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2012.12.31

「邯鄲の誓 始皇帝と戦った者たち」 戦いの始まりと果たされるべき誓い

 紀元前3世紀、中国では秦王・政の下、秦軍が圧倒的な力で各国を侵略していた。秦に滅ぼされた韓の宰相の家に生まれた少年・張順は、復仇のため、そして運命を共にする者を見つけるため、趙の都・邯鄲を訪れる。そこで剣術修行に打ち込む張順の前に現れたのは、名剣士にして快男児・荊軻だった…

 秦の地方都市・琅邪を舞台としたユニークな中国ミステリを発表してきた丸山天寿の新作は、それよりも少し前の時代を舞台とした物語――ミステリではなく歴史活劇であり、少年の成長物語であり、ボーイ・ミーツ・ガールの物語である、魅力的な作品です。

 タイトルにある邯鄲とは、中国の河北にあった都市の名。古くから交通の要地であったため商業で栄えた都市にして、戦国七雄の一つ趙の都、そして、後に始皇帝となる秦王・政の生地であります。本作ではそんな邯鄲の地で、副題の通り「始皇帝と戦った者たち」の物語が描かれることとなります。

 当時秦の強力な圧力に苦しめられていた戦国七雄の一つ、韓。主人公の少年・張順は、この韓の宰相の家に生を受けます。
 まだ年若いながらも神算鬼謀の持ち主である兄の指揮の下で秦軍に大打撃を与えながらも、韓の劣勢は明らかになった時、張順はその兄の命で邯鄲に向かうこととなります
 民のために秦王個人を倒す――その戦いの中で、己の背中を任せ生命を預けられる人を探すために…

 一方、秦の侵攻は北方でも繰り広げられ、北方の遊牧の民・匈奴の少女・桃は、その中で親を失い、自らは戦利品として燕国に売られることとなります。
 そんな境遇でも明るさとたくましさを失わぬ彼女は、かつて母が語った「龍のように強く優しい殿方」と出会えることを信じて…

 そして張順と桃、二人の少年少女を結ぶ存在となるのが、荊軻――そう、「史記」の「刺客列伝」に登場するあの荊軻であります。
 酒と博打に明け暮れながらも、人並み外れた剣の腕を持ち、広い度量と熱い義心を持つ快男児…本作の荊軻は、そんな人物として描かれます。張順にとっては同門の兄弟子であり、尊敬できる先輩として、桃にとっては売られた先の主人であり、自らの愛を捧げるべき男性として――荊軻は二人の人生に、大きな影響を与えることになるのです。

 もちろん我々は、荊軻の企てが失敗に終わったことを知っています。本作においても、荊軻の暗殺行は「刺客列伝」の描写をなぞり――もちろん本作ならではの解釈を加えて――彼の最期を描き出します。
 しかし、彼の死によって、始皇帝に挑む者がなくなるわけではありません。いやむしろ、ここからが全ての始まり、今なお続く張順と桃の戦いの始まりなのですから。


 …ここで「今なお続く」と表現したのは、実は、本作が冒頭で触れた琅邪シリーズのビフォアストーリーとなっているためであります。
 張順と桃はこのシリーズの重要な登場人物。本作の後(おそらくは様々な冒険を経て)に彼らは琅邪に身を寄せて、「今なお」始皇帝打倒の戦いを続けているのです。

 そのため、シリーズを読んでいるか否かによって、本作の感想は変わってくるであろうことは否めないかもしれません。しかし、シリーズを読んでいることで本作の感動が増すことはあっても、シリーズを読んでいないことで本作の魅力が減じるということは、私はないと感じています。
 遙か二千年以上前の中国という特殊な舞台でありつつも(そしてもちろんそれは存分に活かしつつも)、本作はいつの時と場所でも通じる少年と少女の出会いの物語であり――そして結末に描かれるのは、人生にたった一度の、少年の旅立ちの時なのですから。


 全三部構成の本作は「中原の夢」「草原の夢」「邯鄲の誓(ゆめ)」と、いずれも「ゆめ」を各部の題としています。その中でも第三部の、そして本作の題は、間違いなく邯鄲の夢――人生の栄枯盛衰のはかないことを語るあの故事から来ているのでしょう。

 しかし、本作において邯鄲で少年少女が見るのは、儚い夢ではありません。それは人生を通じて貫くべき誓いなのであります。
 その誓いが果たされる、その日がいつか描かれることを、今は心より楽しみにしている次第です。


 ちなみに冒頭で本作はミステリではないと申しました。しかし秦王・政の行動は(史実に則りながらも)、ある疑惑を抱かせるのですが――さて。

「邯鄲の誓 始皇帝と戦った者たち」(丸山天寿 講談社) Amazon
邯鄲の誓 始皇帝と戦った者たち


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2012.12.30

「青蛙堂鬼談」(その四) 現代、過去、異国を結ぶ怪談

 四日間に渡って続けて参りました岡本綺堂の「青蛙堂鬼談」全十二篇紹介、今回で最終回であります。

「黄い紙」
 本書には、本書が執筆された時点における現代を描いた、いわば明治大正のモダンホラーとも言うべき作品もいくつか収録されていますが、コレラの大流行を背景とする本作も、その一つ。

 コレラが大流行する中、何故かコレラになろうとする女の姿を描く本作は、一種の奇談であり、怪談としては小粒に感じられます。
 何故女がコレラになろうとしていたのか、そしてなった後の顛末についてはなかなか面白く、この舞台設定ならでは…というものもありますが、やはり他の作品に比べるといささか見劣りがするというのが正直なところではあります。

 しかし、目に見えない病魔――そしてそれに込められた怨念の存在を、当時コレラ患者が発生した家に貼ったという黄色い紙を通して浮かび上がらせる手法は、なかなかに印象的ではあります。


「笛塚」
 最近の文庫本には珍しく、本書には口絵が付されているのですが、表紙と同じく山本タカトによるその口絵の題材となっているのは本作であります。

 笛好きの青年武士が、ある名月の晩に笛を吹きながらそぞろ歩くうちに出会った、名笛と思しき笛を奏でる乞食。その由来を尋ねた青年に、「拙者はこの笛に祟られているのでござる」という言葉とともに、乞食は己と笛にまつわる奇怪な物語を語り始めます。
 そして、その笛に強く魅せられた青年は…

 手にした者の運命を次々と狂わせるアイテム、という趣向自体は珍しいものではありません。しかし本作においては、それが笛であることで、奇怪ながらもどこか雅やかな空気を漂わせている(先に述べた山本タカトの口絵は、その空気を見事にとらえています)のが巧みな点でしょう。

 笛に込められた伝奇的な秘密の一端がドラマチックに明かされながらも、なおも謎が残る結末も見事であります。


「龍馬の池」
 十二番目、最後に収められた本作は、語り手が体験した物語、すなわち「現代」の物語であると同時に、遙か平安の昔の物語でもあります。

 写真道楽の語り手が訪れた先で聞かされた綺譚――龍が棲むという池を祀るため、平安時代にさる仏師が彫り上げた馬飼いの少年と神馬の像にまつわる奇怪な物語は、その池を訪れた語り手の前で、現代にオーバーラップして再び浮かび上がることになります。

 一つの物語の中で過去の怪異と現代の怪異が重なり合って一つの怪談として描かれるというのは、たとえば同じ綺堂の名品「西瓜」があります。
 本作はそれに近い構造を持っていますが、しかしさらにそこに中国における物語も絡んでくるのが面白いところであります。
 過去の日本の物語、現代の日本の物語、それを繋ぐ中国の物語――三つの角度から描かれる本作は、それ自体の構造の面白さもさることながら、この「青蛙堂鬼談」という怪談集全体の姿を浮かび上がらせている、というのは牽強付会に過ぎるでしょうか。


 以上十二篇、「青蛙堂鬼談」に収められた物語は、これまで紹介いたしましたとおり、クオリティの高さといいバラエティの豊かさといい、綺堂怪談の精華であると同時に、その入門編としても相応しい怪談揃いと今回読み直して感じた次第です。

 ちなみにこの中公文庫版は、これまで単行本未収録であった「梟娘の話」「小夜の中山夜啼石」の掌編を収録。さらに千葉俊二氏による解説も実に興味深く、先に述べた山本タカトの表紙絵・口絵も含め、既読の方も一度手に取って実物をご覧になることをおすすめいたします。


「青蛙堂鬼談 岡本綺堂読物集」(岡本綺堂 中公文庫) Amazon
青蛙堂鬼談 - 岡本綺堂読物集二 (中公文庫)

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2012.12.29

「青蛙堂鬼談」(その三) 綺堂怪談の中のエロティシズム

 岡本綺堂の「青蛙堂鬼談」の全十二篇紹介、その三であります。

「窯変」
 後半の一篇目は、日露戦争の従軍記者であった語り手が、満州で耳にした怪異を語るというユニークなスタイルの作品。

 一夜の宿を求めて訪れた家に、奇妙に暗い陰を感じた語り手は、やがてその家にまつわる因果因縁を知ることになるのですが――
 その因縁譚自体は、いわゆる「六部殺し」のバリエーションであって新味がないのが残念なところですが、それによって生まれた怪異、タイトルにあるとおりのそれは相当に不気味であります。

 しかし本作で一番印象的なのは、その家に泊まろうとする語り手を止めようとする村の男の、「家有妖」という言葉でしょう。実に即物的な描写ではありますが、それだけに不思議な凄みがあります。


「蟹」
 蛙・猿(これは面ですが)・蛇と存外動物を題材とした作品が多い本書ですが、本作で描かれるのは、タイトル通り蟹であります。

 蟹好きの男が宴席で蟹を出そうとしたことがきっかけとして、本作で次々と起こる怪事は、確かに全て蟹にまつわるものでありながら、しかし果たしてそれらに繋がりがあるのかもわからないものばかり。
 一歩間違えれば全て偶然で片づけられなけないそれらが、しかしやはり恐ろしいのは、事件が一度では終わらず、次々と連鎖していく点でしょうか。

 作中で怪異を予見しているかの如く振る舞いながらも、ほとんどその内容を語らない易者の存在も、良いアクセントとなっています。


「一本足の女」
 この岡本綺堂読物集の表紙は、いずれも山本タカトの美麗なイラストで飾られておりますが、本書の表紙絵の題材となっているのが、綺堂怪談でも屈指の名篇たる本作であります。

 江戸時代初期、里見家の武士が城下で美しい、しかし片足を失った乞食の少女を見つけたことから始まる本作は、一種の妖女もの、吸血鬼テーマの怪談。
 妖女に魅入られて転落を続けていく男、というのは定番ではありますが、本作はその女を「一本足の女」――自身では自由に動くのもかなわず(もっともそれは…なのですが)、男に寄り添って生きるしかない存在として描くのが、作者一流の工夫と言うべきでしょう。
(武士がついに捕らえられた後のちょっとした描写が、また恐怖を煽るのであります)

 しかし何よりも強烈に印象に残るのは、この女が、辻斬りをしてきた男の刀についた人の生き血をねぶる場面でありましょう。
 綺堂の作品には珍しい、強烈なエロティシズム、フェティッシュな蠱惑が濃厚に漂うこの場面、目の前で見せられたら自分も――と一瞬思わされるのが、本作の恐ろしいところ、というのは言い過ぎかもしれませんが…


 次回でラストであります。


「青蛙堂鬼談 岡本綺堂読物集」(岡本綺堂 中公文庫) Amazon
青蛙堂鬼談 - 岡本綺堂読物集二 (中公文庫)

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2012.12.28

「青蛙堂鬼談」(その二) 見えぬ怪異と見える怪異と

 昨日の続き、岡本綺堂の「青蛙堂鬼談」全十二篇紹介の第二回であります。

「猿の眼」
 本書、いや綺堂怪談の中でも屈指の怖さを誇る本作は、語り手自身が体験した、木彫りの猿の面にまつわる怪異談であります。

 骨董集めが趣味だった語り手の父がある晩手に入れた猿の面。目隠しをしたように包まれていたというその面を家に飾って以来、次々怪異が起こる――という内容自体は、正直なところ、怪談としては定番のパターンの一つでありましょう。
 しかしそれでも群を抜いて怖いのは、先に述べた理不尽さ、わけのわからなさともう一つ、ビジュアルの恐ろしさではありますまいか。

 綺堂の怪談は、現代人の目から見ると上品とも言うべき印象を受けることが多いように感じます。
 それは、比較的怪異そのものを正面から描くことが少ないというスタイルも影響しているように感じられますが、本作ではその怪異をビジュアルとしてストレートに描いた点に特徴があるように感じられるのです(そしてまた、上で述べたように、ストレートに怪異が起きているのに、わけがわからないというのがまた怖い)

 もう一点注目すべきは、この面を売ったのが零落した武士であるというくだりでしょうか。彼らは、本書の時点で既に過去の存在でありますが――それが背後に漂ううっすらとした怨念の存在を感じさせてくれるのです。

 ちなみに以前高橋葉介が綺堂の「白髪鬼」を「白髪の女」の題で漫画化した際、この猿の面が思わぬゲスト出演をしているので、興味のある方はぜひ。


「蛇精」
 続く第五篇は、これまでとはまた異なる味わいの土着的な内容の作品。
 江戸時代の九州の山里で、うわばみ取りを生業とし、その見事かつ奇怪な腕前から蛇の精と噂された男・蛇吉を描く物語であります。

 常人から見れば妖術のような手腕でうわばみを取る蛇吉が、強敵と見えた時に使う技。それはまぎれもなく妖術そのものとしか思えず、その意味では周囲の噂も事実と感じられるのですが、しかし本作では蛇吉を、妻を愛するごく普通の男として描きます。

 この辺りの人物描写が、綺堂怪談が古めかしい怪談と一線を画する理由の一つ…というのは大袈裟かもしれませんが、しかしそれが結末に至り、皮肉な理不尽さを生み出す効果を上げているのは、やはり見事と言うべきではないでしょうか。


「清水の井」
 これも江戸時代の九州を舞台とした物語。ある豪農の家の娘二人が、家の井戸の水面に浮かぶ美男二人に見入られて…という内容は、これも前話同様、一種民話めいた内容ではあります。

 そのため、新鮮味という点では他の作品には及ばないかもしれませんが、しかし平家の落人伝説と絡んで、その怪異を生み出した正体が終盤で語られるに至り、その印象はいささか変わってくることになります。
 怪異の正体を語る伝説に加えられた意外な一捻り――それが古典的な伝説とそれが生んだ怪談に濃厚な倒錯美を与える様は、やはり綺堂の腕というものでしょう。

 ちなみに本作は、「兄妹の魂」とともに、他の作品とは別に発表されたものを、単行本において「青蛙堂鬼談」として収録したもの。そのため、本によっては本作を綺堂の別の怪談「水鬼」の続談として掲載しているものもあります。


 明日に続きます。

「青蛙堂鬼談 岡本綺堂読物集」(岡本綺堂 中公文庫) Amazon
青蛙堂鬼談 - 岡本綺堂読物集二 (中公文庫)

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2012.12.27

「青蛙堂鬼談」(その一) 多種多様の怪談会の幕開け

 先日より、中公文庫で岡本綺堂読物集と題して岡本綺堂の短編集が刊行(再刊)されています。その第一弾は「三浦老人昔話」でしたが、第二弾は「青蛙堂鬼談」――綺堂の代表作の一つとして、そして優れた怪談文学として今なお語り継がれる名品であります。ここではこれから数回に分けて、全十二篇を紹介していきたいと思います。

 この「青蛙堂鬼談」は、青蛙堂主人を名乗る数寄者の男が、ある雪の夜に人々を集めて行った怪談会で語られた十二の物語を収録したという体裁を取っております。
 主催者の友人語る第一篇を除く残りの物語は、いずれも「第○の男(女)は語る。」という一文から始まっており、それが怪談会としての体裁を見せるとともに、一種の匿名性が、不思議な普遍性を以て感じられるところであります。


