよ個性を発揮して暴れまわる続編を読むことができますように――まだまだ暴れ足りない面子も多そうですし――この先の展開を楽しみにしているところなのです。


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