「いくさの子 織田三郎信長伝」第3巻 父と子の涙!
織田信長の少年時代を描く原哲夫「いくさの子 織田三郎信長伝」第3巻であります。
この巻では、信長自身というよりも、その父・信秀の最期を中心に、物語が展開していきます。
元服し、うつけの仮面の下で着々と将来に向けた地固めをしていく信長。南蛮人シスコ、そして快僧…というよりも乱僧・沢彦宗恩の下で、配下の不良少年たちと理想の軍――後の母衣衆に繋がる――を作るべく、野山を駆け巡る毎日であります。
しかしこの時期の尾張は内憂外患――辛うじて織田信秀がまとめていた国内は、織田一門の中でも公然と反旗を翻す者が現れるなど、乱れる一方。
そして国外では、前巻より登場の「ノオウ!」の今川義元と太原雪斎が、さらに娘を信長と娶せたとはいえ全く油断のならぬ美濃の蝮・斎藤道三が、国内の乱れに乗じて尾張を奪うべく虎視眈々と狙っております。
そんな中、尾張の自由のため戦い続けてきた信秀ですが、尾張の虎と恐れられた彼も病み衰え、ついに最期の時が迫ることとなります。
ちなみにここで信秀が語る「自由」が、明らかに近代的な自立・自決の概念なのですが、信秀自身の口で「気ままに生きること」ではないと、当時の自由概念を否定しているところを見ると、これはわかってやっているのでありましょう。
閑話休題、史実ではその葬式で、信長が遺影に抹香を投げつけたというエピソードで名高い(?)信秀ですが、本作においては、その父と子の絆は揺るぎないもの。
国内を引き締めるために、最期の出陣を行い、見事に勝利した信秀に対する、信長の奇想天外かつ心の籠もった出迎えの様は、間違いなくこの巻のクライマックスと言えるでしょう。
実のところ、父と子の別れがメインとなるこの巻は、冒頭に述べたとおり信長のサイドの動きは小さく、その意味では地味な印象を受けるます。
しかし、この巻で幾度となく描かれる、男臭い連中が堪えに堪えた末にぶわっと涙を流す姿は、これぞ原哲夫節、とでも言うべきドラマ描写で、これはこれで悪くありません。
また、史実では諸説ある信秀の没年ですが、本作ではそれを利用して、信秀の死を隠すべく影武者を用意していたという設定も面白い。
この影武者が、剛毅なのか弱気なのかわからない(しかし戦場で受けた傷がもとで、明日をも知れぬ身という)キャラなのもユニークで、今後が楽しみなキャラクターがまた増えた、という印象であります。
ただ一つ残念なのは、単行本の帯の「信長とこの男の運命が交わる!! 稀代の軍師明智光秀参戦!!」というアオリが明らかに言い過ぎなことで――実際にはほとんど顔見せのみ。
もちろん、本当に信長と光秀の運命が交わる日もさほど遠くはないのでしょうが…
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