「青蛙神」
 さて、その第一篇は、上で述べた怪談会の主人とも縁のある青蛙――三本足のがまがえるにまつわる伝説であります。

 中国の明の末、不思議な形で妻に助けられたある武人が、ある時その妻が奇怪な三本足のがまを拝んでいるのを知り、思わず妻を…
 という本作は、後に「中国怪談集」を著した綺堂らしい中国怪談。

 その内容自体は、さまで珍しいものではありませんが、しかし蛙にまつわる怪異が連続する様は、やはり迫力があります。
 そしてまた、「現代」の日本の人間が、明代(過去)の中国の怪異を語るという構造がなかなか面白く、バラエティに富んだ怪談集である本書の幕開けにはふさわしいものと感じさせられます。


「利根の渡」
 享保の頃の利根川の渡しを舞台とした本作は、本書の中でもかなりの名編と呼んで良いのではないでしょうか。

 雨の日も晴れの日も、暑い日も寒い紐、利根川の岸に立ってある男を捜す座頭と、ふとしたことから共に暮らすこととなった渡し小屋の老人。老人に少しずつ座頭が語るその過去により、老人は座頭が何故目の光を失い、男を捜すようになったか知るのですが…

 綺堂怪談の怖さ、そして今なお古びない新鮮さの源は、怪異の因縁、それが発生する理由を全て描かず、怪異それ自体をほとんどそれだけ取り出して描く点にあるかと思います。
 その意味では、本作は古風な因果因縁の物語ではありますが、しかしそれを綺堂が料理すればこうなる、という見本のような作品であります。

 ことに、生きた魚の目を針で貫く技を見せた座頭が「刺さりましたか、確かに、眼玉のまん中に……。」と老人に確認してにやりと笑うくだりなど、綺堂の語りの巧みさが現れた名場面(?)でありましょう。


「兄妹の魂」
 第三篇は、これまでとは変わり、語り手自身が経験した怪談、いわば「現代」の怪談であります。
 妙義山の宿に籠もっていた語り手を訪ねてきた親友。ある宗教の講師を家業としている彼は、しかし語り手の前に顔を出すなり山の中にどんどん分け入っていき、そのまま姿を消してしまいます。捜索の末、ようやく見つけた彼の姿は、しかし…

 当時のリアルタイムの怪談として独特の迫力を持つ本作ですが、しかしその怖さの淵源は、何よりも「説明のつかなさ」でありましょう。
 実は物語の後半は、語り手が怪異の原因を探って、親友にまつわるある事件を知ることとなるのですが、しかしそれが原因としても、何故そんなことが起こりえるのか。当時としては最先端の科学であろう催眠術まで持ち出した説明が、かえって空々しいものと感じられる理不尽さが、本作の味でありましょう。


 以下、続きます。

「青蛙堂鬼談 岡本綺堂読物集」(岡本綺堂 中公文庫) Amazon
青蛙堂鬼談 - 岡本綺堂読物集二 (中公文庫)

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2012.12.26

「浣花洗剣録」第9集/第10集 盟主の最期と新たな波瀾

 「浣花洗剣録」も全体の1/4、第9集はまだまだ大臧と赤鬆道士の対決を引っ張りますが、第10集ではその結果を受け、人間関係がさらにややこしく動いていくこととなります。

 妻を失って豆腐メンタルとなった赤鬆を心配する候風。一度自分が受けた大臧の燕返しをコピーして見せるなど、対策に協力したものの、これを赤鬆が破れないと見るや、決闘回避に向けて動き出します。
 金祖揚には代役を頼むも断られ、晴空大師にはフクロにしようと持ちかけて窘められ、脱塵に大臧説得を依頼するも彼女は珠児に恋のアドバイス(というか応援)をしたに留まり、結局自分が説得しにいっても挑発するだけで終わり――役に立ちません。

 ちなみにこの中で注目は、金祖揚の秘密。実は数多くの宝剣が眠る「剣閣」を守る「剣奴」なる存在に代々仕える金一族は、武林の争いに関わってはならないという掟が…というのですが、これは今後の伏線でしょう。
 宝剣と言えば、赤鬆の持つ「赤霄」は、武芸大会の開催とともに晴空に託され、晴空は一足先に武当山を去るのでした。

 そしてついに余人を交えず激突する大臧と赤鬆――一見互角に見えた戦いながら、密かに盛られた毒の影響で弱っていく赤鬆。それにも気づかぬ大臧の燕返しがついに赤鬆を貫く! と思いきや、さすがは赤鬆も武林の盟主、それでも屈せずになおも戦おうとするのですが…ここで適当にあしらわず、正面から受けて立つのが蓬莱武士(というか宝剣の在処を吐かないので)、大臧は激闘の末、ついに赤鬆に止めをさすのでした。

 そして、あまりに遅い赤鬆の帰りに探しに来た候風たちが見たのは、死力を振り絞ったのか、決闘場から離れた場所に倒れた瀕死の赤鬆。彼は「霊…猫…撲…兎」と謎の言葉を遺し、帰らぬ人となるのでした。初めて彼を父と呼んだ奔月の「二度も私を捨てるの!?」という叫びも空しく…

 と、妻の傍らに葬られた赤鬆ですが、そこにやって来たのはかつての白三空の弟子であり、その死後に武当派に入った武術家・胡不愁。赤鬆が大臧に討たれたことを知った彼は、二度までも師を殺した大臧に怒り心頭、一門を率いて彼を追うことに。
 そんなこともつゆ知らず、珠児が待つ家に(この家、門もあるそれなりにちゃんとしたものなのですが、どうやって手に入れたのか…)帰ってきて、傷ついた心身を癒していた大臧。仲良く夕飯を食べていたところにいきなり火矢を射かけられてピンチに陥りますが、そこに駆けつけたのは木郎と脱塵。

 四人でひとまず逃れたものの、木郎が身を寄せていた丐幇に彼の出自がばれ、今度は武当派と丐幇に追われる羽目に。ここで敵の群れの前に孤剣を担いで飄然と現れる大臧が格好いいのですが、上段から襲う彼の刀を棒で受ける丐幇の長老…と思ったら棒はスッパリ切れて長老頭に刀グッサリという展開は、ほとんどギャグの呼吸でありました。

 それはさておき、カップルに分かれて逃走する二組ですが、後に残った木郎と脱塵が追い詰められた時に颯爽と助けに現れたのは、とっくに死んだと思っていた脱塵の部下・史都将軍。いつの間にか火薬まで仕込んだ荷車を用意した将軍は、追っ手に向かって車を転がし、火矢を放って大爆発! 武術家と軍人の違いを見せつけられた思いであります。

 さて、ひとまず逃げ延びた三人ですが、木郎は将軍の白水宮に入ってはという説得も聞かず、脱塵も任務を放棄してはという将軍の言葉を聞かず、微妙な雰囲気に。
 そして脱塵と将軍が話している間、謎の忍者ルックの一団と会っていた木郎。そこに襲いかかった丐幇を軽く皆殺しにした一団の正体は、明朝の特務機関・錦衣衛!? ということは、彼らと会っていた木郎は…?(こうしてみると、青木幇の残党と顔を合わせたがらなかったのも、怪しく思えます)

 と、疑惑の残るものの、脱塵には優しい木郎。しかし度重なる武当派の攻撃(宙に投げた縄が網に変化するという面白集団戦法)の前に、捕らわれてしまうのでした。
 一方、大臧と珠児も追っ手に追い詰められるのですが、そこに現れたのは白水宮の王大娘。大娘は、二人を白水宮に連れて行くのでした(が、白水聖母に情に流されるなと怒られる)。


 と、今回あまり触れなかった方宝玉は、ようやく候風から父母の話を聞くのですが、候風が白艶燭と霍飛騰のなれそめから話し始めたせいか、ようやく二人が結ばれたところで邪魔が入り、話は中断。
 ここまで聞いたら、自分が霍飛騰の子だと勘違いするんではと不安になります。本当に候風は当てにならないな…


関連記事
 「浣花洗剣録」第1集 未知なる古龍世界の幕開け
 「浣花洗剣録」第2集 入り乱れる因縁と血
 「浣花洗剣録」第3集/第4集 決闘、蓬莱剣士対紫衣侯
 「浣花洗剣録」第5集/第6集 入り乱れる6人の因縁
 「浣花洗剣録」第7集/第8集 決戦前夜、引き寄せ合う男と女!

関連サイト
 公式サイト

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2012.12.25

1月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 月日が巡るのは本当に早いもので、もう新しい年は目前。具体的に何があるというわけではなくとも楽しいのが新年ですが、さて時代伝奇アイテムの方は…というわけで、2013年1月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。

 と、新年への期待を煽っておいてなんですが、1月の発売アイテムは寂しいの一言。

 まず文庫小説の方では、シリーズものの新刊が色々と。
 いよいよ後半戦突入の越水利江子「忍剣花百姫伝 5 紅の宿命」、新シリーズも順調に展開中の上田秀人「御広敷用人大奥記録 3 小袖の陰(仮)」、第1弾からだいぶ間が空いた気もしますがシリーズ化でまずはめでたい、かたやま和華「不思議絵師 蓮十 2 江戸異聞譚(仮)」、こちらも同じくシリーズ化、「おばちゃんくノ一小笑組」の続編の多田容子「女忍隊の罠」。

 このあたりが気になるところ…というか、これでほとんど全部であります。

 内容は不明なものの、タイトルで気になるものとしてはエドワード・スミス「紳堂助教授の帝都怪異考察(仮)」、田辺わさび「本当はエライ始皇帝(仮)」もありますが…さて。


 一方漫画の方は珍しくと言うべきか、小説以上に寂しい状況。

 1月からのドラマ化で盛り上がるであろう
梶川卓郎&西村ミツルの「信長のシェフ」第6巻、前の巻からだいぶ間が空いて色々不安でしたがめでたく発売のながてゆか「蝶獣戯譚Ⅱ」第3巻がやはり楽しみなところで、その他、河合孝典「石影妖漫画譚」と福田宏「常住戦陣!! ムシブギョー」も順調に巻を重ねています。

 …漫画、これでおわり。


 映像の方では、山田風太郎の「くノ一忍法帖」「外道忍法帖」のそれぞれ映画化である「くノ一忍法」「くノ一化粧」がDVD化されるのですが…なぜか一緒に山風原作ではない「くの一忍法 観音開き」も一緒なのがうーむ。


 1月は古典を振り返る月間とするのが良いかもしれません…



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2012.12.24

「天下 奥右筆秘帳」 骨肉の決戦、待ったなし!

 江戸城大奥内で将軍家斉を襲ったものの失敗に終わった寛永寺。しかし新たに寛永寺の指揮権を奪った深園は、島津家を動かして更なる将軍暗殺の罠を仕掛ける。その動きを察知した併右衛門は、衛悟と瑞紀に探索を命じるが、衛悟らに恨みを持つ伊賀者の手が迫ろうとしていた…

 物語序盤から登場していたキャラクターたちが脱落していき、いよいよクライマックスが近いことを予感させる「奥右筆秘帳」の最新巻「天下」が刊行されました(もうタイトルから、クライマックス感が漂うではありませんか!)

 遅々として将軍家斉の排除が進まぬことに業を煮やし、京は東寺から来た深園に追い詰められ、大奥の法事での将軍襲撃という最後の賭けに挑み、散った寛永寺お山衆の束ね・覚禅。
 さらに、寛永寺と結んで家斉を狙っていた松平定信もついにこの巻で脱落を(かなり格好悪く)宣言し、ついにこの国の権力を巡る争いも、役者が絞られてきた感があります。

 家斉とその父である一橋治済、そして朝廷…三つの力のせめぎ合いがこれから描かれていくものと思われますが、その中で注目すべきは、やはり家斉と治済の対立でしょう。
 実の父子でありながらも、将軍位を間に挟み、激しく対立する二人の姿には、正直なところ「何もそこまで…」とすら思わされますが、しかしそれこそが、上田作品がこれまで繰り返し描いてきた「権力の魔」の一つの究極の姿なのでしょう。

 しかし本シリーズは、そんな骨肉の争いと対置して、一つの希望と言うべきものを描き出します。言うまでもなくそれは、ついに父と子(婿養子)となった主人公二人――併右衛門と衛悟の存在であります。
 最初は一種打算的に繋がった二人ではありますが、互いを襲う、そして時には家斉を襲う危機をも二人の力で乗り越え、その絆は揺るぎなきものとなりつつあります。
 血の繋がった者同士が権力を求めて血を流し合うのに対し、心を繋いだ者同士が、ただ自分たちの幸せを守るために戦う…その姿こそが本シリーズの最大の魅力であると、再確認させられた次第です。
(ちなみにその二人を結ぶ瑞紀が、今回は衛悟のパートナーとして事件の探索に加わり、しかも…というのが、実に微笑ましくも心強いところであります)

 そして魅力といえば、本シリーズの魅力はもちろんそれだけでなく、武だけに留まらぬ文の力が存分に描かれる点にもありますが、今回はその担い手として留守居が登場。
 どうも地味な印象がある留守居ですが、しかし今回は単なる名誉職に留まらない、見事な力を発揮して、併右衛門を助けるのもまた、見所であります。


 さて、本作のラストでは、治済の宣戦布告が描かれ、いよいよ家斉と治済の全面対決が始まることとなります。間違いなくそこに巻き込まれるであろう併右衛門と衛悟の運命は、そしてその混乱を虎視眈々と狙う朝廷側の暗躍は…そして衛悟と冥府防人の宿命の対決の行方は。
 まさに決戦待ったなし、であります。


 にしても冥府防人は相変わらず強すぎて…今回も著しい成長を示した衛悟もまだまだ及ばぬこの男がどうすれば退場するのか。
 ある意味今後最大の注目点かもしれません。


「天下 奥右筆秘帳」(上田秀人 講談社文庫) Amazon
天下 奥右筆秘帳 (講談社文庫)


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 「秘闘 奥右筆秘帳」 最大のタブーに挑む相棒
 「隠密 奥右筆秘帳」 権力に挑む決意の二人
 「刃傷 奥右筆秘帳」 敵の刃は幕府の法
 「召抱 奥右筆秘帳」 文と武のクライマックス!
 「墨痕 奥右筆秘帳」 新たなる戦いか、それとも…

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2012.12.23

「黒猫DANCE」第3巻 未来の記憶を乗り越えて

 少年時代の沖田総司の姿を一風変わった視点から描く「黒猫DANCE」の最終巻、第3巻であります。惜しくも早期の終了となってしまった本作ですが、ある意外な人物との出会いが、総司を悩ませる「未来の記憶」の存在に、一つの答えを与えることになります。

 多摩を離れ、江戸の天然理心流道場で暮らすようになったそうじこと沖田惣次郎(総司)。兄貴分の島崎勝太(近藤勇)や土方歳三に可愛がられ、幼なじみの伊庭八郎(!)とも再会したそうじは、江戸でひたすら剣に打ち込むのですが――
 そんな彼を悩ませるのは、時折フラッシュバックする見知らぬ風景や人物。自分の見たこともない、おそらく未来のものでありながら、どこか懐かしい「未来の記憶」というべきそれが何であるのかわからぬまま、そうじはテンガロンハットのおかしな男・龍馬と出会い、再び冒険に巻き込まれることとなるのであります。

