「戦国妖狐」第10巻 真の決戦、そして新たなる旅立ち
ついに単行本が二桁の大台に突入した「戦国妖狐」。第10巻からは第二部の第二章と言うべきでしょうか、千夜青年編の開幕であります。
千夜とムドの、足利義輝と松永軍との、二重のクライマックスを超えた先に待っていたものは…
運命の永禄8年5月19日、己の力を遙かに上回るかに見えた黒龍の少年・ムドを、己の中の千の闇の力を結集することによって勝ち抜いた千夜。
傷だらけになりながらもムドに捕らわれていた月湖とともに帰ってきた彼を待っていたのは、将軍義輝が松永久秀に討たれたという報せでした。
そしてその悲しみに浸る間もなく彼の前に現れたのは、これまで多くの土地神を狂わせ、そして義輝の死にも間接的にかかわった、あの謎の五人組――
そう、千夜の戦いは実はここからがクライマックス! 果たして五人組の力の秘密とは、その正体は、そして何よりも、千夜は彼らに打ち勝つことができるのか…
作者の作品はのんびりしたムードのようでどこか醒めた、シビアな現実を描いたものが多く、もちろん本作もそれに連なるものではあります。しかし本作――特に千夜編に入ってから――が他の作品と異なって感じられるのは、ある種少年漫画的な(あくまでもある種「的」なのですが)熱血というものを自覚的に描いている点ではないかと感じます。
この、千夜と五人組との決戦の展開などは、まさにストレートな熱血を感じさせるもので、特にあの人物の助けを得て千夜が立ち上がり、そして彼らも! というシーンには、大いにテンションが上がった次第です。
しかし、物語はまだまだ続きます。時は流れて8年後、室町幕府が滅んだ元亀4年…
再来を予言した五人組との対決、そしてかつて山の神(オオヤマミツチヒメ)に封印された父・神雲を救うため、旅だった千夜と月湖となう、そして久しぶりに登場したたまを加えての冒険がこの巻から描かれることになります(真介は諸般の事情でお休み)。
正直なところ、この先の展開がどうなるのかは全く見えませんが、既に完全に千本妖狐と化した迅火の出現、意外すぎる姿で登場した意外な人物(?)に、さらに意外なキャラが加わって…と、早くも波乱含みであります。
しかしこの先も中心となるのは千夜の生き様であることは、間違いありますます。
敵の正体と目的を知った千夜が、果たして己自身をこの先も貫くことが――己の在りたい己として在ることが――できるか。まずは文字通り高い高い山を乗り越えられることができるか、新章に対して、早くも期待が高まります。
ちなみにムドは人間に武術を習っているようですが、ムドに武術を教えられそうな人間なんて…あ、(生きていたら)一人いましたね。武術馬鹿で神雲とも因縁のあるキャラが。さてこの予想は当たっているか?
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