「曇天に笑う」第4巻 残された者たちの歩む道
300年に一度復活する人類の敵・オロチ(呪大蛇)。明治の世にその時を迎え、オロチに抗する人々の姿を描く伝奇アクション「曇天に笑う」、激動の第4巻であります。
復活の時に、人間を器として選ぶというオロチ。今回の復活の時に選ばれたのは、主人公たる曇三兄弟の長兄・天火だった…!?
というだけでもインパクトが大きすぎるところに、前巻のラストでは事が露見した天火が処刑されるというあまりにもショッキングなシーンで終わった本作。
読者にとってもショックなのですから、兄を失った兄を失った空丸と宙太郎の衝撃はいかほどのものか…
しかし、二人はそれぞれの形で、その衝撃を受け止め、前に進み始めます。…その形が、必ずしも正しいものとは言えないのが、また物語をややこしくしてくれます。
かたや、兄の親友であり、対オロチ特殊部隊・犲の隊長・安倍蒼世の下で、これまで以上に剣術の修行に打ち込むようになった空丸。
自分は兄にはなれない、しかし自分には自分にしかできないことがある――その想いを胸に前向きに成長していく彼の姿は、まさに少年漫画の主人公であります。
(そして、彼の修行シーンを通じて、犲と曇家、そして獄門処に潜む仮面の男の因縁が描かれるのも実に面白い)
一方、どう見ても間違った方向に進んでいるのが宙太郎。獄門処から脱走した人斬り・嘉神の甘言により、兄を処刑した新政府への恨みを募らせた宙太郎は、嘉神と行動を共に
することになります。
空丸の方が、かつて獄門処で行動を共にしたはぐれ風魔の少女・錦と出会い、交流を深めるなど確実に良い方向に向かっている一方で、宙太郎は無頼の嘉神と行動を共にして危うく野盗の真似事をさせられるなど、どう見ても闇落ちの方向に…
残された兄弟の行動にやきもきさせられる一方で、その他のキャラクターたちの動静からも目が離せません。
残された二人を案じる元風魔の頭領・白子、その彼とも因縁を持つ仮面の男、そして犲の上に立つ岩倉具視も知らぬ動きを見せる政府の一派とそれと結ぶ謎の男・比良裏(その名前は…!)
すでに三兄弟だけで収まらぬ数々のキャラクターたちの因縁が入り乱れ、そのダイナミズムが物語を動かしていくというのは、まさに伝奇ものの醍醐味。
ほとんど役者は出揃ったであろう、ここからがおそらく本番。オロチを巡る物語が果たしてどこに向かっていくのか、全く先が見えないだけに、何とも心が躍ります。
いや、もう一人、役者が欠けている――と思いきや、その彼がこの巻のラストで思わぬ姿を見せ、一気にこちらのテンションも上がる!
と思いきや、その直後にまたもや最大の悲劇が待ち受けていようとは…
まったく、この作品にはこちらの気持ちをいいように振り回されているようですが、それもまた優れた物語の醍醐味。まだまだいくらでも振り回していただきたい、そんな作品なのであります。
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