 正直なところ、新選組もの・幕末もので、若き日の新選組メンバーと坂本龍馬を絡ませるというのはもはや定番という感があり、この龍馬の登場自体を見れば、新味はありません。
 しかしながら、そこにこのそうじの「未来の記憶」が絡むことによって、龍馬の登場の意味が変わってきます。なぜならば、その「記憶」によれば、龍馬を斬ったのはほかならぬ沖田総司自身なのですから――

 「未来の記憶」の本来の(?)持ち主である総司=未来の総司は、新選組の人斬りとして近藤や土方の命じるままに敵対者を斬り――その果てに、少年時代に一種の友情を結んだ兄貴分である龍馬を斬った男として描かれます。
 龍馬の存在は、本作においては、日本の歴史のみならず、沖田総司自身の歴史においても重要な存在であり、そしてその死は、かつては自由闊達だった総司自身の心の死をも象徴するのであります。


 と、そんな未来が待ち受けているとも知らぬまま、成り行きから黒船に乗り込んだそうじと龍馬が出会うのは、あの吉田寅次郎(松陰)。そして彼こそは、もう一人の「未来の記憶」の持ち主!
 既にそうじよりも自覚的に「未来の記憶」の存在とその意味を知り、繰り返される己の運命を受け容れた上で、なおも己の信念を貫こうとする寅次郎に対し、そうじの選択は――というエピソードをもって、本作は幕を下ろすこととなります。

 この辺りの展開はいかにも急であり、本来であればもう少しじっくりと描かれる予定であったことは想像に難くありません。
 しかし、もう一人の「未来の記憶」の持ち主を登場させ、未来は変えられないことを知るその存在を通じて、本当に未来は不変なのか? という問いかけに一つの答えを与えるという構成はなかなかに美しく、(これもまた定番とはいえ)そこで出された答えもまた、頷けるものであります。


 わずか3巻という巻数は多いと言えるものではなく、これからまだまだ面白い題材がありそうなところで幕というのは――絵的に優れた部分も少なくなかっただけに――いかにも惜しいところではあります。
 しかしそれでもそれなりに満足することができたのは、やはり未来というものへの一つの希望を提示してくれたからにほかならないでしょう(そしてこの辺り、死を目前にした総司を描く書き下ろしの第零幕を合わせるとより一層響くものがあります)。

 そしてその物語の主人公として、永遠の青年のイメージのある総司を選んだ辺りはなかなかの慧眼であったのではないかと、今さらながらに感じた次第であります。


「黒猫DANCE」第3巻(安田剛士 講談社月刊マガジンKC) Amazon
黒猫DANCE(3)<完> (講談社コミックス月刊マガジン)

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2012.12.22

亜智一郎最後のあいさつ

 安政の大地震の際の活躍で将軍側衆の鈴木阿波守正團に見出された亜智一郎。三人の配下とともに江戸城の雲見櫓の上からひねもす雲を見るのは表の顔、裏の顔は将軍直属の隠密として、数々の難事件に挑む――はずなのだが、幕末の動乱をよそに、彼らの周囲にはなにやらおかしな事件ばかりが…

 惜しまれつつも2009年に亡くなった泡坂妻夫の単行本未収録作を集めた最後の作品集が「泡坂妻夫引退公演」と題して先日刊行されました。

 その中に、「亜智一郎」シリーズの未単行本化作品も収録されています。
 長身で飄々とした性格、特技は足の速さと、なによりも頭の回転の速さ。そんな亜智一郎が、三人の配下――安政の地震の際に自ら左腕を斬り落とした(ということになっている)豪傑・緋熊重太郎、甲賀忍者の末裔で忍術の達人・藻湖猛蔵、ケンカっ早く怪力の江戸っ子・古山奈津之助とともに江戸城雲見番役として活躍する連作短編シリーズであります。

 これまで、シリーズの作品7編が「亜智一郎の恐慌」のタイトルで単行本化されておりましたが、残る7編が、めでたく今回作者の「引退公演」の演目となった次第です。
(ちなみに本作は作者の「亜愛一郎」シリーズのスピンオフ、幕末を舞台にご先祖様たちを主人公としたシリーズではありますが、しかしそちらを知らなくても全く問題なく楽しめることは請け合います)

 智一郎たち雲見番は、その名が示すとおり江戸城の雲見櫓から雲の様子を観察する、要するに閑職なのですが、しかしその実、彼らの裏の顔は将軍直属の隠密。
 時は幕末、騒然とした世情を探り、将軍を、江戸城を狙う陰謀を未然に防ぐ――のが任務のはずですが、それに留まらず、様々な事件を解決してしまう(?)のが、何とも楽しいシリーズなのであります。

 今回収録された残る7編は、「大奥の七不思議」「文銭の大蛇」「妖刀時代」「吉備津の釜」 「逆鉾の金兵衛」 「喧嘩飛脚」 「敷島の道」 。
 本シリーズは、一作ごとに作中時間がほぼ一年経っていくスタイルとなっていますが、ラストの「敷島の道」 が慶応3年ですから、幕末も幕末。当然世情は騒然とし、幕府を取り巻く状況もどんどん悪くなっているのですが――

 これはおそらくは意識してのものと考えますが、「恐慌」に収録された7編が、将軍や江戸城を巡る陰謀、薩摩の暗躍などを描いた、比較的にシリアスだった一方で、今回の7編は些か趣が異なります。
 幕末の動乱は背景事情として確かに存在するものの、そこに直接智一郎たちが絡むことはなく、むしろ「日常の謎」的味わいの作品がほとんどなのです。

 この点を残念に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、しかし私はこの趣向に、むしろ作者らしい着眼点を感じます。
 なるほど、舞台となる時代は日本史上の一大転換期、数々の英傑が現れて、後の歴史を作り上げていった時代ではあります。しかし、それはあくまでも日本全体から考えればごくごく一部のお話。
 維新だ何だと一部が声高に叫んだとしても、それ以外の世の中の大多数の人間は(騒然たる世情に振り回されつつも)それなりに自分の日常を、楽しく呑気に暮らしていたのであります。
(さすがに「大奥の七不思議」のオチを見ると、こりゃ幕府はアカンとは思いますが)

 本作で描かれる世界は、まさにその空気を描いたもの。これもまた幕末(という言い方自体、そもそも後の時代の我々の勝手な表現なのですが)のリアルなのであり――そしてもちろん、それが作中で間接的に描かれる動乱・混沌の部分をある種逆説的に強調しているのであります。

 決して声高に、直截に述べるのではなく、遊び心たっぷりにさらっと時代を描く。ミステリ味が薄味なのは少々残念ですが、しかし最後の最後まで、実に作者らしいシリーズであったと、引退公演を見終えて感じた次第であります。


亜智一郎シリーズ(泡坂妻夫 東京創元社「泡坂妻夫引退公演」所収) Amazon
泡坂妻夫引退公演


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2012.12.21

「長安牡丹花異聞」 作者の原点、謎の向こうの人々の哀歓

 長安の少年・黄良は、母を養うために自分が発明した夜光牡丹を売りに出す。その彼の前に現れた偉丈夫の衛士は、夜光牡丹を皇帝主催の花比べに出品することを持ちかける。彼は、胡人の舞姫・小蘭を身請けする金が必要だったのだ。小蘭を交えた三人は夜光牡丹の育成に挑むが…(長安牡丹花異聞)

 中国ミステリで活躍する森福都が第三回松本清張賞を受賞した表題作をはじめとして、6つの中国奇譚を収録したバラエティ豊かな作品集であります。

 少年が発明した夜光牡丹を巡り、混血の衛士と美貌の舞姫、狡猾な宦官が虚々実々の駆け引きを繰り広げる「長安牡丹花異聞」
 茫洋とした外見ながら捕物術の名人・蘇無名が、長安を荒らす盗賊、そして養女の仇を奇計をもって捕らえる様を唐代の爛熟した文化を背景に描く「累卵」
 清代の郷試(科挙の1次試験)会場を舞台に、カンニングの摘発のために送り込まれた男が目撃した意外なカンニング手法と、その皮肉な顛末「チーティング」
 安史の乱で都を逃れた楊貴妃を追う一途な青年の珍道中が、思わぬ波瀾を引き起こす様を駱駝の視点から語る「殿」
 秘薬を作ることができる名医を探し出して出世を夢見る男が知った秘薬の正体と皮肉な運命「虞良仁膏奇譚」
 辺境の国の王子に降嫁した唐の公主とその夫の運命の変転を、従妹の身を慮る男の目を通して浮かび上がらせる「梨花雪」――

 作者にとっては最初期の作品ということもあってか、直接的なミステリ味は薄めに感じられます。しかしながら、作中に用意されたトリッキーな仕掛けが、内容に一ひねりも二ひねりも与えて、深みのある物語を生み出しているのは、やはりこの作者ならでは…と言うべきでしょう。


 その中でも、個人的に特に印象に残ったのは、「殿」と「梨花雪」でしょうか。

 「殿」は、かの安禄山の乱により、玄宗皇帝ともども長安を逃れた楊貴妃を追いかける青年・楊建の物語。
 一途に楊貴妃を慕う楊建は、以前に彼女から命じられて諸国から集めた珍奇な楽器を届けるだけのために懸命に皇帝一行を追うのですが――物語の語り手が、宮廷で飼われていた巨大な駱駝というのにまず驚かされます。

 人間側からは全くその内面はわからぬものの、駱駝の側からは人間側の事情はお見通し…という構成自体がまず楽しいのですが、そこに長安から脱出してきた官女たちが厄介者として加わってくることで、一種の喜劇の様相を呈することとなるのも楽しい。
 その楽しさは、珍道中を繰り広げてきた一行が、殿軍として追いすがる多勢の反乱軍と対峙するクライマックスで頂点を迎えるのですが、その後に待つ結末の、無情かつ不思議な美しさもまた印象に残ります。

 そして「梨花雪」は、唐の支配を支えるため、夷狄に嫁いでいった皇女を巡る物語であります。
 唐と交誼を深めることを願う崑崙山脈の向こうの高地の国のラムポ王と、その父に反発するジェンツェン王子。皇族の末席にありながらも諸国を放浪する主人公はこの父子と知り合い、皇女の降嫁の口利きをすることとなります。

 自分を兄のように慕う美しい金鈴公主だけは降嫁させるまいとする主人公ですが、しかし運命の皮肉により王子のもとに嫁ぐこととなった公主。それでも彼女は「女則」に従い、孝女たるべく粛々と異国に赴くのですが…数年後、彼女から届いた異変を告げる手紙に異国に赴いた主人公は、思わぬ事件に巻き込まれることとなります。

 唐の繁栄を支えるため、周辺諸国に政略結婚で嫁いでいった姫君たち。その一人にスポットライトを当てた本作は、彼女に密かに想いを寄せる主人公の視点から描かれることにより、一種の悲恋ものとして展開します。
 しかし、思わぬ悲劇に巻き込まれた主人公が最後に知ったある事実により、本作は一転、物語に全く異なる隠れた貌の存在がほのめかされるのですが――この辺りの呼吸はまさしく作者一流のミステリ味と言うべきでありましょう。
(そして、それが必ずしも悪意によってもたらされたのではないのではないか、と気づいた時、我々はもう一つの悲劇を知ることになるのです)


 正直なところ、特に表題作など、洗練という点では物足りない部分はあります。
 しかし、ミステリの隠し味により、その時代に生きる人々の哀歓を浮き彫りにして見せる手腕は、まさしく作者ならではのもの。森福都の原点の一つとして、大いに堪能させていただきました。

「長安牡丹花異聞」(森福都 文春文庫) Amazon
長安牡丹花異聞 (文春文庫)


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2012.12.20

「陣星、翔ける」 痛快、陣借り平助三度の見参!

 義に拠って弱きを助け強きを挫く颯爽たる快男児、天下無双のいくさ人・魔羅賀平助の冒険を描いた三冊目の短編集であります。
 刃渡り四尺の大太刀と傘鎗を携え、愛馬・丹楓とともに気儘に戦国をさすらう「陣借り平助」、今回の冒険は…

 厳島、桶狭間、川中島――名だたる合戦に参加して大活躍し、かの剣豪将軍義輝から百万石に値すると評された魔羅賀平助。仕官を望まず、ただ腹一杯白米の飯を食えることだけを望みに弱い側につくという、あらゆる意味で破格の男です。

 本書に収録されたのは、そんな平助が活躍する5つのエピソードであります。

 平助を仇と狙う女忍・鵺から細川藤孝の妻子を助けた平助が、名刀・国綱を巡る騒動に巻き込まれる「鵺と麝香と鬼丸と」
 武田勝頼への輿入れを嫌がって逃げ出した信長の姪が引き起こす騒動を、意外な相手に陣借りした平助が捌く「死者への陣借り」
 駿府で女弁慶と異名を取る侠女、そして平助を仇と狙う今川の女大名に挟まれた平助の苦闘「女弁慶と女大名」
 里見の女忍の罠にはまった平助が、かつて愛し合った北条の遮那姫の娘を救うために必死の戦いを繰り広げる「勝鬨姫始末」
 かつて筒井家の奥方に受けた恩義を返すため筒井順慶に肩入れする盲人・木阿弥に陣借りした平助が知る男の心「木阿弥の夢」

 ご覧いただければおわかりの通り、どのエピソードも平助と戦国時代の有名人が絡む…だけでなく、事件の陰には女あり。
 そこには基本的に底抜けに女性には甘い――それは節度がない、ということでは全くありませんが――平助だけに…ということもあります。しかしそれだけでなく、様々なゲストヒロインを配することで、平助のように実際に武器を手にして戦う者だけではない、また別の視点から戦国という時代を描くことに、本作は成功していると感じます。
 そしてこの「いくさ人」以外の視点は、ヒロインたちだけではなく、例えば「木阿弥の夢」の木阿弥のような人物からも描かれており、ドラマに深みを与えているとも、また感じる次第。

 ただ少々残念なのは、本書の収録作に、実は合戦場面が少ない≒平助が陣借りする場面がかなり少ないことでしょうか。
 もちろん、平助が活躍するに足る合戦がそうそうあるわけではないのですが、この辺りは「陣借り平助」の活躍を楽しみにしていた身としては、少々残念ではあります。
(もっとも、それをある意味逆手にとったような「死者への陣借り」のような泣かせるエピソードもあるのですが)

 その一方でシリーズファンにとって注目なのは、シリーズ第1弾に収録された「勝鬨姫の槍」に登場した北条の女傑・遮那姫が登場する「勝鬨姫始末」でしょう。
 「…槍」のラストを受けて展開する本作は、姫との再会も嬉しいのですが、それ以上に、ある意味狂言回し的スタンスで物語に関わることが多い平助には珍しい、彼自身の存在にも大きく関わるストーリーであることが目を引きます。

 実は平助は、第1弾の時点でドラマ的・キャラ的にはある意味完結している存在なのですが、なるほど、彼自身を掘り下げるのにこういうやり方があったか…と感心した次第です。


 ちなみに「…始末」には、「…槍」に登場した風魔の子鬼が成長した姿で登場、平助を助けて活躍するのですが――細かい設定は失念してしまいましたが、年齢的に「彼」の親に当たるのでしょうか。
 本作に遠景として登場する足利義輝同様、こうして作者の別の作品の影が感じられるのも、また楽しいものであります。

「陣星、翔ける」(宮本昌孝 祥伝社) Amazon
陣星、翔ける


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2012.12.19

「浣花洗剣録」第7集/第8集 決戦前夜、引き寄せ合う男と女!

