「天海の暗号 絶体絶命作戦」上巻 地の秘宝を入手せよ!
家康と三成の決戦が目前と迫る中、謎の騎士団がかごめ歌を歌いながら暴れ回っていた。一方、東軍敗北を予感した家康は、逆転の切り札としてかつて信長が奪ったという十種神宝を奪取することを暗号師・蒼海と少年忍者・友海に命じる。実行不可能な密命に挑む二人の前に立ちはだかる騎士団の正体は…
伝説の暗号解読術を会得した肥満体の暗号師・蒼海と、少年ながら凄腕の火薬師にして忍びの友海、この凸凹コンビが破天荒な活躍を繰り広げるシリーズが帰ってきました。
これまで、秀吉と千利休が残した暗号を解き日本消滅の危機を救った「秀吉の暗号 太閤の復活祭」、山本勘介の軍学書に仕掛けられた幕府転覆の陰謀を暴くと同時に再生武田信玄軍団と死闘を繰り広げた「軍師の秘密」、信長がヴァリニャーノに送った屏風に秘められた日本と南蛮を同時に揺るがす秘密を解き明かした「信長の暗号」と、数々の事件を解決してきた蒼海・友海コンビ。
そんな彼らが今回挑むのは、「秀吉の暗号」の直後、関ヶ原の戦を目前にした一大不可能ミッションであります。
三成を天下分け目の戦に引きずり出すことに成功したものの、いかんともし難い東西の兵力差に、頭を痛める家康。
そんな彼の元に届いた「咲庵」なる人物から届いた書状――そこに記されていたのは、かつて信長が石上神宮から奪い、後に秀吉の手に渡ったという十種神宝の在処でありました。
三種の神器を超える力を秘め、この戦いで中立を保っている朝廷を味方につけ、戦後も優位に立つことが可能という十種神宝。
しかしこの秘宝は二箇所に分けられ、地の宝は足を踏み入れて生きて帰った者はいないという地獄寺に、そして天の宝は東西の戦の最前線である、細川幽斎がわずかな手勢で守る田辺城に隠されたというではありませんか。
かくて、地獄寺から地の宝を奪取し、次いで田辺城から天の宝を見つけ出し、さらに開戦まで田辺城に西軍の兵力を釘付けにせよという一石三鳥の、しかし困難と言うも愚かな不可能ミッション「絶体絶命作戦」(!)の密命が、蒼海と友海に下されることに――
という本作は、この上巻の時点で、謎もアクションも伝奇も山盛りの満漢全席状態、次から次へと蒼海・友海コンビに襲いかかる危機に、息を継ぐ暇もないというのは、決して誇張ではありません。
いや、あの松永久秀が、自爆の前に利休とある人物に十種神宝の秘密を遺すという場面に始まり、かごめ歌を歌う謎の西洋騎士団が御所を蹂躙、彼らに襲われた忍びが瀕死となりながら秘文を伏見城に持ち帰る(しかもここで思わぬ伝奇ネタ炸裂)という導入部だけで、こちらの体温が一度も二度も上がります。
そしてその中で描かれる十種神宝を巡る物語も――これまでと同様――一歩間違えればトンデモ呼ばわりされかねないものではあります(ちなみに蒼海が「秀吉の暗号」の後、まさにこのような扱いを受けて冷飯を食わされていたという設定に思わず苦笑い)。
しかし、荒唐無稽に過ぎると思われるアイディアであっても、それを活かす理論理屈を用意し、史実との整合性を生み出して、(たとえ作中のみのものであっても)説得力をもたらすのが時代伝奇の醍醐味(単に無茶苦茶をやればいいというものではない!)。
そしてその点で、本作は見事なまでに魅力的な時代伝奇ものであることは間違いありません。
おそらく今の時代小説界において、奇想という点でみれば五本の指には入ろうという作者ならではの世界に、気持ち良く酔うことができました。
もちろん、欠点が皆無というわけではありません。アクションシーンで火薬に頼りすぎ(友海は火薬師ではありますが)という点は強く感じますし、蒼海・友海が暫定的とはいえリプレイ能力を持ったことで、緊迫感が薄れているのは否めません。
しかしその点を差し引いてもなお、本作は十分以上に面白すぎる。上巻の時点ではようやく秘宝の半分に手をかけたに過ぎませんが、絶体絶命作戦はこれからが本番。
果たして絶望的な戦力差での籠城戦に、二人が如何に挑むのか――期待せずにはいられません。
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