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2012.10.12

「伏 少女とケモノの烈花譚」第1巻 今始まるもう一つの伏の物語

 劇場用アニメの公開が今月20日といよいよ近づいてきた「伏 贋作・里見八犬伝」(アニメのタイトルは「伏 鉄砲娘の捕物帳」)。アニメだけでなく、様々なメディアで展開されている本作ですが、先日はその漫画版「伏 少女とケモノの烈花譚」の第1巻が発売されました。

 以前も紹介いたしましたとおり、「伏 贋作・里見八犬伝」は、副題にあるように滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」をベースとした時代活劇であります。
 馬琴の八犬伝が完結間近の天保13年、江戸の町を騒がせていたのは、「伏」と呼ばれる凶暴な半獣半人の跳梁。
 普段は人として町に溶け込み、突然獣の本性を剥き出しとして、その爪と牙で人々の命を奪う伏に手を焼いた幕府は、その首に多額の賞金をかけ、かくてその賞金目当ての者たちと伏の暗闘が繰り広げることに――

 という世界観の原作を(今のところ)ほぼ忠実になぞりつつ、しかしこの漫画版は随所にアレンジを加え、原作読者にもなかなか新鮮な味わいを与えてくれます。
 この第1巻に収録されているのは、主人公たる鉄砲娘・浜路が江戸で伏狩りを営む兄・道節のもとを訪れ、吉原で伏と対峙するまでですが、原作ではプロローグ的なウェイトだった部分を、こちらではかなり肉付けした印象があります。

 ストーリー的に大きく異なる点は、物語の第1話において、原作では既に退治され、晒し首となっていた姿を浜路が目撃する伏の一人・毛野と、浜路が直接対決することでしょう。
 江戸に出てきたばかりの自分に親切にしてくれた茶店の主人がその犠牲となり、さらなる犠牲が生まれるのを止めるため、伏との対決を――もっともこの時点では相手が伏とは知らぬまま――決意する浜路の姿が、ここでは描かれます。

 なるほど、ここで伏という存在と、少女ながらに猟師という特異な浜路のキャラクターをアピールするのに、これはなかなかにうまいアレンジ。
 そしてもう一つ原作と大きく異なる、普段は脳天気ながら、伏に対しては一転冷酷無惨な狩人となる道節のキャラクターも第1話のラストで描かれ、掴みとしてはまず十分以上のものがあるかと思います。

 ちなみにここで驚かされるのは、縦横無尽に森の中を駆け巡りつつ攻防を繰り広げる浜路と毛野のアクション描写。
 (単なる止め絵ではなく)漫画ならではの、漫画でしか描けないダイナミックな動きを感じさせるその描写は、なるほど封入のしおりに作者の感嘆の言葉が記載されていたのも納得の見事さで、正直なところ、ここでこれほどのものを見せてもらえるとは…と感心いたしました。

 もっとも、凄まじいガンアクションを見せられれば見せられるほど、江戸御府内で女の子がためらいもなく鉄砲をぶっ放すというファンタジーっぽさが目立ってしまうのは痛し痒しかもしれませんが…(それはまあ、原作からそうではあるのですが)


 閑話休題、さらに注目すべきは、ここで浜路が自ら伏と戦い、その存在を目の当たりにすることで、彼女自身の心に大きな――疑問という名の――楔が打ち込まれたのが明確に描かれることでしょう。

 伏とは何者なのか、彼らは何故人を襲うのか――その疑問は、もちろん原作でも描かれたものではありますが、しかし本作は、その点をより明確に、鮮烈に浜路に、そして読者に突きつけてきた印象があります。

 この先、本作がどこまで原作をなぞっていくのか、それはわかりませんが、おそらくは原作の中でもこの点をさらに掘り下げて描かれることは間違いありますまい。

 確かなアクション描写と、ドラマの掘り下げと――単なるコミカライズに留まらない、もう一つの「伏」の物語をこの先期待しても良さそうであります。

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 「伏 贋作・里見八犬伝」(その二) 伏という人間の在りかた

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