 気がつけばこの「浣花洗剣録」ももう全体の1/5。落としどころがわからないだけに実感も湧きませんが、これまでの怒濤の展開に比べ、比較的落ち着いた展開のこの第7、8集では、キャラも掘り下げられるようになってきた感があります。

 仇討ちのため、丐幇に身を投じたという木郎神君と別れ、武当山に向かう呼延大臧と珠児。大臧の目的は、武当派の掌門にして武林の現盟主・赤鬆道士との決闘と、彼の持つ宝剣「赤霄」であります。
 一方、毒に冒され、オガワゴム仮面から化毒綿掌を習っていた方宝玉は、さらに「君子剣」なる武術(その名前は危険な気が…)を習い始めますが、気を入れすぎたかダウン。
 折りよくそこに通りかかった大臧は珠児の懇願に微妙に複雑な顔をしつつ、宝玉を連れ、武当山は白雲観に向かいます。

 さて、その白雲観に集っていたのは、赤鬆道士の他、少林寺の晴空大師、さらに侯風と奔月、そして謎の女性・蓉蓉…実は彼女こそは若き日の赤鬆が恋に落ちた相手。そして二人の間の子が奔月だったのであります。
 色々と立場があった赤鬆は晴空の仲介で侯風に奔月を預けていたのですが、今、蓉蓉が死病に冒され、一目娘に…という一幕と相成ったわけですが――
 多感な少女、それもかなりのお父さん(=侯風)っ子が、いきなり「私がお母さん(お父さん)だよ!」と言われて納得するわけがない。非常に釈然としない表情の奔月の前で、蓉蓉は生き絶えてしまうのでした。

 と、さらに事態を混乱させるように、その晩、白雲観に現れたのは、白水宮の白水聖母。彼女は侯風が宝玉を解毒しないことを詰り、指弾の要領で宝玉の口の中に解毒の神水を投げ込みます。
 何故か宝玉の身を案じるような聖母の後を追った侯風は、宝玉に武術を教え、そして両親の真実を告げる、たとえ自分が仇として討たれようとも――と語ります。これに対し、宝玉の母である白艶燭は、崖から落ちて白水宮に助けられ、武術を自分から教わったこと、神水と毒薬は艶燭から譲られたこと、そして艶燭はいま行方不明であると語る聖母。

 …他人事みたいに言ってますが、もしやアナタが艶燭さんではないですか、と問いたくなったものの、かつて彼女恋しさに服毒ストーキングやまるで事故みたいな(事故です)兄殺害をやってのけた侯風がノーリアクションということは、そうか別人なのか!

 と思っていたらやっぱり艶燭=白水聖母じゃないですか! 何やってんだ紫衣侯!
 しかし先代亡き後、聖母を継いだらしい艶燭ですが、大臧だけでなく脱塵郡主、木郎も仲間に入れようとするなど、その狙いが那辺にあるのか、まだまだ不明であります。

 さて、愁嘆場の最中、半ば強引に赤鬆と決闘の約束を取り付けた大臧ですが、何せ相手は武林の盟主、珠児は気が気ではありません。ついに美しく花が咲き乱れるアブラナ畑(たぶん儀琳が令狐冲を背負って歩いたとこ)で、彼女は自分の気持ちを彼にぶつけるのですが…

 そこで剣の道に生きる武士の孤独を、彼の師・公孫梁とその妻の悲劇を挙げて語る大臧(この喩えの時点で脈アリみたいなものですが)。公孫梁は、ある決闘に妻(蒼井優チックな儚げな顔立ちで、しかし着物の襟がだらしない人)を振り払って臨もうとし、彼女は夫の刀で自らの命を絶ったのです。
 そして半ば抜いた刀を珠児に見せる大臧ですが、珠児は死ぬのは怖くないと刀を首に当て、問いかけます。「一つだけ答えて。私のことが好き? 死ぬ理由が欲しいの」
 その言葉に虚を突かれたような大臧の瞳にやがて浮かぶ熱い涙。己の指が傷つくのもかまわず刃を握りしめた彼は「気の強い女だ 負けたよ」と囁くと、彼女を抱きしめるのでありました――

 このくだりが原作にあるのかは存じ上げませんが、しかしこの辺りの描写は見事に古龍節で唸らされました。今回のハイライトは、間違いなくこのシーンでしょう。(またこの時の、本気で死ぬという決意を固めた一方で、彼に抱き寄せられるとしてやったりとニッコリしてしまう珠児の感情の振れ方の描写が実にイイ)

 さて、一方の赤鬆は、愛妻に死なれるわ娘にはそっぽを向かれるわ、メンタル的にはどん底状態。彼を訪ねてきた「黄河狂侠」王巓と酒を酌み交わしながら思わず泣き言をぬかしてしまうのでした。そう、およそ一番信用できそうにない相手に。
 しかし決闘の当日、彼のもとを訪れたのは、見かけは意地汚い酔っぱらいながら、実は武林有数の剣の遣い手、「酔侠」金祖揚(酔ってフクロにされていたところを脱塵に拾われて連れてこられた)。金祖揚、そして侯風がスパーリング相手を買って出て、ようやく調子を出してきたようですが…

 そこでほとんどバレバレの謎の黒幕のもとを訪れたのは王巓。実は赤鬆の酒の中に遅効性の毒を入れていたという王巓、さらに赤鬆の秘密を握ったと…ホラやっぱり信用できなかった! というところで今回はおしまい。

 さて黒幕の次の手は、そして着々と死亡フラグを立てる赤鬆…というより、また恨みを買いそうな大臧の運命が心配であります。

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 「浣花洗剣録」第2集 入り乱れる因縁と血
 「浣花洗剣録」第3集/第4集 決闘、蓬莱剣士対紫衣侯
 「浣花洗剣録」第5集/第6集 入り乱れる6人の因縁

関連サイト
 公式サイト

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2012.12.18

「晴れときどき、乱心」 先の見えぬ奇人変人たちの宴

 取り柄は人の良さだけの気弱で鈍臭い武士・飛田作之進は、勤めをしくじって無役となり、釣りに明け暮れる毎日。しかし彼の周囲では、新興の商人の襲撃や子供ばかりを狙った人さらいなど、奇怪な事件が次々と起こる。事件を追う岡っ引きの銀次は、作之進を怪しむのだが、事態は思わぬ方向へ…

 デビュー以来矢継ぎ早にユニークな時代小説を発表してきた中谷航太郎の新作は、これまた何ともユニークな作品であります。
 本の帯には「戦慄のノンストップ・アクション時代活劇!」とありますが、むしろ本作を一言で表せば、「サイコサスペンス時代小説」でしょうか…とにかく、類作がすぐには思いつかない作品であります。

 本作の主人公――というか中心人物となるのは、気弱で不器用、武術の腕前はからっきしのダメ侍・飛田作之進。人の良いことと釣りの腕前以外はおよそ取り柄のない彼は、ようやくありついたお役目をしくじって、あっという間に無役に逆戻り、失意のまま暮らすうち、次々と怪事件・難事件に巻き込まれることとなります。

 薩摩藩と結び急速に力を伸ばしてきた新興商人・松坂屋平兵衛が何者かの襲撃を受けてからくも命拾いした事件。大川端で起きた、置いてけ堀の怪を思わせる怪異。一見無関係なこれらの事件のほとんどに共通するのは、関係者が、謎の侍により惨殺されていること――
 腕利きの岡っ引き・銀次は、事件を追ううちに、偶然作之進の存在を知り、興味を抱くのですが…


 と、ここまでであれば普通の(?)捕物帳チックな作品ですが、登場人物、そしてこの先の展開は、意表をつくものばかりであります。
 かの調所笑左衛門ばかりか、水野忠邦ともつながりを持つ松坂屋。作之進の師匠で、ぐうたらしながら底知れぬ強さを持つ兎角先生。松坂屋存じ寄りの蘭学医、しかしその実なんと…な桃山青海。そして次々と凶行を繰り返す謎の「鬼」――

 彼らが作之進、そして銀次らと意外な形で繋がりあい、物語は想像もしなかった方向に転がっていくこととなります。


 正直なところ、本作の題材となっている○○○○は、時代小説は格別、他のジャンルではさまで珍しいものではありません(その正体を探る方法が×××というのもまたベタではあります)。
 しかし、それがどのように物語の本筋に絡んでくるのか、いや、物語の本筋がどれなのか、最後まで見えてこないのが面白い。

 いや、この点を面白いと言っては本当はいけないのかもしれませんが、本作の登場人物たち同様、読者である我々まで、散々事態に振り回されていくのは、ある意味快感である…というのは言い過ぎでしょうか。しかし、この変人奇人の宴とも言うべき作風は、なかなかに捨てがたいものがあります。

 もっとも、それも全て物語の全貌が、物語の落としどころが見えてから言うべきことかもしれません。実のところ本作はまだまだ物語の中途で終了しており――これはこれで一つの区切りではありますが――この先が描かれなければ、さすがに寝覚めが悪い(というより、人によっては怒り出すかもしれませんが…)。

 本作の評価は、物語が完結した際に語るべきかもしれませんが、少なくとも私にとっては、何も先が見えない分、大いに気になる作品なのであります。


 ちなみに本作の表紙イラストを担当したのは、「新選組刃義抄アサギ」などの時代漫画を手がけている蜷川ヤエコ。
 最近は文庫書き下ろし時代小説の表紙イラストも様々な方が手がけるようになって、実に結構なことだと思います(実は本作を手に取った理由も表紙絵に惹かれてだったのですが…)

「晴れときどき、乱心」(中谷航太郎 廣済堂文庫) Amazon
晴れときどき、乱心 (廣済堂文庫)

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2012.12.17

「戦国妖狐」第10巻 真の決戦、そして新たなる旅立ち

 ついに単行本が二桁の大台に突入した「戦国妖狐」。第10巻からは第二部の第二章と言うべきでしょうか、千夜青年編の開幕であります。
 千夜とムドの、足利義輝と松永軍との、二重のクライマックスを超えた先に待っていたものは…

 運命の永禄8年5月19日、己の力を遙かに上回るかに見えた黒龍の少年・ムドを、己の中の千の闇の力を結集することによって勝ち抜いた千夜。
 傷だらけになりながらもムドに捕らわれていた月湖とともに帰ってきた彼を待っていたのは、将軍義輝が松永久秀に討たれたという報せでした。

 そしてその悲しみに浸る間もなく彼の前に現れたのは、これまで多くの土地神を狂わせ、そして義輝の死にも間接的にかかわった、あの謎の五人組――
 そう、千夜の戦いは実はここからがクライマックス! 果たして五人組の力の秘密とは、その正体は、そして何よりも、千夜は彼らに打ち勝つことができるのか…

 作者の作品はのんびりしたムードのようでどこか醒めた、シビアな現実を描いたものが多く、もちろん本作もそれに連なるものではあります。しかし本作――特に千夜編に入ってから――が他の作品と異なって感じられるのは、ある種少年漫画的な(あくまでもある種「的」なのですが)熱血というものを自覚的に描いている点ではないかと感じます。

 この、千夜と五人組との決戦の展開などは、まさにストレートな熱血を感じさせるもので、特にあの人物の助けを得て千夜が立ち上がり、そして彼らも! というシーンには、大いにテンションが上がった次第です。


 しかし、物語はまだまだ続きます。時は流れて8年後、室町幕府が滅んだ元亀4年…
 再来を予言した五人組との対決、そしてかつて山の神(オオヤマミツチヒメ)に封印された父・神雲を救うため、旅だった千夜と月湖となう、そして久しぶりに登場したたまを加えての冒険がこの巻から描かれることになります(真介は諸般の事情でお休み)。

 正直なところ、この先の展開がどうなるのかは全く見えませんが、既に完全に千本妖狐と化した迅火の出現、意外すぎる姿で登場した意外な人物(?)に、さらに意外なキャラが加わって…と、早くも波乱含みであります。

 しかしこの先も中心となるのは千夜の生き様であることは、間違いありますます。
 敵の正体と目的を知った千夜が、果たして己自身をこの先も貫くことが――己の在りたい己として在ることが――できるか。まずは文字通り高い高い山を乗り越えられることができるか、新章に対して、早くも期待が高まります。


 ちなみにムドは人間に武術を習っているようですが、ムドに武術を教えられそうな人間なんて…あ、(生きていたら)一人いましたね。武術馬鹿で神雲とも因縁のあるキャラが。さてこの予想は当たっているか?

「戦国妖狐」第10巻(水上悟志 マッグガーデンブレイドコミックス) Amazon
戦国妖狐 10 (BLADE COMICS)


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2012.12.16

「ちゃらぽこ 仇討ち妖怪皿屋敷」 いよいよ全開、大江戸妖怪スラップスティック

 真っ暗町の妖怪長屋の連中が、ある日出くわした仇討ち騒ぎ。父の仇・佐波倉に返り討ちに遭った姉弟を長屋にかつぎ込んだ面々は、佐波倉の主君・赤坂主膳が何やら大きな陰謀を進めていることを知る。さらに赤坂に手討ちにされた超性格の悪い幽霊・お菊が長屋に現れ、事態は一層ややこしいことに…

 朝松健の書き下ろし妖怪コメディ時代劇「ちゃらぽこ 真っ暗町の妖怪長屋」に、嬉しいことに早くも続編が刊行されました。

 この「ちゃらぽこ」シリーズの舞台となるは、本所も場末の通称真っ暗町にある、古狸だのうわばみだの野衾など、妖怪ばかりが住み着いたボロ長屋。
 前作は、思わぬことで命を落とした若侍・荻野新次郎がこの長屋に担ぎ込まれたの発端に福の神を巡る大騒動が描かれましたが、今回はある仇討ちを発端に、またまた妖怪長屋の面々が悪党どもを向こうに回して大暴れを繰り広げることとなります。

 両国でぶらぶらしていた新次郎たち長屋の住人の目の前で突如始まった仇討ち騒ぎ。絵に描いたような美形姉弟が、奸悪な剣客を仇と呼んで打ちかかるという芝居の一幕のようなこの仇討ちは、しかし剣客・佐波倉が幾と英之助の姉弟を秘剣でバッサリという、いきなり反則めいた結末を迎えます。

 もちろんこれで二人が死んだらお話になりません。そこらの人間よりも人情に厚い妖怪連中は、早速長屋に二人をかつぎ込み、あの手この手で蘇生に成功。主家の金を横領した佐波倉に父を斬られたという二人の話を聞いた新次郎、そして妖怪たちは、助太刀のために活動を開始するのですが…

 しかし佐波倉の主君・赤坂が、文化文政の世の中に維新だか関ヶ原だか威勢のいいことを唱えて立ち上がろうとする胡散臭い人物。さらに、家宝の皿を一枚割ったという理由で赤岩に殺されたというどこかで聞いたような幽霊・お菊が長屋に押し掛け、事態はこじれにこじれ、またもや事態は江戸を騒がす大騒動に発展してしまうのであります。


 サブタイトル、そしてお菊というキャラクターからわかるように、本作の題材となっているのは、かの怪談「番町皿屋敷」。しかしそれはあくまでも題材であって、物語はそれを遙かに越えて、馬鹿馬鹿しくも(もちろん褒めています)愉快痛快な大騒動が繰り広げられていきます。

 何しろ、ヒロインの一人であるはずのお菊のキャラが立ちすぎているにもほどがある。設定的には悲劇の、薄幸のヒロインのはずが、とにかく性格が悪い。
 自分の悲劇に酔って人の話は聞かないのは序の口、陰口は叩くわ妬み嫉みはまき散らすわ酒乱の絡み酒で酔うと男を押し倒すわ…
 とにかく滅茶苦茶なのですが、しかし存在感抜群で、とにかく登場するだけで場が賑やかになるという、幽霊にあるまじき面白キャラなのであります。

 そして本作の面白さは、何よりも、このお菊の存在に代表されるような、ポンポンとテンポよく飛び出してくる台詞とギャグの釣瓶打ちにあります。
 特に台詞のやりとりの中に状況説明やら心情描写やらを盛り込み、それがそのままギャグに直結していくという辺りは、落語の話術を踏まえていることが感じられますが、しかし本作の面白さの源はそれだけに留まらないと感じられます。

 そう、本作に満ち満ちているのは、作者が得意としてきた、アクションをたっぷり盛り込んだ(すなわちキャラが、状況が動きまくる)スラップスティックコメディの呼吸。
 前作の紹介の際にも書きましたが、最近ではホラーや伝奇がメインの作者が、もう一つ得意とするのがスラップスティックコメディであります。
 本作は、その楽しさが、上で触れたように落語のテイストなども加えてアップデートされた印象。前作は正直なところまだ控えめだったそれが、本作ではいよいよ全開になってきた感があるのです。
 とにかく、お菊に限らず脳天気でバイタリティ溢れるキャラたちのやり取りを見ているだけでもこちらも楽しくなる…そんな作品であります。


 ちなみに本作の悪役たちについて。彼らがもくろむ陰謀は、あまりにも荒唐無稽で、「ないない」と笑う方もいらっしゃるかもしれません。
 しかし我々の現実を振り返ってみれば、そんなことを本当に言っている人間がいるわけで…悪役たちの陰謀を笑う我々が笑われかねない、そんな状況なのです。
 その辺りの毒の効かせようもまた作者らしい――蛇足ながら、そう感じた次第です。

「ちゃらぽこ 仇討ち妖怪皿屋敷」(朝松健 光文社文庫) Amazon
ちゃらぽこ 仇討ち妖怪皿屋敷 (光文社時代小説文庫)


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2012.12.15

作品集成更新

 このブログ・サイトで扱った作品のデータを収録した作品集成を更新しました。本年8月から11月までのデータを追加・修正しています。
 今回も更新にあたっては、EKAKIN'S SCRIBBLE PAGE様の私本管理Plusを使用しております。
 単行本から文庫化されたもの、文庫が再刊されたもの等も修正を加えています。
 それにしてもこうして見ていると、「なぜこの作品をまだ紹介していないのだろう」と思う作品も少なくありません。これからはそうした作品も振り返って行きたいと思っています。

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2012.12.14

「咎忍」 忍法合戦を描くに必要なもの

 持って生まれた異能と奇怪な忍法を操り、「咎忍」と呼ばれる伊賀の非忍組。その頭領・不空は、上忍・百地丹波から秀吉の傘下に入る手土産として服部半蔵の首を獲れと命じられる。やむなくこれを受ける不空だが、武田残党のはぐれ忍び・十つ者もこの戦いに参戦。三つ巴の戦いの果てに待つものは…

 天正伊賀の乱から数年後を舞台として、忍者たちの三つ巴の死闘を実に数百ページに渡って展開する力作であります。

 本作のタイトルとなっている「咎忍」とは、伊賀忍者の中でも生来の異能・異形を持ち、それを用いて常人離れした忍法を操る「非忍組」の異名。
 その名から察せられる通り、その力ゆえに同じ伊賀の忍びたちからも疎まれ、忌み嫌われてきた彼らは、自らの里に身を寄せ合うようにして暮らしてきた存在であります。

 本作は、その頭領・不空が伊賀の上忍・百地丹波のもとに呼び出される場面から始まります。
 今や日の出の今や日の出の勢いの秀吉の下に投じることを望む百地ですが、しかし秀吉の下には既に甲賀忍者が仕えている。そこで彼は、秀吉の疑念を解き、自分たちの居場所を得るために、先に伊賀を見限って家康に仕えた服部半蔵正成の首を手土産にしようとしていたのでした。

 もちろん、服部半蔵を容易く討てるはずもない。かくて、非忍組に白羽の矢が立てられたのであります。
 気が進まぬながらも、仲間たちの身分の保障のためにこの任務を受けた不空ですが、そこに乱入してきたのが、百地がいま身を寄せる本願寺顕如に仕えていた忍び・十つ者。
 かつて武田に仕えた忍び・三つ者の中でもはぐれ者が集まったこの十つ者の頭領・十軌は、強引にこの任務に加わり、かくて非忍組vs十つ者vs服部党の三つ巴の忍者戦がここに始まることに――


 という基本設定の本作ですが、この戦いのフレームワークが決まった後は、非常にシンプルに、ひたすらに忍者同士が秘術を尽くして互いに潰し合うという凄絶な死闘が展開されていくこととなります。
 その戦いに割かれた分量たるや冒頭に述べたとおり数百ページ、400頁弱の本作の大半が、ただただ忍者同士の戦いに費やされている――そしてそれで物語を成立させているのですから凄まじい。

 胃に溜めた強酸性の胃液や石飛礫を口から放つ那羅延、己の身体の硬度を硬軟自在に変える獅喰、どんな男の心も蕩かす強烈なフェロモンを発する迦陵…上に述べたように特異体質による忍法を使う非忍組。
 これに対する十つ者は、(どちらかと言えば)機械的もしくは特殊技能的忍法を操る集団。本作の大半は、このある意味対照的な両集団の殲滅戦が描かれることになります。


 が――ほとんど忍法合戦のみで物語を保たせたスキルは感心するものの、本作が文句なしに面白いか、と聞かれれば、それは残念ながら別の話と言わざるを得ません。

 実のところ本作においては、その最大の魅力である忍法合戦を戦う忍者たちのキャラ立ちと、そこにある意味直結したストーリー展開が弱いという印象が強くあります。
 どれほど秘術を尽くした忍法合戦が繰り広げられようと、そこで戦うのはあくまでもキャラクターたち。そして彼らが戦う理由、戦った結果を描くのがストーリーであって――その両者が弱ければ、忍法合戦の印象もまた弱まりましょう。

 厳しいようですが、不空をはじめとして(というか不空が一番)非忍組のキャラが弱いため、彼らの活躍に痛快さを感じたり、あるいは消耗品のように扱われるその運命に悲しみを感じたりすることがしにくい。むしろ、敵役として極端に描かれる十つ者の方が、キャラ立ちの面では印象に残ります。
 そして何よりも、実際に彼らの強さがさほど感じられないのが厳しい。非忍、咎忍とまで呼ばれるほどの彼らの「化物」ぶり、それが描かれて初めて本作は成立するものですが、それが感じられるかと言えば…(せめて、冒頭に本編とは無関係に彼らの活躍が描かれればまた違った印象となるのですが)。


 色々と厳しいことを書いてしまいましたが、それだけ惜しい作品であったこともまた確かであり――そして、本作には、忍法合戦を描くのにに必要なものが何か、再確認させていただきました。
 本作をステップとして、さらなる飛躍を遂げていただければ嬉しいのですが…


 も一つついでに言ってしまえば、みんな本当に口数が多いのが…いくらはぐれ者たちだからといって、プロとしてさすがにいかがなものかと。

「咎忍」(浅田靖丸 光文社) Amazon
咎忍(とがにん)

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2012.12.13

「鬼舞 ある日の見習い陰陽師たち」 若き陰陽師たちの拾遺集

 御所を騒がせた薫香の調査の最中、安倍晴明はかつて経験した事件を思い出す。ある貴族から呪詛祓いの依頼を受けて向かった先で、若き民間陰陽師・蘆屋道満と出会った晴明。有り余る才を持ち、無邪気といって良い態度で危険な力を弄ぶ道満の先行きを危惧する晴明だが、事件の背後には…(昔日ノ賦)

 蘆屋道満の息子に安倍晴明の息子たち、ネクストジェネレーションの見習い陰陽師たちの姿を、時にコミカルに、時にシリアスに描く「鬼舞」シリーズ、最新巻は初の短編集であります。
 本編の方は前巻(第7巻)で一区切りといった印象ですが、今回はコミカルなエピソード中心の番外編といった趣があります。

 収録作品は、大半が雑誌掲載のものとのことですが(書誌情報がないのが残念)、なかなか雑誌まで追いかけられなかった人間にとっては実にありがたいお話であります。
 一方、書き下ろし作品「昔日ノ賦」の方も、実に興味深い内容。何しろ、あの晴明と道満の過去にまつわる物語なのですから…

 と、晴明の過去といったら、あの、別の名前で出ていた作品と被るのでは…と心配、いや期待しましたが、そこまで遡ることなく、舞台となるのは本編の十数年ほど前、吉平・吉昌兄弟がまだ本当に幼い時分の物語です(晴明のビジュアル的にはほとんど変わらないようですが…)。

 さて、その微妙なお年頃の晴明と対峙するのが、かの蘆屋道満。既に主人公・宇原道冬の父であることが明かされながらも、故人ということもあってか、(私の知る限りでは)これまで本編で出番のなかったキャラクターであります。
 ここに登場する道満は、晴明もその際を認める天才陰陽師でありながら、人間として何かが欠落しているかのように描かれる人物。
冷静に考えれば、死にかけの人間を式神化するような人物がまともとは思えませんが、本シリーズにはこれまで登場していないタイプのキャラであることは間違いありません。

 この短編では、晴明とはニアミスに近い扱いの道満ですが、子供たちの姿に目を細めるなど、それなりに人間的な側面を見せる晴明(本当に丸くなったな…)と、対照的な存在であることはうかがえます。
 この後、二人の間に何が起こり、そして本編に繋がっていくかは、もちろんここでは語られませんが、いずれ語られるであろうそれが、楽しみになる内容であることは間違いありません。


 さて、その他の作品は、いずれも道冬や吉昌たちを描いた、本編と同じ時間軸のエピソードとなっています。

 道冬と吉昌が、右近少将にご指名されて、彼の昔の恋文にまつわる怪事に挑む「ご指名された見習い陰陽師」
 道冬をはじめとするレギュラーキャラたちが、彼の六条の借家――元・源融の屋敷――で騒動を繰り広げる「見習い陰陽師と六条の借家」
 後宮に女装して潜入させられた道冬が、中宮の御前で絵合わせの熱戦を繰り広げる羽目となる「見習い陰陽師と後宮の秘密」
 本編でお馴染み、晴明の形代の紙人形がとんでもない悲劇に見舞われる「ある日の見習い陰陽師たち」

 その他、本編のイラストレーターによる「まんが版 鬼舞」、掌編「見習い陰陽師はつらいよ」と相当に充実した内容。

 本編の方が、シリアスなところはそれなりにシリアスな展開となっているのに対し、これら短編の方は、ほとんどギャグオンリーの内容。もちろんこちらの顔も大事な本シリーズの魅力ですが、本編では色々な理由で見れそうにないネタの数々を、こうして拾遺として拾ってくれるのは嬉しいところです。

 ちなみに個人的に一番インパクトがあったのは、「見習い陰陽師と後宮の秘密」。本編で事件の調査のために女装して後宮に潜入した道冬の、語られざるエピソードなのですが――これが色々な意味でヒドい(褒めています)。
 絵の才能を見込まれた道冬が、中宮が密かに開いていた絵合わせで美男画五番勝負に挑むことに、という展開自体スゴいですが、その勝負というのが、人名と人名の間に×が入るようなソレで…
 いやあ、怖いですね女の園(ただでさえ女性率が少ない本シリーズで女性がたくさん出てきたと思ったら、こんなお話…)。


 と、それはともかく、どの作品も、本シリーズのファンであれば楽しめること間違いなし。この先しばらくは長編展開となるかと思いますが、またこうした楽しい短編集も見せていただきたいものです。

「鬼舞 ある日の見習い陰陽師たち」(瀬川貴次 集英社コバルト文庫) Amazon
鬼舞 ある日の見習い陰陽師たち (鬼舞シリーズ) (コバルト文庫)


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2012.12.12

「浣花洗剣録」第5集/第6集 入り乱れる6人の因縁

 まだ放送で言えば2回分しか見ていないのに、恐ろしい分量見てしまった気もする「浣花洗剣録」。この第5、6集でようやく普通のスピードになってきましたが、まだまだ先の読めない展開が続きます。魔教・白水宮の暗躍と、謎の黒幕の「計画」の行方は…

 前回のラストを受けて、白宝玉は、祖父の遺した遺言に従い、「紫衣侯」候風に弟子入りしようとするのですが、候風は武芸を学ぶ前に精神を修めよと一喝。久々に出会った甥がヘラヘラしたお坊ちゃんになっていればそう言いたくもなろうものですが、宝玉はそれに反発、奔月と飛び出してしまいます。

 一方、候風との決闘の末に水落ちした大臧は、当然の如く生きておりましたが、樹上で野宿していたところを白水宮の火魔人(手足に炎をまとった壮漢)と土龍子(地面の中を移動する封神演義ライクな奴)に見つかり、白水宮に連行されることに。そこで大臧を手当てした白水聖母は、彼の背中の刺青に、ある男のことを思い出すのですが――この二人、どう見ても生き別れの母子では、と気づくのは視聴者のみであります。

 と、白水宮が木郎の実家(?)の青木堡を攻撃することを知った大臧は堡に向かうのですが、時既に遅く堡は全滅。そこに駆けつけたのは木郎と、中原武林の連中に配下を殺され、危機に陥ったところを木郎に救われた脱塵の寄る辺なしカップル。三人は、青木堡の再興のために義兄弟の契りを結びますが、なんかもう他人じゃない感じの木郎と脱塵はそれでいいのか…?

 さて、残る珠児は父・王巓が謎の黒幕(たぶん頭髪と眉がない人)の命令で動いており、大臧と候風の決闘も仕組まれたものであったことを偶然知ってしまいます。そして追っ手をかけられたところを祖母にして白水宮の王大娘に匿われた彼女は、祖母から大臧の生存と居所を聞いてさっそく大臧の元に向かうのですが…このシーン、呑気に焚き火で魚を焼いていたり天然ぽい大臧と、何故会いに来てくれなかったのと勝手にプリプリしている珠児のコントラストが妙におかしい。

 さて、これで前回何となくできた3組のカップルが出揃いましたが、ここから始まるのは毒薬祭り!
 まず、家出してほっつき歩いていた白宝玉と奔月が、腹を減らして調達してきた饅頭を食べたらその中に毒が! ダウンして、二人は候風の屋敷に担ぎ込まれることに…
 一方、茶店で食事しようとして、出された水を飲んだ木郎と脱塵ですが、そこにも毒が! 特に水を一気飲みした木郎は速攻でダウン。脱塵も毒が回った身で、彼を候風の屋敷に担ぎ込みます。

 これは皆、候風の動きを探ろうとした白水宮の仕業のようですが、ここで候風の頭によぎるのは、この毒が元々は自分の家に伝わるものではないのか、という疑念。そもそも、彼が自宅に戻ってきたのもこの毒の出所を探るためでもあったのです。
 実は彼は若き日に(大臧と宝玉の母である)艶燭恋しさのあまり、この毒を彼女の眼前で飲み、自分を受け入れないならそのまま放っておいてくれ、と最低な迫り方をしたことがあって…事故とはいえ兄を手にかけたり、この人も大概ですな。

 それはさておき、同じく侯家に伝わる紫衣神水を奔月・木郎・脱塵に飲ませる候風ですが、木郎は敵認定した候風ばかりか、彼に助けを求めた脱塵をも振り切って飛び出し、一人脱塵は候風の下に残ることに。
 一方、おしおきのため、ただ一人放置された宝玉の前には、オガワゴムっぽいマスクをつけた謎の男が出現。解毒の武功を授けてくれるというのですが…出た、武侠もの定番の毒を盛られてパワーアップ展開!

 そして毒薬祭りはまだ終わりません。さらに、町で珠児が蒸し菓子を買ったらそこにも毒が! しかも盛ったのは祖母の王大娘というひどい展開。大臧は珠児を救うため、王大娘の言うままに白水宮に協力することに…というところで、次回に続きます。


 前回辺りから食べ物が出てくると一悶着(アクションシーンが)ある本作ですが、今回はメインキャラが次々と毒を盛られまくって、もうちょっと気をつけろよ! と言いたくなる展開でありました。

 もちろんそれだけでなく、今後に向けた伏線らしきものも着々と描かれています。
 家出した宝玉たちが出会った武当派掌門の赤髭道人とその友人らしきお坊様や、宝玉に武功を授ける仮面の男などの正体だけでなく、木郎が何者かに受け取った指示らしきものも気になります(彼の場合、青木堡の残党との接触を断とうとしているのも怪しい)。

 まだまだ落としどころは全く見えませんが、武侠ものは先が見えない時がある意味一番面白い。まだまだ全体の1/4にも達していませんが、先の展開への期待が募ります。

関連記事
 「浣花洗剣録」第1集 未知なる古龍世界の幕開け
 「浣花洗剣録」第2集 入り乱れる因縁と血
 「浣花洗剣録」第3集/第4集 決闘、蓬莱剣士対紫衣侯

関連サイト
 公式サイト

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2012.12.11

「腕 駿河城御前試合」第4巻 十一番終了…そして彼らの腕が掴んだもの

 森秀樹による漫画版「駿河城御前試合」、「腕 駿河城御前試合」もこの第4巻でついに完結。残る二番勝負が描かれた後に残るものとは…

 駿河城御前試合として行われた十一番の勝負のうち、これまで本作では九番が描かれ、残るは第十番、第十一番の勝負。前巻でもその大半が原作を離れたオリジナルの剣士、オリジナルの展開でしたが、この二番勝負も、完全に本作オリジナルの内容となっております。

 まず第十番勝負は、仏法僧 対 あけび。方や、その姿を見た者は呪いによって死ぬと言われる伝説の怪剣士、そしてもう一方は何と山出しの遊女――と、おそらくは御前試合の中でも最も奇怪な組み合わせであります。

 関ヶ原でもその剛剣を振るったという仏法僧は、己の素顔はおろか、肌を全く見せぬ謎の存在。人前に姿を現す際には、体中に笹をまとったその姿を何と表すべきか…
 そして人々が仏法僧の伝説を恐れる中、その対戦相手に名乗りを上げたあけびは、まだ年若い遊女。オシラサマの伝説よろしく飼っていた馬・ハヤチネと深く心を通わせた彼女は、彼(?)とともに仏法僧との一戦に臨みます。

 この第十番勝負は、共にこの世に容れられぬ者同士の哀しい一戦――のはずなのですが、実際には箱の中から刃のみを突き出した仏法僧と、首の両側に二刀を横に突き出したハヤチネに跨がったあけびという、面白おかし過ぎるビジュアルとなってしまうのを何と評すべきか…
 しかしながら、決闘の後にその一端が明かされる仏法僧の正体、そしてその悲運に対してあの忠長が涙を見せる場面は圧巻。共に流され、押し込められた者同士の共感でありましょうか…


 そして最後の第十一番は鬼無朋之介 対 鬼無朋之介――決して名前の打ち間違いではなく、共に同じ人間として育てられた双子が数奇な運命の果てに対決する姿が描かれます。

 ことごとく人生にツキがない男・鬼無月之介がようやく授かった子は、忌まわれる双子――一度は片方の命を奪わんとした彼は、一人ではできぬことも二人であれば…と、一人二役ならぬ二人一役、同じ鬼無朋之介として二人を育て始めます。

 その父の意を汲み、同一人として生き始める二人の朋之介。二人いることを悟られぬために、片方が傷を負えば同じ場所に傷を付け、片方が足を折れば同じく足を折り…理不尽を理不尽と思わず、兄弟は仲睦まじく、一人の朋之介として暮らします。その兄が美しい娘と出会うまで。
 やがてその娘の存在を挟んで激しく対立した兄弟は、父の死を経て決定的な決別を果たし、そしてついに二人は御前試合で互いの運命に決着を付けることになるのですが…

 冒頭に述べた通り、この第十一番勝負はオリジナルではありますが、しかし設定、物語展開ともに、原作の一エピソードと言っても通じる内容。
 理不尽を理不尽と思わず生きてきた二人が、恋情に目覚めることにより――人としての自我を持つことにより決別し、カタストロフを迎えるという、哀しい残酷さは、まさに本作ならではのものではありますまいか。
 その二人の関係を、月の満ち欠けになぞらえて描く手法も巧みで、ラストを飾るに相応しい内容と言えるでしょう。


 そしてついに全十一番を終えた御前試合。原作とは異なり、その後に待つのは、むしろ寂寥感を漂わせる静かな結末であります。

 ある者は生き、ある者は死に…生き残った者も、その多くが悲しみに沈む十一番の真剣勝負、二十二の生き死にの果てに、作者は問いかけます。
 天はまこと天なりか――と。
 運命という理不尽に翻弄された彼ら剣士たちにかけるに、なるほどこの言葉は相応しくも感じられます。

 しかし本作は同時に、最後に本当に微かではあるものの、希望の姿をも描いていたと、私は感じます。
 天はまことの天でないかもしれない。しかしどれほどそれに翻弄されようと、人々の生は、その者自身のものであり――それは自身の腕で切り開くものなのですから。
 そしてそれは、刀によってのみ為されるものでないことは、言うまでもありません。

 時に原作に忠実に、時に原作から大胆に離れて「駿河城御前試合」を描き上げた本作。決して原作を蔑ろにせず、しかし原作に寄りかからないその精神は、最後の最後まで見事に貫かれたと、そう感じた次第です。

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2012.12.10

「スウォーズマン 女神伝説の章」(その二) 平穏は海の彼方に…?

 ツイ・ハークによる「笑傲江湖」の映画化の一つ、「スウォーズマン 女神伝説の章」の紹介、続きであります。

 さて、ネタ的な要素も非常に多い本作ですが、しかしそれで終わるわけではありません。
 登場するキャラクターの数々がひとたび動き出すと、凄まじく、そして素晴らしいアクションを見せてくれるのは、これはまず間違いなくアクション設計を担当した程小東の功績でしょう。

 程小東のアクションは、とにかく人が飛ぶ! 回る! そしてそんな中でも美しい女性描写が特徴かと思いますが、本作はその魅力がフル回転。このために女性になったのでは…と言いたくなる東方不敗はのみならず、任盈盈の華麗な鞭アクションも実に素晴らしい。
 もちろんアクションの見事さは女性だけではなく、ある意味東方不敗に匹敵する存在感で描かれる任我行の怪物っぷりといい、上述の通りネタっぽいのに格好良い服部といい、ほぼ全盛期のリー・リンチェイが演じるだけあって動きのキレが半端ない令狐冲といい、一人一人のキャラと密着したアクションは、ただただ見事の一言、であります。
(ちなみに任我行を演じたヤン・サイクーンは90年代前半の香港アクション映画で数々の怪物的悪役を演じた俳優ですが、任我行の常軌を逸した暴れっぷりはまさにこの人ならでは。とにかく馬鹿笑いしながら敵を吸収しまくる悪魔的姿には圧倒されるばかりです)

 そしてもちろん、このアクションもキャラも立ちまくった面々が物語の随所で激突するわけで、これが凄くないわけがない。クライマックスに五対一をものともせず暴れまくる東方不敗の姿は、これはアクション映画史上に残る…というのは言い過ぎかもしれませんが、私の心には一生残ります。


 しかし…今回久しぶりに、原作に相当忠実なドラマ版を見た後に見直してみて、考えさせられたことがあります。
 それは原作と全く異なる、本作のラストシーンに込められたもの…それであります。(ここから先は未見の方はご注意を)


 原作同様、東方不敗を倒して復権し、血で血を洗う粛正を開始する任我行。彼に従わない令狐冲もまた、粛正の標的とされることとなります。
 と、ここで盈盈は令狐冲と烏鴉嘴を日本に逃がし、自らは父の元に残ることとなります。彼女も連れて行こうとする令狐冲に「この琴であの歌(笑傲江湖)を一緒に弾くことはもうできない」という言葉とともに…

 正邪のイデオロギーを越えた和合(簫と琴の合奏曲「笑傲江湖」はその象徴)を描いた原作から考えれば、これはほとんど正反対の結末。上記の通り原作を大きく離れたアレンジがほどこされた本作ではありますが、これは人によっては改悪ととられてもおかしくない改変であります。

 その改変が何故なされたのか。そしてそもそも、原作では正派に対する異なるイデオロギーの勢力としてのみ描かれていた日月神教が、漢民族から見れば異民族である苗族の一団と描かれているのか。原作にない朝廷や日本といった勢力が顔を見せるのか――

 私はそこに本作が製作された1990年代前半香港の空気を見た思いがします。
 同じ民族が権力闘争の末に真っ二つに割れ(しかも片方は異民族と結び)、そこに和解は存在しない。巻き込まれた個人が平穏を得るには、ただ全てを捨てて海の向こうに行くしかない…(日本武士の姿を見れば、海の向こうに平穏があるかは悲観的になるのですが)

 もちろんこれは牽強付会に過ぎる見方かもしれません。しかし本作の監督であるツイ・ハークのこの時期の他の作品を考えれば、そして原作にある種政治的メッセージが強く込められていたことを思えば――

 海を隔てて恋人たちが引き裂かれる中、明るく希望を謳った主題歌が皮肉に流れるエンディングを見ながら、そう感じた次第です。


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2012.12.09

「スウォーズマン 女神伝説の章」(その一) 美しき魔人・東方不敗見参!

 隠棲の地を探して旅する途中、日月神教の内部抗争に巻き込まれた令狐冲。秀吉の支配を嫌い、海を渡ってきた日本の武士たちと結んで皇帝の座を狙う東方不敗が、前教主・任我行を幽閉し、実権を奪ったのだ。否応なく戦いの中に巻き込まれていく令狐冲は、その中で一人の美しい女性と出会うのだが…

 先日までこのブログで紹介していた「笑傲江湖」をツイ・ハークが映画化した「スウォーズマン」シリーズの第2作「女神伝説の章」であります。
 あの長大な原作を映画化するに、正派における争いと葵花法典の秘密に関する部分を題材とした第1作に対し、原作の日月神教に関する部分を取り出して再構成した作品なのですが――
 数々の豪快な改変により、原作ファンが見ても楽しめる…かどうかはともかく、伝奇アクションファンにはえらく楽しい作品であることは間違いありません。

 何しろ、冒頭から登場するのは秀吉に敗れて海を渡ったという織田方の武士の群れ。いや武士だけでなく、「服部」や「猿」といった忍者まで加わった何とも(一部の人間にとっては)楽しい世界観であります。
(ちなみに「猿」は葵花法典の秘密を日本に持って帰ろうとしていたらしく…実現していたらどんなに楽しいことになっていたか)

 しかし何と言っても本作の最大の改変点であり、エポックメイキングだった点は、東方不敗を美女と設定したことであります。
 原作では単に(?)去勢した醜怪な老人だった東方不敗を、凛々しくも美しいブリジッド・リンに演じさせた本作。
 これは確かに、原作のテーマの一つである、権力に固執する者の醜さを体現していた原作のキャラ設定に比べれば、改悪と呼べるかもしれず、作者が嫌がっていたというのもわかるお話ではあります。

 しかしながら、映像としてみればこれは大いに正しい選択でありましょう。見かけは艶やかな美女が、無双の達人たちを向こうに回してただ一人暴れ回る姿はむしろ痛快でありますし、これは原作でもあった刺繍針を使った武功も、このキャラ設定でいよいよ映えるものであります。
 ただ、メンタリティまで女性になって――これはまあ原作でもありましたが――あろうことか令狐冲を愛してしまうのはさすがにやりすぎかもしれませんが…(ただし、それがある意味東方不敗の心をミステリアスに見せるフックになっているようにも感じられます)


 そんな本作ですが、(香港映画お得意の)不思議日本と女東方不敗という要素が加わったことで、色々と大変なことになっているのもまた確かであります。
 「あんたがたどこさ」を狂ったように宴会で歌い続ける日本武士、囁くような声で(あ、忍者だから?)日本語台詞を言うので聞こえにくい忍者服部、令狐冲の珍妙日本語、何故か烏帽子に軍配姿の東方不敗…

 突っ込みどころだらけなのですが、しかしもちろん本作がそれだけの作品であるわけがありません。それは――
 と、以下、長くなるので続きます。

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2012.12.08

「宿神」第1巻 義清/西行が見たものは

 北面の武士・佐藤義清は、幼い頃から奇怪な影のような存在を見ることがあった。友人の平清盛と、破落戸に襲われた呪師・申と妹の鰍を助けた義清は、申が唱えた呪から「それ」影が出現するのを目撃する。一年後、鳥羽上皇の中宮・璋子に心を奪われた義清だが、璋子もまた「それ」を見る者だった…

 朝日新聞等で長期連載されてきた夢枕獏の「宿神」が、全4巻構成で単行本化されました。平安時代末期を舞台に、佐藤義清=西行を主人公とする大河伝奇であります。

 物語の始まりは保延元年(1135)、北面の武士である義清と平清盛が、市で見事な軽業と幻術を見せる小男・申とその妹の鰍と出会う場面から始まります。

 放免(検非違使の手下)に絡まれていた二人を助けた義清と清盛は、その後、逆恨みした放免の闇討ちに遭うところを申の報せで難を逃れるのですが、今度は鰍が破落戸たちに捕らわれることに。

 彼女を助けに向かった三人ですが、申は鰍が捕らわれた小屋を前にして奇妙な呪を唱え、それに喚ばれたように、周囲には奇怪な気配が――
 清盛はおろか、呪を唱えた申にも感じられない、見えないらしいその気配。「それ」こそは、実は義清が幼い頃から幾度なく見ていたもの――闇が凝ったような、影のような、正体不明の存在だったのです。

 そしてその騒動から一年後、主である徳大寺実能の屋敷で、義清は一人の美しい女性と出会うこととなります。その女性こそは実能の妹にして鳥羽上皇の中宮・待賢門院璋子――そして、彼と同じく「それ」を見ることができる者だったのでありました。
 璋子に魅せられた義清は、やがて運命的な成り行きの末に、ついに彼女と結ばれるのですが…


 今年のNHK大河ドラマのメインキャラクターの一人となっていることもあり、西行が出家前は佐藤義清という北面の武士であったこと、そしてその出家には待賢門院璋子との恋が絡んでいた(という説がある)ことは、ご存じの方も多いのではないかと思います。
(ちなみに本作自体、大河ドラマに合わせたようにも思いますが、執筆開始自体は2006年とかなり以前であります。もちろん、刊行時期への影響は否めませんが)

 この第1巻では、その義清の青春時代が、丹念に描かれることとなります。
 本作では女と見紛う美形であり、馬術、蹴鞠、そして何よりも和歌の道に優れた青年として描かれる義清。しかし彼は同時に、うちに激しいものを秘めた人間として描かれ、その表れこそが、和歌であると描かれます。

 その彼が目にする「それ」は何ものなのか、そして何故彼がそれを目にするのか…それは現時点ではわかりませんが、おそらくはそれこそが本作のタイトルである「宿神」なのではありますまいか。
 「宿神」とは、一般には猿楽師など中世の芸能者に信仰された神であり、同時に摩多羅神、後戸の神と同一の存在とされる神であります。では摩多羅神とは何か、といえばこれがまた謎多き存在で、一説には宇宙の生命力を司るという説もあるほどで…

 正直なところ、本作がこの先どのような展開を辿るのか、どのような落としどころを迎えるのか、それは義清/西行と「それ」の関係と同様、この第1巻の時点では全くわかりません。
 しかし、貴族の時代から武士の時代へと大きく歴史が変転していく世界を、歌人にして僧侶という、ある意味そこから一歩踏み出した処に在った西行の目を通して本作は描いていくのでしょう。

 次の巻ではおそらく義清の出家が描かれるかと思いますが、そこに本作がどのような解釈を施すのか、楽しみにしたいと思います。


 なお、おそらくは義清と対になる存在として、遠藤盛遠の物語も並行して描かれるのがまた面白い。
 彼が後に何と呼ばれるようになるのかそれはまだ本文では触れられていませんが(しかし章題で完全にバレているのですが)、西行とは面白い因縁もある人物だけに、彼の運命もまた、気になるところであります。

「宿神」第1巻(夢枕獏 朝日新聞出版) Amazon
宿神 第一巻

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2012.12.07

「人魚呪」 人魚が招く理不尽な生の果てに

 天正の頃、村人に「魚人」と忌み嫌われ、村外れに一人住む左吉は、ある日美しい人魚・マナと出会い、愛し合うようになる。だが彼女の忌まわしい正体を知った左吉は逆上して彼女を手にかけ、その肉を口に運んでしまう。人魚の肉を喰ったことで不老不死となった左吉を待つおぞましい運命とは…

 「遠野物語100周年文学賞」を受賞した本作は、人魚の肉を喰らったことで不老不死となった男が自らの辿ってきた運命を語る奇怪な物語であります。

 時は天正6年、とある鄙びた漁村の外れに父と二人に暮らしていた左吉。彼は生まれつき、ハゼめいた相貌と腕の一部に鱗を持ち、周囲から「魚人」と忌み嫌われ、孤独な毎日を送っておりました。
 そんな中、彼と同様の顔を持っていた父が亡くなり、その遺言に従って沖合の島に向かった左吉が出会ったのは、美しい人魚――

 彼女をマナと名付け、一時幸福な時間を過ごす左吉ですが、しかし彼を待っていたのはマナのおぞましい正体と、そして己の忌まわしい出生の秘密。
 逆上した彼はマナを殺し、思わずその肉を口に運んでしまうのですが…


 と、ここまでが第1章、全体の1/4程度ですが、大変恐縮ながら非常に身も蓋もない言い方をしてしまえば、高橋留美子の人魚シリーズ+「インスマウスの影」といった印象を本作からは受けました。
 しかし、この先、本作は、左吉の運命は、思わぬ変転を遂げていきます。

 人魚の呪いか、津波と疫病の流行で村は大きな被害を受け、その元凶として村人たちからリンチされかける左吉。
 しかし彼は、比叡山が織田信長に焼かれて以来諸国を放浪していた僧・黒快に救われ、彼の詐欺の片棒を担いで、不老不死の術を得た上人として、都で生活を始めることとなります。
 上人として信者から得た金で面白おかしく暮らす左吉と黒快。しかし彼らはやがて、安土城を築いてその権力の絶頂期にあった信長に目をつけられることになり――

 中盤まではある意味左吉のパーソナルな物語であったものが、後半で信長が登場するに至り、史実とのリンクを得てマクロなスケールな物語になるのには――特に、要所要所に現れて左吉の運命を預言する喋る亀のようなキャラクターが登場して、ファンタジックな雰囲気もあった物語だけに――違和感が皆無とは言えません。
 しかしこの世で崇められる全ての神仏を否定し、自分自身が神であろうとした信長の存在は、運命に流されるまま、まったく望まぬうちに不老不死となった左吉と、ある意味対照的な存在と言えるのでしょう。

 そんな左吉と信長の運命が交錯し、ある史実として結実する物語のダイナミズムも面白いのですが、しかし圧巻は、最後の最後に明かされる、この「人魚呪」という物語のタイトルの意味――ひいてはこの物語が語られた意味――でありましょう。
 そこに込められたものは、理不尽な「生」という運命を背負わされた左吉による痛烈なまでの異議申し立てであり…そしてその想いは、もちろん彼ほどの凄惨さに彩られてはいないにせよ、理不尽な「生」を生きる我々の胸に迫るのであります。

 エロティックな描写も少なくなく、またインモラルな物語でもあります。読後感もサッパリとは言えないでしょう(物語展開的には意外とサバサバしているのですが)。
 その意味では誰にでもおすすめできる作品とは言い難いのも確かですが――しかし不思議に蠱惑的な、そんな作品であります。

「人魚呪」(神護かずみ 角川書店) Amazon
人魚呪

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2012.12.06

「白魔伝 御庭番宰領」 吹雪の中で変転する運命

 大坂での遠国御用を終え、冬の江戸に帰ってきた鵜飼兵馬。堂島で白河藩に関する不審な帳簿を発見した兵馬は、その真偽を探るべく、白河藩からの逃散百姓の五助、はぐれ夜鷹のお蓮とともに、北へ向かう。猛吹雪の中、白河藩に入った兵馬たちは、藩の裏面にまつわる秘密に迫るのだが…

 数奇な運命の末に禄を捨て妻を捨て、表の顔は賭場の用心棒、裏の顔は御庭番の宰領(個人雇いの助手)となった剣士・鵜飼兵馬の運命の変転を描く「御庭番宰領」シリーズ久々の続編、第7弾が刊行されました。

 今回描かれることになるのは、シリーズ第4弾以降、幾度となく兵馬の前に現れる松平定信の白河藩にまつわる事件。
 ある時は暴走した白河藩の影同心を斬り、ある時は定信の前で剣技を披露した兵馬が、天明の大飢饉における白河藩の秘密に迫ることとなります。

 大坂での遠国御用を終えて久々に江戸に帰ってきた兵馬を待っていたもの――それは寛政の改革により火の消えたような有様となった江戸と、その煽りを受けてかつてわりない中だった始末屋お艶が姿を消したという知らせ。その日の宿すら無くした兵馬は、途中であった夜鷹のお蓮とともに、腐れ縁の岡っ引き・花川戸の駒蔵親分のもとに向かいます。

 そこで出会ったのは、ご禁制の錦絵を売っていたという奥州無宿の五助。ある事情から駒蔵が身柄を隠していた五助が、白河藩の出身であると知った兵馬は、五助とお蓮を江戸から所払いするのの監督という名目で、白河藩に向かうこととなるのですが…

 一度は中央から放逐されたに等しい松平定信が老中として江戸城に返り咲く一つのきっかけとなったのが、天明の大飢饉において藩内で餓死者を出さなかったことであることをご存じの方も多いでしょう。

 天明の大飢饉は、本シリーズの第1作目でも描かれた史実ですが、そこで見せた定信の行政手腕に、兵馬は漠然とした疑念を抱いてきました。
 それが大坂での御用で偶然白河藩の米買い付けに関する不審な帳簿を目にして、そして江戸で白河藩の秘密を知るらしい五助と出会ったことにより、半ば運命的に、兵馬はその秘密に迫っていくこととなるのです。


 が――これまでのシリーズがそうであったように、本作においては、そうしたストーリー以上に、事件の渦中に立たされた兵馬の内面描写をこそ、より重点的に描いていると感じられます。

 運命に流されるままに藩を捨て、やがて用心棒、そして御庭番宰領となって、明日をもしれぬまま生きる兵馬。
 彼の心は、身分や立場こそ違え、やむにやまれぬ運命の悪戯で自らの場所を捨てて江戸に来た五助や、改革で江戸に居場所を失ったお蓮と旅する中で――そして吹き荒れる吹雪が彼らの孤独感を募らせ――様々に乱れ、来し方行く末を振り返ることとなるのですが…

 正直なところ、時に散文的とすら呼べるその描写は、やや唐突な感もありますし、そこにページを割いた分、展開は遅く、シリーズの物語としてもわずかしか進んでいない印象があります。
 また、これまでのシリーズ展開を引いている部分も多く(それがまた何度も繰り返される)、初めてシリーズに触れるという方に対して、本作を勧められるかと言えば、ためらわざるを得ません。

 しかし、本シリーズを第1作から読んできた身としては、この先も読み続けるかと言われれば、強く頷くことができます。
 己の居場所を、愛する者を次々と失い、ただ流されるままに生きていく兵馬の姿に、(程度の差はもちろんあれど)自分たちの姿を見る…
 というのは言い過ぎですが、少なくとも彼の運命の旅路がどこに落着するのか、その想いが行き着く果てに何があるのか、それを確かめたいという想いが、私にはあるのです。

「白魔伝 御庭番宰領」(大久保智弘 二見時代小説文庫) Amazon
白魔伝 御庭番宰領7 (二見時代小説文庫)


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2012.12.05

「浣花洗剣録」第3集/第4集 決闘、蓬莱剣士対紫衣侯

 わずかに2回で超展開の「浣花洗剣録」、武林全体を敵に回した呼延大臧、彼を仇とする方宝玉、二人の青年に無数のキャラが絡み、今回も大変な展開が繰り広げられます。

 自らの強さの証明のため、中原の達人との果たし合いを繰り返す大臧。天下一の達人と言われる「紫衣侯」が7月7日に渤海に現れると聞かされた彼は一人渤海を目指します。
 途中、宝剣・泰阿(実は偽物)を持つ青年・木郎神君と立ち合った彼は、相手の鎧に刃を阻まれて痛み分けとなったものの意気投合。養父の遺言で腕を磨く大臧と、毒に倒れた父のために解毒剤を探すという木郎神君、二人の間に古龍名物・男の友情が芽生えます。
 が、木郎と分かれた直後、かつて決闘で全滅させた一門の生き残りの子供に胸を刺され、大臧は倒れてしまうのですが…

 一方、祖父の仇討ちのために紫衣侯への弟子入りを決意した方宝玉は、珠児たちとともに渤海に向かう途中、「老不死」王大娘なる怪老女が木郎を襲うのを目撃。そこで止せばいいのに木郎が残したお宝を漁っていた宝玉は王大娘に囚われてしまいます。
 実はこの王大娘は珠児の祖母、つまり王巓の母ですが、魔教・白水宮の一員(ちなみに木郎神君の所属する青木堡も魔教らしい)。この世界にも魔教があるのですなあ…

 さて、祖母を恐れて逃げ出した珠児は大臧を発見、手当てすることに。そこに彼女に想いを寄せる馬鹿息子が登場、命知らずにも珠児や大臧を侮辱するのですが…これを抜く手も見せずこれを叩き斬る大臧。おかげで珠児は自分は無実であることを証言させるため、彼と旅をする羽目になります。
 しかし、殺人鬼かと思いきや、大臧は剣客以外には――誤解から理不尽に暴力を振るわれようと――決して刃を向けぬ男と珠児は知ってしまい、大臧も彼女に心を開き始めて、何となくイイ感じになるのですが…

 さて、王大娘に捕らわれた宝玉は、恐ろしいほどに世間知らずながら、大娘と互角の腕を持つ謎の美少女・奔月に助けられ、成り行きで二人旅とをすることになります。と、そこで激しい戦うを目撃する二人。そこでは大宛国から紫衣侯に献上される汗血宝馬を狙った木郎が、大宛国の美女・脱塵郡主と戦っていたのですが…その隙に馬をこっそり乗り逃げする二人は本当にひどいと思います。
(ちなみに大娘が狙っていたのもこの馬)

 馬に乗ってキャッキャウフフする二人ですが、そこで宝玉が大臧と珠児を発見。とりあえず珠児を攫って逃げるのですが、奔月はそれに嫉妬爆発。走り去った彼女を追った宝玉ですが、二人の前に現れたのは脱塵郡主――奔月と脱塵の激突が始まったところに割って入ったのは紫衣侯からの使者二人。実は奔月こそは紫衣侯の娘だったのであります。

 と、これでようやく渤海に集結する登場人物たち。王巓、木郎、脱塵は紫衣侯の船に招かれますが、そこに現れたのは――第2話で痴話喧嘩中に過失から兄(宝玉の父)を殺してしまった候風その人。常に船で旅して武林との関わりを断っているという紫衣侯ですが、その過去も影響しているのでしょう。
 その割に異常に江湖の人間からリスペクトされている候風。しかし彼を軍師に招きたいという脱塵、毒消しが欲しいという木郎、江湖のために戦って欲しいという王巓、いずれの願いも彼は断ってしまいます。

 そんなところに一人現れたのは大臧(長刀を肩に背負った姿が格好良い)。その挑戦は受けた候風と大臧の決闘が船上で繰り広げられることとなりますが、この決闘場面が今回の白眉でありましょう。
 ガンガンと船を壊しながら戦う(木郎がその破片から脱塵を庇ってフラグを立てたり)のはいかにも武侠ものですが、その中でも中原と蓬莱の武術の違いが(あくまでもそれなりに、ですが)見えてくるのが嬉しい。
 軽功を多用し、素早い攻撃の連続で攻める候風に対し、一発一発の攻撃に重みを持たせる大臧と、二人のかき分けがなされているのは、中国の武侠ものも日本の時代ものも大好きな人間にはたまりません。
 と、死闘の果てに奥義・燕返しを繰り出す大臧ですが、切受け止められて逆に一撃を食らい、刀を残して海に転落するのでした。

 その後に開かれた宴会では、毒消しを諦めきれない木郎が奔月を誘拐しようとしたり脱塵がそれに助太刀したりと色々ありましたが、候風が度胸に免じて見逃したことで何とかその場は収まり、宝玉と候風が対面したところで次回に続きます。


 というわけで、展開を追うだけで一杯一杯の今回。メインは大臧と候風の決闘なのですが、そこに至るまでが色々入り組んでもう大変。主役級の男が3人、ヒロイン格が3人登場したのも注目でしょう。
 そしてそんな中、王巓の背後で陰謀を巡らす謎の人物。カメラアングルで口元から上は映されないその正体は――?(髪とか眉毛とかなさそうな感じですが)

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2012.12.04

「天海の暗号 絶体絶命作戦」下巻 史上最大の籠城戦に生を掴め!

 地獄寺での土蜘蛛たちとの死闘をくぐり抜け、地の秘宝を手にした蒼海と友海。しかし残る天の秘宝は、西軍の大軍が迫る田辺城に隠されていた。天の秘宝を見つけ出し、細川幽斎からその秘密を聞き出すため、田辺城に乗り込んだ二人。50数人vs3万人、東軍の命運がかかった空前の籠城戦の行方は――

 関ヶ原前夜、十種神宝を巡り、暗号師・蒼海と少年忍者・友海が絶体絶命の死闘を繰り広げる「天海の暗号」の下巻であります。

 東軍の劣勢を覆すため、恐るべき力を持つ十種神宝を入手せよという家康の密命。無数の忍びの命を奪ってきた地獄寺から地の神宝を奪取した二人ですが、しかし死闘はこれからが本番であります。
 残る天の神宝を隠し持ち、そして神宝の使用法を知るという細川幽斎。彼が籠城する田辺城に入り、開戦まで数万の西軍を引きつけ、神宝を手に脱出する――まさに絶体絶命作戦は、ここに佳境を迎えるます。

 しかし、田辺城に残ったのはわずかの武士と女子供老人といった非戦闘員が合わせて50数名のみ、蒼海と友海、助っ人の忍びたちを含めても60名にも満たぬ状況。
 そのような状況で完全武装の西軍3万と、これまでも秘宝を巡り暗躍してきた怪騎士団・土蜘蛛と不死身の魔人・酒呑童子を相手にするというのですから、これは無謀というも生ぬるい状況であります。


 と――下巻のほぼ全編を使って描かれるこの史上最大の籠城戦で感心させられるのは、シチュエーション造りの妙もさることながら、題材として細川幽斎と田辺城の戦を持ってきたことでありましょう。

 細川幽斎は、細川忠興の父としてご存じの方も多いかとは思いますが、本作で幾度となく描かれるように、歌学・有職故実に通じ、古今伝授を行うことができた、当世有数の知識人であります。
 しかし単なる文弱の徒ではなく、剣は塚原卜伝に学び、また若き日には牛の角を掴んで引きずり倒したという逸話の持ち主。足利将軍家の落胤という説もあり、まず怪人というべき人物なのです。

 そして彼の城が田辺城ですが、関ヶ原の戦の前哨戦としてここで籠城戦が行われたのもまた史実であります。
 関ヶ原に関する籠城戦といえば、やはり家康の股肱たる鳥居元忠以下が壮絶な討ち死にを遂げた伏見城の戦が真っ先に挙がるのではないかと思いますし、田辺城の戦を扱ったフィクションは存外ないものです。
 しかし東軍西軍の決戦において、この戦が果たした役割は決して小さなものではなく――戦いの末に朝廷が動いたという点も含めて希有の籠城戦であったこの戦いを題材としたのは作者の慧眼と言うべきではないでしょうか。


 しかし、本作において真に胸を打つのは、蒼海と友海がこの戦いに臨む、その態度でしょう。
 これまでのシリーズにおいても繰り返し描かれてきたように、彼らは非情であるべき忍び、工作員でありつつも、しかしその行動原理はあくまでも人を生かすことにあります。
 もちろんそれは彼らの任務にとっては不要なものであり、欠点、弱点ですらあります。しかしそれでも――いや、人の情が入る余地がない暗号の世界、忍びの世界であるからこそ――彼らは人としての情を重んじ、それに殉じようとすらするのです。

 そんな彼らの心性が――もちろんそのような密命を受けていたとはいえ――籠城戦という戦いの形式に似合っていることは言うまでもありませんが、しかし何よりも嬉しいのは、いわゆる「いくさ人」とは明確に異なる彼らの想いが、本作では随所に描かれている点であります。
 「人はの、人は生きるために生まれたんじょ。生きて生きて生きて生き抜くためだけに生まれてきたんじょ。殿さんも、女子も、武士も、忍びも、皆々生きるために生まれたんじょ」「殿さん、おりたちが皆の者を生かす! 死なせやせん。だから、だから、おりたちとともに戦うてくれ。生きるんじょ! 生きてこの城から出るんじょ! 勝ってここから出るんじょ!」という友海の言葉に表れているように――

 そして結末に待つ痛快極まりないあるシーンは、まさしく生が死を、光が闇を、有情が非情を打ち破った凱歌というべきでしょう。

 本作は、十種神宝の謎を通じて、最終的にはこの日本の国の起源に秘められた秘密すら解き明かそうとする一大時代伝奇であり、同時にユニークな不可能ミッションもの、戦争アクションものでもあります。

 しかしそれと同時に、その根底に、熱い人間賛歌が流れているのが、本作の最大の魅力ではありますまいか。

 危機にうろたえた城に武士たちに詰め寄られた蒼海・友海が子供たちに助けられるというシチュエーションが何度も繰り返されたり、上巻同様、火薬が万能過ぎたりという側面はあります。
 しかし、そうした瑕疵があってなお、ブッちぎりに面白い――そんな中見節は、本作においても絶好調であり、そしてまだまだこれからも描かれるであろう有情の忍びコンビの活躍に、今から期待しているところなのです。

「天海の暗号」下巻(中見利男 ハルキ文庫) Amazon
天海の暗号 下 (ハルキ文庫)


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 「信長の暗号」下巻
 「天海の暗号 絶体絶命作戦」上巻 地の秘宝を入手せよ!

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2012.12.03

Kindleで読める時代(伝奇)小説

 先月、ついに日本でも発売されたKindle Paperwhite。以前から(主に自宅スペースの有効活用の観点から)電子書籍に興味を持っていたので、私も早速手に入れましたが、さて実際にKindleでどれだけ時代(伝奇)小説が読めるのか? 調べてみました。(注:2012年11月末現在のデータです)

 その調査方法ですが、amazonのKindleストアで、これまで当ブログで作品を紹介した主な作家について著者名検索を行いました。
 いたってシンプルな手法ですが、なかなか面白いことがわかりました。その結果は以下の通りとなります。
((青空)とあるのは、青空文庫ベースと思われるもの)

秋梨惟喬:もろこし銀侠伝/もろこし紅游録
朝松健:元禄百足盗
荒俣宏:帝都物語 第壱番
上田秀人:奥右筆秘帳シリーズ
えとう乱星:奥義・殺人剣
岡田秀文:太閤暗殺/秀頼、西へ
岡本綺堂:青蛙堂鬼談(青空)/小坂部姫(青空)/玉藻の前(青空)
風野真知雄:妻は、くノ一シリーズ/四十郎化け物始末シリーズ/月の光のために
菊地秀行:からくり師蘭剣シリーズ/幻山秘宝剣/妖藩記
京極夏彦:巷説百物語
国枝史郎:神州纐纈城(青空)ほか多数
笹沢左保:家光謀殺/真田十勇士
柴田錬三郎:嗚呼 江戸城/われら九人の戦鬼
武内涼:忍びの森/戦都の陰陽師シリーズ
南條範夫:武魂絵巻
仁木英之:千里伝シリーズ/僕僕先生シリーズ
林不忘:丹下左膳(青空)/魔像(青空)
堀川アサコ:月夜彦
森福都:長安牡丹花異聞
山田風太郎:姦の忍法帖/警視庁草紙/幻燈辻馬車/地の果ての獄/忍法関ケ原/魔界転生/室町少年倶楽部/柳生十兵衛死す
夢枕獏:陰陽師シリーズ/沙門空海唐の国にて鬼と宴す/秘帖・源氏物語 翁 OKINA
横溝正史:髑髏検校
吉川英治:江戸三国志/江戸城心中/剣難女難/神州天馬侠/鳴門秘帖/牢獄の花嫁/新・水滸伝
米村圭伍:紅無威おとめ組シリーズ
隆慶一郎:一夢庵風流記


 調べた結果を見てみると、全体として以下の特徴があるように思えます。
1.一部の作家の一部のシリーズを除き、全般的に新作は少ない。
2.中堅作家の少し古めの作品が多い。

 1.については、現在継続中あるいは最近完結したシリーズは、上田秀人の「奥右筆秘帳」、風野真知雄の「妻は、くノ一」が目につく程度で、まだまだ少ないというのが現状(ちなみに上田秀人はこのシリーズのみですが、風野真知雄は伝奇性の薄いその他のシリーズも電子化されております)。

 そして2.は少々面白い現象に思えますが、その理由はおそらく簡単で、元々これまで自社の出版物を電子書籍として販売していた出版社が、Kindle用にコンバートしたものだと思われます。
 実にここで挙げたリストのうち、かなりの割合を占めるのは光文社文庫と文春文庫(そして吉川英治歴史時代文庫)なのですが、これらのレーベルの作品は、上記の通り、既に他の規格の電子書籍として販売されていたものなのです。

 こうして見ると、Kindleで読める時代(伝奇)小説は、特定の出版社の過去の蓄積によるところが大きく、新作はまだ一部に限られていることがわかります(おそらく、他のジャンルでもこの傾向は同様と思われます)
 もちろん、新人である武内涼の作品を全て電子化している角川書店のように、電子化に力を入れてきている出版社もありますし、逆に、上で挙げた光文社・文藝春秋社は新作が少ないという状況もあります。

 この辺り、Kindleに限らずまだまだ電子書籍というものが日本で普及が始まったばかりの過渡期ゆえの状況かとは思いますが、まだまだ質・量ともに未だしの感があるというのが正直なところです
(ちなみに短編集である「長安牡丹花異聞」を読んでみましたが、Kindle用に最適化されていないのか、「移動」メニューから直接各作品に飛ぶことができませんでした)

 しかしながら、Kindleに限らず、メディアとして電子書籍が便利であるのは間違いない話(特に通勤電車などでは、いちいちページを繰らなくてよいのは非常に快適です)。
 全てを電子書籍に、というのはもちろん難しいにしても、この先より多くの作品を読むことができるよう願っているところです。


 ちなみに調べてみてわかったのですが、角川文庫は横溝正史作品をほとんど全て電子化している模様。ちょっとこの辺りの理由は思いつきませんが、これはこれで面白い結果ではあります。

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2012.12.02

「猿飛三世」 第8回「天の巻」

 生きて無地帰ってきた佐助。ついに弾圧されていた牢人たちが決起する中、鬼丸と主膳は北倉のもとに乗り込み、高波藩から手を引かせることに成功する。一方佐助は怒りに燃える伴蔵と対決、壮絶な戦いの末、ついに伴蔵を倒すのだった。全てが終わり、旅立つ佐助をお市は笑顔で見送るのだった(完)

 全8回の「猿飛三世」もこれで最終回。まさに大団円と言える内容だったのですが…

 前回、胸に手裏剣を受けて水落ちした佐助は、懐に入れていた秘伝の巻物で助かりました、という定番パターン復活。
 そして、北倉の名前入り割符も手に入って反撃準備完了と思いきや、鬼丸は北倉を妥当するベストタイミングである「天」の時を待つと静観の構え――とこれはいいのですが、気になったのはこの後。佐助は鬼丸から、秘伝七術を伝授されるのです。

 え、佐助が毎回会得してきた秘伝は一体…
確かに流れ的に言えば、父子の和解の姿として、決戦直前のパワーアップとしてアリなのだと思いますが、これまで佐助が佐助なりに解釈し、自得してきたものはなんだったのか? ここに来て全てひっくり返されたような気分になりました。(これまで佐助が目覚めてきたのは秘伝の心で、今回伝授されたのは術という解釈なのかもしれませんが…)

 さて、そうこうしているあいだに所司代の牢人狩りはエスカレートを続け、ついに牢人たちは決起。「上」の訴状を手に強訴に立ち上がります。牢人の場合も強訴と言うのか、それ以前に所司代の暴戻を誰に訴えるというのか、大いに気になったのですが、それはまだいい(良くない)。
 これを「天」の機と見て、ついに鬼丸と梅宮主膳は北倉のもとに乗り込むのですが…決起した牢人たち、そしてその家族たちも、半ばヤケを起こした所司代の鉄砲隊にバタバタと打ち倒されていきます。

 この後に佐助たちが駆けつけて牢人たちを救出するのですが、明らかに助からなかった人間もいるとしか思えない描写で、ここがまた大いにすっきりしないところ。
 これではまるで、「天」の時として利用するために牢人たちが犠牲になったとしか思えず、せめて鉄砲が撃たれる寸前に佐助たちが駆けつけるという展開でも良かったのではないか、と思った次第(後の佐助の台詞にも関わってくるので…)


 と、最終回だというのに文句ばかりになってしまいましたが、最後の最後に待つ佐助と伴蔵のラストバトルは全く文句のない内容。
 北倉に見限られ(半ばこちらから見限ったようなものですが)身一つになった伴蔵の熾烈な攻撃を受けて立つのは秘伝を全て身につけた佐助。己の持つ能力全てを出し切っての戦いが面白くならないわけがないのですが、この戦いの中にも(伴蔵の)キャラクターが出るのが面白い。

 佐助がクナイを得物にするのに対して、伴蔵がこの戦いで用いたのは太刀。これは忍者刀と言うべきものかもしれませんが、しかしむしろここは、彼が忍者ではなく武士の武器にこだわったものと感じられます。
 旗本に取り立てられることを条件に北倉に仕え、最後まで権力の側にあろうとした伴蔵(そしてそれは彼の祖父にまで遡る、やはり佐助の祖父とは対照的な在り方なのでしょう)が武士の武器を使うというのは、彼の存在を象徴するようではありませんか。

 しかし最後の最後の佐助の決め台詞とともに伴蔵が刀を折られた後はチェーンデスマッチからの泥まみれの肉弾戦と、文字通り泥臭い戦いが展開していくのもまたよろしい。
 ある意味本作の売りである体を張ったアクションを存分に楽しませていただきました。

 そしてその果てに佐助が到達した忍びとしての境地が語られることになります。それは、誰も殺さない、殺させないというもの――いや、牢人たち殺されてましたが、と意地悪を言うのは野暮でしょうか。


 何はともあれ、「猿飛三世」の物語はこれにて幕。佐助は、いや登場人物それぞれは皆新たな道に笑顔で踏み出し(一人仏頂面でデレる親父殿もいますがこれはこれで良し)、まずはめでたしめでたし、であります。

 正直なところ、全編を振り返ってみると、コメディをやりたいのか成長物語をやりたいのか面白忍者対決をやりたいのか、色々とブレていた感はあります(たぶんその全てをやりたかったのだとは思いますが)。
 その中でも、終盤、なかなかいい具合だった成長物語が最後の最後でアレっ? となってしまったのが個人的にはまことに残念ですが…まずは久々のTV忍者時代活劇を楽しませていただいたことに感謝しておくとしましょう。特にキャストのハマりっぷりは実に良かったのですから…



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2012.12.01

「明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者」第3巻 時代が生む男の悩み、女の惑い

 大店のじゃじゃ馬娘・菊乃と明治維新で職を失った元忍びの清十郎、明治という時代から微妙にはみ出した二人の姿を描く良質の時代ラブコメ「明治失業忍法帖」の第3巻であります。

 新しい時代を迎え、自らの夢を叶えようと女学校進学を望む菊乃。親の猛反対を押し切るための手段として、清十郎と(偽装)婚約するという「契約」をした彼女は、ついに御茶ノ水女子師範学校に入学したのですが…
 菊乃にとってみれば、念願が叶い、清十郎にとっても(菊乃が全寮制の学校に入ったことで)肩の荷の下りたようなこの状態。平穏無事のはずの二人の間に、思わぬ波風が立つこととなります。

 そもそものきっかけは、菊乃の前にイギリスからの留学生が現れ、こともあろうに菊乃に求婚したこと。
 その彼に決闘を挑んだ清十郎が諸般の事情で泥酔状態だったため、思わず自分の胸の内を菊乃に吐露してしまったことで、二人の間にすきま風が吹くことになります。

 さらに、ふとしたことから明治政府への蜂起を企む浪人たちの企てを知ってしまったことで菊乃が囚われの身となり、清十郎は己の持つ力(元々只者ではないところを見せていた彼ですが、今回見せた姿には少々…いやかなり驚かされること請け合い)をフルに活用して彼女を首尾良く救い出すのですが――イイムードになったところで、思わず彼女の自制心が働いたことが、二人の間の溝を深める結果となってしまうのであります。


 そう、今回描かれるのは、男女の間の気持ちのすれ違い。
 もちろん、ラブコメに分類される作品である以上(?)、これまでも菊乃と新十郎の間のすれ違いはそれなりに描かれてきたのですが、しかし今回描かれるそれは、本作の設定自体と、そして舞台となる時代に深く根ざしたものであることが、強く目を惹きます。

 これはふりと嘯いて菊乃に甘えつつも、ライバルが現れれば心穏やかでなくなり、ムキになってしまう自分の心と、武士の、男の面目の間で板挟みになる清十郎。
 新しい時代の女として男に頼るまいと思いつつも、清十郎に庇護されることに安らぎを見出してしまい、さりとて気持ちのままに奔放に振る舞うことをためらう菊乃。

 二人の抱えるのは、恋愛ものではよくある葛藤ではあり、現代の我々でも良く理解できるものではありますが、しかし同時にこの明治という時代に規定された、明治という時代ならではの理由によるものでもあります。

 これまでも二人が巻き込まれる事件を通じて明治という時代を浮き彫りにしてきた本作ですが、その時代ならではの事件・イベントに直接起因するものではなく、その時代ならではの思考・精神状態から、それをやってのけるとは…と大いに感心いたしました。

 さて、この3巻ではある意味意外な形でお互いの気持ちにひとまずの折り合いをつけた二人ですが、さてこの先もこのままいけるのかどうか。
 こういう場合は男の方が弱いんだよな…というのは男の感想かもしれませんが、気になるところであります。

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